第八話 鼓舞
――――モノガタリは時として、悲劇をもたらす。
「ん? 誰だ?」
俺は暗い空間の中に一人ポツンといた。どういった状況なのかはわからないのだが、ただそこにいることしか理解できない状態だった。一つだけ確かなことがあった。
それが少女の声が聞こえる。それだけだった。
幼い声だが、余裕を持ち合わせているようなそんな話方と声をしていた。相手の姿は見えない。声の主は何かを知っているかのようにして話し続ける。
――――お主は選ばれた。世界に選ばれた。
「何の話をしているんだ? そもそも俺がこの世界に選ばれたのになぜ魔法が使えない? 何か理由があるんだろう?」
――――ふふふ……神は正常、あなたは異常
ん? どういうことだ? 話を聞けばさらにわからなくなるぞ? 異常? 俺が?
意思の疎通は取れているかもしれないが、答えが答えになっていないのと俺自身に、それを解釈するにもとても難しい言葉が使われたことで、余計に混乱し始める。それを知ってか知らずか、声の主はさらに話し続ける。
――――進展願わくば、サイスラスティへと進みなさい。ふふふ……
サイスラスティ? どこだそれは?
声の主は、そう話した後に笑いながら、俺に向かって黒い霧を吹き始めて来た。躊躇なく全身を覆うようにして、やってくるその霧の中央から血が滴り落ちるほどにまで、付いていた爪の長い童話の中で登場するような魔女の手に顔をつかまれそうになる。そして、その手の方向から聞こえた声は何トーンか下げた声量でこう言い放つ。
――――アナタハシヌノ……ワタシノテデ……
「あ゛!!」
一瞬の出来事に驚き、飛び上がる俺。変な汗が体中から出ているのを感じる。それ以上に、襲われた感覚、一瞬にして死への恐怖を感じ取り、怯える俺、たちまち今までの活動や称賛の声を思い出し、自暴自棄になり始める。
何が、救世主だ。何が救えただ。何が英雄だ。俺は嘘つきで、何も救えちゃいない。ただ……ただその場を何とかしたい。それだけだ。ここにいてはまずい。
恐怖に支配された俺は、フローラたちが寝静まっているこの部屋から、急いで荷物を整えでていく。荷物といっても、村長から手渡されたものたちだけだ。ないよりは心のまし程度だったこともあり、持っていく。扉に手をかざした瞬間に声が聞こえる。
「あゆむさん」
声の主はフローラだった。俺は顔を見ず黙っているまま、その扉を開けでていく。フローラは何を考え何を話そうとするのかは、俺にはわからない。今はわかってはいけない。そう感じた。
下手に関与すれば、また大事になってしまう。今までは何とかできたことでも、これからそう簡単に続くことはないと俺自身がよく理解している。大学だってそうだ。下手に親に行った方が自分のためだといわれ、行ったが何一つ手につかず、やがてはゲーム三昧に走ってしまう。結果として、家族に大きな迷惑を与えた。しかも、数百万の借金を作った。その時の家族の顔はいまだに忘れられない。言葉なくし、顔を下に向いていた。ため息もしていた。幻滅したに違いない。下手に何でも関与すればこうなる。
そもそも、これは俺のせいではない。俺のせいではない。ただ、親が悪い。親がすべて悪い。俺は行く予定でもないし、ただ……
そう考えながら町に出るとアーロンが背を向けてそこに立っていた。
「ありがとう」
俺はふとその言葉を言われ、少々驚くがアーロンは素直にもう一度同じ言葉を発する。こちらを向き、頭を深々と下げ、その後のこう話した。
「あんなリアムは見たことがない。君が、君たちが来てからあんな調子だ。僕は君にいつまでも感謝し続けなければいけないね。本当にありがとう」
何もしてないし、気が付けばこんな世界にいる。そもそも、嘘で作られた正攻法でよいのか? そんな疑問が頭に浮かんでくる。だが、アーロンの表情を見ると、本当に感謝しているのだと、こちらも理解できるようであり、下手にそんなことを一言も言える状況ではなかった。
でも、俺は一刻も早くこの場から立ち去りたかったが、そうはさせてくれないように後ろからフローラ現れる。
「夢乃あゆむさん。お話あります。いいですか?」
「僕がいると邪魔かな、僕は町を散策してくるよ。またね」
そう言い、アーロンはその場から消え去る。逃げるに逃げれない状況になってしまった。現状の俺に余裕がない。だからフローラには何も言えることがない。だが、フローラは一歩一歩こちらにゆっくりと歩みより話をしてきた。
「二回目ですね。これも、魔女の城にいく際もこのようなことしましたね。あの時はドアが間にありましたけど、今回は違います。顔を見ることができませんが、今はいいです。逆にそれが今の私にとって都合がよいと感じます」
後ろを振り向けば、すぐそこにフローラがいるのが感じ取れるほどの距離にいる。だが、俺は振り向くことをしない。この期に及んでまだ、プライドが邪魔をする。同時に今下手にフローラを見てしまうと、泣き崩れてしまう可能性すらあり得ると考えた。
フローラはそんな俺を知ってか知らずか、話が続く。
「度重なるあゆむさんのご活躍非常に素晴らしいものです。私がここまで来れたのはあなたのおかげです。私一人では、命がいくつあっても足りません。今ここにいるのはあなたのおかげです。何度見ても何をしても、私にはあゆむさんに敵わないとそう感じました。敵対というわけではないのですよ! ただ、あなたのようになりたいと思い魔女の城に進んだのですが、結果として救われました。どのようにしてお礼をすればよいのかわかりませんけど、きっと、笑顔でいらないと答えることでしょう。私はどんなあなたでもともに進みます。そもそも、そこまで準備しているということは、それくらいにまでみなさんのために何かをしたいということですよね? 急ぎすぎるのも問題ですよ。夢乃あゆむさん」
前と同じだ。同じことを言われている気がする。結局俺はフローラに救われている。あの時の携帯を見て魔女の城に突っ込んだと選択したのも、現実逃避の一つに過ぎない。フローラは何もしてないと考えているみたいだが、俺は彼女のおかげで今がある。だが、今回ばかりは相手が相手だ。難易度が高い。
でもなぜだろう。なぜか、俺は考えがまた変わっている。
「ありがとう、フローラ、申し訳ないな。気が早すぎたな。俺も今のこの状況を見て見過ごせないというかなんというか、他の人が毎日のように恐怖していていても経ってもいられないってかさ」
「あゆむさん、リアムさんにまたなんか言われますよ~?」
「それもそうかもしれないな。ははは」
ウソダ……これも嘘だ。俺はただ逃げたい。逃げたい。今の現実から逃避したい。でもできない。できるはずもない。今まであってきた人達全員の顔を見て、それはできない。
あー……俺は嘘つきだ。
気が付けば朝になっていた。あの後、普通に寝た。寝れたかどうかは怪しいところではあるが、この日の夜予定では魔女討伐が開始する。少しでも睡眠をしなければ、肝心な時に無能になる。
結局俺は、ここに来て自分にも嘘をつき始めた。恐怖はぬぐい切れていない。それでも、フローラ、リアム、アーロンはちゃんと前を見据えている。自信を持っている。それは俺という救世主がいるから他ならない。肝心の俺は……
「町の情報によれば、もうすぐで開催されるよ」
四人が机を囲み、椅子に座る。今回の作戦を話し始めていた。アーロン曰く、もうすぐで魔女の感謝祭が開催されるとのことだ。スーはおらず、絶好のチャンスだ。
アーロン、リアムの二人の話をし、そこにフローラと俺が頷く。ある程度作戦は決まっており、裏通路から魔女の部屋近くに出る。そこから寝静まっている魔女をやるということだった。
いたってシンプルだ。だが、その分難易度も高い。魔法という驚異的な力を持っている以上、どのような能力なのかも計り知れない。だからこそ、慎重さが非常について回る。
そんな時外から大きな鐘の音が町一体に木霊する。アーロンとリアムは始まったといわんばかりに、フローラと俺を連れていく。町に出れば、人がかなりの数いた。皆が城の方に目を向けている。
「すごい人の数だ。どこからともなくいる」
「それもそのはずさ。魔女感謝祭というものだし、皆が揃って祝わなければいけない」
「そもそもこの感謝祭って何をする行事だ? スーがいないということは、いて困るようなことだよな?」
俺がそういうと、アーロンは無言で俺を見つめる。リアムはそれを見て服を引っ張る。
「そろそろ始まるよ。あゆむっち。見ればわかる。目を背けないでね」
「どういうことだ?」
鐘の音がまたなる。楽器の音もし始め、魔女が登場する。高みの見物とはこういうことかと思うところから見ており、俺らを見下す。ただ、あまりの人の数と言い、遠くにいた俺たちを魔女が見つけるのも、厳しいほどに視界は悪いはずだ。
魔女は、辺りを見渡したと同時に、マイクを使い語り始める。
「感謝祭は落とされた。私の極楽を少しでも、お前たちに見せてやりたい。そう思い開幕する。今回は選りすぐりの物を用意した。とっておきだ。お前たちも盛り上がるがいい」
「「ワーー!!」」
魔女の声と共に歓声もすさまじいものだった。そして奥から、布に覆われたものが三体ほど登場する。後ろには四角い箱。それらを民の見えやすいところに並べ始める。魔女は別の人にマイクを渡し、奥から椅子に座り見物を始める。
渡された人は、そこから司会のような役に回る。シェフの恰好をした人が三名、メイド二名、執事一名の状態で感謝祭は幕開けとなった。
「今回はレヴィア様が選りすぐりを見つけてくださり、本当に素晴らしい逸材たちがここに集結しました。さてみなさんこれを見ましょう! どうぞ!!」
同時に、かかっていた布がすべて取られた。そこにいたものを見ては俺は驚愕する。
「どういう……ことだ……」
「「ワーー!!」」
「これぞ! 素晴らしい子たちです! すべてにおいて整っており、かわいらしく今回の舞台のために生まれたのではないかと思うほどです! レヴィア様に感謝いたしましょう!」
司会と共に感謝をし始める民衆たち、異常ともいえる光景、目の前には子どもたち計五名がいた。俺は目の前に並べられている子たちを見て、これから何をするのかを察し始める。
シェフの恰好をした人がおもむろに中華包丁のようなものを持ち出す。体を固定化されている少女めがけて切りつけ始める。何も考えずただ切りつける。
少女の泣き叫ぶ声や悲痛の声が辺りに木霊す。それを聞いては民衆は歓声とともにもっとやれとのコールが始まる。アーロンはリアムにこの光景を見せまいと目をふさごうとするが、阻止し目に焼き付けようとする。ただ無防備な子に切りつけるだけの光景、魔女は退屈そうにそれを見ている。
服が一枚しか来ておらず、下着もなし、ただ紐で三人は十字架に張り付けられていた。一人目は切りつけ痕が残るレベルまでの痛々しい状態にされていた。他の子たちは、嫌だ嫌だと泣き叫び始める。
メイドはそれを見ては、泣くのをやめるように鞭打ちをする。必死に堪える子どもたち、無理やりその場から逃げようとする括り付けられている男の子がいた。
司会はそれを見てはこう話し始めた。
「何ということでしょう。感謝祭にあだ名すものが一人いるとは、その子からはじめましょうか」
切り付けられた少女は一旦置いておかれ、逃げ出そうとする男の子に役が回った。必死になって嫌だと連呼し、無理やりにでも逃げ出そうとし腕は紫いろがにじんで見える。
次に来るは、おろし器だった。機械でも何でもない板。もはや何をされるのかもわかりきっているもの。
二人目にして、俺も嗚咽を催し始める。アーロンがそれを見て心配をし、背中をさすってくる。
「大丈夫だ。大丈夫だ」
アーロンでさえか細い声が聞こえる。リアムはもうそちらに目を向けていない。俺は下を向いている矢先
「あ゛ーーー!!!」
断末魔が聞こえ始めた。歓声も同じくらい大きく聞こえるのだが、男の子の悲痛な叫びは心で聞こえる部分が大きく、想像するのも嫌になるレベルだった。だが、魔女の甲高い笑い声は聞こえない。これでも満足しないのだろうか? そうなると、よほどえげつないことだと感じる。
余韻は残ってはいるが、何としても現状を見なければと思い少年の方に目を向ける。
「ウソダロ……」
そこには、いたるところの皮膚をはがされ血液の滝が少しずつできている状態が見て取れた。顔は無傷だが体はもうすでに絶えているように見えた。
次に出てきたものは、透明な筒だった。男の子の頭にそれをかぶせ外れないようにベルトをする。スイッチを押した瞬間に頭上にある刃は螺旋のように回転し始めゆっくりと降りてきていた。どうあがいてもミキサーのようにさせるのを見て理解する。
この際早ければまだよいのかもしれないが、あれはものすごくゆっくり徐々に下へと進んでいった。
「あ゛ーーーー!!」
男の子の悲痛は、今まで以上のものへと変化しており、脳に差し掛かったころには声はでていたが、すでに聞こえないレベルまで小さくなっていた。
終わるまもなく、次に切り傷が多数あった子の方に向かい両腕両足をのこぎりで無理やり切断し、悲痛で顔が歪んでいる女の子の局部に向かって電動棒が当てられる。
中心部分から螺旋状の突起物が繰り出し少女に苦痛を与え始める。どっちつかずの状態に、やがて少女はぐったりとし始める。それは固定化されて、男の子のまとなりで放置される形となった。
後ろにいるレヴィアは、笑みを浮かべ始めているのが見てわかった。まだ二人、これから残り三人がどうなるかなんて、もう考えるだけ無駄だと感じる俺。
怒りという怒りが沸点をあっという間に超えていた。周りは歓声に包まれる。司会は素晴らしいと言葉を発し実況しながらことが進む。
みながみな異常と言える世界、俺は昨晩の逃げたいという考えから、魔女を殺す考えへと自然と切り替わっていた。