第八十六話 合致4
「私が、このままの状態で屈服するとでも思っていますか?」
「懲りない奴だな。俺が今どのような状態になっているのかわからないのか?」
俺は従者らしき人物に対して、フローラがいることもあってか、すっごく、かなり、調子にのった態度をしている。だが、それがこの世界で生きていくうえでは大事なことだと過去を通して知っていた。だからこそ、魔法も使えない人でありながらも、フローラやその他従者の魔法を使う際の動作を真似てはったりをしている。
そして、俺は更なる言葉を相手に告げる。
「お前は両手が空いているかもしれない。だが、俺は今お前の顔面目掛けて魔法を放つことが可能。同時に!左手がポケットの中にあることも忘れるなよ。俺はいつでも、次の行動が可能だ」
「これは参ったといわざる負えませんね。さすがに、あなたの表情や言葉を聞くなり、嘘ではないことがわかります。ここは負けを認めましょう」
「助かる」
両手をあげ、その場で正座をする。身なりが非常に良く全身黒いスーツ姿で、俺よりも身長がある。髪が緑色ではあるが、シルクハットのような帽子を付けている。
本人は、それすぐさま自己紹介をする。
「私は、この国の怠惰の魔女ベルルさまに使える従者ロートと言います」
「すんなり自己紹介するんだな。俺は夢乃あゆむと言う。ただの旅人だ。そして隣はフローラ」
フローラは軽く会釈をする。ただ、なぜか先ほどから口元を隠しながら何も話さない。あとで言及することにした。
「申し訳ございませんが、あなた方が敵でない保証がどこにもないため、魔女様には合わせることができません。何か確証できることはありませんか?」
「そうだよな……」
「あゆむさーん」
「どうした? フローラ?」
俺が悩んでいる隙に、フローラはずーっと名前を呟き肩を叩いてくる。何かと思い振り返ると、何やら自信に満ち溢れたフローラの姿があった。表情がどや顔レベルにまで出来上がっており、見ているこっちが吹き出しそうになる。
そもそも、フローラの言いたいことが俺にもわかった。何を隠そう。彼女自身が魔女だからだ。なおのこと、それを使わない方法はないと感じた。
「証拠か、確定と言えるものではないが、隣にいるのが、本名色欲の魔女アスモデウス。これで何とかならないか?」
「何と……!?」
従者ロートは鳩が豆鉄砲を受けたかのような顔になる。まあ無理もないだろう。一瞬言葉が出ず、あたふたする姿に最初からこうすればよかったと考える俺の姿があった。
「大変申し訳ございません!! 色欲の魔女様が、まさか……」
「そこまで名が通るとむしろすがすがしさあるな」
「これほど驚いた事実もありません。唯一怠惰の魔女ベルル様に対して意見が言えるお方ですから」
「どういうことだ?」
「何を隠そう。現状ベルル様は完全に引きこもり状態なのです」
「よりにもよってマジのニートかよ……」