第八十三話 合致
睡眠はとれている。だが、脳はふわふわしたままだ。隣にいるフローラは、うきうき気分で過ごしている。人間にはいつしか慣れを体験するのだが、今の状態だととても慣れることは不可能とさえ思う。
怠惰の魔女の国に来て早数週間が経とうとしていた。ルーシィは一向に帰ってくる様子もなく、フローラも焦りを感じない。一刻も早く魔女たちを使役し、事象に向けて行動をしなければいけないと話すが、何も進んでいないようにも思える。
俺はただ、それだけが気がかりだった。
「どうしたのですか? そんな難しい顔して……」
そんな俺の顔を見て首をかしげながら問うフローラ。可愛さで昇天しそうになり、目線をずらすしつつも回答する。
「ここに来てから早数週間が経つ。今のままで平気なのかね? ルーシィの行方もわからないままだけど……」
俺の言葉に対して頷き、わかっていたかのようにかえってきた。
「ルーシィさんが帰ってくるまでは、何もできないです。本人と私たちの動きは、目的めがけて進んでいるので安心してください。これも十分情報収集なのですよ」
「そうなのか……」
あまり納得しない俺に対して、かわいらしくも笑顔で返してくるフローラだった。
これも情報収集の一環として語るフローラの言葉に少しながらも安心感を得たのも事実だ。本人たちが一番理解しているだろうわけで、俺も下手に行動しないほうがよさそうだと確信する。
それから、同じように街を散策し、人々と話しをし続けていた。傍から見ればデートと似たようなことをしている。変わらない平穏な毎日。今までこうして落ち着いた生活をしてこなかったせいもあり、これまた慣れない自分がいた。
フローラはそんな俺を見るなり、エスコートしてくれた。情けなさが強いが、それでも彼女が率先し、笑顔が絶えず楽しんでいるように見えた。
街を散策しているさなか、服屋さんのガラスが目に留まった。ただ通っただけであったが、それが俺にとって非常に価値のある体験だと理解した。
同じように笑っていた。微かな時間だったにも関わらず、色濃く自分の表情が写真のように脳にプリントされた。俺も自ら楽しんでいる。そう確信した瞬間だった。
時にはそういった体験も良いのかもしれない。ふと、そう感じるようにとなっていた。心と体が乖離している今の状態からすれば、合致させる目的も踏まえて、大切な体験だと身に染みるほどだ。
同時に俺は、この国の環境に対して少なからず、理解し始めようとしていた。
記憶という曖昧なデータの中から、デジャブともいえる今の体験を照らし合わせてみることにした。
すると、そこから導き出された答えは……
「俺のいた世界……」
「どうしました? あゆむさん……」