第八十話 水準3
あれから数時間、外は暗く虫の声が聞こえる。いつまで経っても話が終わらない。むしろ話してない。体感では2時間ほどが経った気がする。気がするだけでもっと経っているかもしれない。
ルーシィが来ないということは、もしかしたら別のことをしているに違いない。
ならば、余計にまずいのではないのか? っと思う俺。
さすがに耐えきれなくなってこちらから言う。
「フローラ……これは、まだ先には進まない方が良いと思うんだ。気持ちの問題というか……はい」
「気持ちですか? どういうことです?」
「その……あれだ……えーっと……」
「はっきりと言わないとわかりません!」
「はい……すみません」
すでに関係が確立された。俺は下に引かれるタイプだ。
過去に何度も、目の前のこの子と出来たらいいなーとか、色々と妄想は立てていたが、結局本番となると、行動には起こせそうにない。
何とも情けない自分がいる。フローラの言葉に対して、何も言い返せない。むしろ言い返したら悪い可能性すらありえる。フローラは俺に話す。
「私の勉強によりますと、男女の営みの始まりは、13歳です! 夢乃あゆむさん! いまおいくつですか?」
「この時代早くないっすかね……ところで、フローラはしたことありますか……?」
「ないです!」
「……!?」
胸を張って言うところかそれ……まさか、こんな混沌としている世界で、俺と同い年くらいの子がしたことないとは……初めてが13歳で、同い年レベルのこの子がしたことない……魔女は、年を取らない。
さては……?
「フローラさん、もしかして周りから行き遅れとかいわれてません?」
「……」
「あ……」
何やらやってはいけないレベルのことを聞いた気がする。ただ、魔女は年を取らない!! これが非常に頭の中で回っているのも事実。含めて、この世界だからこそ言えるのだが、フローラほどの可愛さあって一度もない! ということは極めて異例なレべル。性格に難があるのか? それとも何か……
「ぐずずず……」
「あ……やばい……」
何ということをしてしまったのだろう。フローラが下を向き、鼻をすすっている音が聞こえる。やりすぎた。先ほどはさすがにやりすぎた。さすが俺だ。ニート歴あり、外界との拒絶をしていた歴も長い。だからこそ言える。クズだと!!
それをおいといても、フローラが泣いてしまった。俺は頭をかき立ち上がろうとした矢先。
「私は元々名家で、結婚のお誘いは何度もありました。すべて断ってきてます」
「突然で驚いたけど、なんで断ったんだよ」
「私の能力ですね。うちは代々魔法に関してずば抜けていました。結果としてそれは私にも引き継ぎ、結婚相手は皆、それを見るなり、挫折して帰っていきました」
「能力か……俺の大学にいたときと逆だな」
「中には、一生懸命取り繕って、受けた人もいます。ただ、見た目ですね。最後はこちらを見てやめました」
そういって、フローラは今まで付けていた顔半分覆っていた包帯を取った。
「嘘だろ……」
俺はそれを見るなり、驚愕した。言葉がでなかった。本当に何もでなかった。フローラは、俺の反応を見るなり、また顔を下に向き話す。
「申し訳ございません。さすがに、醜いですね。諦めます。本当にすみません」
フローラは立ち上がり、その場から去ろうとする。だが、俺は違うという反応を示したく去るフローラの手をつかもうとした途端。
「フロ……あ!!」
バタン!!
妙なところで足がもつれ、机に当たり、その衝撃で押し倒す。
「大丈夫か……フローラ」
「……!?」
「あ……」
これまた、トラブル演出。俺はフローラを押し倒している上に、両肩に触れている。先ほどとは違い、はっきりと見える包帯のしていた部分。気持ちが走り、ゆっくりと右手で、左側に振れる。
「なんだ……普通か……」
「普通……?」
「ああ。普通だ。むしろ、俺は好きだぞ。それ」
「そうですか? よかったです……」
俺の言葉に打たれたのか、両目から涙が零れ落ちる。フローラの今まで隠されていた左半分は、醜いと思うにはほど遠いものがあった。
目は赤く、白目が黒い、額から目を通り、頬の部分まで、軽く書かれている模様。入れ墨のように見えるそれを俺は触れた。それが何なのか興味が湧いたからなのか? それとも、別の何かからなのか? 俺は自然と起こしたその行動に対して、深く考えていなかったのだと思う。
フローラは両手で俺の右手をつかみ、ほほ笑んだ。
俺は無言のまま勢いに身を任せ、フローラとかわした。