第七十四話 決意7
俺は槍にやられ、尻餅をつく、痛みがなく死んだということを理解する。しかし、妙に目の力が入る。開けてみると、そこには貫かれていない俺の姿があった。
バチバチと右側から音が聞こえてくる。そちらの方向を見ると、突き刺さっていた。間一髪のところで軌道変更をしたのだろう。
生きていることに対しての喜びよりも、絶望の方が何倍も強かった。ただ気持ちは軽くなる。そうすると音がだんだんと聞こえて来た。なぜか、しきりに後ろから泣いている少女の声が聞こえて来た。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「……?」
ただ、ひたすらに泣きながら謝り続ける少女の声。何やらと思いそちらの方がへと座りながら向こうとした矢先。
「ごめんなさい!!」
ダキャ!
「いtったああああああああ!!!」
胸の位置に腕を回され、後ろから抱かれるようにかぶさってきた。安心していたこともあり、傷だらけの体には激痛が走る。そして、すぐさま正体がわかった。
「フローラか……戻ったか……そうか……よかった」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
フローラは泣きながら、背中で泣いているのがわかる。声を荒らげながら、鼻のすすり音もしながら、たぶんかなり不細工な表情になりながら、泣いているのがわかった。
「生きているなら、それでいいよ」
「何度も、何度も、何度も操られ、簡単な女になっているみたいで、悲しいです。本当に、本当にごめんなさい!! うわああああああああ」
「久々だな。こんな素の状態のフローラって……」
ぶうううううううう!!
「え……お前!! 今俺の服で鼻かまなかったか?」
「はい」
「え……えー……」
今までに見ない清楚とは真逆の行動に、内心困惑する。そもそも性格が変化しているようにも見えた。俺は一つ質問をする。
「君の名前は何?」
「アスモデウスです」
「やっぱりか……」
「大丈夫です。愛する旦那様との記憶は消えてません」
「それはうれしいけど、うれしくないな……清楚からかけ離れすぎて……」
「そんなー! それはひどいです!! 私は私です! 記憶が戻った! それが何より良いことでしょう! ぶー!」
性格の把握が出来ないでいた。確か、くまのぬいぐるみも記憶が戻った際に性格が変化した。同じ理由なのだろう。きっとさっきの戦いで、すべて戻ったんだろう。
俺は後ろで何かいっているフローラを聞きつつ、目の前にあるほぼ原形のないペンダントを見ていた。
「すべてはこれに助けられた。ラスティ……助かった。ありがとう」
「ラスティ……?」
「ん……?」
「今ラスティって言いました? 浮気ですか?」
「え……は?」
「あの年齢と見た目の若さ、そしてあざとさにまさか、やられたのですか?」
「何をいってんだ……?」
「ちょっとお話しましょ? あゆむ!! こんな美人を置いておいて、それでも浮気ですか!!」
「自分から美人って……」
「あ! そういえば、先ほどの戦い。罵詈雑言言われまくってたような感じがするんですけど!!」
「え……あれ、聞こえてたの!?」
「もう少しお話しましょ!! お説教です!! 無謀も含めて!!」
「ちょっとまってくれよ……」
フローラに対する魔法は消え去った。しかし、魔女の記憶が戻ったのか、性格が変動し、めんどくささが交わった。俺は終始混乱しつつも、正座をさせられ、意味も分からず謝る羽目になった。