第七十三話 決意6
発射される魔法弾の大きさは、過去に見たものと同程度、はたまたそれ以上のものだった。どう考えても食らえば一発であの世逝きだ。
しかし、それに恐怖せず立ち向かう姿があった。脳内は勢いよく回転をし、今までの性格との決別を付けるかのようにした。迷いのない動きが完成されていた。
「ここで助けられず、死んでいけば、何も変わらない!! 変えられない!! 変えるんだ!! すべてを!!」
ドガアアアアアアン!!!
魔法弾は何かと衝突をし、とてつもない衝撃と爆発、煙を辺り一帯にまき散らす。これほどの煙の量は、どんな対象であっても視界が散漫になるほどと考えれるものだった。
俺はそこを利用した。
ガシッ
「……!?」
「捕まえた……」
俺はフローラの右手首をつかむ、先ほどの煙を利用し、近くまで接近する。あたりを見渡しているフローラをすぐさま見つけ、煙をかき分け対象まで付いたのだ。
「逃げる気か……魔法陣は、大体両手で、お前は広範囲だもんな……」
無理やりにも離れようと引っ張ろうとする。
「ちょっとはおとなしくしてくれ……」
ドガン!!
そのまま勢いに任せ、俺は頭突きをする。混乱したのか、頭がふわふわしている。だが、脅威は終わっていない。フローラの猛威は対象を完全排除させるためにと変化する。
「まじか……」
予想外なことに、俺の後ろには心臓を丸ごと貫けるほどのサイズの赤く稲妻の走った槍のようなものが投影されていた。この距離なら十分刺し殺すことが可能だった。
俺も十分それがやってくることは容易に想像がついていた。だからこそ結構する。
「これでどうだ……」
「……」
「こうすれば、一緒だわ……侵害だろうが、すでにこれしか思いつかない。いくら魔法が強かろうが、男女の力の差は変わらないはずだ……俺の勝ちだよ。フローラ」
フローラを抱き寄せる。彼女は離れようと動こうとするが、結局のところ力の差は歴然であり、最後の力を振り絞り、離すことのないようにと強く抱きしめた。
こうすることにより、槍は貫通しようとすれば、確実にフローラにも突き刺さる。やらなければ、このまま押し倒し攻撃の手段を封じ、最悪殺すことは可能だった。
「ぐっがああ!!」
声にならない声を出し、もがく彼女の姿を見るなり、俺に何かが伝わってきては、ぐっとこらえる。辛い思いは彼女が一番だろう。俺は素直に思ったことを話す。
「君がいなければ俺は今頃、こんなに行動できなかった。君がいなければ、死んでいたのかもしれない。今度は俺が救う番とか思ったが、どうすればいいのかさっぱりだ。ただ一つ思ったことは、魔法と言う力にあこがれを持ち、必死に得たいと思った。万能とされる力に甘えたいと思った。だが、こんなにも苦しい世の中に変え、愛する人も仲間も壊されるのならば、いらない。一生こんなの俺は必要ない。何が魔法だ。何が万能なものだよ。これじゃーただの兵器じゃねーかよ。こんなので何が平和をもたらすんだよ……」
「がああああああ!!」
フローラは何も変わらず、もがき、そして声にならない声を発する。後ろの槍を止める鎖は徐々に崩れていくのが音でわかった。残り時間は刻一刻と差し迫っていた。
何も思い浮かばず、ただ強く抱きしめ、抗う少女の姿を見ることしかできない俺は、何を思ったのか額にキスをし、手を放す。
下を向き頭を横に振り、何かを振り払う行動をした。何か悟ったかのように、腰に手を付き一つため息をし発する。
「今までありがとうございました……大好きでした。フローラ……」
今までそういった体験をしたことがなく、素人丸出し感の告白をし、感謝を告げる。その後、フローラを勢いよく両手で突き放した。後ろに倒れゆく彼女の姿を見ることもせず、槍の方へと体の向きを変える。
ガチガチ……バキン!!
槍を止める鎖はすべて壊れ、勢いよく俺の方へと発射された。
目をつむり、視界が徐々に暗くなるに次いで、音も消えていった。
俺は、この時悔いのないような安定した精神状態であり、目先の物事を受け入れていた。
ズシャッ
鈍い音と共に力が入らず、自然と倒れる感覚に襲われる。