第七十話 決意3
鈍い音。俺自身を貫いたそれは何事もなくこちらを見る。俺が向けた拳はフローラに当たることなく、そのまま制止した。その後フローラはこちらに対して至近距離の魔法を放った。俺はその勢いにやられ、目の前で倒れる。
仰向けになり、下からフローラを見上げる。彼女も何もなくこちらを見ており、戦闘する意思が感じることが出来ないのがわかった。
「はなっからわかってたよ……争うことしないって。そんな魔法にやられる魔女様じゃないことも……」
俺は仰向けのまま語り掛けるようにして話す。それを聞くまま無反応。内側では何が起きているのかはわからないが、通常ならばすぐさま殺せる状況。それをしない。無鉄砲にかけてくるものに魔法をわざと外したかのような行動。
考えは少なからず当たってはいた。完全に支配されているようではないと。前々から理解してはいたが、実際そこにもその証拠がなく、断定することができずにいた。
しかし、この空間に入る際の無抵抗さ、今の攻撃を含めて、まだ意思が残っている。
俺はすぐさま作戦を練り直し立ち上がり、語るように話す。
「俺はこの状況になっても、結局何も思いつかない。行動したらこんなところにいた。だから、その先のことなんざ考えてない。ただな。一つわかったことがある。俺は能力がないわけではない。こうして行動できる力がある。自分に負けず打ち勝つ力がある。それだけで十分だと思うんだ。フローラ、内側で戦っているのならば聞いてくれ。お前も同じく自分に負けず打ち勝つ力がある。同時に、人を導ける存在だ。簡単な相手に足元救われているようでは、今後はさぞかしよわよわのフローラちゃんになりさがってしまいますなー……そら!!」
ふぁっさー……
「……!?」
俺は絶対的な禁忌を犯した。自分でも言うが、犯罪だ。立ち上がると同時にスカート捲りをしたのだ。一生に一度は体験したいことの一つが今叶ったのだ。内心手を染めてしまったことに対しての罪悪感と幸福感の両者が争い始めた。
「俺は今こうして、素直に行動できるようになった! 今のお前にはできねーだろうよ。なんてたって、操られているからな? どうだ? ハッハッハ!!」
高笑いをする。自分の自信によるものなのか、自暴自棄なのか。もはや区別付かない。しかし、変化が訪れる。
「夢乃……あゆむ……」
「え……?」
今一瞬かすかにフローラの声がした。紛れもなく言葉を発したのだ。俺はフローラの方を向いた。
ズッシャ!!
「あっぶね!! まじかよ……」
一瞬の出来事に体が突然身震いし始めた。彼女の方を向いたと同時に攻撃を放ってきたのだ。それは先ほどのとは比べ物にならないほどの殺意でできた何かだった。
スカート捲りがそこまで深刻なものだとはつゆ知らず、内心非常に驚く。
だが、彼女の反応がそれだけではないことを知る。
「あ……ああ……あ゛ーーーーー!!!」
突然の悲鳴に、耳が割れそうになるが、これで理解した。今実際内側で戦っている。呪いを剥がそうと努力している姿がわかった。頭を抱え悶え苦しむ姿を見て何かやれないかと思い、俺は行動にでる。
「おら!! 劣等種!! こい!! 魔法もない俺に足元救われた気分はどうだ!! 悔しかったらかかってこい!!」
またもや適当なことを話す。自身満々なことは喜ばしいのだが、つい勢いに任せる癖が最近ついたように見えた。
フローラはそれを見るなり、こちらを凝視し、動き出した。