第六十九話 決意2
こう何度も新しいことばかりしていると、なぜか慣れて楽しさを感じている自分が、そこにはいた。魔法という実体のない力。俺は自分の世界では、未知の領域であり、決して一般人が触れることの出来ない。ほぼ存在すら疑わしいとされているものが、普通にはびこっている世界に存在している。
これから戦う相手は、それまた今までとは比べ物にならないものであり、その未知の領域である魔法使いとの勝負だ。俺の知っている普通の物語ならば、相手は下級魔法使いとか言うレベルの存在との戦いが初めてだろうが、現実は非常でもあるかのように、それを遮り突きつけてくる。
相手は魔女であり、その中でも上から数えた方が早いほどの実力者だ。
本来の力でないことを願うだけで、勝算はどこにもない。正直な話、勝てないだろう。普通に戦っても勝つことは不可能。そもそも今までは、誰かがともにいた。これが何より心強く支えてくれ、助かった。
今はそうでない。ただ、過去とは違うことが一つあった。
俺は何度も強い魔法使いと戦っている。これはゆるぎない事実だ。だからこそ、今回の相手は一筋縄ではないことが容易にわかる。
相手は色欲の魔女フローラ
俺にこの世界を教え、ピンチを助けてくれた命の恩人。そして、人生を教えてくれた。今度は俺が救う番だ。容赦はしない。向こうだってそのはずだ。
視界がゆっくりと開けていく、目の前には、フローラと俺自身が互いに目線の先に立っている状態だった。周りは何もない柱の立っている遺跡のような場所。
光は火が軽く灯っているのみ。視界が非常に悪い。
俺は深く深呼吸をし、フローラを見入るなり言う。
「フローラ、俺は今から君と戦う。こちらは容赦はしない。だから、君も本気で来てくれ……」
「……」
向こう側は、何も反応がなかった。ただ、こちらに赤い瞳をぎらぎらと光らせるだけ。圧倒される圧や視線に一歩引きそうになりながらも、俺は対象めがけて走り出す。
同時に戦闘態勢に入るフローラ。
目の前に魔法陣を展開し、そこから魔法弾を発射。
「よっと!」
回避。なぜだか体が身軽になっている感覚がした。気持ちの問題なのかもしれないのだが、そのまま突っ走る。静止したまま、撃ち続ける。数が少なく、弾道がゆっくりであり、戦闘ド素人の俺でも回避が可能なことを知る。作戦の一環なのか、はたまた何か別の理由からなのか?
疑問に浮かぶ、戦い方。しかし、それでも、俺は考えず走る。
そして……
「目を覚めろ!! フローラ!!」
慣れない拳がフローラめがけて飛んでいく。彼女は何もせず制止したままだった。
グシャッ……
一つの鈍い音が聞こえてくる。次第に力なく倒れていく自分。
俺は一体何がしたかったのだろうか……今はそれが全くと言っていいほどわからない。しかし、その行為に俺は自分自身を褒めてやりたかった。目の前にいる愛する人は、俺の倒れる姿を目で追っていたのがわかった。