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七人の魔女と一人の転生者。  作者: しじみかん。
嫉妬の魔女
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第六話 幸福

 誰からも俺の声に賛同するものがいない。虚しいと感じるのだが、仕方ないのだろう。逃げればやられる。それがこの国のやりかたなのだから。

 俺はやるせなさがあり、そもそも魔法という力もなければ、彼らを助けるほどの力もない。ないにも関わらず、逃げようと話している。ついてこないのも無理ないのは当たり前か。


 ため息をし、その場を立ち去ろうとした矢先、暗がりの奥から声が聞こえ始める。



「おい! 待ってくれ! 俺も! 俺たちも連れて行ってくれないか?」



 賛同する声がやってきたのだ。俺はすかさず返事をする。声の主は俺ら二人の目の前に来ては自己紹介をする。



「俺の名前はアーロン、大体18年くらいは生きているはずだ」


「私はリアム、大体15年くらいよ」



 声の主が一人かと思ったが、二人という好都合であり、俺もたちまちにこやかになる。アーロンは、男性で長身に細身の体をしており、青い瞳にクリーム色の髪をしていた。髪が目にかかるくらいの長さになっており、魔女からしたら好物とも言えるのではないのだろうか? と思えるような見た目をしていた。単純にイケメンだ。


 もう一人のリアムは、女性でフローラと同じくらいの背丈をしていた。もちろん髪は長くはないのだが、肩くらいに抑えられており、緑色の瞳をし、アーロンよりも明るい色の髪色をしていた。二人はフローラと同じような美男子、美少女とも言える見た目で、内心俺は、嫉妬の渦を巻いていた。

 ただ他の子たちも同じような美しい見た目やかわいく、かっこいい子たちが生き残っており、魔女の趣味が色濃く反映されているのだと理解する。


 俺のような不細工は、すぐ処刑かもな。どこいっても不条理極まりないっすわ。

 彼らを見て、いらないため息をするが、こういった感情が本当ならば彼らにも備わっているのが普通だと考えると、心が痛くなる。俺と同じ人として生きることを選んだが、世界が違うとこうも人生に差が起きてしまうのか。


 今の二人に元気をもらい、他にいないかを確認する。



「他に同じように脱出するものはいないか?」


「無理だよ! ここからでたらレヴィア様にやられちゃうよ」



 ある子がそういった。他の子たちもそれに賛同する形で声があがっていく悲しいと感じる俺だが、それでも彼らを救おうと考えるうちに勝手に言葉が出てくる。



「ここにいてはだめだ! ここにいてはいつかはやられる。例え一人の力が小さきか弱いものでも!力を合わせれば、大きなものへと変化する。どんなにひ弱で、どんなに能力がなかろうと、集まれば力あるものよりも強くなる。これは確信だ! 俺も弱いものだ。だが、それでもこうして魔女に抗いここにいる。おかげさまで、命狙われる状態になっているが、好都合だ。俺はこの国を変える。部外者だろうが、ここに住まう人たちに楽しい日々を送らせれる。そんな国に変えてやる。そのためには君たちの力が欲しい! お願いできないか?」



 必死の俺の声に、耳を傾けるものはいなかった。それ以上に俺に対して、怯える子が増えたような感じが見て取れた。深くため息をし、辺りを見渡すが、みな時間が経っていくごとにこちらを向かなくなっていく。となりにいたアーロンは首を横に振る。



「僕たちだけで抜け出そう。ここにいる子たちは、あとで必ず助け出す。少なからず、今の発言で僕とリアムは助けられた。それを彼らにも知ってほしい。だから、今はそっとしとこう」



 その後、アーロンが自分たちで密かに作ったとされる脱出口に向かわせてくれる。壁に穴をあけた程度の入り口になっており、すごく狭い作りあったが、致し方ない。そのまま下水に降り立つ。非常に下に彼らが収容されているところにあるのだと、今になって知る。


 下水に降り立ち、暗い道をアーロンが先頭で進みながら進んでいく、ある程度距離を進んだ先に扉が見えた。色が周りにある石と同化しているせいで、まったくと言っていいほど見つかりそうにないと思えるほど擬態していた。そこを開けると、広々というわけではないが、コンビニくらいの広さというほどの空間が広がっていた。ベッドもそこにあり、光も灯っている。



「ここが僕たちが長年かけて作った秘密基地だ」


「すっごいな。他のところと何ら変わりようがないな。てか、ここにある紙もしかして……」


「あゆむっちすごいじゃん! すぐ理解するなんて、さすが魔女様が認めただけあるな~」



 長い机の上に置いてあったのは、城の地図や数字や文字が書かれた紙だった。壁一面にも大きく張られており、彼らの力の入れ具合が見て取れるレベルだった。

 相当努力をしたものであるし、それくらいまでに国を変えたいと思っているのだろう。



「アーロン、どうしてここまで力入れているのに行動の実行ができないんだ?」


「どうしてもスタートの瞬間が切れなかったんだ。魔女に直接会える人がいなかった。魔女と本当の意味で対抗できる人がいなかった。僕たちだけでは、言ってはすぐ心読まれてやられてしまう」


「単純にあゆむさんのようなお方が来るのを待っていたというわけですね?」


「そうですね。フローラさま」



 へぇ~ そこまで言われるとなんか照れるな。俺は内心自分が本当の意味での彼らの救世主なのではないのか? とここに来て思い始める。ただ単純に変化させたい! そう思っているだけでの行動であるために、彼らを本気で救おうとかは思っていなかった。できると思っていなかったのが一番真っ当な理由かもしれない。ただ、アーロンやリアムの話やフローラの会話を聞いているうちに、俺自身も本気でどんな手を使ってでも変えなければいけないと本心で思うようになり始めていた。


 彼らの真面目な顔、前いた世界の俺にも見せてやりたいと思えるような彼らの姿勢。だが、借金や迷惑を考えると、どっちともつかないと思う。かえって、何もないこちらの方が楽なのではないのか? と本気で考え始める俺を見て、リアムは難しい顔をしていた。



「なんかあったの? あゆむっち」


「おう! ごめんごめん! 驚いた。ここまでの念の入りよう俺も本気で動かなければいけないな~」


「助かる。夢乃あゆむくん。それでなんだけど、一応作戦がある程度できているんだ。フローラ様とあゆむくんでみてくれないか?」


「なんだ?」



 アーロンはすかさずリアムと一緒に考え付いた作戦を公表する。内容は簡単なものだ。兵士や従者スーが週三日間の間遠征にでて城が魔女のみになり、手薄になる時期が来る。これは、村から生贄を取ってくる任務であり、フローラと俺は体験済みだ。そして、なぜかその時になると魔女の感謝祭というのが開催される。非常に盛り上がるものであるが、アーロンはひたすらその内容を隠すようなそぶりをしていた。

 

 まぁ言いたくなければいいのだが、非常にその時だけ顔がこわばっていた。その感謝祭が終わった後に、魔女は城内でお酒を浴びるように飲むとされ、その時は何が起こっても起きることがないらしく、非常事態が起きても自室からでることなく、脱出したものが何百人となった時期もあった。それくらいまで動こうとしないのだ。当時は、兵士何十人も見せしめ処刑がされたが、彼らにとってはどうでもよいこと。


 いわば絶好のチャンスと言えるべき時だとアーロンがいう。大体、魔女からしたら城からでたら、外は魔獣の住まうところが多いので、生きれる保証がないので動く必要性もないのかもしれないと俺は推測する。

 美しいものが逃げるが、それはあの魔女にとってはどうでもいいのかもしれない。


 次にその遠征が起きるのが、明日であると話すが、そこに一つ疑問をぶつける。



「今日俺が城内で騒ぎを発生させたから、明日ない気がするんだが、どうだろうか?」


「確かに、アーロンさん今回は非常事態の中でも類を見ないものだと思います。私もあゆむ様の判断に納得です」


「でも、僕たちと一緒にいた子がやられたら、それそれで、一刻も早く……」


「アーロン! あゆむっちとフローラ様の言う通りだよ。明日はもしかすれば、当たっているかもしれない。今までとは違う兵士の動きしてたし」



 アーロンは一刻も早く動きたいんだろうな。同じ地下牢にいたものとして、助けたい気持ちもわかるが、焦って行動しても何も始まらないのは、俺自身もよくわかること。アーロンは、深く深呼吸をし、そうかもしれないと反応する。


 納得はしてくれたが、やるせなさもあるのは十分承知だ。俺も同じ立場だったらそうかもしれないしな。

 それから、他愛ない会話をし始める俺たち四人、引き金は俺自身だが、彼らにはこの世界にはない楽しい世界が広がっていることを知ってほしいと、変に色々と話す。


 半信半疑だが、それでも笑ってくれる三人を見て内心非常に有意義なことをしていると考える俺氏、人助けも悪くないかもしれないと、この時から思い始めるようになっていた。


 昼夜わからないが、そろそろお腹もすき始めるころになり、アーロンとリアムが手料理をご馳走してくれると話す。それを後ろから見て、俺はお似合いのカップルだなーと内心思う。



「もし、住む世界が違っていたら、あの二人はいい夫婦になっていたように見えるんだが、そう思わない?」


「そうですね。リアムさんが主導権を握りそうですけど、それでよいと考え紳士的に立ち振る舞いをするアーロンさんを想像すると、よき生活になるのだと思います」


「分析すごいな。さすがフローラだわ」



 色々と設備の充実はしていた。必死に逃げるべくして、作ったものなのは見てわかるし、道具もそんな簡単に手に入るものではないのも知っている。料理と言う技術もそうだし、単純に食材もそうだ。

 何から何まで、彼らは一つも手を抜かずしてことを済ませているんだ。俺とは大違いだ。


 二人の他愛ない会話を傍から見ているフローラと俺は、気が付けば料理が作り終わっていた。湯気が立つほどあったかそうなシチューがそこにはあった。

 リアムから石でできた、ボロボロのスプーンのようなものを手渡されたとき、あるちょっとしたアクシデントが起こる。俺は何気なく、彼女の手に触れてしまった。



「つめた!!」


「ごめんなさい!」



 俺の一瞬の行動に、辺りは静まり返った。リアムはこちらを見るなり、怯えた表情ですかさず謝る。異様な冷たさが、そこにはあった。生きている。そう思えるような体温ではないと少し感じたが、あまりにも彼女たちは、牢獄生活や冷たい日々を過ごしていたせいもあってか、手先が冷たくなるのは不思議ではないと考える。

 


「驚いた。すっごい冷たかったけど、謝る必要はないよ。俺こそ申し訳ない。驚かせて」


「いや、私の方こそごめん」


「そんな気にすることないって! 俺の世界では、手が冷たい人は、心は非常にあったかい! と言う言葉があるんだぜ? これはそのままの意味で、誠実で優しい人だ! ってことだ! 謝ることじゃない」


「あゆむっちの世界には、冷たい人多いの?」


「そう言われると意味がおかしくなるが、大体の人は優しいし、人を助けるよ。自分を捨ててでもな」


「そっか。よかった」


 

 リアムの安心しきった顔に俺は、心臓抜かれそうになるが、フローラがいることを思い出し、踏みとどまる。第一にこいつは、アーロンというのがいるのであってだな……


 食事を終え、団らんを終え、その日は寝床につくことになった。明日どんな日が訪れるのかはわかったものではない。地面の下に直接わらのようなものが、たくさん敷き詰められ、どこから拝借したのかわからない毛布で寝ることになった。まさかの四人川の字だ! ある意味俺は寝付けない状態になる。

 その理由も簡単なもので、一番左にフローラ、俺、リアム、アーロンの順になった。


 そもそも、アーロンとリアムは元の場所に戻らないのか? と不思議に思ったのだが、あの牢屋はあまりにも魔女が来ないことが多いとされている。本命を置く場所とし、選りすぐりの子たちがあの場所に追いやられる。魔女の城には、いくつもの牢獄とされる場所が多く存在し、大体は地下にはない。それゆえに、ある程度の自由が約束されている状態だ。


 兵士が食事を大量に持ってきては、放置し去っていくのも見受けられ、ちゃんと数を数えたりはしない。大体、アーロンとリアムのいた。牢獄もそうだが、大体の檻は腐っていたリ、簡単に取れそうなものばかりだった。なので、逃げることは容易だが、逃げ場所は自分で作る以外に方法がないのも事実。


 相当彼らは頑張った方だと思う。ということで、今に至るのだが……

 両手に花が今の状態になるため、心臓バクバクの影響により、俺氏は違った意味で絶体絶命の状態になっていた。


 右向けばリアムが、小さくなって俺の方を向いており、左を向けばフローラが同じようにしていたり。人生一度もない両手に花をまさか未開拓の地で、よりにもよって悲惨な国のところで起こるとは誰が思ったことだろう。もちろん俺は妄想はしていたが、実際に来るとは思うことはないのだ。


 はたして、俺はこのまま眠りにつくことができるのだろうか……?

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