第六十二話 異形5
予想だにしなかった。一つぐらいは考えていたが、それもそこまで重要視しなかった。こんな完全体の姿で、強欲の魔女マリリンが玉座から君臨するとは思いもよらなかった。
俺は、その姿を見るなり驚愕する。一瞬にして形勢逆転をされたのだ。あまりにも無謀すぎた考えだったことに対して後悔しそうになる。
「こうして、生身で合うことは久々ね? まさか私が直々に動かなければいけないなんて驚いたわ」
「まじか……」
「あまりの光景に驚いて声もだせないのね? 仕方ない。これが現実なのだから……」
一歩引き距離を置く、階段から見上げるその女王の姿に俺は過去の光景が浮かび上がる。ただ立っているだけで、こちらの気をすべて持っていかれそうな勢いがそこにはあった。
言葉が出せず、そのまま距離をあけるくらいしか方法がなかった。相手はマークとは比べ物にならないほど脅威的な存在だ。どう対処するかなんて言うのは、すでに考えにない。
だが、ないものだが考え続ける。答えを探し続けていた。
魔女マリリンは、それを知ってかじりじりと階段を降りていく、背中を見せずゆっくりと後退する俺に対してゆっくりと迫ってくるマリリン。
笑いながら、劣勢とされる状況をかいくぐれるには、もう手立ては少ない。
「最後の選択をしましょう。このまま私のものになるか、死ぬか。どちらかを選びなさい」
「お前自身が俺に対して何を求めているのかは今もわからない。だが、そうやすやす味方になることもしたくはないな……」
「私と言う存在をお披露目したにもかかわらず、まだ食い下がらない。なんていう男かしら。これは奪いがいのあることね」
魔女は階段を降り、マークを見るなり、魔法で暗闇の方へと放り込む。カーペットが敷かれている上に俺とマリリンは対峙する。話をしても意味がないことくらいはわかるが、今できることは時間稼ぎ……くまのぬいぐるみが来てくれれば、逆転の余地は十分にある。来なければ……終わる。
「さて、そろそろ閉幕といたしましょう。ふふふ……」
「それはどうかな……」
「まだはったりを続けるおつもりかしら?」
ドガアアアアン!!
突如後ろにある扉は壊れる。そこから小さいマスコットが現れた。
「夢乃あゆむよ。待たせたな」
「遅いって……来るのが……」
「申し訳ない。少々時間がかかってしまった。もう大丈夫だぞ」
「どういうこと? この国に入ることは不可能にしたはずじゃ……」
「自分でもわかってるんじゃないのか? こっちに協力する魔女は一人じゃないってな」
「あの小娘!! ラスティか!!」
「あゆむからの使命はすさまじいものだな。ほんと……」