第五十九話 異形2
「くっそ……なんだかな……」
「スーも同じようなことできないのか?」
「悪いが、すでにそこまで魔力っつーものがないんだわ。攻撃をかわすので一苦労ってことだよっ」
ドガアアアアン!!
マークの召喚した異形の存在は、攻撃範囲が女王の部屋の扉付近まで広く、かなり苦戦の強いられる戦いがスタートしていた。スーは暴れ過ぎたせいもあり、魔力の枯渇が始まっている。俺自身は今現状何も持ち合わせていない。だからこそ、どうすればいいのか考えているが、今までとは違った戦闘に対して、何もアイデアが浮かばずにいた。
異形の存在は、こちらを見るなり攻撃を仕掛けてくる。俺はそこまで身軽でもないし、運動神経も良くないだからこそ、スーが余分に攻撃を受ける羽目になっている状態が今。
何と言っても、さらに苦戦を強いられる要素として、周りの雑魚兵の存在だ。倒しても倒しても切りがなくその姿を現せる。下手すると一体倒せば二体湧いて出てくるほどのスピードで増殖もしてくる。
従者の力は、自らの身を守るほどのレベルとこの世界の本では書いていたが、実際それをゆえに超えるレベルであると、俺自身考えている。
ズドガアアアン!!
「ぐああああ!!」
ドガン!!
ついにスーが異形に吹き飛ばされ、扉に直撃する。悲鳴をあげるスーを見れば傷がひどくあり、絶体絶命の状況であることがさらに増した。スーがこうなれば、いよいよ来るのは俺自身になる。
マークは半ば勝ち誇ったかのように笑みを浮かべている。
じりじりと兵士がやってくる。異形の存在もこちらを見るなり、次の手を打ってくる。どうすればいいのやらと思った矢先、俺は、あることを思い出す。
「俺には神の加護がある。含めて異形の存在が人間でないこと。つまり、魔獣である可能性が強い……これはどこかで……」
「もう終わりですよ。夢乃あゆむ。君はよくやった。これ以上は不毛ですし、この先ヒーローなんかがやってくることはありません。諦めましょう」
「ふん……はははっ!!」
「まさか、負ける喜びを得る人がいるとは思いもよりませんでした。それでは望み通りいかせてあげます」
「ちげーよ。この笑いは、ピンチがチャンスであることがわかったからだよ!!」
「この状況の中、スーがあの状態でよくもまあ自信満々で……」
「過去に一度俺とお前で、この状況の中どうなったかくらい思い出せよ。馬鹿だろ。お前」
「どういう……!?」
今俺は絶好調だ。勝算はないが、この状況は前にも起きたことがある。圧倒的な武力さがあったときに、マークはそれを思い出したはずだろう。使える召喚兵を持ってかれた過去があるから余計に驚くはずだ。それによって、大きく戦況が変わり、従者の位置すら失墜危ぶまれるレベルになっていた。
当時のマークも今回同様勝ち誇っている。俺のこの声を聞くまで、勝ち誇っていた。
しかし、それは決定的差を生んだ……
「グアアアアア!!」
「何だと!?」
突然魔獣は自分の目を隠すかのように視界を遮る。かなり異質な光景ではあるが、周りはそれに圧倒されていた。魔獣はそれに伴い、無差別に暴れだした。周りにいた兵士たちは吹き飛ばされたり、そのまま消失したりするものが数多く現れた。
マークは何が起きているのかさっぱりわからず、ただ俺の方を見るが、そこにあるのは直視できないほどのまぶしい光だった。
「夢乃あゆむはどこいった!? まさか……消えた……!?」
「暗闇だけがお前の専売特許じゃねーよ」
「まさか!! グフゥ!!」
俺は振り向いて来たマークの顔面に重い一撃を入れた。