第五十話3
扉を開けば、静けさが目立っていた。レジスタンスとの戦いは嘘だったかのような清潔さが保たれていた。あの時は、確実に血を流し、壁やカーペットには傷があったはずだ。
しかし、そのどれもがきれいさっぱりなくなっていた。驚きではあるが、一国の主であるのと同時に、あの戦いから、かなりの年月を費やしている。そう思えば、造作もないことなのだろう。
そもそも、あの戦い以後顔を見合わせてすらない。マークでさえも久々の対面だ。なれなれしい感じはいまだにぬぐえないが、地位はやはりものを言う。仕方ない部分は強くでている。
自らの記憶を頼りに、魔女のいる部屋へと進んでいく。
記憶の中で何度も入り迷い、進んできた城内部、目新しいところは何一つないのだが、心の中ではなぜか不気味さが一人孤独について回る。
俺の中では少しの恐怖心がいまだにあるのかもしれない。様々な反抗をしてきたが、それでも絶対的な覇者たる存在には、少なからず恐怖を感じるのだろう。
変わらない人の性格。例え変わったとしても、リニューアルすることはないのだろう。何かがきっかけで確実に外に噴出してくる。
人である以上、問題は多く積み重なる。俺はいつになったら楽になり、孤独という状態から抜け出せるのだろうか? 強欲の魔女マリリンに操られ始めても、それが決して叶うことなのかは、さっぱりだ。
しかし、進むべきではある。俺自身結局のところ助かりたいと思えるところが強くあるからだ。
誰しもが楽であり、助かりたい。そう思える世の中にいたい。だからこそ言える。ここの魔女はある意味正解なのだと。嫉妬の魔女のように、理解しえないような状態であるならまだしも、今回に関しては、それがほぼなく、街も人々も何ら変わらずに生活をしている。
そこになぜ疑問を持つ必要があるのだろうか? 俺は次第に飲み込まれていくことに何も違和感を感じず、強欲の魔女マリリンのいる部屋へと進んでいった。
それが一番の正解かと思える。そう考えていた。
意識も飲み込まれ、誰も助けは来ない。かといって、呼んでくるものでもない。俺は自分のしていた作戦さえも、少しずつ忘れていっていた。
希望がなく、かといって絶望も心の中にはなかったのだ。これが何よりの救いなのかもしれない。
いよいよ部屋の前にたどり着く、考え事しかしてない自分に少しの笑みをこぼす。それが扉には映っており、自分の顔を確認することができた。
「俺って、こんなに幸薄そうな顔してたんだ……」
一言残し、扉を開け始める。そこには暗くよどんだ部屋が映されていた。