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七人の魔女と一人の転生者。  作者: しじみかん。
嫉妬の魔女
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第四話 思考

 俺は嘘つきだ。何も能力がないのにもかかわらず、あるように見せた。証拠を投げつけられれば、そこで試合終了になる。もしかしたら、今は開花していないのかもしれないが、もし能力があったとしても、今この時になければ意味が何もない。次に魔女が来た時俺はどうすればいいのだろうか?

 そもそも、俺は自ら悲劇を作りだそうとしているのかもしれない。だって、そうだろ? フローラを人質にまでしている。交渉を有利に進ませるというよりかは、俺はそれしか考えることができなかった。


 結果的にはよかったのかもしれない。フローラも俺に救世主と呼び励ましてくれた。褒めてくれた。今までほとんどそんな言葉をかけてくれなかったのに、くれたんだ。あの子は俺に言葉をくれた。


 葛藤というものがあった。魔女と対面した夜俺は寝床に就いたが、思うように寝れず1時間ほどで目が覚めるようになった。これで1週間連続だ。睡眠を体が欲しがっているのは、十分わかっている。だが、不安や葛藤、大きな嘘をつきどう彼女たちに顔合わせすればいいのかわからなくなっていた。


 魔女との対面が終わったあと村に行けば、すぐさま祭りが開かれた。すごく小さいものではあるのだけれど、それでも村長たちの今できる精一杯の歓迎であることは、俺自身も理解できた。しかし、ばれたら終わる恐怖が俺に付きまとい始めていた。

 もしかすれば、すでに魔女たちは気が付いていたのではないのか? 俺自身に力のないこと、そうなると次に来るときは……


 悩みに悩んだが、答えというものがでない。そもそも答え自体ないのに等しい。あの時嘘をつかなければ、俺自身も何をされたかわからないし、フローラや村の人々が何よりも危なかった。

 


「魔女や魔法なんておとぎ話の世界だろ? 何なんだよ一体」


トントン


「よろしいですか? あゆむ様」



 何者かが俺のいる部屋に入ってくる。この声は、きっとフローラだろう。1週間俺は外にでていない。戦士は休息が必要と話し、詳しい事情を話さないまま部屋にこもっていたのだ。フローラはその日の夜から毎日1日3回は確実にノックする。しかし、反応ないとわかれば、食事だけを置き去っていくのを繰り返している。

 布団をかぶり、ガン無視を決め込む。非常に情けないのは誰が見てもわかるとおりだ。ただ単純に俺は恐怖している。わけのわからないおとぎ話の世界の力を見せつけられ、世界を見せられ平常心を保っている方がどうかしている。

 しかし、今回ばかりはフローラの動きに変化があった。



「救世主様起きてます? 戦士は休息が必要、十分承知の上でのことですが、今回ばかりはお許しください。私はここ数日間悩んでいました。重荷を背負わせているのかもしれない。私や村の人たちができないことが救世主様はすんなりできてしまう。それに甘えすぎているのかもしれない。そういったことについて悩んでいました。これは村長さん含め、みなも思っていることだといわれましたね。今では、活気づいております。前よりももっとみなが生き生きしているのですよ。これは救世主様のしてきたことです。最初は追い払うようなことをしていましたが、今となっては、かえって力になりたい! と考えております」


「私はそこで一つの行動をすると決めました。救世主様のようになりたい! みなを救えるような立派な行動ある人になってみたい。能力を使わずしても必ず突破口があると、救世主様を見て理解しました。私は強い人ではありません。それでも、この世の中を変えれるのならば、この弱い自分自身に活を入れ、挑みに行きます。私は、嫉妬の魔女の城に行きます。もし帰ってこれたのならば、救世主様、あなたの口から褒めて欲しいです」



 そう言いフローラは去っていった。 フローラの判断に俺は、何も言うことができなかった。ただ聞くだけだった。魔女の城に行くという考え、招待はされたが、1週間も経っていてやってこないとなると魔女自身がどのような考えになっているのかは、俺自身考えたくもなかった……


 気が付けば朝になっていた。何事もなかったかのように、毎日は訪れる。だが、俺は違っていた。かぶっていた布団を捨て去り、身だしなみをきちんと整え、昨日の夜に来ていた食事を今になって食し思いっきり外に出る。足早に目的地に進んでいく。


 周りには、俺が突然出てきたことや長くこもっていたこともあり、驚きの表情をする村人が多くいた。ずーっと見られ続けている気がしたのだが、今はそんなこと考えている時間が俺にはなかった。

 目的のところというよりかは、人物を目の前にし俺は発する。



「村長! 魔女の城への道教えてくれ!」


「夢乃あゆむくん! 来ると思っていたじゃよ。あれを見せなさい!」



 ……? 村長は俺が魔女の城に行くことを知っていたらしく、準備を前もってしていた。それを見るや否やためらわずすげーの言葉が出てくる。装備品だ。この村では、一番素晴らしいとされるものだ。本当ならば、素晴らしいものと言えば、銀の剣など金ぴかに光るものだったり、高性能な薬草だったりだが、この村では石でできた剣だった。おんぼろの称号を付けたくなるものだった。だが、今の俺には十分すぎるものだ。なぜならば、元々0のやつに1を加えるということだからな。願ったりかなったりだ。


 ・薬草10枚

 ・石の剣(棒)2本

 ・石の盾(板)2枚

 ・背負える袋1枚

 ・銀貨10枚


 結構なものをもらった。それに今俺の持っている学生証、財布と携帯電話、持ち物は多いが、それでも何とかできる可能性は十分にあった。この世界での通貨は金、銀、銅で回っており、嫉妬の魔女が支配している場所は銅貨が主な流通通貨だった。



「銀貨10枚って、この村の全財産じゃないか? これ?」


「いいんじゃよ。救世主様に何度も救われたわけじゃ、銀貨10枚でいいのならばうれしいことじゃ、それにうちは、自給自足で成り立っておる。通貨は役に立たん」



 それもそうだな。ただ期待と信頼をかなり得ているので、重くはあるが、それほどにまで彼らは幸せを願っていると俺は考えた。

 そもそも、なぜあんな葛藤していたのにも関わらず、こうして前に進めるようになったのか? なのだが、基本的に考えや悩みは変わらない。ただ、昨日ポロっと出てきた携帯の画面を見て今こうして動けるようになったのだ。それが、なんとも恥ずかしいことなのだが、借金だ。両親に数百万の借金をしていたことを思い出し、それに比べれば今は何ともないと思い進めるようになった。単純だが、それが答えだ。


 借金返済や両親に怒られるよりも、俺はこっちの道を選ぶことにしたのだ。

 

 村長や村人たちと少しだけ会話をし、そのまま出発する。後ろで見送られながらも進んでいく、下手に後ろを向けば、帰りたくなるのもあるため、ガン無視で突き進んでいった。


 暖炉からでて、誰もいない民家から外にでたとき光景は、やはり殺風景の一言だった。本当ならば、彼らはこの場所に土地として利用するに違いない。だが、それができない。後ろを見れば魔獣ばかりが住んでいる森に、週1来るであろう魔女たち、スーなんかは村を破壊しまくるだろうから、なおのこと。納得できるようなところは非常に多くある。しかし、今の俺の行動によって、彼らも自由な暮らしができるかもしれない。まあ俺がそうするけど。


 まずどこから行けばいいんだ? 近くの村か町かを目指せばいいか? てかなんだよこの地図、適当すぎるだろ。なんで、村と城の場所しか書かないんだよ。しかも、一本の線でしか書いてないし。使えないなこれ……


 そう思いつつも、必死になって書いてくれたであろう地図なので、処分せず持っていくことにした。そのまま村が見えなくなるくらいにまで歩く。今まで気にも留めていなかったが、うっすらと霧がかかっていたことに気づく、これではどっちに行ったかも詳しくわかることはないのかもしれない。適当に進んでも、ダメな気もしてきた。だが、魔女の城以外に行く当てもないため、進むしかなかった。


 そのまま道なりに進むと……



ドン!


「いて! 何かに当たったぞ? なんだ?」



 当たった目の前の壁らしきものに手を触れてみる。黒くそれでいて冷たい、鉄でできているような感じがしたのだ。それを触りつつ横に伝って歩いていくと声が聞こる。



「今日の警備ごくろうさまでございます」


「交代の時ですね。助かります」



 兵士の声か? もっとよく見たいこともあり、さらに近づいてみると、そこには二人の兵士がいた。まさかと思い壁の上を見上げると、明らかに城壁であるものが見えた。


 あれ、もしかしてあの地図あってたん? 嘘だろ!? 立った数百mしか進んでないのにあるのか……

 城が近くにあったのだが、そこからどのようにして中に入ればいいのか悩む。しかし、魔女に招待されたのもあってか目の前からいけばいいと考える。



「何やつだ!」


「まじかよ。やっぱりか……」



 真正面から行けば、襲われそうになるのも無理ない。門兵が二人して、こちらを見るなり槍の先端をこちらに向ける。なので、事情を話す。



「俺は魔女に招待されたものだ。選ばれし者とか言ったかな? そのうちの一人だ」


「まさか……本当に実在するとは……これは失礼いたしました!!」



 兵士の態度が一変する。こればっかりは仕方ないことだとわかる。そもそも、魔女から逃がすことはこの国ではするのは異常なことであると、今までの見てわかる。すんなりと通してもらう。

 面白いことに、外側では一切見ることの出来なかった風景が入ればすぐさまわかる状態になっていた。門をくぐれば先を見渡せるくらいに霧は晴れ、一切なかったのだ。もしかすれば、魔女の魔法によるものなのかもしれない。門から外の方も内側からでの観測が可能であった。


 これを考えると、数百先の村の秘密基地なんていうのは、すべて筒抜けだったのではないのか? と恐ろしいことを考える。

 ただ、城郭都市と言える場所もそこまで裕福だとは思えない環境ではあった。みなが年期の入った服を着ており、とても城の周辺に住まう人達と思えない見た目であった。


 魔女はあんなにも見た目よかったのにもかかわらず、街の人たちはこれでもか、と言うほどにみすぼらしさがある。独裁国家とでも言えるのだろうか。

 俺は中心部に向けて歩き進める。見渡す限り同じような人ばかりだった。人はいるのだが、店が繁盛しているなどのことは一切なかった。本当にやっていけているのか? と不思議に思うくらいなのだが、ほとんどがやっていけてないのだろう。裸足でかけている子どももいるくらいだ。


 それらを見るうちに、なぜか怒りというものが込み上げてくる。これは普通の感覚なのかもしれないのだが、この状態を知っているはずにも関わらず、対処しないことに余計に腹を立てる。


 他国の状態に下手に手を出してはいけないのは十分理解しているのだが、さすがにひどいな。

 何気なく歩いているうちに、目の前にスーが現れる。一瞬驚き、歩くのを止める。



「お久しぶりです。夢乃あゆむ。忘れてなんかいませんよ」


「俺も忘れてない。お前みたいな力に溺れたやつを忘れることは絶対ないな」


「何を……?」



 俺の言葉によって、スーの表情が変わり右手の人差し指を前に突き出す。そこには水がビー玉の大きさまで集まり発射される。そのまま、顔の横を通り過ぎる。確実に今のはわざとであり、そもそもこれに動じてたら意味がない。そう思い動じずスーを見つめた。



「さすがです。肝が据わっている。どんなに度胸のある人でも、撃たれれば下手によけようとする。それも嘘偽りの言葉でしか言えないような人なら余計にね?」


 こいつ……変にカマかけ始めたな。さすがに俺も出るとこ出ようかと思うが、能力がないから何もできねーし。ただ俺は今のこの状態は面白くはないな。


「夢乃あゆむ。レヴィア様のところまでお連れします。ついてきてください」



 道案内のために来たのは間違いないのだが、さっきのいるか? 内心すっげービビったけど、下手に体出せば殺されるし、本当にこいつ嫌いだわ。

 スーは確実に俺を嫌っているのは見てわかる。非常に俺との争いで、彼のプライドがずたずたにされたのだろう。それは、魔女にも散々言われた可能性もある。ただそれも仕方ないことではある。できるのにやらなかったスーが悪い。まあ、あっちは能力ないのは知らないのだけど。


 何も言葉を交わさないまま、流れるようにして進んでいくけん制しているのがなんとなく背中見てわかる。変にこちらを見るそぶりが多い。隙を伺っているのだろう。能力ないので、いつでもできるのだがね。知らないから無理ないけど。



「ここが魔女様のお部屋だ。ここから先は俺でさえも入れない。お前ひとりでいけ!」


「ここまでご苦労さん。スー一つ聞きたいんだが、お前は今のこの国の状況を見てどう思う?」


「素晴らしいと思うぞ、争いがなくみなが平等という社会を構築している。手を取り助け合いの精神。劣等種にしかできないことだな。これが答えだ。早くいけ」



 つくづくこいつとは合わないな。

 そう考え、目の前の扉を開け始める。そこに見えた光は、橙色に輝き、暖炉の前で椅子に座っている魔女の姿だった。


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