第四十五話3
世界が切り替わっても何一つかわらない。人間の思考回路はいつもそうだ。魔法と言う名の力は時として兵器となりえる。過去にコールたちにそれを教えた。彼らは知っていたようで、反応も薄かったのだが、納得はしてくれた。
だが、その考えは時として破滅をもたらす。
レジスタンスの基地に戻った俺とレアは、入り口付近で気づいてしまう。おびただしいレジスタンス兵の死体が無秩序に放置されており、殺され方も一切の優しさなんてありはしない。
目の前に広がる光景は血みどろな世界をこれでもかと強調するようにして、俺らの目の前に置いてある。
「なんで……どうして……」
レアはその一言を話すなり、すぐさまどこかに去っていく。
「待て! レア! 今外は危ない!!」
必死になって声をはるが、彼女には届かず姿はおのずと見えなくなっていく、危ないことを察知し、追いかける。レジスタンスの周辺は木々が生い茂っている。そのせいもあってか、人ひとり探すのは一苦労する。だが、確かなる確証が俺にはあった。
今の光景をすべて見通していれば、誰でもわかるような答えにたどり着くだろう。
「レア!!」
「来ないで!!」
予想通りだった。予想通り過ぎて言葉が出ないほど。レアは崖の端に一人空を見ながら、こちらに話す。
「私は、レジスタンスの一員。人一倍か弱かったコールが世の中を変えようと努力している姿を見るなり、私はいてもたってもいられなかった。だから、参加した」
「レア……」
「だけどね? レジスタンスに所属してから、コールは強くなった。見違えるほどに強くなった。身体の体質も変わったのか、いつの間にか逆転してしまった。驚いたなー……いつの間にかかっこよくなって、先に突っ走って、本当に驚いた」
「待ってくれ……」
「ここで問題が起きたの。突然エブリンっていう子が城から逃げて来たってことでレジスタンスに入ったの。私最初は反対したんだけど、コールのとても作戦に役立つ人だから、信用していいと話したから、彼の意向を飲んだの。たちまち組織は大きくなり、こうして魔女の城内部までいくことができるようになった」
「そのまま戻ってこい……早まるな……」
俺は必死になって彼女を説得しようとする。しかし、上の空、もうレアはこの世界の地に足がついていない状態に捉えることができるほど壁があった。
レアの話は、すべてが真実で語られ、過去の回想を、走馬灯のように語り続けていた。
「一つわかったことがあったの。私の病弱は私自身ではなく、エブリンによるものだって。彼女も私と同じく恋をしていたんだって」
「お願いだ。戻ってこい。戻ってこい!!」
「ある時知ってしまったんだ。私の料理にだけ薬を入れ込んでいたこと。その薬は細胞を壊死させるものだったんだ。しかも、突然ではなく徐々に進行していくタイプのもの。本当に笑ってしまうよね。なんで、幸せになれないんだろう。どうして、こうも離されてしまうんだろう。そう思ったの」
レアは次第に涙声になっていく、崖からじりじりと重みで削れていく音が徐々にだがしてきていた。
「だから、私はある日思ったの。もうこんな思いをするのならば、いっそのこと壊してしまおうって……」
「え……」
空を見上げ、こちらに背を向けていたレアの声はかすかにだが、憎しみや憎悪を感じ取れるものとなって聞こえて来た。
俺は、それを理解するのにも時間をそこまで有することはなかった。
そして……
こちらを振り向き、満面の笑みを浮かべる。両頬を伝う涙が流れていたのが見てわかった。