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七人の魔女と一人の転生者。  作者: しじみかん。
色欲の魔女
32/120

第三十一話 熾烈

 見えない。解決策が何も見えない。今までのような単純な攻略で何とかできるほどの敵ではない。今回は味方である以上、下手に行使もできない。そもそもそういった力はどこにもない。

 せっかく騎士を仲間に出来たと思ったが、すぐさま倒される。力の差を見せつけられてしまったようにも感じる。これが、本当の魔女の姿であり、力なのかもしれない。

 

 俺は元仲間であり、愛さえあったフローラに対して身震いをしていた。恐怖心を抱いているのだ。結局のところ俺は人間であり、魔法といった能力は何一つ持ち合わせていない。

 だからこそ、命の危険を感じれば震え、恐怖する。今後どうなるのかといった不安も抱いてしまう。


 まさか、敵になる段階が二回もあるとは予想だにしないことだ。フローラも簡単に操られすぎなのかもしれないのだが、俺はそれ以上に彼女の本当の考えさえも耳を貸さなかった。

 それらすべてを薙ぎ払い、挙句の果てに変人呼ばわり、やはり最低であり、何も言葉にすることはできない。


 強欲の魔女マリリンは、そんな俺に対して現状を理解し、遠まわしに仲間になるように訴える。

 しかし、それは現時点ではとても脳内にはない選択肢だった。とにかく、この場を何とかしなければいけない。それだけが脳内にあり、それ以外のことは余裕がなく考えることができなかったと思ったほうが良いのかもしれない。


 俺はただ、その光景を見つめるくらいしかできずにいた。

 強欲の魔女マリリンは、終始笑みを浮かべている。それがどんな理由なのかは十分理解している。していても、何もできない。先ほどの威勢や発言が嘘だったかのように、唖然としていた。


 フローラはゆっくりとこちらに近づいてくる。今回ばかりは、確実に話すことはできない。言葉自体が通らないであろう。コミュニケーションができないであろう。見ていればわかること。



「……」



 魔法陣が目の前に展開される。



「アスモデウス、彼には魔法は聞かないわよ。すでに神の遺産の加護を受けている」


「……」


 フローラはマリリンを見るなり、魔法陣の展開をやめる。



ドタッ


「うわ……フローラ……」


 

 押し倒される。力なく倒れる自分自身に半ば諦めが入っていると理解した。この状況を打破する解決策が何も思いつかなかったからだ。フローラはその上に乗り、首を絞め始める。無表情のまま、何も声を発することなく。



「ん゛!!」



 腕の力は同年代とは思えないほど徐々に強くなっていく、死んでいる感情や表情を見るだけでも心苦しいものがある。いっそのことこのまま彼女に殺されるのが本望かと思えるように次第になってきていた。

 次第にゆっくりと目をつむり始める。過去の記憶が走馬灯のように繰り返し流れて来た。苦しさはあるし、今自分がどんな表情を浮かべているのかは想像もしたくない。


 たぶん、泣いているのだろう。これだけはつたう頬の感触でわかった。このままいけば、すべてが終わるのだろうか。また新しい1からどこかの世界でスタートするのだろうか。今となっては知ることさえも愚かなのかもしれない。


 記憶が鮮明に流れ込んでくる。過去の記憶。一緒に攻略した嫉妬の魔女、憤怒の魔女のときは、操られたが、最終的に開放し助けることができた。

 今回はどうだろうか? 考えたくもない。ただ、戻ることができるのならば、戻りたいとそう思い始めていた。結局のところ彼女に何もできずに終わっていく、何も告白することなく終わっていく。

 

 これでは無力であった自分となんら変わり映えのしないものだ。悲しい……悲しい。

 

 次第に、首の苦しさが消えていく、上からの圧もなくなった。これは終わったのか。そう思えたが実際は違うようだ。



「あゆむさん。しっかり!! まだ戦いは終わってません。これからです」



 聞いたことのある声だが、誰だかわからない。懐かしいとさえ思える。その声を聞き、ゆっくりと目を開ける。



「くま……」


「はい。くまちゃんです」


「一体今までどうしたんだ……無言で、ただついてくるだけで……」


「ちょっとした術を使っていました。キャラも不安定になっていたのもそれが原因です」


「それはわからないや……」


 

 隣には熊のぬいぐるみが立っていた。久々に声が聞こえたもので、驚くが、ゆっくりはしていられない状況に落ちていた。

 何と、フローラが後退していたのだ。何が起きたのかさっぱりだ。だが、確実に熊のぬいぐるみがしたことは確かだった。



「実を言うと、私も少し記憶を思い出しまして、その際能力の方についても少しずつではありますが、思い出しました。どうやら、私は本当の魔女のようです」


「色欲の魔女っていってたけど……」


「あれは嘘ですね。あれが本物の色欲の魔女です。絶大なる力が何よりの証明かと」


「フローラが……実際見ると、恐ろしいかな……」


「今はここを何とか脱出することを優先的に考えるべきですね」



 フローラはこちらに向かって魔法を唱えてくる。騎士のときと同様、小さい球の複数弾だ。なぜか、熊のぬいぐるみは、それを自分の2~3倍もする大きな魔法陣でガードする。何より恐ろしいのが、それらすべてを防ぐことができたのだ。

 俺はそれを見ては、言葉を発することができずにいた。何がどうなっているのかさっぱりだ。


 それは俺以外のものも同じ感情だろう。この戦場はフローラが最強とされていたし、何より熊のぬいぐるみが、防ぎ挙句の果てに発射までする。

 何がどうなっているのかは、恐ろしいほど理解したくないとさえ思えてくる。



ズドン! ズドン!! ズドン!!!



 熊のぬいぐるみは、先ほどの騎士とは違い、フローラ相手でも対抗できるほどの魔法の力を持ち合わせていた。むしろ、少しだが押しているところもある。

 気が付けば、魔女の笑いは消えていた。もしかしたら、よほど予想外のことが起きているのだろう。たぶん、戦っているフローラさえもそれを理解することは不可能だったはずだ。

 俺はただ見守り続けているのだが、彼女たちの戦いは熾烈さが増していく、徐々にだが、確実に仕留めていく魔法を扱っていく、今までに見たことないスケールの戦闘が目の前には起きていた。



ドドドドドドド!!



 熊のぬいぐるみがかけて魔法弾を回避する。進行方向に巨大な火の柱が立つが、寸前のところで速度を増し急転回する。

 さもそこに立つことがわかっていたかのような回避の仕方をしていく、熊のぬいぐるみの勢いは留まることはなく、急加速をし続け、四方八方から魔法弾が放出され始める。

 フローラは真逆のことをされ困惑するが、自分の下に魔法陣を展開し、上へスライドさせると、それがバリアの代わりとなり、すべてを防ぐ。


 どちらも一歩引かない争いになっていた。どちらが勝ってもかしくはない、そんな戦闘が続いている。俺は今何を見せられているのかまったくだが、熊のぬいぐるみの正体についても気がかりになった。

 この人形も今まで記憶や魔法を封印されていた。ここまでの力を持ち合わせている。自ら魔女であることを晒すなど、様々な観点から見ると、この人形がどこの誰かなどを知りたくはなったが、まったく想像が付かない。

 そもそもあの異常なまでの戦闘魔法を持ち合わせているフローラと拮抗するレベルの力を持つ熊のぬいぐるみ、ただものではない。そう考えざる負えなかった。

 まだ会ってない魔女は多い、その中の誰か一人である可能性があるとし、こちらに協力的な人物であるのならば、それはある意味うれしいことでもある。

  

 ただ、仲間同士の争いというのが何より心を苦しめる要因になっている。一緒に強欲の魔女攻略目的に国に入ったが、気が付けば操られ、幻想の世の中に落とされた。結果として、こうして仲間同士の争いに発展している。すべてが強欲の魔女の考えうる結果だというのが腑に落ちない。


 テリトリーがそうだからと話せば終わるのだが、そう簡単に納得したくないのも事実。同時に、守られることが多く、自らの力がないことを少しばかり悔やむのもあった。

 簡単にいかないことが多い、それは魔法があればすんなりいくのか? という問いも何度もしてきた。強欲の魔女からは叱られたこともある。彼女自身が俺に対して求めていることは、能力だけなのか? 他にも何か求めている可能性は高い。ただ、それはわからない。真相がわかれば攻略には早い段階で取り掛かることができるし、有利に働くことが可能だ。


 しかし、何一つ相手のことがわからない。椅子に座り高みの見物を決め込んでいるせいもあり、近づくことも困難を極める。近くには従者マークの存在もある。

 近づけば、強大な魔法を使い、一気に形勢逆転をされてしまう。今まで以上に一筋縄ではいかない。思考や尊厳を奪い、わが物に、自分の理想とする未来のために行動する。

 これが今になってようやく理解し始めていた。人は弱い生き物であり、何かにすがりたいのが心理にある。だからこそ、こういったものにはついていくことも多い。だからこそ、無意識のままに操られても何も感じず、何も抱かない。

 むしろ、それが良いとする人も中にはいるはずだ。人は臆病で、寂しがり屋、そのくせ文句ばかり言う。ならば、強欲の魔女の力は絶対的に有利に働くことが大きい。

 何度も考えたが、答えはNO。俺も俺自身でそれにすがろうともしたが、結局のところ解決はしない。

 意思だけは何としてでも曲げてはいけない。信頼や期待をしてくれているものたちが、この世界に来た時よりも、今となっては大勢いる。下手すれば国が一つか二つほどになっている。


 考えることを諦めたら終わりだ。考え続けろ。人間、悩み、苦しむ、結果として答えを見つけ出す。魔法と言う見える能力がないのならば、脳という見えない能力を使うまで……

 絶対的な意思はないが、俺はこの場を去る一つの案にかけてみることにした。自ら近い過去を思い出して‥‥…



「フローラ!! 夢乃あゆむはここにいる!! 確実にお前を操っているものから解き、連れ戻す。いつだかはわからないが、確実にやってみせる。どんなに強大な敵だろうが、俺の前では無力も同然!! 救える確率が1%以下だろうが、関係ない。俺は、100%お前を救って見せる。だから、今だけは耐えてくれ!!」


「ふふふ……誤算が大きい今回の争い、何を言い出すかと思えば、あなたは正気? この状態のどこに解決策なんてあるのよ」


「解決策なんてない。これから考える。私は彼のために、身を使う。今の流れだと、まだ彼女は力をすべて解き放ってはいないみたいだ。私は結構ギリギリだがな」


「熊の人形が何を偉そうに……」


「お前は知っているはずだ! 私の正体を、私はうっすらとなっているが、それでも記憶に少しは残っている。次あったときは確実に仕留めてやる。それまでは待っておけ!! 愚か者!!」


「この人形め……!! アスモデウス!! あいつらを葬りさりなさい!!」



 フローラは高くジャンプし、こちらに向けて魔法陣を展開する。一番最初にやってきた球体だ。もう一度されれば、また崩壊につながる。だが、熊のぬいぐるみは、そう簡単には諦めなかった。



「あゆむ! 私の後ろにいて」


「おう……」



 言われるがまま、後ろにいる。目の前にはちっさい熊のぬいぐるみ、これでどう防御するのかはわからないが、今のこいつなら何とかしてくれる可能性は非常に高い。俺は今現状このぬいぐるみを信頼する他ない。



ドガアアアアア!!



 魔法は勢いよく発射される。大きいせいか、ゆっくりと落ちてくるように見えていた。



「ふん!!」



ドガアアアアアン!!



 一瞬の出来事で困惑もする。目の前にあった大きな球体は消えた。フローラはそれを見ても無表情であったが、正直驚かないことに俺は驚いている。



「いくぞ!! いそげ!!」


「ん!?!?」


  

 手をつかまれ、その場から脱出する。方向を向き変えた途端、それはあった。何と扉が崩壊していたのだ。今の一瞬で、この熊は球体を転移させたのだ。原理はよくわからないが、それくらいのことをしていた。ものの見事に分厚い扉は崩壊し、そこから出てくる光を頼りに、女王の間から脱出した。

 二度目だが、やはりフローラの魔法の威力は桁外れとさえ思えるほどだった。あんなかわいらしい子が、こんな強大な魔法を使うこと自体いまだに信じられないでいる。


 だが、現実はそれを当たり前のように映してくる。俺は熊のぬいぐるみの背中からよくわからない黒い手につかまれながら、その場を後にした。

 攻略法を考えることはするが、果たして俺の脳でどこまでできるのかはわからない。


 ただ、やってみるしかないと考える。最悪案はすでにあることを含めて。


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