第三十話 結果
力が入らない。突然の出来事に困惑する。俺は今一体何にかかっているんだ? 今までとは違った問題に焦りさえも感じる。フローラ、熊のぬいぐるみは、座っている俺を見ようとは一切しなかった。
どういうことだ? 仲間の関係だが、一切助けようとしない。敵がいるからなのか? それともまた別の何かがあるのか? この国に入ってから不思議なことが多い。それを理解するのは到底俺には無理な話だ。
違和感だけが独り歩きしているさなか、状況は一変する。呼吸を整えるので精一杯である状態を更なる追い打ちがやってくる。
「夢乃あゆむ、悩んでいるだろう。苦しんでいるだろう。それはすべて、思考というものが引き起こす問題だ。私の国は全員がそれを嫌っていた。どうだ? 今の貴様には、それが強くある。こちらに反応を示せばすぐさま解放してやろう」
今すぐ朦朧としている意識を解放したいのはやまやまだ。しかし、それでは相手の思うつぼである。周りのものたちは、すべて操られていることを考えた方が何よりも楽なのかもしれない。
それほどまでに、別人化をしているのだ。フローラは必死になって俺に何かを伝えようとしていた。熊のぬいぐるみは、ただそれに対して頷いているだけだったが、何かアクションをしていた。これは俺だけにしかできないことだと彼女たちは、考えていたはずだ。
そうでなければ、意味深な発言はしないはずだ。しかし、俺には答えが出てこない。これをどのような解決をすればいいのか、さっぱりだ。
魔法を表だって発動してきた者たちとは別種だ。さすが、裏から操っていただけのことはある。それくらいに窮屈な戦闘がすでに始まっている。
俺の間違いは、この国に来たときだ。すでに入ったときから戦闘は開始していた。レジスタンスに関しても同じことが言える。俺は、何もかも選択を間違っていた。頼れる仲間がいること。救世主と慕われていたこと。そのすべてが、俺自身をおかしな思考に変えていた。
表ではそんなそぶりはなかったかもしれないが、俺自身は何も変わっていない。結局のところ逃げていただけだ。そんな俺を見るなり、マリリンは話す。
「抵抗するのも、そろそろやめてはいかがかな? お主は頑張ったではないか。私は今までそこまで必死になって耐えてきたものを見たことがない。私が愛したものだからこそだ。素晴らしい。もう解放してやるのも良いのだぞ」
「うるせー!! 何が起ころうが、何が間違っていようが、何が正しいのかさっぱりだ。だが、俺は……俺は!! 誰かに操られることを本質的には望んでいないはずだ。甘えすぎていたのかもしれない。だが、それももう終わりにする。勝負しろ!! 強欲の魔女マリリン!!」
俺は必死になって発する。自分の頬を叩き、活を入れる。そうして、放った言葉は宣戦布告ともとれるものだった。今の俺に何ができるのか? それは全くと言っていいほどない。そもそも勝算は1%あるかないかのレベルだ。それでも、なぜか抵抗したくなった。
この際、駄々こねているガキでも構わないとさえ考えていた。すでに抱えている挑戦は、俺の範疇を超えている。俺一人で決めてはいけないとさえ、考えていた。
そして、ゆっくりと一歩ずつ前に踏み出す。階段下にいた従者である。マークはそれを見ては驚いていた。
「マリリン様、この者にはまだ意思があります。この私が完膚なきまで叩きのめします」
「よかろう。殺しはするなよ」
「はい」
従者マークが俺の目の前に立った。それでも前に進もうとする。それを見るなり、目の色が変わり、表情を変貌させる。こちらを止めるかのように……
「現れよ。我が召喚兵よ。シュヴァリエ!!」
マークの発言により、目の前には大柄な騎士が召喚される。俺が見たことない魔法の類。本当にめちゃくちゃな世界だとさえ思うが、これがこの世界では普通だとするのならば、この考えがめちゃくちゃなのかもしれない。平然とそれを出すことは、たぶんそうなのだろう。
俺の世界で見て来た騎士と同じようで少し違ったものだ。軍隊長のようなマントを付けている。色の判別は付かない。ただ、一つだけ奇妙なものがあった。
「なんだ。その剣……」
思わず声を漏らす。それほどまでに神々しく輝く銀の剣を持ち合わせていた。それも、通常の剣の二倍近く大きいものだ。刃との結びの部分には、赤い水晶のようなものがついていた。
騎士はこちらを見るなり、剣を突き刺し、いつでも対応できるように待ち構えていた。
俺は一歩引いたが、今の混乱している考えの中、すかさず突っ込む。
ドカ!!
「ぐふぅ!!」
想像通り、吹き飛ばされる。しかも、相当痛い。相手は鎧でできた拳であしらうかのようだった。やはり向こうから見ても、簡単な敵なのだろう。剣はそのまま突き刺し、拳でも問題ないと考えているのだろうか。ひどく滑稽だ。それでも、正解を求めるあまり、負けるとわかっているにも関わらず、突っ込んだ。
ドカッ! ボコッ!! ドスッ!
鈍い音が辺りにこだまする。傍から見れば、防戦一方とか、良い勝負とかいうものではなく、とても見るに堪えないようなひどい戦いが起きているのだろうと考えている。鼻からは血を流し、何かが切れたのか、口からも血を流し始める。それでも果敢に攻める。
「ぐ……カハァ!!」
そうして早くも10分以上が経ったのだろうか。ボロボロの俺を見るなり従者マークは呆れ始める。
「ふん。どうして、勝てもしない戦に殴りこんだ。どうして、そこまでボロボロになってでも攻めてくる」
「勝てなかろうが、何だろうが、いずれ道は開くもの。俺はそうやって今までくぐりぬけて来た。今回は分が非常に悪いが、それでも変わらず突き進む」
「そうか、やれ」
ドカッ! ボコッ!! ドスッ!
呆れながらも、止めは刺さず殴り続けてくるマーク。騎士はそれを忠実に実行しているだけの存在であり、感情はないのだろう。ただ、言われるがまま行動をしている。相手の鎧には、血が付着しており、次第に黒く時間経過による変色が見て取れた。
何分も何分も同じことの繰り返しが起きている。俺は呼吸を整えながらも、必死に強欲の魔女マリリンの方をめがけて突き進む。
いくら拒んでも、いくら制止されても、必ず突破できると思い突き進む。やがては、膝を付き下を向く。
「そろそろ、やめたらどうだ? 勝ち目はないように見えるが? それでも果敢に攻めて来たことは褒めてやる。だが、これ以上やれば、お前は時機に力尽きる。諦めも時には肝心だ」
従者マークは、無残な俺の姿に対して同情をしてきた。どうやっても、何を考えても答えが見つからず、何を糧に進めばいいのか? 何が間違いで、何が正解なのか、まったくわからない。中には、今回の攻略するべき存在である。強欲の魔女マリリンに対して、間違いではなく、正解とさえも考えてしまう自分さえもいた。
このまま彼女の言いなりになれば、どれほど楽に過ごせるだろうか? 悩みを亡くし、思考を相手に委ねる。これは考えれば怖いことだが、恐怖や不安がなくなるとするのならば、非常に良い考えではないのだろうか? 揺らぎ動く感情だが、意思自体は、吹っ切れずそのまま点在していた。
まだ、諦めきれない何かが俺の中には存在していた。
「勝ち目なんて最初からない。そもそも、俺には正解はわからない。それでも前に進むべき必要がある。俺は0%はないと、この世界にやってきて身をもって知った。確実に勝てないわけではない。こうして、行動することに対して何かしら意味があると本気で考えている。それは、俺自身ではなく、俺以外の仲間たち含めてだ。今も戦っている者たちがいる。何としても、それを裏切るわけにはいかない」
「答えなき未来に、何の価値がある? 正解と少しでも思うのならば、こちらにつくのが良いのではないのだろうか? 1の不明確な未来よりも1の正解の方が何よりも得なのではないのだろうか?」
「人間は、絶えず悩み、苦しみ、そして答えを見つける。俺はそんな人間であるからこそ、こうして前に進むことができた。未来なんて、想像でしかない。そこにある答えが正解とも限らない。でも、それはお前たちが語る未来も同じことだ。順当に行く正解なんてこの世に存在しない。俺は、そんな世界を信用できない」
この発言により、従者マークの何かが切れる。彼の表情は先ほどとは打って変わり、より凶悪さを増していった。その空気は何も持たない俺でさえも肌で感じるほど脅威的なものとなっていた。
「ならば、見せてやる。マリリン様の写す未来がどれほど良きものなのか? 申し訳ございません。少し手荒く対応いたします」
強欲の魔女マリリンの座る方に向き、彼は深々と謝罪し、こちらを向き直す。そして……
「シュヴァリエ、彼に絶大なる力を見せてやれ。これが正解である未来であることを見せてやれ」
ガチャ
騎士はその命令により、地面に突き刺していた剣を引き抜く、正面立って両手で持ち握る。そして、刃をこちらに向ける。何かを考えてのことだろう。
これで俺は回避をミスでは、正真正銘この世の終わりだ。
ズザ!!
騎士は一瞬にして、膝を付いている俺めがけて剣を振るってくる。高く掲げた剣は、それは神々しく光り輝くものだった。自ら発光しているかのような輝きに俺は次第に見とれる。
やがて、その剣は振り下ろされる。
誰もがその瞬間を見ては終わったことを察知する。
ヒュオオオン!!
剣にかかる風の音が聞こえる。あまりにも重く速い振りだったのだろう。だが、その剣は俺の頭上の寸前で止まる。
「「……!?」」
周囲のもの、特に従者マークはその行為に驚いただろう。唖然としていた。俺は剣の振り落とされる瞬間まで目を開け騎士の方を向いていた。何かを信じていたのか自然とそのように構えていた。
騎士はその姿を見るなり問いかける。
「お主は、何故争いをする。この秩序亡き混沌の世界になぜ、反抗する?」
「愛するものたちの笑顔を見たいから……」
「力なきものが、なぜ我の前に現れた? なぜ勝てない争いをしようとする?」
「希望を受け取った、信頼を受け取った。俺に託した者たちがいるから、それに答えるだけ、何も力は見えるものだけではないはずだ。あなたと話しているこれも力の一つだと俺は信じてる」
「……」
騎士は会話を聞き、剣を下げる。言葉を発しなくなった。何かを考えているのだろうか? 俺にはわからない。ただ、話したいことは話した。相手がどんな人物だろうが関係ない。ただ話したいからこそ話したまでだ。
「どうした? 痛みを与えるのもありだぞ。行使をするのが得策だ。そやつほどの反抗精神を持つ者は特にだ」
「力とは何だ。正義とは何だ」
「何を言っている? まさかお前……!?」
「我は平和な世を見たかった。悩み、苦しみ、やがては輝く世を見たかった。一切変わりはしない。だが、こやつの輝きは今までとは違う。この世の先を輝かせる。我は喜んで、未来を紡ぐ架け橋となろう」
召喚された大柄の騎士は、剣の正面向き変え両手で天高く掲げる。
「まさか、シュヴァリエ!! 貴様!! 反逆するとでもいうのか!? この場所で!!」
「我が名はシュヴァリエ!! 神よ!! 我が願いを聞き受けよ!! 夢乃あゆむに祝福の加護を授けたまえ!!」
ドドドドドドドオ!!
「シュヴァリエ!!」
従者マークは叫ぶ、騎士が放った言葉がどれほどのものかは理解できずにいたが、放った瞬間に城全体が揺れ始めた。そして、騎士は光に包まれる。やがて、その光が俺めがけてやってきた。
「なんだ……これ……」
俺の様子を見ては、騎士は言う。
「神の御加護だ。お主に受け取ってほしい」
神の加護を受け取る。能力は判明しないが、今まで受けた傷が嘘のようにすべて癒えていった。同時に視界が散漫であったところから、次第に正常に戻ってくる。なぜか、心地よい感じも受けた。
「これからは、お主の手となり足となろう」
大柄の騎士は、顔まで覆っており表情は見えないが、笑顔になっているのだと推測することができるほど声は優しいものになっていた。
当然、この状態をよく思わないものたちはいる。
「シュヴァリエ、まさか、そちらの味方になるのか……」
「神は選択した。我はこの者の盾となろう」
「そうか……なら!!」
「ふふふ……ふふふ……」
従者マークは怒り、騎士に対して戦闘を構えようと考え始めていたが、後ろから不敵な笑みが聞こえる。
「マーク、素晴らしいものが見れました。おさがりなさい」
「マリリン様! この失態は私がしでかしたものです。申し訳ございません。身をもってこの場を解消させます!!」
彼はマリリンの声に驚き、不安からなのか、必死になって問題解決をしようとする。
「お下がりなさい。私はそう話しております。いうこと聞けないの?」
「大変申し訳ございません……」
マリリンの声は突然低くなる。その感情を察したのか、彼はすかさず後ずさりをし、暗闇に隠れた。たぶん、予想以上に今のことに対して驚き、激怒したのだろう。
この騎士がこちらの味方になったことはとても心強い、しかし問題はまだまだ解消されていない。
「夢乃あゆむ、あなたは私の想像以上に素晴らしいお方です。今の少しの演説も感動いたしました。あなたの精神は簡単にはこちらに向かないことを理解しました」
「当然だろう。俺は今まで色んなものたちと渡り合ってきた。だからこそ、今回も変わらない」
「そうですね。ただ、一つ大きな誤算があります。あなたを倒せなくなったことですね」
「どういうことだ……?」
「答えになってしまうかもしれませんが、すぐわかることなのでお伝えします。あなたは今、神の遺産という力により、願いを受けた。それはすなわち、私たちよりも強大な力を受け取ったことに繋がります。極めて危険です。これは非常に危険なものとなりました」
今なんて……? 私たちよりも強大な力を受け取ったといった? 間違いない。確かにいった。あれほどの力を持つものが、自ら、強いと簡単に話せるものなのか? 違うだろう。本当にそうなってしまったのかもしれない。今の騎士から俺は、とてつもないものを受け取った可能性が高い。
それは、下手すれば魔女をも超えるものを……
神の遺産と話したもの。俺にはよくわからない。ただ、尋常じゃないものだということはわかる。一瞬にして傷を癒す。こんなことこの世界でも、容易ではないことくらい理解している。城から落下したときも他のものの看病があったが、それも簡単に癒えた。
俺はもしかしたら、とてつもないほどの力を得ていることに繋がるかもしれない。そう考え始めた。
「このままでは非常にまずいです。シュヴァリエとやり合う方法は一つのみ……」
これから何が来るのかを怪しみ、唾を飲み込む。ついに魔女との戦いになるかもしれない。今までとは大きく違った魔女との戦い。どんなものが来てもおかしくはない。
ただ、場合によっては想像を絶するものの可能性が高い。気を引き締めなくては……
「これほど面白いと思えることが、他にもあるのでしょうか? いやありませんね。それにここまでくればもう平気でしょう。さて……ここからが私の本領です」
「何が来る‥‥…」
グラグラグラ……
地面は突然揺れ始める。その勢いは先ほどよりも大きく、立つことさえ怪しくも思えてくる。両側のロウソクの暗闇の奥から紫色の鎖が飛び出る。それは禍々しく輝きを放っていた。
「さあ! ここから勢いを増しましょう! 私はこの快楽を初めてします。素晴らしい!! ああああ!!」
天井には大きな魔法陣が展開される。あたりを見渡す。思っている以上に強大な魔法が確実にやってくる。強欲の魔女マリリンは、狂気の域に達し、笑っていた。
そして……
「これが序章です。では開幕!! エスポワール!!」
マリリンの掛け声とともに光と勢いはさらに増す。地面の揺らぎは、立っていることは不可能になる。騎士でさえも、膝を付き始める。
驚愕の光景を目にする。鎖は隣にいるフローラをめがけて飛んでくる。やがて、首、手足首、腹部に巻き付く、空中に連れられ、階段の中心に止まる。そこは、魔法陣の中心部分であり、光は一気にフローラめがけて落ちていく。
ズドドオオオオオオンン!!
「ああああ゛!!!」
「フローラ――――!!!」
ズザアアアアアンン!!
紫色に輝く光はフローラを包みこみ、地面に落ちる。光の柱となって目の前に映し出す。強風が舞い、目を開けるのも困難になる。フローラの声が辺りに響き渡る。
強烈な魔法と俺自身でも感じ取れる。魔女の魔法の力に対しては、驚きもしなく慣れていた自分が恥ずかしいとさえ思えてくるほどだ。
今までとは違い、まったくの異種である。それを彷彿とさせるほど強欲の魔女マリリンの力はすさまじいものだった。これだけでも、辺り一帯にいる人は飛ばされ、戦意喪失になるのではないのか? レジスタンスも打つ手なしになるのではないのか? そう思ってしまうほどに異常ともいえる力だ。
こんなのにどうやって勝てばいいのかさらにわけがわからなくなる。
強風は次第に闇、光の柱もなくなる。ゆっくりとフローラは降りてくる。
「フローラ」
俺は彼女に声をかける。
「……」
無反応である。見た目の変化が起きており、目は真っ赤に染まり、髪は不自然に波打っている。
「夢乃あゆむ、今君が見ているものは、真実の彼女の姿。これが色欲の魔女である本来の姿であり、事実よ」
「何をしたんだ……?」
「簡単なお話よ。記憶を戻した」
「記憶を戻した……?」
「全盛期とまではいかないけど、十分このスペックでも世界を滅ぼすことができるほどの強力な力を持ち合わせているわ。すでに私なんて足元に及ばないわね」
マリリンは次第に笑みをこぼす。自ら起こしたことに対しての笑みなのか、勝利確定であることなのか? また違ったことなのか? もう考えたくもない。フローラはゆっくりと近くによって来る。その魔法による圧は、一般人である俺でさえも感じ取れるほどだ。
鳥肌が立ち始め、身震いし始める。これが魔女の本当の姿である驚きを隠せないでいた。
「全盛期の力……俺は……どうすれば……」
「負けるな! 小僧!! しっかりと心を持て!! さすれば、確実に踏破できる」
「ああ……そうだな……何とかしよう」
「その生きだ」
目の前のフローラが敵である状態と考えることをまず優先的に。それから、どんな強力な魔法を使うのかを想像しなければいけない。そう思った矢先。
ビリビリ! バチバチ!
目の前に大きな黒い球体が出現する。あたりに紫色の電気が走る。次第に大きさは増していき、やがてはフローラを包み込めるほどにまで成長していった。
ズドドドドオオオオ!!
地面をえぐるかのように、それは発射される。騎士は身構える。
「はあああ!!!」
ガキーーーン!!
ズッザアアアア!!
騎士は剣でガードするが、それでも威力は収まらない。その球体は俺の目の前の数十メートル先に到達した瞬間、吸引が始まり爆発する。
キュイイイイイン!!
「伏せろ!!」
「!?」
ドガアアアアアアン!!
その勢いはすさまじく、その場にいた全員が吹き飛ばされる。俺も壁まで吹き飛ばさるが、様々なものが壁となったおかげもあり、何とかなる。
あたりを見渡すと、ロウソクを灯す柱はめちゃくちゃになり、先ほどいた場所は、円形状にえぐれていた。俺の隣に騎士が膝を付き、ボロボロになっていたのが見てわかる。
「ふふふ……これが色欲の魔女の力。素晴らしい! 素晴らしいわ~!!」
「こんなに強いのか……」
今の一撃ですべてを察する。これは勝てない。先ほどとは全く違ったスタイルであり、今までとは大きく異なったものだ。強欲の魔女に対しての有効打がないという考えをはるかに凌駕している。
フローラが魔法を使えば、一瞬にしてあたりが焼け野原を超え、消え去る。もともとそこに物がなかったとさえ思えるほどの威力、かつてないほどの脅威が俺自身を襲う。
攻略という攻略を考える暇なんてない、言葉がでない状態になっていた。これを、こんなレベルのをどうやれば攻略可能なんだ? スマホ1台でどうにかなった嫉妬の魔女はまだまだ楽であったのかと思えるほど。たった一撃で、すべてを吹き飛ばすほどの高威力。
もともとぶっ飛んだ魔法を持つと考えていたが、ここまで果たして想像できただろうか? いやできない。まったくと言っていいほどできない。
今までが今までである以上、想像なんて言うのはできるわけがない。
これが本来の魔法というものであり、魔女という存在であることを認識する。これが目の前にいるのならば、命欲しさに素直に降参した方が身のためかもしれない。
そう思い始めていた。
動けず、声も出せないでいる俺をよそに騎士は立ち上がり、剣を構える。
「必ず食い止める」
「え……」
俺から見える騎士の背中は、頼もしい一言だった。先ほど俺が騎士に対して話していた。それと同じなのかもしれない。俺は、そんな騎士を見ているだけしかできなかった。下手にでれば足手まといになる可能性も少なからずあるからなのと、何より恐怖しかなかったからだ。
騎士とフローラの戦闘は開始された。
「はああ!!」
剣は横に振られる。フローラはそれを後退しかわす。右手を前に出し紫色の魔法陣を展開、無数の玉を放出。
ガキン!! ガキン!!
騎士も負けてはいない。襲い掛かる魔法の玉を剣一つで防いでいく、だが、数が多いせいもあり、すべてを防ぐことはできない。次第に足、肩へと攻撃を受け始める。
一つ一つは小さきものだが、その威力は鉛のような重さだと考えれるほど、一つ受ければ後退する。大柄の騎士でさえも、それくらいになる。ならば、威力は小さくても想像するよりもはるかに大きいはず。
シュン!!
「間に合わない」
ズドドドドド!!
「グウウウ!!」
鎧を付けているにも関わらず、素早い動きをする騎士、勢いよく剣をフローラめがけて差し込もうとする。しかし、一瞬にして消えるその姿を認識することはできず、背後を取られ、空中に逆さになったまま至近距離での魔法弾を受ける。
苦痛の声が聞こえると同時に煙が辺りに見える。戦いは一方的に蹂躙されているようにも見えている。それほどまでに、力の差は歴然だった。
フォン!!
「はああ!!」
シュン!!
煙を使い、視界を奪った戦法に回った騎士だったが、元から見えているかのように彼女は当然のように回避する。持ち前の身軽さを使い後退。後ろ姿を俺の位置から見ているが、声をかけることはできずにいた。
彼女はすぐさま走り出す。もはや、走るというより消えるに近い。速度を超越している。
騎士は、剣を構えどこから来ても良いように、整えるが、四方八方から姿が見えない状態で攻撃がやってくるので、大体をまともに受けてしまう。
鎧もボロボロになり、膝を付くことも多くなる。
俺はそれを見ているだけで、何もできないことに苛立ちさえ抱いてくる。
やがて、騎士は後ろに立ち最後の一撃を与えようと魔法陣を展開する。騎士も反応ができず、最後を迎えようとしていた。
「まて!! フローラ!!」
「……何をしている!! 死ぬぞ!!」
苦し紛れの声、俺は無視をしすかさず出てくる。邪魔になることは十分理解しているが、何としても彼女にこれ以上のことをさせたくなかった。
「フローラ!! 俺だ。夢乃あゆむだ。それ以上、彼に手をださないでくれ」
「……」
「フローラ!! 聞こえてるんだろ!? なら、わかるはずだ。お前は、操られてる!! なら前のように解けるはずだ!! 思い出してくれ。それはただの殺戮だ。それでは、相手の思うつぼだ。お願いだ」
「……」
「フローラ!!」
「ええええいいやあああ!!」
ズシャシャアアア!!
「……!?」
ポタポタと滴り落ちる血、フローラは後退する。お腹を切られたのだと理解する。騎士は、隙を見ては攻撃を放った。間髪入れずにもう一撃を放とうとする。
「おおおお!!」
「やめろ!! やめてくれええええ!!」
ズザザザザザザアア!!
カランカラン……
「……あ……あああああ゛!!」
騎士はフローラから発せられる四方八方の長細い棘に一瞬に串刺しにされる。隙間なく貫かれたその姿は、目をそむけたくなるほどのものだった。俺は声を失い嘆いた。
最後に聞こえたのは、剣の落ちる音。そして、召喚兵だった騎士は、光となって消えていく。
ゆっくりと立ち上がるフローラ、傷は癒えたのか、抑えることはしなくなっていた。
騎士の方に目を向けたが、すぐさま向き直る。膝を付いている俺の目の前に立つ。
「俺は、これをしたかったのか? 俺は、お前のその魔法の力を考えていなかった。今まで強いとばかり思っていた。だが、これほどの強大さを目の当たりにすると、身震いすら感じる。強いんだな。フローラ」
「……」
終始無言であるフローラ、だが、俺の話に対して、何を思ったのか聞いているように立ち尽くしていた。
「素晴らしい光景が見れました。召喚兵もこれで理解したはずです。夢乃あゆむ、これが魔女の本来の力であり、それをどうにかするなんて本気で思っているのならば、間違いだということを理解しなさい。あなたが私の元へやってくること、楽しみにしているわ。ふふふ……」