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七人の魔女と一人の転生者。  作者: しじみかん。
強欲の魔女
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第二十九話 精神

 すんなりと魔女の城へと突き進む一行、辺りには兵士が数えきれないほどいたが、彼らの能力は非常に低く共に来ていたレジスタンスの兵士のみでも、難なく突破することができた。

 頼もしくもあり、少しの疑問にもつながるのだった。俺の記憶をたどりに、強欲の魔女の王室までかける。



「あゆむさん……何か違和感がします。とても言葉にできないほどの違和感がします。気を付けてください」


「俺も丁度そうだと思ってた。ただ、ここで立ち止まっても仕方ないし、出来るところまではいきたい」


「そうですね」



 フローラからのささやき、俺以外にもそのように考えているものがいることに少しの安堵をする。ただ、それは俺とフローラ、熊のぬいぐるみが限界だろう。今まで俺ら以上に強欲の魔女と戦ってきたレジスタンス側からすると、これが普通なのかもしれない。手負いのない争い。今までの体験からは、想像が付かない。つくはずもない。慣れとは、そういったものなのかもしれない。

 そう考えつつ足を止めずに突き進む。


 今までとは全くの真逆の攻略、簡単な攻略、簡単すぎるほどの攻略だ。正面突破でここまで進めるのは何かほかにあるのではないのか? そう思えるほどまでに簡単である。

 兵士は絶えず、見つけては倒す。それが致命傷なものではなく、ただ倒すといったスタイルだった。俺はその倒れた兵士を見て、何かを察した。


 その兵士はこちらを見つつも、まだ動けるにも関わらず座っていたのだ。後ろを見れば他にもそういったものが多くいた。ここで俺はようやく、事の異変に気付く。

 前方に分かれ道が現れた。俺がいた時とは違う。分かれ道は当時存在していなかった。簡単な一本道といったほうが良いかもしれないほど、迷わない構造をしていた。

 だが、今回はそれが逆になり、分かれ道になっている。一行は立ち尽くす。

 


「こっちは俺たちが進む。あゆむたちは逆の方へとお願いしたい」


「ああ……わかった」



 コールに言われるがまま二手に分かれて進行する。俺にフローラ、クマのぬいぐるみの三人での活動に切り替わった。なぜだろうか、次第に何かよからぬことがやってくるのではないのか? そう思えるほど胸騒ぎがしてくる。



「あゆむさん。最初に話しておきます。これはすべてが罠です。覚悟してください」


「え……?」



 フローラからボソッと出てくる言葉に俺は驚くも、平穏を装う。だが、それも一瞬にして崩れ去る。



「え……ここは……」


「ふふふ……」



 気が付けば、女王の間だった。最初に来たころと変わらない立ち位置で俺はそこにいた。隣にはフローラ、熊のぬいぐるみもいた。

 先ほどは確実に走っていた。それでも現実は否定する。あたかも最初からここから動いてないかのように、体はそこにいた。


 強欲の魔女マリリンはこちらを見るなり、不敵な笑みをこぼす。何かを知っているかのようだった。俺はもしかしやと思い、両手を見る。



「傷がない……」



 前に魔女から逃げるように城から飛び降りた。しかし、その時の傷は一つもなかった。更なるわけのわからない感覚に落ちる。確かに今まで何日も活動していた。それがすべて今いることにおいて、否定されているかのように思えた。


 すかさず魔女へと問いただそうとした矢先




「戻ってきたのね? あなただけよ。やはり救世主にふさわしいわ。ふふふ……」


「どういう……ことだ……」



 強欲の魔女マリリンは、俺が戻ってきたことに対して祝福しているかのようなそぶりを見せる。何が何だかわからない。しかし、隣を見るとそこには、心ここにあらずといった状態のフローラと熊のぬいぐるみがあった。

 目が動いていない。瞬きすらしていなかった。それを見るなり、何かに落胆する。




「あなたのお友達は帰ってこれてないようね。何もわかっていないようだし、そろそろあなたに真実を伝えなければいけないみたいね」


「ここが現実だかわからない。そういう感覚に苛まれている。一体何をした……」



 マリリンはそれを楽しむかのように笑みをこぼす。

 そして、今回の出来事について語り始めた。



「幻覚の作用よりもまず、レジスタンスのことお話してあげる」


「異常な戦闘か……」


「すべては私の考えのもとに実行したに過ぎない」



 何を言っているのかさっぱりだった。だが、その疑問もすぐさま消えていく。

 強欲の魔女マリリンは、にこやかな表情でこちらを見つめ語る。



「わからないようだから、教えてあげる。今までどうして大きな負傷なくして帰還できたのか? 

 なぜ? 今まで武装をしているものたちが、武装していないものたちに簡単に倒されてしまうのか?

 これはすべて、私が思い描く理想の未来を実現するためのこと。馬鹿の一つ覚えで、進んできては攻略が簡単 そう内部から蔓延させるため。結果としてこれから来る救世主をこちらに取り入れるため。すべてが一つに繋がるために起こしたことよ」



 マリリンは、そういうと甲高い笑い声をし、こちらを絶望に突き落とすかのように、さげすんだ目で見つめて来た。今までレジスタンスは俺らが思う以上のことを進んでやってきた。その中で苦戦することもあっただろう。しかし、そのすべてが、魔女の思惑通りであり、結果として手の平の上の駒に過ぎないのだと、これを知れば彼らはどのような


 表情をするのかは想像もしたくない。そう俺自身は思えるほどの回答だった。


 強欲の魔女マリリンに問う。



「どうして、俺を求めているんだ。どうして俺を得ようとする? 今までとは違ったタイプだ。

 俺にはあんたの考えが全く分からない。どうして俺なんだ?」



 彼女は、それを聞くやすぐさまゆっくりと答え始めた。



「あなたは自ら何も持たない。持たざる者として今まで生きて来たのかもしれない。でもね? それはあなた自身でそう考えている

 だけで、実際のところ違うのよ」


「何が違うんだ? 俺は、魔法も使えない。無力な人間だ。前あなたとあったときも、同じことを言い俺を叱った。俺は混乱しているところもある。だから聞かせてくれ・・・俺には何があるんだ・・・」


「あなたには、この世に変革をもたらす力を持つの。その理由にここまでの偉業の数々ね。これを能力なしとは言わないのよ。思い通りに作り替えることができるほどの力を持つものをただ放置することはしないでしょ?」


「自分自身ではわからない。だが、俺にはそれがあると……なら、なぜ回りくどいことをする」


「そんなのは簡単よ。周りにいるものたちから手を離させるため。私の術はすでにこの国に入った瞬間には発動しているのよ。だからこそ、あなたは感覚がおかしくなっている。現実と非現実の区別が今もつかないでしょう。これが私自身の使う国全体にかけている魔法よ」



 国全体にかけている魔法、俺自身では理解の範疇は通に過ぎているお話だった。しかし、彼女はそう話す。はったりなどではなく、事実だろう。そうでなければ、目の前に映る光景の説明が付かない。今が現実だかもわからない以上、納得せざる負えないのもある。

 すべてを取り戻していないフローラや熊のぬいぐるみだからこそ、かかるのも頷けてしまうのかもしれない。今まで嫉妬の魔女レヴィアに手を貸していたのも、強欲の魔女の力によるものもある。

 そうなると、この魔女の力の強さは桁外れのレベルに達している。

 俺は果たして勝てるのだろうか? そう思い始めていた。この時点でさえ、思い通りに事が進まないのにも関わらず、この先解決ができるのだろうか? 非常に苦しい状況に落ちていた。



「あなたは私を倒しに来た。でもそれはいかなる力を行使しようが不可能なことよ。何でも知っているわけではないのだけれど、大体は把握できる」


「俺らがする前に仕掛けていたということか……」


「国外のものをそうやすやす通すわけにはいかないのよ。それにあなたのような不明な点が多い人物は特にね?」


「お前は一体何がしたい? 何を目的に活動している」


「私は私の思い描く理想郷の実現、それだけのために活動している」


「理想郷?」


「あなたにわかりやすく話すのならば、世界の崩壊よ。私自身含めてね?」


「破滅したいのか?」


「そう思われても仕方ないかもね。自らの手で崩壊させるのが目的。だからこそ、魔法の力を限界まで使い、細工をしたまで、そうね。もしその子を助けたいのならば、もう一度私の理想郷の中に飛び込んだら?」


「そのはったりは聞かないぞ。このまま言うとおりにすれば、俺は精神もろとも持ってかれる。なら、ここで倒すのみ……」


「あなたは何もわかっていないのね。でもだめよ。このままもう一度そちらに進むのよ。今度は結末を見るためにね」



 俺は、強欲の魔女マリリンにもとに戻される。戻されるというのはおかしなお話だが、事実そのように場面が切り替わる。前とは違い記憶は点在したままである。先ほどと変わらないように強欲の魔女マリリンの待つ女王の間へと進む。

 

 女王の間の扉に差し掛かる。分厚い扉が目の前に現れる。フローラ、熊のぬいぐるみは俺を見るなり頷き、扉を開ける。



ギィィイ……



 ゆっくりと開かれる扉からは、黒い霧がわずかに醸し出されるほどの幻覚を見ているのではないのかと思えるほどにまで、暗い部屋を見せつける。ここからが本番であると同時に、ここから先には何が待ち構えているのかもわからない。

 強欲の魔女マリリンの思考に関しても、さっぱりだ。しかし、俺でなければ気づかない何かがあるのだと、そう考えざる負えないことが非常に多くあった。

 これが現実なのかははっきりとはわからない。ただ言えることは、俺らは二つの世界を体験しているということだけ。

 強欲の魔女マリリンの持つ魔法の力、尊厳や思考を奪うもの、それがこの現実を見せつけているのだと俺は自然と考え始めていた。

 

 暗い部屋にゆっくりと歩んでく。恐怖心は少しながら持ち合わせながらも、少しずつ、少しずつ歩いていく。


 中央の大きなレッドカーペット、その両側にロウソクが道なりに灯る。今まで見ていた光景とまったく一緒だ。何一つ変わり映えのしない光景。恐ろしいとさえ思えてくる空気感。

 気が少しでも緩めば、こちらが飲み込まれてしまいかねない。そうなれば、本末転倒、強欲の魔女の考えうる手の平の上だ。

 

 俺が、俺だけがどうしてこの呪いでもあるかのような魔法に対抗できているのかわからないし、俺自身抵抗できているのかすらわからない。しかし、彼女はそう話す。不敵な笑みを浮かべながらも、俺に話してきた。それがすべてを物語っているのかもしれない。

 

 一つの案として俺自身が考えたことは、もしかしたら、強欲の魔女マリリンは、すでに……



「お久しぶり、御一行様」



 暗がりの高いところから声が聞こえる。何度聞いても耳から離れない。強欲の魔女マリリンの声だ。大人の女性といった感じの綺麗でもあり凛々しくもある通った声、時にこちらが恐怖しそうな圧のかかる声でもある。

 疲れか、恐怖か、汗が垂れ始める。




「あなた方から一度に来るとは喜ばしいことです。こちらから行かなくて済みます」


「俺は俺たちは、お前のしていることについてやめさせるために来た。覚悟してもらう……」


「ふふふ……そんなに汗かいてしまって、何を恐怖しているのかしら? 夢乃あゆむさん、あなたもしかして心揺れ動いていると違いませんか?」


「あゆむさん……」



 フローラがこちらを見るなり、名前をつぶやく、心配してくれていたのだろう。それもそのはずだ。俺は尋常でないくらいに不安を抱えているからだ。そもそも強欲の魔女のしていることに対して、的を得た考えであるかもしれないと少なからず考え始めているからだ。

 これは今ではなくあったときから妙に思考がそちらに回り始めていた。なぜだろうか、周りがおかしいから俺もおかしいと判断しなければいけないのか? 一種の集団心理のようなものなのか? また違うものなのか? 詳しいことは何一つわからない。そもそも何がわかっているのかすらわからないのだ。

 

 気が付けば、手が震え始めていた。今までの死に対する恐怖とは違った言葉では言い表せない何かだった。支配されるという恐怖なのか? 見通されている不安からなのか?

 これもすべて強欲の魔女の魔法の力なのか? 俺の思考は俺自身でも整理することが困難と化していた。



「現状不平不満はあるかもしれませんが、それも一部のもののみ、街の未来は明るいものです。あなたは何をそんなに不安を持ち合わせているのでしょうか? それともまた違った何かを持っているのでしょうか?

 面白い、実に面白いお方ですね。私は、やはりあなたが好きですわ」


「いきなり……何を……」



 なぜだ。どうして言葉がはっきりと出せない? 次第に過呼吸近くになってくる。いや自分がそのように考えているからなのか? 明らかに状態異常とする症状が来ている。

 

 次第に俺は、力をなくし座りこんでしまった。

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