第二話 論駁
光? 意味がわからなかった。フローラが何を話しているのかさっぱり見当もつかなかった。
俺が光に乗ってこの世界にやってきた。これが何より不思議で仕方なかった。しかし、それを聞く間もなくすぐさまフローラは音のなる兵士の方へと向かって行ったのだった。
「おい、さすがに今あいつらの前に行けば危ないだろ?」
「いいのです。これがこの世界のルールなのですから」
ルール? 俺は疑問に感じることがここに来てからいくつもあり、だんだんと堪忍袋の緒が切れる目の前にまで来ていた。
そのまま民家から外に出る。俺はすかさず、彼女を追うが強制的にその場にいるように言われる。不貞腐れそうになりながら、言われるがまま民家の中で身を隠す。
玄関にある扉の小さい穴からフローラを観察するようにした。導かれるようにして、兵士の方へと向かって行く。
「おうおう。またお前が来たのか、懲りないやつだな」
その部隊では一番偉いであろう男の兵士は、フローラを見るなり呆れたような表情で言葉を発していた。もう慣れているような態度であった彼女に、何が起こるのかという緊張が俺にはあった。
もしかすれば、奴隷のような扱いをされ、死ぬまで働かされるとかじゃないのか? そう考えれれば、フローラたちの身なりや俺に対する当たりもよくわかる気がするな。
外から来た人間を招くほど裕福ではないのは見てわかるしな。
なぜか、少しずつ適応しているような感じでいる自分に呆れさえあった。驚くというよりかは、今はそれを受け入れなければいけないと思えるような状況にあるからだ。仕方ないのもあるのかもしれない。
「さて、今回はどうするか? ここ数週間にかけてお前が犠牲になり、村を守ってきていた。そろそろ女王様も飽きてきているころだと思うし、俺もうっ憤溜まっているんだわ。兵士たちも見ろ。このありさまだ。どうだ? もうわかりきっていることだろう? 別に少し汚れたっていいと思うんだ。女王様はお前のすべてを欲しいとは言っていない。見た目の美しさが欲しいと言っておられる。猛獣に襲われた言われれば、それで納得するはずだろう?」
「そうですね。私は劣等種です。あなたのような身分の人には何も言うことはしませんし、言えません。そもそも私たちは、あなたのような人に役に立つことができれば、それが幸せだと考えておりますし」
「話が早くて助かる。なら後で口裏合わせておいてくれ、両者それがいい」
「はい、わかりました」
俺はそのまま目を疑う行為を目の当たりにする。フローラは兵士との会話の後に、おもむろに服を脱ぎ始める。まさか、そこまでしなければいけないのか? なぜそうまでして、相手に尽くそうとする? いや尽くしているのか? これどういうことだ?
俺の視界には、ゆっくりと脱ぎ肩の綺麗な肌が見えるところを目の当たりにしていた。兵士は計5人くらいで構成されており、彼らの表情も次第ににこやかになってきていた。
一番偉そうな男兵士がゆっくりとフローラに触れようとした瞬間に……ッズシャ!!
何かを切りつけるような音が聞こえた。その後鈍い音が地面から響いてこちらに伝わってくるのがわかった。何が起こったのかはその場にいたものたちではわからなかったはずだ。傍から見ている視野が比較的彼らより広い俺でさえもわからないから、言うまでもない。
「何をしている。ゴミども」
その場にいた兵士たちとは違い、青年のような声とでもいうべきなのだろうか? 別の場所から聞こえて来た。それも怒り混じりであったのが、声を通してわかった。兵士たちは、首を吹き飛ばされ倒れている一番偉いであろう男の兵士を見ては、驚き尻餅をつき、震えていた。
「スー様……」
フローラの近くに上から降りてくる青年らしき人物。兵士たちは、彼をスーと呼んでいた。その前に、ちょっと待て、なぜ上から降ってきた? 何も立てる場所なかったはずなのだが……っと疑問がまた増えたのだが、それ以上に彼の兵士たちの扱いがひどすぎたこともあり、その考えはまた別の機会にすることに自然となっていた。
「ゴミが、俺の名をその穢れた口で発するな……」
ッズシャ!!
「ひぃぃいい!! 大変申し訳ございませんでした!! いかんせん、隊長も疲れていたみたいでして、考える能力が乏しかったのかもしれません」
「お前、女王様から何を言われていたのかわかるか? 無傷でとらえろと話していたはずだぞ? お前たちが何かをしたのならば、それはすべてこちらがお見通しなのは十分わかることだぞ? 死ぬか? お前?」
ッズシャ!!
今の会話の最中に兵士が二人死んだ。二人とも気が付いたら首が飛んでいた。何をして殺したのか見当もつかない。だが、何かをしたのは間違いなくわかる。あいつは人間ではない何かだと俺は考え始めた。さすがに、刀もなしに一瞬のうちに人の首を吹き飛ばせることができるのか? 嫌無理だろう。
兵士たちは、腰を抜かしているのか全くと言っていいほど微動だにしない。ただ彼が過ぎ去るのを待っているかのようだった。すごく震えていた。これが弱肉強食というのだろうか? この世界のルールなのか?
見てはいけないようなものを見ているような気がする。なんつー世界に来たんだか……
「お前、女王様が呼んでいる。美しいお前を求めている。次は髪と肌のどちらだろうな? さすがに今のこの環境の中、そこまでの美貌を持ち合わせれるのは不思議でしょうがない。そうだな。このゴミ兵士どもがお前と遊びたいそうだ。付き合ってくれるか?」
「スー様、さすがにこの状況では女王様に何と言われるかわかりません。おやめした方が……」
「なんだと? 先ほどまで、乗り気だったゴミどもが、なぜ今になって拒否をする? そもそも隊長でもないのに隊長のようなそぶりをし、お前らと一緒に来たやつには言わず、俺には言うのか? むかつくな。殺すぞ?」
「滅相もない。さすがに言いすぎました。申し訳ございません。スー様の許可が下りたので、こちらもあの劣等種の小娘から接待を受けようと思います。」
そのまま生き残っている兵士二人は、言われるがまま行為をしようとフローラに触れようとした。服を脱ぎ捨て、近づいた瞬間に一人は突然地面に倒れた。
それに驚いたもう片方の兵士は、スーがいるであろう後ろを振り返ろうとした瞬間に両足が吹き飛んだ。
「あ゛ーーーー!!!!」
その断末魔の苦しみが、辺りに響いてくる。兵士は震える以上に足のない状態で、スーの方を見上げ命乞いをし始める。だが、彼はそれを見るなり、あざ笑うかのようにして言葉を発する。
「ハハハ! 馬鹿だな。本当にバカだな。誰がお前に許可を出した? 俺はこのとてつもないくらい素晴らしい美貌の少女にいっているんだ。お前らなんて、どうでもいい。そもそも一度拒否をしたな? 俺という存在に歯向かったな?」
「いいえ! それはあやつの声で、私は何も言ってません!! スー様本当に命だけは勘弁願えませんか! 家族がいるんです! お願いです。助けてください」
「わかった。助けるさ」
「ありがとうございま……え……あ゛ーーー!!」
むごすぎるもほどがある。命乞いをした兵士の両腕を切り落とし、彼は笑っていた。フローラはそれを見るなり、口をふさぎ、しゃがみこんでいた。あたり一帯に悲鳴が聞こえる。悲鳴しか聞こえないほどだ。
これがこの世のルールなのか? いくら犯罪をしたものたちでも、それ以上の苦痛を与えるのが当たり前なのか? いいや、あいつはただ遊んでいるだけ、人をおもちゃとしか思っちゃいない。なんかよくわからない力使ってるしで、俺のいた世界とは全然違う。
彼は、怯えている兵士のノドをつぶし、自分の後ろから突然現れた複数の狼にそれを食わせ始めた。笑いながら、平らげるのを見続けていた。
「少女よ、終わったよ。堪能したかい? 素晴らしい劇ではなかったかい? ほんと女王様が言うように、人を使い遊ぶのは、心が満たされる。君もやってみないかい?」
「やりません。私はやりません」
「そうか、まあ今日の命だ。君がいなくなるのは悲しくてしょうがないのだが、女王様が言うんだ。仕方ないね。さていこうか?」
「待て!!」
俺は気が付いたら、民家の外でスーに向かって言葉を発していた。まさか超能力を使うやつに喧嘩を売っていくというなんとも馬鹿なことを自然としていたのだ。
「先ほどから、ずーっと民家にいた子か、待っていた。光の子だね?」
「その光っていうのもよくわかんねーんだけど、フローラをどうする気だ? それを先に聞きたい」
「どうするもこうするも、それはすべて女王様が決めることだ。そもそも名前を付けたのかい? 劣等種に? 馬鹿だな。君は、同じ選ばれし者同士、こちら側の人だよ? 彼女のような存在と一緒にいては困る」
「彼女は俺らと同じ人だ! そこに階級もなければ、劣等種呼ばわりする意味もない! お前は超能力が使えるまた別の人かもしれないが、同じ言葉を話せる人だ。そこに違いはない!」
「君はわかっていない。選ばれし者の意味がわかってはいない!俺たちは、光に乗り、この地に降りた者もいれば、光から力を授かったものもいる。こんなにも世の中多い人々がいる中で唯一力を授かったんだ。それを選ばれし者ではない道理がどこにある? こんな腐った世界を俺らが正さなければいけない! 魔法という力でな!!」
「魔法、それは人の命をもて遊ぶためのものではないはずだ! 平和を作るために人々がより幸せに暮らせるように力を使うべき、そうじゃないのか!?」
俺とスーは全くと言っていいほど意見が真っ向から違っていた。気が付いたら、堪忍袋の緒が外れ、相手が異常な力を持っているのにもかかわらず、死と隣り合わせであるはずの状況で、意見を発していた。少なからず、恐怖というのはあったが、言わなければいけないと考えたうえである。
スーは左手を握り、こわばった顔になっていた。真正面で見ると、美少年と言えるような顔立ちをしており、水色の髪に全身黒スーツでその場に立っていた。
さすがにいいすぎると、俺の命も危ないかもしれないな……だがどうすればいい。いや、待てよ。なぜそんなにも他人の命を簡単に捨てれるのに、意見が食い違う俺に攻撃しないんだ? まさか、やってみる価値はあるかもしれない。
俺は一つの策を思い浮かんだ。選ばれし者というのが引っ掛かったのだ。
「スーと言ったな。俺は夢乃あゆむって言う。一応自己紹介しておく、これからお前と戦うかもしれないしな?」
「き……貴様、俺と争おうと考えているのか、どう考えても分が悪いのは一目瞭然だろう?」
「お前の方がわかってねーだろ? お前は自分の力を俺に見せた。俺はお前に見せてない。これが有利不利に回るのかなんて、馬鹿でもわかるだろ? こんな広い土地で、なおかつお前のテリトリーだ。ということは俺の方がはるかに有利ではないのかな?」
「なるほど、さすがは俺と同じ選ばれし者だ。そうだな、さすがに女王様の支配区域で派手に暴れるのは、俺の方が分が悪いな。せっかく開拓し、階級を付けより良い国にしたんだ。壊されてし待っては困る。わかった。今回はお前という良い収穫ができた。それで、女王様も納得するだろう。だが、次はないぞ? 覚悟しとけ!夢乃あゆむ!!」
そう言いスーはその場から消えた。フローラは蚊帳の外状態になっていた。すぐさま俺の元に歩み寄ってきては、様子をうかがう行為をしてきた。
「平気ですか?」
「ふへえええええええええええ~~~」
俺は一瞬にして、膝を落とす。それに驚いたのか、フローラは俺に触れて体制を整えるようにしてくれた。力が抜けていくのがわかった。気を張りすぎたのが原因だろう。心配の声をかけてくるフローラに癒される俺。
そもそも、スーとの話し合いは、ただの駆け引きに過ぎなかった。俺に何か力がないこと自体俺自身がよく理解している。それでも、選ばれし者というキーワードで、すべてをかけてみたのだ。
第一にこの土地がスーたちの支配区域なんていうのも初耳だし、女王様がすべてを管理しているというようなニュアンスでとらえれる個所がいくつもあった。収穫はあったが、これから先非常にだるいことが想定されるに違いない。果てしなくだるい……
そんな俺を見るなり、首を横に落とす感じで不思議そうに見てくるフローラに平気と一言発する。あまり彼女を信用してないと言えば語弊があるが、信用してはいけないと考え始めた。今の策もどこで情報が洩れれるかがわかったもんじゃない。大嘘にはなると思うが、フローラが救えたということで俺は大満足だ。
「勇者様です」
「ん?」
「あなたは、私が思っていた救世主様です。違いありません!」
「そうかな。そうだといいな」
「はい!」
彼女の自分自身の考えを曲げてはいなかった。それくらいこの世界は腐敗し、希望がなかったと見える。だが今の彼女の笑顔は何にも耐えがたいものがあった。俺はその笑顔だけで充分だ。