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七人の魔女と一人の転生者。  作者: しじみかん。
強欲の魔女
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第二十八話 猛進

 強欲の魔女の国から帰還してきた兵士たち。

 彼らの表情はやや曇り気味ではあったが、素直に起きたこと、見てきたことを話始めた。



「魔女の城の玄関付近まで行きました。任務はその付近で終わり帰還いたしました!」


「ご苦労。それだけでも十分な成果だよ」



 コールは兵士を見つつ、持ってきた成果について褒めていた。兵士の傷は俺が受けたものより軽いものが多く、それらをレアが筆頭に回復魔法や手当をしていた。

 先ほど俺は、この子に対して、かわいらしく童顔でとってもレジスタンスには合わないようなひ弱な子として考えていたが、必死に兵士の治療をしているさまを見るなり、何やら罪悪感を抱き、撤回の意を心のうちでする。


 レアの治療や他の隊員のサポートもあってか、スムーズに帰還してきた兵士たちは治療される。ただ、先ほども言ったように、傷が浅く、軽いものが多い。中には重症なのかもしれないという医学系には全く知識がない俺がいっても仕方がないが、その重症具合も足や腕の骨が折れたくらいであり、魔女の城の玄関付近までいったというのに、そこまで深手を負ってない。


 何やら俺だけかもしれないが、違和感を抱き始めていた。そもそも周りはよくやった! と話しており、中には、今までで一番の成果で、一番負傷者が多いとちらほら聞こえてくる。

 同時に、コールから聞く魔女の話、現状の国の内部事情、第一に魔女自身の考えや行動。それらすべてを取ってみると、なぜか不思議と今までとは違った何か? これがあると感くぐってしまう。何もなければ、よいのだが、いかんせん、俺は先ほど強欲の魔女マリリンに話術をかけられた人だ。色々と疑問に思っても致し方ないのだろう。


 そう少し思いつつも、周りは笑顔で話しあっているのを見ては、ほほえましいと思い、自分自身で重く受け止めすぎているのかもしれないとそう考える。


 そして、レアとエブリンたちが率先して、負傷者、帰還者たちに対するメンタルケアが全体に行き届いており、そこを後ろでコールや穴倉に元からいた兵士たち全員がサポートをしていた。

 

 全体が忙しそうに、だが楽しそうにしている風景をこの数十分見続けていた。そうすると後ろから肩を叩かれ誰かに腕を引っ張られる。

 洞窟から抜け、人気のないところに連れていかれる。後ろ歩きだったもので、思った以上にスピードが出ず、手を痛めそうになりながらも、動きが止まり、その方向に向きを変える。

 すると、フローラと熊のぬいぐるみがそこにはいた。



「少しお話よろしいですか? あゆむさん」


「どうぞ……どうした? そんな神妙な面持ちで?」



 俺は、フローラと表情はわからないが、雰囲気だけが伝わってくる熊のぬいぐるみを見つつ、明らかに先ほどのレジスタンス内部の雰囲気とは違うものが見て取れた。彼女たちには、異変に気付いているのかもしれない。俺はそう思い、彼女たちに話そうとすると……




「あゆむさん! 大好きです! 私は、あなたと共に今まで歩んでこれたこと、何より感謝しております!」


「え……?」



 俺は度肝抜いた。唖然としすぎており、鳩が豆鉄砲でも受けたかのような顔をしていたのかもしれない。

 どういうことだか全くと言っていいほどわからない。そもそもこの強欲の魔女の城に来てから、何やら全体がおかしい、俺自身がおかしいのか、それとも周りにいる人達全員がおかしいのか? はっきりとしたことが何一つわからないが、魔法の力を普通の人よりも何十倍も高く持ち合わせているフローラたちが、そんな簡単に強欲の魔女マリリンの力に屈服するとは思えない。


 何かはあるはずだ。そうだ。何かはあるはずだ。フローラの話が終わってからでも聞いても遅くはないだろう。




「夢乃あゆむさんが、世界で一番大好きです! 愛しております。私の過去はいまだに謎に包まれたままです。それでも、そばにいてくださり、助けてくださった。魔法も何もかも力がない状態であるにも関わらず、助けてくださりました。そんな夢乃あゆむさんが大好きです! そして、今回の強欲の魔女攻略も助けてくださると信じております」



「唐突過ぎるんだ。フローラ、俺も君のことは好きだし、はっきりいって愛している……といっても過言ではないのかもしれない。だが、今いうことか? それに、俺がそうなのかもしれないが、この国に入ってからすべてがおかしくなっている気がする。今までとは違う。まったく違う物語が進んでいる。俺も予期せぬことだし、理解しようにもできない。何か知っているのか? 見えているのか?」



 俺は素直に今思ったことをそのまま語った。すると、思いもよらない答えが返ってくる。フローラは俺の言葉に首を縦に振り、頷いたのだ。何か知っている。何か見えている。俺はフローラの反応を見るや否や、確信した。彼女たちでも、話すに話せないようなほどレベルの高い何かが現時点で起きている。熊のぬいぐるみ含め、強大な魔法の力を持っている二人がいても、それが通用しないほどのことが、俺が知らない合間に起きているというのだ。


 言葉では話すことが不可能。なら何で語ればよいのだろうか? そもそも、彼女が本当に伝えたいことは何だ? 俺は、その瞬間過去の色欲の城で見た図書館を思い出す。

 曲がる思考を活用せよ。何度この言葉が脳裏にやってきたのか? それは今となっては、数える余裕さえない。だが、問題は、それを使わざる負えないものとなっているのを実感した。



 結局は過去を思い出しただけで、フローラと熊のぬいぐるみは何も言わず、レジスタンスの拠点へと戻った。不満よりも、心にモヤモヤが残っている。答えを言わない二人のせいなのか? それともまた別の何かなのか? だが、二人に怒りの感情が湧かないのも事実。今までだったら湧いていたものもなくなっている。これは、信頼ゆえのことなのかもしれないと自分自身に言い聞かせる。


 レジスタンスに戻ると、コールたちが俺らを探していた。どうやら、帰還した兵士たちの情報をまとめたいらしい。俺らもその会議に参加する。



「魔女の城玄関付近まで到達しました。結果として、相手の魔法の力は今までよりも激しく強いものばかりでした。その際に負傷したものが数多く撤退しました」


「改めてご苦労様。ありがとう、そこまで到達できたことに喜ぶべきだよ。今回も誰も死なずに進めたんだ。気分を楽にしよう」


「コールそれでは、これから先の難関突破できない可能性あり得るのよ」


「命懸けで進んだことだ。祝福するのは当然のことさ」



 エブリンは、コールの言動に違和感を抱き意見するが、コールの憎めない笑顔含め、言葉により仕方ないとして引き下がる。

 これができる男の対応か、俺は素直に感心する。それから、報告は続く。マリリン自身が表に出てくることはなく、かといって従者も出てこない。今回の敵は、厄介というよりかは、表舞台にはあまり姿を出さないような引きこもったスタイルをしているのがわかった。


 同時に国側の兵士の運用方法についても違和感を抱いた。なぜなら、運用というのをほぼしていないような動きをしていたからだ。少なからず、思考を操る魔法により、勝手に動かしていたのだろうかと考えた。

 ただ、それだとすべてがうまくいきすぎているようにも思えた。会議をし続けているうちに、違和感や疑問が浮かび上がるばかり、しかし周りはそれを普通としていることもあってか、俺自身一人で意見するのも引っ込み思案が露骨に現れ思い切って言えない。


 するとコールから提案があがる。



「みなでようやくここまで来れたんだ。他の魔女との戦いをくぐりぬけて来た夢乃あゆむとそのメンバーがいる。俺は今なら何でも突破できると思えるんだ。今まで考えた作戦に唐突で申し訳ないが、彼らを含めて攻略は可能かい?」



 いきなり何を言い出すのかと思えば、攻略作戦のメンバーに参加することだった。今までと言い、これからと言いこちらとしても、最初からそれが狙いでもある。

 すると、エブリンからも同じような答えが出てくる。



「私も賛成よ。何より強欲の魔女と並ぶほど凶悪とされていた。嫉妬の魔女を討伐したんですもの。加わらない理由がない」


「エブリンさん。でも、いくら救世主と言っても、まだどんな能力をお持ちであるかわからないですし……」


「大丈夫よ。レアは、レジスタンスに残って信用だけすればいい」


「そうですか……」



 不満そうな表情を浮かべながら、俺を見るレア。最初に抱いたエブリンとレアの印象が覆りそう。そう感じてしまう一面だった。ただ、突然救世主さまとされ、メンバーに組まれるのが納得いかないのもわかる気がした。ただ、全体がそれを無視するかのように可決される。



「あゆむくん。いいかい? 救世主、再度いうけど、救世主が欲しい。何より今僕たちは苦境に立たされている。でも、君たちがいれば、それも突破できそうな気がするんだ。頼む」


「俺も最初から魔女攻略目当てだ。力になれないかもしれないが、よろしくお願いするよ」


「助かる」



 俺とコールは熱い握手を交わす。周りにいたものたちは、全員がそれを見るなり拍手をし始めた。レア、フローラ、熊のぬいぐるみだけは、何やら違和感を抱いているのか、それに参加してはいなかった。だが、場の空気的もあってか、俺は下手に口出しすることはできなかった。

 


 それからレジスタンスは総出で準備を始める。すでに奇襲開始を決めており、夜更けに決行されることだった。もとよりの考えだったこともあってか、俺ら三人は準備と言う準備の必要がなかった。

 

 俺はその決行されるまでの時間にレアのところに赴いた。

 なぜか無性に話がしたくなったからだ。ついさっき知り合ったばかりなこともあってか、非常に緊張する。だが、話さなければいけないと心がそう訴えていた。




「レアさん……?」

 

「……?」



 俺の慣れない口調からか、レアは首を傾げつつも、少し微笑みをしてくれる。その笑顔に俺は一気に解放感に包まれる。



「先ほどは疑ってしまい申し訳ございません。見ず知らずの第三者の方、私たちの自分勝手な作戦に勝手に参加させることさせたくなかったんです」



 レアは、見た目同様中身も綺麗であることを俺は理解した。まさか、そこまで考えてくれていたことはつゆ知らず。

 この数時間の間で、とんでもない数の手の平返しをしてしまった可能性が強くある。自分自身に対して苛立ちを抱き始めた。

 それからレアは、俺を見るなり語り始める。



「救世主様。今まで欲していた存在であり、この世界には必須である存在でもあります。ようやく私たちのもとまでやってきてくれたこと感謝します。ただ、本当に依存して良いのか? どうなのか? これが疑問になりますね。決して疑っているわけではないのですが、不思議とこれでよいのかと思う気持ちがあるのです」



 同い年か年下くらいなのに、考えをしっかりと持っており、生きてて恥ずかしいと感じてくる。だが、本来は自らの力で突破したい難関なのかもしれない。俺は思っていることを吐露する。



「別にそれの考えは変わらないでいいと思う、俺自身もよくわかってないし、第一に目的は一緒だ。それだけで十分だと思うぞ! 君がどう思うであれ、俺もマリリンを討伐することを誓ってきている。共に突破するという考えで決着付けてはいけないのかい?」


「あゆむさん……」



 なんかいいこと言った気がする。そう勝手に考えた。

 その言葉が響いたのか、レアは俺を見るなり深々とお辞儀をして、基地の方へと帰っていく。




 そして、決行の時間がやってきた。忘れ物はないかの確認を再度する。レアはレジスタンスの基地にいるので、残ったものたち含め、見送りをする。

 俺らは少人数ではあるが、メンバー総勢50名といったところだ。何と今までより二倍も多いといわれた。違和感は増しているが、疑問を持ち続けても仕方ない。今は攻略に目を向けることにした。


 数時間前に襲撃にあったというのに、警備兵が異常なまでに少なかった。コールとしては多い方と話す一方俺は、内部にも多く潜んでいるだろうと考えていた。


 そして開始される。



「作戦開始!!」



「「おおーーー!!」」



 部隊が少数で別れ、最初は城門から突入する部隊。そこから5つに分かれ、正面突破するものや隠れながら進むものまでいた。

 国側の兵士は、来たことに驚いたのか、必死に抵抗をするが無残にやられてしまう。チャンスと思ったのか、一気に攻め込む。


 何も障害なく、そのまま城内に入り込んだ。俺とフローラ、クマのぬいぐるみに加えて、エブリン、コールと数名の兵士が隠れながらも突き進む、俺たち三人に関しては、一度入っていたこともあり、道自体は知っていた。目的は強欲の魔女マリリンが鎮座する女王の間。

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