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七人の魔女と一人の転生者。  作者: しじみかん。
強欲の魔女
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第二十七話 組織

 気が付けば、どこかの洞窟の中に俺はいた。兵士に連れられぼろぼろの体を介抱されつつ、この場所についていた。洞窟の壁際にもたれかけるようにして座る。

 兵士はこちらを見るなり、コミュニケーションをとっていく。



「ぼろぼろだ……」



 兵士の一言に俺は現在生きていることを実感する。強い痛み自体はない。たぶんアドレナリンがドバドバとでているせいだろう。強すぎる痛みはかえって効かないのが人間の体だ。誰かが俺にそう教えてくれたことがあった。遠い昔のお話。記憶にすらうっすらと影が残っているだけで、まったく姿を思い出すことができない。


 そんなことを考えているうちに俺は、洞窟の暗闇の奥から走ってくるものがいたのが地面の振動と音と共に知った。



「あゆむ……さん?」



 一人の少女らしき人物は俺にかけよるなり、俺の名前を知人のような口調で問いかけてくる。いくら痛いがなかろうが、体は瀕死の状態に達している。視界が徐々に薄れゆき、目の前のものがだんだんと認識できないでいた。



「あゆむさん!!」


「……!?」



 俺は何かに起こされるようにして目を見開いた。光輝く部屋の中にいては、目の前の女性らしき人物は強く抱きしめてくる。ぬくもりを感じ取れるほどにまで急接近し、内心ビビりながらも、それを確かめる。

 


「フローラか……?」


「はい……フローラです」



 俺の問いかけに答えるかのようにして抱きしめて来た少女は頷く。

 紛れもなくそれは、俺の知っているフローラの姿だった。運命のような何かを感じたが、すぐさまフローラは表情を鬼のように変え平手打ちをかましてきた。



バチン!!



「……痛い……」



 小声で漏れてしまう。しかし、その後に見えた彼女の表情は今すぐにでも泣きそうなものが見れた。俺はそこで理解する。間違いを犯してしまったのだということ。まがいなりにもただの一般人の俺が自分自身の判断だけで動いてしまった。目の前には丁度クマのぬいぐるみもいては、こちらを見るなり腕を組んでいる。こんな問題が起きていなければ、さぞかしかわいいポーズなのだと思うが、今の俺にはそれを考える余裕はなかった。


 フローラは俺を見るなりまた強く抱きしめ、涙声で囁く。



「よかった……本当によかったです……魔術による呪いもなく、五体満足でここにいるのですから……」


「大袈裟だな……」


「大袈裟にもなります!!」


「ごめん……」



 今回の一件により、俺は強欲の魔女の恐ろしさについて理解した。魔法だけではなく、話術でも人を操れてしまうこと。多少なりとも魔法を使ったかもしれないが、すべてではない。それに引っ掛かってしまったということ。反省するべき点はいくつもあるが、今それを考えてもいいのだろうか? 目の前に心配し助けてくれたものたちがいる中で、考えるのはちとまずいのかもしれない。


 そう思いつつも少しは考えたが、口にせず沈黙を貫いた。


 熊のぬいぐるみは、ひとまず流れが終わったということを察したのか、話し始める。



「まさか自力で解くとは思わなかった。やはり一筋縄ではいかないようなものだな」


「どうやら俺はきっすいのダメ人間みたいですわ」


「そうかもしれないな」



 そこから他愛ない会話に移ったはいいが、ふと辺りを見渡し見慣れない場所だということに気が付く。



「ここはどこだ……?」



 俺の言葉を待っていたといわんばかりに周りから数人が囲むようにして現れた。



「我らレジスタンス! 夢乃あゆむくん。拠点へようこそ!」


「レジスタンス……?」



 展開の早さゆえに混乱する。一体何にあっているのかまったくわからない。だが、目の前にはそれがいる。レジスタンスという若者だらけの組織。

 記憶の中では、何かの反勢力という存在だということがわかる。そう考えているとリーダーのような人物から話しかけてくる。



「俺はここのリーダー、名はコール、申し訳ないな。驚かせるつもりはなかった」


「夢乃あゆむです」


「ここは、打倒強欲の魔女を目指すべくして立ち上がり作った組織。名はクラルテ、君はうちの仲間から聞いている。城から飛び降りたんだって? すごいな」


「記憶曖昧だが、たぶんそうかもしれない」



 頭を打ち、体を打ち、だが、今体を見返すとどこにも傷がなく、骨が折れた形跡もなくなっていた。きっとフローラの力により治療してくれたのだろう。

 俺は強欲の魔女マリリンから逃げて来た。洗脳という呪縛から解放されるべく、高い場所から飛び降りた。運悪ければ死んでいる。そんな状況だったが、それでも生きた。なんとも運が良いのか悪いのかわからない。こうして今存在しているのならば、よいのかもしれない。


 打倒強欲の魔女。クラルテ、意味はわからないが、それほど脅威的な存在だということを再認識する。事実俺はまだ魔女の脅威を知らない。自らかけられた魔法でしか、相手を判断しておらず、この国での民衆の在り方も何もかもがわからないでいた。

 そんな俺を見て察したのか、コールは強欲の魔女のことについて語り始めた。


 過去にしてきたこと、そしてこれからしようとすること。俺はすべてを信用する気はなかったが、とても想像が付かないようなことばかりが語られた。


 魔女は突然現れ、私利私欲のために人々を殺していった。洗脳し、家族を殺させることまでさせていた。自らの意にそぐわないものたちは徹底して殺し、民衆の目の前で皮をはぎ、血肉を雨のように降らす行為もしていたそうだ。まるで、嫉妬の魔女レヴィアと同じことをしている。そう俺は感じた。だが、強欲の魔女はそれを超えていると思えるようなことを数多くしていた。


 子どもを持つ親を処刑にし、洗脳、兵士として作り上げることを今でもしているという。そこに慈悲はなく、相手を葬れるのならば手段は選ばない。惨たらしい争いを好んでするという。

 何と言ってもその強欲さ。手に入れられるまで追い求め、それが相手の体であっても自らのものにする。今のマリリンの体は作られたものである可能性が強いとコールは語る。


 素晴らしく意味がわからない内容に俺は絶句。改めて魔女の恐ろしさを垣間見た。現実では受け入れがたい内容。目の前で見てないが、こうして真実であろうことを話す彼らの表情を見ると、それがとても嘘では思えない。そう考えざる負えなかった。


 そして、コールはこれから魔女マリリンがしようとしてる未来について語る。

 どうやら、それは表ではすべての民に幸福なる事実を与えるというものだったが、実際の話では尊厳や思考を奪い、思い通りにすることだった。それが何を意味していることなのかは、俺にはわからない。しかし、今目の前で話している者たちの表情を見るに、そう優しいものではないのだと知る。

 

 人々の争いを根本的から解決しようとするのならば、魔女マリリンの思い描く未来を実行するのは良いのかもしれない。俺は少なからずそのように考えていた。

 レジスタンスの目的は、魔女マリリンから解放され、自由なる尊厳の国を作ると豪語していた。先を見据え、自らの思考により自由を手にしたい。そう思える者たちの表情は先ほどとは違い、光り輝いているようにも見えた。



「俺は、夢乃あゆむとその仲間たちに協力をお願いしたい。こうして魔女の城から飛び出してくるその力や勇気、これは誰にもマネができないことだ。それに、お連れのお嬢さん方は、俺らとは違った能力を持っている気がする。外の世界から来た人たちだ。簡単な人達ではないと考えている」



 レジスタンス、クラルテのリーダーであるコールはそう話した。俺らに協力を持ち掛けてきたのだ。俺は最初から、ここの魔女マリリンと対峙するためにやってきた。それがメインではある。だからこそ、共に打倒魔女攻略をすることができるのかもしれない。


 だが、怒りとは真逆の感情が少し、ほんの少しほど出てきていたのだ。彼らの話を聞けば聞くほど、嫉妬の魔女レヴィアを思い出し、この世界の状態を知っていった。だが、本当に魔女マリリンは、好きでそのようにしていたのだろうか? 同情なのか? それともまた別の何かなのか? 俺にはそれがわからない。だた、わかることは、自らの意思で俺を操ろうとしなかったこと。もちろん、俺だけ見えている世界は違く、操られていた。しかし、これが魔法によるものなのかは、怪しいところがある。そもそも魔法ではない可能性の方が高い。使われたのならば、すでにフローラたちが気付いているはず。


 彼女たちが、無理やり魔法による力で俺から呪縛を解くことは容易にできたはずだ。しかし、それをしなかった。もしかしたら、それは話術によるものであることの方が大きい。

 嫉妬の魔女レヴィアから聞いていたり、その他の過去の事例から、本来ならばすぐさま魔法を使って自らの者にすることが何より合理的である。それをしなかった。

 魔女はどうして、それをしなかったのか? どうして……?



 俺がそんなことを考えているうちに、リーダーの後ろから二名ほど女性の姿をした子が自己紹介をしてきた。一人は、セミロングの小柄の気の弱そうな子。もう一人が、黒髪で肩の位置から結んでいる気の強そうな子。両者とも美しいと思えるような顔立ちで、この世界のある意味事情について察する。



「どうも、私レアです。ひ弱な見た目ですが、強いですよ。よろしくお願いいたします」



 レアちゃんかー……

 セミロングの小柄の気の弱そうな。見た目年齢が俺より年下の女の子、悪いがどうしてもレジスタンスにいるのはふさわしそうにない口調や仕草をしていた。特にかわいらしく童顔だ。



「はじめまして、私はエブリンと申します。何かあれば言っていただければお話しますよ」



 もうひと方はエブリン。黒髪で肩の位置から結んでいるちょっと上品そうな女の子。年齢も近そうに見えるが、しっかりしているのもあってか予想すらつけることができそうにない。


 両名の自己紹介が終わり、俺から考えうるに頼れそうなのがエブリンなのかな? そう思っていた。コールは、リーダーということで、たびたびこの隠れ洞窟からはいないことがあるらしく、その時の指揮をとっているのがエブリンという。

 

 大人はすでに魔法により毒され思考停止状態にされており、ほぼ子どもたちだけの組織であった。そこまで年齢層が高そうにも見えないのも納得だ。ふけているのはちらほらいるが、いっても20前半くらいだろう。

 魔女の攻略隊が、徐々に増えていきそれなりに力も増している。俺は会うたんびにそれを実感していた。俺が会う人たちが、それなだけで別に深い意味はなく、元々あった勢力に入り込んだだけのお話でもあり、自慢できることではないのだがな。


 それでも、魔法の力は従者とは比べてはいけないレベルだが、今までとは違った心の支えがあった。



「あゆむさん! あのーですね。情報によると、世界各地を渡り歩いており、魔女たちを屈服させている存在だと聞きました! 実際どうなのですか?」



 しょっぱなからこの手の質問が飛んでくるとは思いもしなかった。俺は今まで起きた事実をコール含め、その場にいたもの全員に話していった。驚くべき反応がちらほらあった。

 中には、声も出ないような人達もいた。当然魔法がないことで、攻略していったことについても聞かれてくる。それも同じように話していく、今まで協力者として共に歩んできたものたち、今は亡き支えも話していった。自分自身でも驚くようなほど、場面がひたすら脳に鮮明によみがえってくる。

 俺は過去があるから今があると実感できるようにいつしかなっていたのかもしれない。


 弱い自分が遠き未来の存在なのかもしれない。そう考えざる負えないほどたくましくもなっていると俺自身は考え始めた。

 何より、どんなに貧しくても、どんなにつらくても仲間がいれば大したことないことも話していく。レジスタンスは、もしかしたら俺が求めていた組織なのかもしれない。

 いつしか、彼らは飲み物を取り食べ物を食べながら、明かりを灯し、夜を迎え、やがては朝になっていた。




「頭痛い……気が付けば朝か……」


「おはよう。気が付いたら寝てたな。そんなに心許してくれるとはありがとう」



 コールは、俺が起きたことを知り立ったまま挨拶をしてきていた。それから、連れられ洞窟の外にでる。昨日も理解したが、本当に何事もなかったかのように傷がすべて癒えていた。フローラの魔法の力が恐ろしく思えてくるとさえ考え始めた。

 最初から恐ろしさはあったが、それでも今の俺自身の状態を見ると、さらに恐ろしくもなる。だが、助かったことには変わりない。



「リーダー!!」



 魔女の国へと派遣されていたものたちが帰還した。彼らはボロボロな状態とは打って変わったものになっていた。多少なりとも傷があるが、軽傷レベルと思える人達しかいなかった。他は命なくなったのかもしれない? そう考えれる不可思議な点が見受けられた。気にしても仕方ないのかもしれない。奇襲攻撃だからこそ痛手も少ないのかもしれない。


 俺はそう考えた。

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