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七人の魔女と一人の転生者。  作者: しじみかん。
強欲の魔女
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第二十五話 洗脳

 ベッドと共に括り付けられていた手錠を外し、自由の身となった。魔女マリリンの怒りは、少なくともわからないわけではない。俺自身でもそのように感じているし、今までの出来事すべてにおいて能力なしでは片づけられないほどの難攻であった。これにもし魔法があれば、もっと良い解決方法が見いだせたのは事実だ。しかし、俺には一つどうしても悩んでいたことがあった。

 

 それが、魔法をもし手に入れていたら本当に今のような攻略ができたのか? といったことだ。今とは矛盾したスタイルになるかもしれないし、俺は実世界で権力やお金をもったものの末路というのを見て来た。とても醜い生き物になり果てる。これが超能力ならばなおさらそうなのではないのか?

 

 俺自身は元は持たざるものであるからこそ、それを持ってしまえば暴走するのではないのか? 今まで自室にこもりニート生活していた俺は、一つだけメリットあるいはデメリットともとれる性格があった。

 それが考えすぎることだ。それの影響により先行きが不安になり学校にもいかなくなっていった。だからなんだといわれるかもしれないが、今の俺が如実に表しているように、自信がないのもそれが理由だったりする。強欲の魔女マリリンは、今の俺に本気で怒ってくれた。今までこうしてくれたのは二人くらいかもしれない。フローラにマリリン、なんだかこっちの世界に来てから、人生観が素晴らしく変わったかもしれない。そう考え、気合を入れ魔女マリリンの元へと向かい始めた。



 扉を開けるとそこには、フローラと熊のぬいぐるみの姿があった。



「あゆむさん。怪我はないですか?」


「大丈夫」



 フローラの表情を見るなり、俺は込みあがってくる不安が解消されたかのように思えた。そして、目の前に行き魔女マリリンを呼ぶ。



「やってきたぞ、俺はここにやってきたぞ。でてきてくれ。強欲の魔女マリリン」



 階段の左側の暗闇からコツコツと何者かが歩いてくる。



「おはようございます。どうでした? 遺伝子を残すことはできましたか?」


「生憎、俺は好きな人がいる。できないな」


「……??」



 俺はフローラを見つつそう話す。フローラは何のことだかわからない様子でこちらを見つめていた。従者であろうマークは、それを聞き魔女マリリンのいる階段の上の方に顔を向け伝える。



「みたいですね。魔女さま、さすがにこれは何かの間違いかと僕は思いますが」


「マーク、私は何がいけなかったのかしら?」


「魔女様、きっとこのお方は男性が好きであったのでしょう。でなければ、魔女様になびかないはずはないかと」


「何言ってんだお前……」


「そうだろう? ここまでの美貌を持ち合わせ、国民全員が!! この世に生きるものたちすべてが!!魔女さまに好意を抱き、崇拝している。なのに、お前は違う。それは僕にもわからない。だから考えうることを話したまでだ」



 従者マークは今の発言から魔女マリリンに対して生半可な愛で接しているようなものではないと知った。

これも思考の変化による魔法の力なのかとは考えたが、いまだ魔女マリリンの思考を奪い書き換える力自体に俺自身が干渉していないせいもあってか、判断が付かない状態だった。

 ただ言えることは、従者マークはそれくらいに魔女を崇拝していたということ。彼の表情は本気だった。どれくらいものかは俺には想像が付かないものだ。


 階段のロウソクはマークの声と共に灯る。椅子に座る魔女マリリンの姿が現れる。足を組みこちらを見下ろしている。その表情は険しいものであり、どこか悲しそうなものでもあった。

 


「そうね。私の美貌を持っても彼自身は受け入れられないということね。いいでしょう。ならば、強制的に彼を手に入れるわ」



 魔女マリリンは、そういうと俺の方に手を向け魔法が発動される。



ドーン!!



 誰かが撃たれた。そんな音がする。俺は撃たれた方を見る。



「え……」



 対象はフローラだった。一瞬の出来事であり周りにいた者はただ見ることしかできなかった。それくらいに魔女マリリンの魔法は早かった。熊のぬいぐるみがすぐさまフローラを見つめる。

 なぜか俺は、立っているまま何もできず制止していた。思考が麻痺をしていた。本当にそのくらいにまで脳が考えるのを停止していた。それを見るなり魔女マリリンは、ため息をし俺に告げる。



「はぁ……夢乃あゆむくん。あなたには失望しました。残念ですわ」


「え……どういうことだ……?」


ドーン!!


「何してんだよ……お前……」



 魔女マリリンは、何かに失望したと途端に自らめがけて魔法を発動する。それにやられ、フローラと同じように撃たれたようにぐったりとしだす。それから魔女マリリンは、目を開きこちらを見直す。



「はああああ~、素敵。マーク今の私はどれくらい美しいかしら?」


「はい、見違えるほど美しいと存じ上げます。僕はあなたの奴隷となりしもべとなれることを誇れるほどに……」



 一体どうなっているんだ? 俺は、魔女マリリンの口調や姿を見て思った。先ほどとは全く違った性格に切り替わっていたのだ。二重人格と呼べるほどにまで豹変していたその口調を後目に、魔女マリリンはこちらに告げる。



「夢乃あゆむくん。君は私の実現する理想郷に力を貸しなさい。魔女二人を攻略した。それほどの能力を私のところで使うことはしない?」


「どうしたんだ? 一体先ほどとは全く違う性格になっているじゃないか!!」


「私の質問にはYES! OR はい! と答えなさないな? 私も尊厳を奪うことはしたくないの、だからいかが?」


「まってくれ! その質問に答えるよりもまず!!」



 俺は焦り始めていた。魔女マリリンの本性がどちらかがわからず、しどろもどろの状態に陥っていた。自分の思考も今整理付かない状態になり、この魔女と敵対することを拒んでいた。それを後ろから見ていた熊のぬいぐるみは、呆れたのか俺を無理やりにでも引っ張る。



「まってくれ、まだ話が」



 熊のぬいぐるみは、有無を言わさず無理やりにでもこの場を後にしようとした。魔女マリリンはそれをよく思っていないのか、表情を変え熊めがけて、魔法が発射される。



ドカーン!!



 大きな爆発音が暗闇の方から聞こえてくる。



「させません。それはさせません!!」


「あらまあ、驚きですわ。まさか私の魔法を跳ね返すほどの力があるとは」


「助かった」



 熊のぬいぐるみは、フローラに礼を言う。俺は何かに囚われながら、魔女マリリンの方に体を向け見つめ話す。



「答えてくれ!! お前は一体何がしたい? 俺の見ていた先ほどとは全く違う! 事実を話してくれ!!」



 魔女マリリンは、それを聞くなり笑顔でこちらに話す。



「あなたはわかっていないのね。この世の理想郷、私は被害生まない争いのない世界を築こうとしているの。何不自由なく、誰も不自由しない完璧な世の中を目指しているの。それが私の答えよ」


「なら! 思考を奪い操ることはしないはずだ。あなたのように人を思える人がいるのならば、そんなことはしないはずだ。しなければいけなかった。違うのか!?」


「あははは、そうね。私はしなければいけなかった。人々が救われる世の中をつくるには、私のような悪党をたてる必要がある。つまりはそういうことよ」



 熊のぬいぐるみは、俺の行動に何かを察し一言謝り殴りを入れた。



「ごめん」


ドガ!


「ぐふ……」



 目の前は徐々に暗くなる。音もだんだんと消えていった。



「は!!」



 起きたそこは、ベッドの上だった。あたりを見渡すと隣にはフローラが座っていた。何が起きたのかわからずにいたが、熊のぬいぐるみが颯爽と俺の上に飛び乗ってくる。



「お主やられていたぞ。完全にな。ここまで運ぶのは一苦労だったが、魔女マリリンは何もしてこなかった。それが何よりの証明かな」


「どういうことだ?」


「魔女マリリンは、人をたぶらかし遊び始める。お主は、手のひらの上で転がされていたということだ」


「わけがわからない」


「思考を奪い、書き換える。これが必ずしも魔法が使われるとイコールではない。これをよく考えるんだな」



 俺はそこで思った。すべてが策の上であるということ。熊のぬいぐるみは次にこう言葉を残す。



「何をされたのかわからない。だけど、今のお主には魔女マリリンを倒すことはできない」


「倒す理由がわからない。あんなに優しい人であり、自分自身を偽って全体統制をしている。そんな人を今までのように倒すなんて、俺にはできない」



 熊のぬいぐるみは呆れるように俺を見つめる。何がおかしいのかわからない。だが、きっと普通ではないことが起きているのだと、熊のぬいぐるみを見ては考えた。

魔法が使われない思考を奪う。これがはっきりと熊のぬいぐるみは話した。俺にはわからない。本当にそれがあるとするのならば、なぜ使わないのか? 俺には詳しいことが何一つわからないでいた。


 俺たちはその一日は宿で過ごし、次の日街中を散策している最中とあるものを発見する。



「何だこれ?」



 壁には紙が貼られていた。その内容を見て驚く。書かれていたものは、侵略者となるものが存在するといった情報だった。一日のうちにたくさん刷られており、紙が掲示されていた。そして何やら兵士がこちらに向かってくる。大体三人くらいだろうか、ゆっくりと歩いて来た。



「君、夢乃あゆむくんかな?」


「はい」


「魔女さまが、君と会いたいと話している。素直にこちらに来てはくれないだろうか?」



 俺は兵士の言われた通り、進もうとした矢先、フローラに手をつかまれた。その後熊のぬいぐるみは、兵士に向かって魔法を使う。



バタン


 倒れる兵士、後ろにいた二人の兵士はそれを見ても何も考えず、ただ同じ質問を繰り返す。熊のぬいぐるみは、うっすらと俺の近くでおかしいと話、フローラと共にその場を後にしようとする。兵士は、そのまま突っ立っており、こちらを見続けることしかしなかった。


 急いで、その場から離れ路地裏に入る。熊のぬいぐるみは、俺に一発ビンタする。



バチン!


「痛い。なんだよ。どうしたんだよ。二人して……」


「おかしいと思わないのか」



 熊のぬいぐるみは、昨日と同じように呆れた声で俺に話す。何が何だかわからない。するとフローラが俺の顔をつかみ、無理やり自分を見せる。



「何か見えませんか?」


「何かって……」



 戸惑う俺に対して、二人は互いを見合って何かを納得していた。さすがに蚊帳の外かんが否めないせいか、俺は二人に強く当たってしまう。



「一体何が起こっているんだ? 二人はおかしいぞ? どうして何も言わない? それでいて逃げようとする。魔女マリリンが求めているんだろ? いい機会じゃないか? 今までの目的を実行するべきだろう? あんなに理解力ある人であれば、この世界は救われるはずだ。違うのか?」



 俺の話を聞いては、二人は頭を抱える。何がおかしいのか? それがはっきりとわからない。俺からしてみれば、目の前にいる二人の行動がおかしいと思えたからだ。あの時兵士も分け隔てなく接し、追ってこないし。考えてみれば、任意だから強制力はない。普通の判断をしたまでだと思う。

 しかし、二人はそこに異常性を感じたのか、取り合ってはくれなかった。



ドドドドド、バタバタバタ、ドカーン。



 何やら街中が騒がしい。そんな音が聞こえた。一体何をしているのかと入ってきた方向とは逆の方向に進んでいく。フローラと熊のぬいぐるみは、なぜかそれを制止する。

 本当に何だかわからない。そんな感情が俺の中にはあった。



「どうして見せてくれない? 詳しく言わないと俺にはわからない。フローラ」



 フローラは、俺の話を聞き悲しげな顔をし、俺に告げる。



「あゆむさん。あなたの見えている世界と私たちが見えている世界。反転しているみたいですね。くまちゃんとのお話でわかりました。私もあなたを信じたいですが、不可能のようです。目を覚ましてください」


「何をいってるんだフローラ。おかしいのはお前らの方だろう?」


「なら、今あなたにこれを見せます。どのように映りますか?」


「どのようにって……」


 

 俺はフローラに言われ、音のする場面を見る。そこに広がるのは、和気あいあいとしている住民の姿だった。これのどこがおかしいところなのか全くわからず素直にフローラに話す。



「楽しそうにみな遊んでいるじゃないか。表情が豊かでとても明るく過ごせている。俺が目指している世界と同じだけど?」


「……」


「フローラちゃん。諦めないほうがいい。可能性はまだある」



 意味が分からん。二人の会話は、まるで俺がおかしい精神異常者のような会話を続けていた。俺はだんだんとフローラの言動にも腹が立っていく。熊のぬいぐるみはもちろんのことだ。話がかみ合わないせいか、俺は二人に告げる。



「二人がわからないのならば、俺は単身で魔女マリリンの方へと向かう。はっきりいって俺は今の二人にはついていけない」


「あゆむさん……」


「どうぞ……今の君にはそれが一番良い選択かもしれないね。安全面においても、きっと助けに行くさ」



 俺は二人の返答に耳を傾けないまま、魔女マリリンの方へと向かった。

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