第二十四話 嘘偽
俺は限界を超えようとしていた。欲に忠実に従うのならば、今ここで捨てさり身を捧げるのもよいのかもしれないとうっすらと考えていた。しかし、なぜかそれはしない。しないではなく、単純にできないのだ。
なぜだか、俺はその先にはいけそうになかった。俺がロマンチストだからなのか、はたまた勇気がないからなのか。どちらでもよいが、その先に行くという行為が思いつかなかったのもある。
いかにして耐えるか? そればかりを考えている。強欲の魔女マリリンは、それを見るなりなぜスイッチが入らないのかと思えるような表情になっていた。
「身も心も捧げないと、不思議な人間ね。でもいいわ。それだからこそここまで難攻不落を突破しやってきたのだから、そうでなくてはね。私の未来の旦那にふさわしいわ」
「……?」
未来の旦那? 俺は一瞬それが頭によぎる。そもそも、相手が淫らな行為をしてくること自体何かの理由があると考え始める。こいつは、色欲の魔女ではなく、強欲の魔女であり、強欲と言うのならば、得ていくことが何より美徳とすること。ならば、俺自身を欲しいのは好きであるからということなのか?
自らをそのようにして考えるのはいささか、恥ずかしさがあるが、もしかすればという考えがよぎる。
だが、体は正直者であり魔女はそれを付いてくる。
「ここがぬめぬめっとしておりますね。いけませんね。私がちゃんと責任を取りましょう」
「あ……ああ……」
予想も予想、予想しやすい場所。俺はボディタッチの領域を超えた何かをされ始めた。服の上だから大丈夫だということはおかしなお話であり、気が付けば下着へとされており、俺の意思とは真逆に体が反応する。諦めるということが何より幸福なのだと本気で思い始めようとした矢先
―――――――あゆ――――――さ……ん―――――――――あゆむさん!!
「は!!」
俺は何かに声をかけられた。幻聴なのかもしれないとは思ったその声だったが、フローラが必死に俺の名前を呼んでるそんな気がした。その声に圧倒され、自らの未来の嫁がフローラだと確信し、ここまで貫いてきた童貞心を好きでもないものに渡すことはしないようにと考え魔女マリリンの目の前で意外なことをしだす。
ガン!!ガン!!
「何をしてるの!? やめなさい!! ちょっと!!」
「体がおかしいんだが心は正常!ならば、体が言うこと聞くまで痛めれば自制心もたもてるっつーんだよ……へへ……」
俺は壁に思いっきり頭突きを何度もする。自らの体が言うことを効かないというのが引き金で、痛みあればいうことを効くと考えたのだ。だからこそ、俺はすぐさま自らを痛め続けた。人間の三大欲求は、それを超える何かでなければ、ぬぐえない。ならばその何かをする。
俺は快楽の最後に行きつく先は痛みと考えた。結果として今自らの頭を壁に打ち付けた。強欲の魔女マリリンは俺のその狂気ある行動を見ては、おどおどし始めしまいには、無理やり体を使ってやめさせた。
「ふぐ!!」
「だめ!! それ以上やっては、あなたの体が傷がついてしまう。それは絶対にだめ!!」
俺の顔は魔女の谷間へと押し込められる。さすがに体が持っていかれそうになったが、無理やり過去を思い出し痛みを思い出し、我に返る。そして魔女から無理やり離れる。
俺は痛みのもう一つの理由として、魔女が俺に惚れていることを確証するためでもあった。意外にも相手の反応は、思っているものと同じことで安易にこれから交渉がうまくいくのだと確信した。
「魔女さんよ。なぜ、俺を求める?」
すかさず、質問を繰り出す。魔女マリリンは困ったような顔をしつつも答える。
「あなたが好きだからです。あなたが欲しい、これは愛ある好意です。だからこそこのようにしました」
「束縛や無理強いは相手から嫌われる可能性を秘めているものだということはご存知で?」
「わかりますわ。でも、あなたの体はこれが良いと答えがでていますね?」
そう言われ俺の下半身を魔女マリリンは見つめる。身体と精神のリンクの異常性について恥ずかしく思ってくる。人間の愚かさを身をもって体験したかと思ってくる。
しかし魔女マリリンは、それ以上のことをせず、こちらに話かけてくるのだった。
「あなたはどうしてここへ?」
「どうしてと言われても、折り入ってお話があるんだけど」
俺は、淫らな恰好のまま、ここに来た理由について語り始めた。事象に関することをメインとして強欲の魔女の力を貸してくれないか? といったところまで話した。
魔女マリリンはそれを聞くなり、下を向きつつ無言になりようやく口を開いた。しかし、反応はよいものではなかった。
「駄目ね」
「どうして!? 事象は全体の魔女の力が必要ではないのか? それくらい強大な魔力が必要であるのならば、問題だって大きいはずだ。なら、危険度もそれに匹敵するレベルだと」
「それで、手助けね……」
魔女マリリンはため息をしつつ、ベッドから足を出し俺に背中を向け体勢を変える。そしておもむろに髪をあげ、下着をとる。さすがに血迷ったのかと思ったが、魔女マリリンは顔を横にしながら、俺に何やら見せてくる。
「何だこれ……」
「やっぱり何も知らないのね」
魔女マリリンの背中は、尾てい骨くらいの位置までびっしりと大きな紋章のようなものが描かれていた。先ほどまでは綺麗な肌であったが、魔法の力を発動させたと同時に浮き上がり光だした。そこに何が書かれているのかは、俺にはわからない。だが、現実世界でも入れ墨をここまですること自体、結構な度欺罔抜くレベルである。光や意味不明な文字列であるからこそ、余計に混乱する。
魔女マリリンは、俺の反応を見るなりため息をし、語り始めた。
「これはね。魔女の証でもあるのよ。私たちは呪われたの。七人いるけど、全員が呪われて魔女になった。自ら魔女に志願したものは一人を除いていないわ。自ら意思とは違った方向で恵まれてしまったのよ。もともと私たち七人の魔女は劣悪な環境での育ちが多い。千差万別ではあるけど、私もそうだった」
「何があったんだ……」
「小説などで見ると思うけど、危機状況になったら神さまが力をくれるでしょ? 簡単に言えばそれの影響で魔女になった。年も取らず、死ぬことさえできない。周りからは非難され、地獄を見せられたわ。私は何番目の魔女かは知らない。でもそれなりに魔女をしているわね」
「魔女とは一体何なんだ。魔法とは一体何なんなんだ?」
俺は思っていることをつぶやく、それに反応し魔女マリリンは自らの生い立ちを話し始めた。
「魔女を話すのならば、過去を話さなければいけないわね。私は今は美貌の持ち主でもね。もともとは貧相な育ちで日々虐げられていた。初汐を迎える前に何十人と相手をしていたわ。人間なんて言う者は、自らの欲のために人をあざ笑い道具のように扱うの。気が付いたら、私は人形のように成り代わっていた。心あらず、体だけのぼろ人形、それでも若いからと一度に何十人と相手をしていた。いよいよ使い物にならず、母体も死んだとき、一人の男にこう言われたの。ゴミは処分しろと。悲しいわね。これほど遊ばれて結果はゴミ。私はその時強く願った。殺してやると。思考、尊厳、価値すべてを私も思い通りにしてやると。人を恨み恨んだ結果、死体ゴミ処理場のところで光が降ってきては私にぶつかり、今の姿になった」
「それからお前は抹殺したと……」
「御名答、彼らはボロボロだったからそこまで見えなかったのかもしれないけど、順調に育って居ればこの姿になっていたのかもしれないわね。もちろん裸体のまま彼らの目の前にいき、すべてを奪ってみた。快感の快感、その上の快感だったわ。自らの意思をすべて奪われ、私にしてきたことを懺悔したものも現れた。でも、許しはしない。私は彼らのすべてを奪って見せたわ。そして、気が付けば背中にはこのような紋章が埋め込まれていた」
「その紋章の意味はなんだ」
「ただの魔法陣よ。今こうして魔法が使える理由にもなっている。あなたはどこまで知っているのかわかないけど、事象はそんな生半可な考えで突破できるほど簡単ではないわよ」
「そもそも何がやってくるんだ? 事象とは何だ?」
「ラスティのところにいったみたいだけど、結局事象のこと何も教えてないのね」
「あの子はわからないと話した。何か知っているのか? あんたは」
「あの子が知らないわけないじゃないの。あなたもしかしてラスティのすべてを信じるわけ?」
「どういうことだ……?」
「あの子は絶大な力を駆使し、六人の魔女すべてを過去へと葬った張本人よ?」
強欲の魔女マリリンから放たれる知られざる情報。俺は一体何がどうなっているのかまったくわからなかった。展開がまったくといっていいほど意味不明であり、俺の情報によれば暴食、強欲、嫉妬の三人が世界を牛耳るようなことを話していたと聞いたが、強欲の魔女はまた別のことを話した。
辻褄がまったくといっていいほど合わない。俺は強欲の魔女にそれを伝える。
「私と嫉妬、暴食が手を組み世界を牛耳ろうとしたのは事実よ。今もその考え。でもね。それをしなければ、ラスティがすべてを手に入れようとする。それでいいの?」
「ラスティが何をしたのか全く分からない。今俺の中でのこの情報が正しければ、ラスティの味方として俺は立つ」
「そう。色欲の魔女、放漫の魔女の両名の失踪を企て、挙句の果てに怠惰の魔女を城へと幽閉する。あの子は事象の問題を自らの力へと変え理想郷を実現しようと企んでいる」
「それは強欲の魔女のあなたのと聞いたが?」
魔女マリリンは、俺の言葉を聞き失笑する。
「あなたは恵まれているわね。そもそも事象問題とは、外来生物なるものがこの地に降り立ち私たち魔女たちを食らうことが主な理由となっている。それを最後の守護者である。あなたが鍵となり討伐する。といったプロットがあるのよ」
外来生物? 俺が最後の守護者? 何をいってるんだ? こいつは……?
「その顔だと実感わかないみたいね。無理もないわ。あなたは自分自身に鍵をかけているんだもの」
鍵……? この魔女は何かを知っている? 俺の何かを……
俺はそう思い、勢いに任せ彼女を無理やりベッドに押し倒す形になった。
「あらまあ、大体ね。どうぞ! 私はいつでも準備できているわよ」
「今はそんなことではなく、俺のことの何かを知っているのなら、話してほしい。事実を知ってる限り……」
「知識に貪欲ね。そうね。今のあなたに伝えれることがあるとするのならば、一つ……”侵略者”……これがあなたの本来ここに来た意味。先ほどは守護者と話したけど、事象の話をするのなら、これを一番最初に話した方がいいかもしれないわね」
俺は、そのまま怒り混じりで魔女マリリンの上に乗ったまま話を聞くことになった。不敵な笑みで魔女は話す。求められているのが良いのか? それともまた別の理由があるからなのか、そのままじっと動かず。
「ふふふ……あなたは私たちと同じで、神より求められて力を得てここにやってきた。私たちは光の神から、あなたは闇の神から力を得てね。私たち魔女はこの地に元からいる存在で力を授かった。対してあなたは外部からやってきたもの、つまりは転生したもの。その命は闇の神から授かったもの」
「なら、俺になぜ能力がない。なぜ選別が俺だった」
「選別は知らないわ。能力がないのは、自ら能力をしようしないからでしょう? もしかして、あなたは自分自身の能力がないと本気で思っているの?」
「俺に力があれば、もっと良い解決方法があったと思ってる。俺に魔法がないばかりに、多くの人達を犠牲にした。今これが何よりの証明だ。この世界では魔法が日常生活でも使われている。だからないものは、人を救えず、無力さだけが付きまとう。結果として自暴自棄になる。俺がここにいるのは今もわからない。これのどこが能力があると答えれるんだよ……」
「……そうね」
ドカ!!
「ぐふ!! 腹が……何するんだよ……」
俺は腹を蹴られ宙を舞う。ベッドのバネが重なり、小さい振動が伝わってくる。突然の出来事に戸惑うが、次は魔女マリリンが俺の上に乗り、両肩をつかみ、勢いよくビンタをしてきた。
バチン!!
「何が能力ないのよ!! 何が!? そこまで生きといて、そこまで進んでおいて、レヴィアも倒し、私が好きになった男であり、多くの人々を救った英雄様のどこが能力ないって? あなたは、ここまできておいて何が不満なの? いくつもの決断をしたのではないの? なら、私をコテンパンに倒し屈服させなさい!! レヴィアやラスティのように私にも同じことをしてみなさい!! 今のあなたには失望したわ」
ガチャガチャ
「何してるんだ……」
「手錠を外します。これよりあなたは、私に対する侮辱罪として、この国から追放をいたします。次来たと気あなたは、更なる絶望を見せてあげます。それでは、城中心部、一番最初に来た場所まで一人できなさい」
魔女マリリンは、俺の手錠を外しこちらを一切見ず、姿を消した。
一体何がしたかったのかは、俺にはわからない。だが、あの怒り方は普通とは思えないものだった。今までにない。知り合いに怒られた感じが強くしていた。
強欲の魔女マリリンの話を思い返していくうちに、自ら討伐されたい欲求がでているのかとそう考えざる負えない内容であることを理解する。