第二十一話 出発
ガシャン
目の前で檻が閉まり、鉄の扉が何層にもわたって壁としてしまっていった。あの戦いのあとルークたちの応援がやってきた。どうやら後をつけてきていたらしい。数多くの魔獣がいたことによりある程度先に進めずにいたが、途端に魔獣が去っていくことを見てはすぐさまやってきたそうだ。
目の前には、ボロボロの嫉妬の魔女レヴィアの姿があり、ルークは驚きを隠せずにいた。一体全体何が起きたというのだろうか? 不思議に思っていたが、その場にいた俺は笑いながら勝った。と告げると安心したかのようにお疲れ様といってくれた。
その後すぐさま、情報はラスティに行き応援が駆けつけてきた。今までにないほどの軍隊が駆けつけてきたことを見ては、俺やフローラは互いに顔を見てはクスリと笑顔になった。
レヴィアは自国の地下深くに眠る鉄檻に収容され、手首にはラスティの作った魔法の使えないようにする束縛器具を首、手足に付けられ、鎖を壁に括り付けられ、何重にも身動き一つとれないほど頑丈にされていた。目も見えないようにマスクをつけられる。何をしてくるかわかったものではないからだそうだ。念の入りようが素晴らしいとさえ感じる。
ただ、当の本人はごめんなさいと終始つぶやくだけで、目は虚ろになりすべてに絶望していたと感じざる負えないレベルにまで落ち切っていた。かわいそうという同情は俺には一つも湧いてくることはなかった。
そして、月日は経ち、ラスティは俺の行動した結果に対する功績やらで勲章授与をしたいそうで式典が始まった。
「改めて、私から心よりお礼と感謝を捧げます。夢乃あゆむ。あなたは歴史になお残す勇者レベルです。魔法を持たずして、ここまで力を注ぎ、命を顧みず人々の未来のためにご活躍いたしました。何といっていいのか私にはわかりません。それは申し訳ございません。ただ、本当にありがとうございます。」
その式典で、いくつかの勲章を手に入れたが結局としてうれしいのかどうなのかといったところだ。いかんせん俺だけの力で潜り抜けたことではないというのが本当の理由であるからだ。
その後すぐさまラスティ、ルーク、フローラ、俺での四人でのこれからの会話が始まる。
本題は早い、嫉妬、色欲、憤怒の三つの国の今後、フローラについてが主な話だ。早速ラスティが口を開く。
「あなたのその力を使い嫉妬の国の再建をお願いできませんかね……?」
なぜか、弱弱しく問いかけてくるラスティ、たぶん俺の反応がすでにわかりきっているからだろう。もちろん俺の答えは……
「NOだ」
「そうですよね……」
「わかっていたんだろうに、俺にはそれを担うほどの力はない。第一に次からの目標が決まってるんだ。国の運営はできないな」
俺の次なる目標は、すでに決まっていた。嫉妬の魔女に加担していた魔女と会うことだ。あまりにも加担しすぎていたがために、嫉妬の魔女を使って自らの利益を独占しよう。そう俺は見えたのだ。第一にいくつもの戦いの中、人を遠隔で操るという行為に疑問を抱いていた。ラスティはそれを理解しており、今まで嫉妬の魔女がそのような魔法を使えるという情報がなく、そもそもそこまで念入りに感情を殺すほどのことは決してできないと話した。
それができるのならば、嫉妬の魔女の国に住まう者たちのマインドコントロールを最初からしているはずだからだ。それに恐怖心を壊すことは、どんな人間であっても不可能とされている。
目の前で人が殺される。次に自分がやられる。これを無表情、無感情は果たして可能なのか? といった点も挙げられる。
何より疑問視することは、フローラだった。記憶の削除もそれに絡んでおり、フローラでさえも操られてしまうほどの強力な力であるということ。
嫉妬の魔女の魔法は束縛はできるが、人の思考を奪うことはできない。そもそも恐怖心や不安を餌とするレヴィアが自らそれを無くすことをするとは思えないのもある。
確実に裏に協力者がいるということが考えられるのだ。遠隔で行動でき、人の管理が好きで自分が動かずに済むような魔女。
ラスティは今の空気を察し、自らその魔女について語り始めた。
「危険レベルが付けられないです。そんな方です。私としてもあまり会いたくはないお方ですね。反乱勢力である三つの魔女たちの中でも一番優しいとされるのが嫉妬の魔女です。これは一応考えておいてくださいね」
「そうなのか……」
「嫉妬の魔女がしてきたことは、私から見ても異常なものです。しかし、それでも人は人として意味を見出し行動しようとしている。自らの考え持って適切に生きる道を選んでいる。しかし、他の二名はそれを持たせようとはしません。暴食の魔女、強欲の魔女。この二名に関しては、私でも未知数です。色欲の魔女、放漫の魔女と対になるレベルと考えてくれても構わないかもしれませんね」
「そんなにか……」
「嫉妬の魔女よりも慈悲はないです。特に暴食の魔女は精神世界に閉じ込める魔法を得意とします。民に何をいっても聞き入れてはくれないはずです。彼女を神と崇め、精神的な狂いが主としてあるところです。強欲の魔女は、それを超えるものです。絶対管理社会と彼女は話しておりましたが、実際蓋を開けてみれば、思考を奪う魔法を使い、すべての意思は魔女自らで行うとしております。何と言っても、洗脳教育をしており、突撃を容赦なく推進するものです」
俺世界と何ら変わりない。そんな感じに捉えることができた。もしかしたら、それを超えるのかもしれない。ただ、これを聞くだけでも嫉妬の魔女の遊びというのがかわいく見えてくるのも、あながち間違いではないのかもしれない。それほどまでに、腐りきった内容だった。俺はそれを聞き、言葉を出せずにいた。何かを話せば、どこかで知られるのではないのか? そう感じたからだ。悪寒かもしれない。それくらいに怖いものがあったのだ。
だが、立ち向かわなければいけない。そうでなければ、この世界の終焉をもたらす事象が確実に起こる。確証はないが、ラスティがどうしても嘘をつくとは思えない。強欲に暴食、そのものたちが求める未来とは一体何なのだろうか? 俺はそれを知ることを今はしておきたかった。思考は普通ではない。はっきりとおかしいと言える。
重い空気を断ち切ろうとしたのかルークがフローラに向けて質問をする。
「フローラさま、過去に関する記憶何かありませんか? なんでもよろしいのですが、色欲の魔女だったかもしれない情報がこちらは欲しいのです」
「……」
色欲の魔女と断定をしてはいけないのかもしれないが、確実に近い何かはある。だがフローラは何も思い出せず、下を向き悲しそうな顔をしていた。空気が重い。ただただ重すぎる。先に何も進みそうにない会話に一人が突然バッサリと切り捨てたものが現れた。
「愚かな者たちめ! まったく! そんな先のわからない話をしても意味がないだろう? 結局わからないのなら、わからないでいい! 行ってみるが試すよし!」
熊のぬいぐるみだ。これも色欲の魔女だと思う。実際はわからない。わからないことだらけ。ラスティは今の熊のぬいぐるみの話に感化されたのか、俺に質問してきた。
「あの、あゆむさん。どうしてフローラさんが嫉妬の魔女の仲間ではないと思ったのです? そこが前から疑問に思ってまして、普通なら奇襲が来たとき、強力な魔法を持つ二人がいる中で、とても再戦! という考えは出てこないように思うのですが?」
「ある意味勘なのかもしれないけど、俺が地面に倒れたときフローラが一つ嘘をついたんだ。嘘をこれからつきます。そんなことを俺に濁して教えてくれた。それが決定となった。悩んだが、答えがそれだ」
「ほほ~」
俺の魔法が使えないことをそれをすでに彼女は知っていたはずだ。だからこそ、それを使ったのだと思う。どうすれば、レヴィアに悟られないように、こちらに真実を話せるか? これを考えた結果フローラはそのような言葉を発した。俺にはそう感じ取れた。横にいるフローラはそれを聞くなり、こくりっと頷く形で応答した。
「だが、泉の方ではフローラは操られていた。その時の記憶はないみたいだが、嫉妬の魔女がやられているのをただ茫然と見ていた。これを考えるとどちらの判断かはわからないが、解いたことは確かだ。それは俺にはわからん」
茫然と他の兵士と同じように一点を見ている。操られている目をしていたが、結果として術が解け、俺を救ってくれた。なぜそうなったのかは、彼女にしかわからず、質問を投げかける。
「声が聞こえ、姿が見えました。必死に戦っている救世主さまが。なので、私も必死に解いたのです。気が付けば、今ですね」
「そうだったのですね。愛のなせる業かなと今の二人みて思いましたね」
「「え……? あ!!」」
すぐさま顔真っ赤にする。なぜか二人して、自然と体が近づき、手が触れていた状態だった。それをほほえましくルークと熊も見ており、笑顔になっていた。俺らはあれから心境に大きな変化が訪れた。それが恋というのかは、過去に経験がないからわからないが、ただ一緒にいたいと本気で考えれるようになっていた。どんな過去を持つ子なのかまったくわからない。それでも、もうここまで生き抜いた仲間であり、俺から見る救世主でもあるので、下手な関係ではないと考えれることは容易だ。
「さて、これからあゆむさんより凄惨な戦いがまっています。それでもいきますか?」
「一度やったんだ。二度三度できるかもしれない。俺がやらなければ、誰がやるって感じかな」
「わかりました。なら私からこちらをお渡しします」
「これは!!」
俺は嫉妬の魔女との戦いの中で、自らのスマートフォンを犠牲にした。声を録音し、偽装工作をした便利道具だった。しかし、炎には勝てない。ボロボロに黒焦げ、どうしようもない状態になっていた。だが、ラスティの魔法により、瞬時に修復されていた。便利すぎる魔法を俺は見てしまった。同時に魔獣よけの首飾りを改良してもらい、俺自身を守ってくれるようなものまで付けてくれた。外部からの魔法を遮断できるものだが、受ける回数に制限がある。それでも俺にとっては良いものだ。
剣や鎧などを揃えると話していたが、今の俺にはかえって邪魔とさえ感じ拒否した。これからはフローラ、熊のぬいぐるみも同時についてくると話しているので、余計に必要のないものだと感じていたこともある。
必要最低限の金貨だけは持ち、出発することになった。目指すは強欲の魔女、近いのが、そこであるということが何よりの答えだ。そもそも暴食の魔女に関しては、居場所自体不明であるのも理由の一つだ。
思考を奪う魔法を得意とし、意思を魔女自らでコントロールする。俺の知っている魔法とは完全に違うような内容のもので、戸惑いが多いこの世界。
もっと色とりどりの鮮やかなものが多いと思ったが、実際はそうではないことが多い。理想と現実とでは大きく違うことは、俺が元いた世界でも起こり得ていたことだ。それでも不思議と疑問を持ってしまう。
これが人間だからということで、割り切ったほうがいいのか、追及した方がいいのか、わからない状態である。ただ、これから来ることは今までよりも何倍も非常ということだ。想像がもうできないレベルだ。
しかし、やっていかなければいけない。それが俺がこの世界に転生した理由である可能性が高いからだ。
ラスティから、馬車をもらい受け出発する。なぜか、熊のぬいぐるみが馬を操作する。どこからどこまでも一番謎多き存在だ。自ら話さないので、こちらも聞いていいのかわからない。突然消え、突然現れる。もしかしたら、この熊のぬいぐるみが事象に関する一番関係する存在だったりするのかもしれないが、それはまた別機会に考えることにしよう。
見送られながら出発する。強欲の魔女の国は相当先にある。時間を考えるのが億劫になるレベルだ。強欲な魔女と話しが都合よくとれるとは思えないが、楽しみではあるのがわかった。
俺がこの世界に来て1年が経とうとしていた。非常に濃いものであり、今までの自分との差別化ができるのではないのか? そう本気で考えれるようになっていた。
今までとは大きく違う自分。寝て借金して、ゲームして、遊びまくって、人のせいにして。自ら考えず行動せず。言い訳ばかりの毎日。それが今となってはこうだ。最初からこのようにできていれば苦労しなかったのかなと思いふけていた。
ただ、いまだに向こうの最後がわからないというのがあった。本当はわかっているのかもしれないが、それを記憶が思い出したくないのかもしれない。まあ今思い出しても仕方ない。考えることは強欲の魔女に関することのみ。なるようになればいい。そう考え進んでいった。