第二十話 決着
予想だにしなかった。ルークがこちらの仲間になり、共に戦える日が来るということが……
それに憤怒の魔女ラスティは、ためらいなくこちらに兵士を与えると話した。これからどのような争いになるのかは、まったくと言っていいほどわかってはいない。だが、確実に今までとは違い大きな争いに発展することが約束される。元いた世界では口喧嘩があり、大きくても一対一での取っ組み合いの喧嘩くらいだ。それ以上のものなどしたことがあるはずもない。
緊張や不安、恐怖さえもあったがそれでも打倒嫉妬の魔女に対抗するべくして集められた兵士約千、多すぎるとは思うが、ラスティ曰くこれでも少ないと話す。そもそもこの先はある意味では未開の地であり、魔獣が住まう発見場所が多く点在する。したがって、このくらいの人数でもラスティ曰く心配であるという。
ラスティの国から出ていく際、俺はルークと共に馬車に乗り、前方には複数の騎乗している兵士たち、後ろにも同じように並べられていた。そして何より、夜襲というのが今回キーとなるものだった。深夜に軍をなしその光景を見ると、圧巻にとられるほどの威圧を覚えた。だが、後ろからルークのサポートにより少しの安心感をもらえた。
最後にラスティはこちらを見るなり、一つ挨拶をし、いってらっしゃいと告げてくれた。今までこれほどにまで安心感を得た攻略作戦はあっただろうか? いやない! それでも俺は戦ってきた。難攻不落を潜り抜けて来た。今は前とは違う、思いきりが大事な場面であり、何と言っても下手にネガティブに考えてしまえば、確実にあの世逝きだ。俺だけではない。同じ攻略をするものたちの命もかかっている。
そもそもラスティが、ここまですぐさま準備ができたのが、どうやら前からであるらしく。魔女条約なるものが現在どれくらいの効力になっているのかわからず進行できなかった。それだけだった。運良いのか怪しいところだが、突然嫉妬の魔女レヴィアがやってきては、破壊をしてくれた。結果として、宣戦布告と受け取り、今に至る。同時に魔女条約の効力についても、少し考えることができたと話していた。
俺の予想では、嫉妬の魔女の城にいる兵士たちは日々の環境により疲弊しきっている。何と言っても従者であるスーでさえも、疲れ取れずすぐさま次の作業に取り掛かっている。ある意味ブラック企業に似た何かを感じた。だが、それよりも悲惨な光景があの国にはある。
ルークの合図とともに、いよいよ進行開始。侵攻軍は何班かに分かれ進んでいく、一気に行けば問題が発生するからだ。それもそのはずだろう。嫉妬の魔女がそう簡単に捕まることはない。俺でさえもそう考えれる。だからこそ、分かれていくことには同意できた。
ただし、嫉妬の魔女の国の城壁は、幾重にも高く、それでいて周りは霧に追われている。なので、どこから入るか? といったことやら、問題点は多くあった。
それもルークとラスティは元から考えているらしく、打開策を俺に告げた。魔法のバリアのようなもの。そう話していた。ラスティの込めた守護霹靂というわけのわからない魔法の玉をルークやそれぞれの部隊長に渡していた。守護魔法を壊すほどの威力の崩壊魔法と話していた。対人には聞くことがなく、命ないものでしか、その効力を発揮することができない。だが、破壊したその後の落石に関しては、もしかしたら人を巻き込む可能性はある。しかし、ラスティやルークはそれでも踏破すべき事柄として考えていた。
俺が思う以上に彼女たちの本気度はすさまじいものだった。俺もその力を少し得て今いる。負けてはいられない。これから事象が来るという、これ以上に凄まじく大きな問題があるゆえに、この場で下手に後ろに下がってはいけない。俺はそう感じた。七人の魔女が力を合わせなければ突破できない難攻的問題。
それが一体何なのかは、今考えても仕方がない。ただ時間がないということを発していたのならば、もしかしたら否が応でもやってくることが確定であった。証拠なんてどこにもないが、彼女がそう話すのならば、可能性が非常に高い。
何としてもそれを食い止めなければいけない。
そうこうしているうちに、前方から魔獣と名を発する兵士の声があった。すかさず、同席していたルークが討伐するべく前にでる。
「はあああ!」
ズシャ!!
目の前にいる熊よりも何倍も大きな魔獣は、ルークによって一刀両断される。後ろから見ているが、これが従者の本来の力であると同時に、魔法なんてなくてもよいのではないのか? といったことも頭に浮かんでくる。なんとも心強いこれが非常に高く、それでいて安心感がありすぎて、俺が出る間もないのかもしれないとそう感じざる負えない状況だった。
それでも、俺は進んでいく、フローラを救い、新しい目的でもある。現在のアーロン、リアムの状態を見るべくして国へと目指す。軍は再度動き出す。魔獣が来ればルークによる討伐。これが何度もあった。軽い感じで倒していくその様、従者は本当に自分だけを守れるほどしか力がないことが嘘のように感じたが、こんな世界だ。それ以上に強くなってもおかしくはないし、第一にこれが自分を守るレベルでも納得がいく。
なぜならば、魔女たちの力はそれ以上に高く、圧だけでも立っていられるかどうか? といったレベルだ。俺はそんな彼女を一度倒したことを誇ったほうがいいのかもしれない。だが、出来ない結果としてこういった争いの引き金になっていると少なからず考えているからだ。
俺のせいではないのは、十分わかってはいるが、嫉妬の魔女は俺を間違いなく目当てでやってきていた。そうでなければ、フローラも、ミュールもあの場にでなかったはずだ。
ただ一つ、なぜあいつはミュールと俺とがあっていたことを知っていたのか? これが疑問だった。今気にしても仕方がないのかもしれないが、もしかしたら、これも魔女の策略なのかもしれない。もしそうだったとしたら、より憎しみの感情は高まるだろう。考えない方が身のためだ。
進んでいくうちに、霧がだんだんと濃くなっていく、松明を付け始め紐で味方同士を繋げ始めた。心細くもあるが、必要なものでもある。ないよりかはましと言った感じだ。
そして、ついに……
「いくぞ、夢乃あゆむ」
「ああ。やってくれ」
ルークの掛け声とともに、ラスティから譲り受けた守護霹靂を使い、魔法壁を崩壊させていく、大きな音であり、確実に嫉妬の魔女は気づいたに違いない。それくらい大きなものだった。そして……
「全軍突撃せよ!!」
ルークがそう発し、こちらの部隊が一斉に攻略を開始する。あたり一帯から赤い煙筒のようなものが光って見えていた。たぶん突撃の合図なんだろう。一斉に兵士たちは、魔女の城めがけて進んでいった。
あたりにいた住民たちは、何事かと飛び起きてはこちらを見ていた。門番である兵士は抵抗しようと槍を持ち始めていたが、こちらの力に押し切られやむなく門は破られる。
門兵はすぐさま取り押さえられ縄で縛られる。丸裸の状態にされるレベルにまで身ぐるみを取られた。無駄な殺しはしないのが、ラスティの考える争いだそうだ。
俺は彼らを見るなり、前よりも劣悪な環境になっていたことに気付く、兵士の首には湿疹ができ、肌の至ところに赤い斑点ができていた。目には今にも落ちそうなほどクマができており、やせ細りこれで、門番するのかと呆れるほどにまでに衰弱と判断できる見た目に変貌していた。
ルークはそれを見るなり、どこかに怒りをぶつけていた。
「これが嫉妬の魔女のやり方か……悲惨すぎて反吐が出る」
「ルークもそう感じたか、やっぱりそうだよな」
ルークも同じ気持ちだと考えた、単純にこの状況を見れば誰もがそう感じるだろう。今まで国として保っていただけ素晴らしいと褒めるレベルだ。あたりには閑古鳥がなくレベルで、ゴーストタウン化寸前のレベルまで生活水準も下げられており、俺が与えた影響はすさまじいものだったと痛感した。
今のこの国を見ていると、今までの自分なら自暴自棄になっていたのかもしれない。ただ、いまはそう考えていても仕方ないと考え先に進む。襲撃をされているのにも関わらず、敵兵はまったく来ず、従者のスーでさえも、目の前に姿を現さないまま城へと進んでいった。
城内も閑散としており、ほぼ何もない状態と化していた。下手すればもの家の殻、それがひしひしと伝わってきている。なぜ、このような環境になっていたのか? それが不思議でしょうがないのだが、俺たち一行はそのまま進めるところまで進んでいく。
途中から俺は、ルークに話、攻略の際に約束していた子どもたちのいた場所にいきたいと話、連れていくその場で俺とルーク二人での攻略がここで開始する。残りのメンバーは、城内の探索に回す方針で進めた。
本当ならば、アーロンやリアムたちが解放し悠々と暮らしていたに違いないと思っていたが、こんなにも悲惨ならば、そう簡単な話では蹴りが付かなそうと半ば不安ながらも進んでいく。
懐かしいとさえ思う扉に階段、そこを降りていくと鉄の頑丈そうな扉が存在する。ゆっくりと開く、目の前に広がる光景は、思った通りのものだった。
「なんだ……これは……」
ルークはそうつぶやく、それもそのはずだし、俺も目をつむるレベルの光景がそこには広がっていた。子どもたちの死体がそこら中に転がり落ちていた。全体的に四肢欠損されており、原型が保てていないものまで現れる始末。何かに食い殺されたあるいは、逃げる際に一気に消却したのか? といったくらいの現場だった。
逃げる際にいらなくなったことで一気に処分という言葉を自分でいって、何かに気付く。この城に来てからの兵士の荒れ果てた姿、国自体の動きがほぼない状態の閑散とした街、城内のもの静けさ。あまりにも襲撃したことに対する反応が薄すぎたのだ。
俺はルークに告げる。
「ルーク、これもしかしたら罠かもしれない」
「どういうことだ?」
「あまりにも不自然すぎる。敵国のものが簡単に入り込める作り、どうぞ入ってくださいと言わんばかりの内情。この部屋の残骸、もしかしたら魔女は逃げたのかもしれない」
「なるほどな」
ルークが納得した途端、俺ら二人がやってきた道から思いっきり走ってくるものがいた。兵士だ。慌てたようにやってきては話す。
「ルークさん! 大変です! 城内に魔女の姿はいません! 代わりにこちらの手紙がおいてありました!」
受け取り恐る恐る読み進めていくと……
―――馬鹿ども、こちらにようこそ! すでにこの国への未練はない。私は新たなる場所へと進んでいく、キサマラのような弱者には、これないほどの高見へと私は到達する。もし私との交渉をしたくば、夢乃あゆむ一人でこさせろ。そうすれば、もう敵対することをせず国ごと渡そう。場所は、妬罪の泉―――
「何をふざけたことを抜かしているんだ。あの魔女は……」
「ルーク……」
俺も内心怒りを抱くことがあるその手紙の内容。今まであってきた中でも、ここ最近のルークの感情の出し方ははっきりいって異常だ。もともとがそうなのかもしれないが、俺からの感想を言わせれば、基本無の人であっても、怒りを抱くほどの行為を嫉妬の魔女はしてきたということを考えることができる。
できるというよりかは、目の前で見てたしな……
ルークのこれからに関することを悩んでいそうなところで俺が話す。
「ルーク、この手紙の内容に俺は乗ろうと思う。どんなことが起ころうが、俺は大丈夫だ」
「あゆむ……能力持たずして、無謀ではないのか?」
「無謀でも何でもやってみなければわからないし、第一にあの魔女が俺をすぐさま殺すとも思えない。本当なら今頃死んでいるわけだし」
「そうか……では、これを持っていくいい。ラスティさまから何かあったときに私に使ってくれと言われたものだ。大分前にもらったものなのだがな、ラスティさまにも申し訳ないが、手ぶらではこちらとしても困るからな」
「話すんなりいけて助かる」
「ここ数日のあゆむの行動を見ていたら、止めても無理だとわかったしな」
「俺をどんな目でみてるんだよ……」
「無謀にも果敢に立ち向かう戦士として見ている」
褒めているのかわからない。ただ、ルークは笑顔で俺にそう告げた。これから起こることが一体どんなことなのかは、ルーク自身が一番不安だろう。ラスティからの命令も守れなくなる恐れがあるのだから。
俺はルークから首飾りをもらった。ただの水色の石が付けられており、ただのアクセサリーのようにも見えてしまう。この世界では魔法が主としてあるのだから、もしかすると絶大な魔力が込められている可能性が高いのかもしれない。心強いと思うことができた。
ルークはこちらを見るなり、俺に一言話す。
「妬罪の泉、私には詳しくはわからない。だが、きっと恐ろしいところだろう。何かあればすぐ戻ってこい、無茶なことは絶対にするなよ……」
「大丈夫。俺は生半可でここにいるわけではない。生きて戻ってくる」
そういい、城を出て嫉妬の魔女のいる妬罪の泉を目指した。あいにく場所と意味を知っており、ルークはもしかしたら知らないような場所ということを先ほどの会話でうっすらと感じ取れた。
過去に色欲の魔女の国にある図書館で目にした場所であり、魔獣が住まうところとして嫉妬の魔女でも、あまり近づくことはないところで、非常に危険度高い場所だ。
どうして嫉妬の魔女がそこを選んだのかは今はわからず、よからぬことしか考えることができなかった。もしかしたら、俺をはめるために選択した場所なのかもしれない。そう思いつつも、そこにいくしか今は方法がなかった。もしこの状態で魔獣がやってきたら、俺は一瞬にしてあの世逝きだ。ただ、戻ることはしないし、なぜか不安や恐怖というものは自然となくなっていた。
運よくなぜか、何にも合わずして森を抜け泉の場所まで付く。ただ俺は一つおかしなことに気づく。嫉妬の魔女の城の周辺は魔獣の巣窟がそこら中にあるとされている。なのに、なぜかやってこない。俺は自然とハメられた。ということを認識したが、当たり前にわかっていた事実であり動じず、辺りを見渡す。
ガサガサ
俺が泉に来たことを想定していたのか、辺り一帯の森が騒ぎ出す。次第にうなり声が聞こえてくる。
グアアアアア!!!
魔獣だ。唾を飲み込み、辺りを見渡す。幻覚なのか、現実なのか、俺を囲むようにして魔獣の赤き瞳がこちらを向いているのがわかった。同時に後方から数十人の足音が聞こえてくる。のんきに拍手の音さえ聞こえて来た。
パチパチパチパチ
「よくここまで来たね。しかも一人みたいじゃないか」
「お前が来させたんだろ」
「そうだったかな~? 僕にはわからないな~」
現れたのは、間違いなく嫉妬の魔女だ。笑みをこぼしながら、俺を見るなり、どうしてここにいるのか? と言わんばかりの態度をとっていた。来させたのが自分だと、そう考えていないように見えた。だが、あいつも同じくここにいる。
嫉妬の魔女は俺を見るなり、口を開く。
「あの時君は壊れたのかと思った。だが、さすがだ。さすが僕を一回打ち負かしただけはある。そんな簡単にやられても困るし。いいことだ」
俺はその言葉を聞くよりも、今いるメンバーに従者スーがいないことに気づく、フローラはもちろんいる。その他は、たぶんあの国でも優秀な兵士を選んで連れてきたのだろう。全体でざっと10人ほど。とても俺が相手をすることができないレベルだ。魔法を持っている魔女でも、そこまでの人数を必要とするということは、レヴィアらしい考えがあるのだろうと推測する。もちろん良くない考えだろう。
それよりも俺はスーがいない現実を見ないふりにすることができなかった。すかさず質問する。
「スーはどうした……?」
嫉妬の魔女レヴィアに問いかける。だが、彼女はため息をし、つまらなそうな顔になる。
「そんなやつ元からいないぞ? どうした? どこか頭を打ったのかい? 君らしくはないじゃないか?」
「どこまでも腐ってるな。お前……」
憤りを感じる。そこまでして存在を抹消させたいのか? 自分と同じように進んできた従者を物として扱い、使えなくなれば処分。何にも変わってない。俺が初めて会ったときの正真正銘の嫉妬の魔女レヴィアだ。こいつに慈悲はない。すべてをただ楽しんでいるだけ。楽しめなくなれば、おのずと捨てる。俺はこいつを許せなかった。どうしても、この場で仕留めておく必要があると感じたのだ。
「話変える。どうして俺をここへと来させた」
「君が勝手に来たんじゃないか。僕は何もしていない」
「どういうことだ……?」
「本当さ? 僕は何も知らない。気が付いたら、同じ日にここに来たってわけさ。そうだ。丁度いい、君に一つ質問をしよう! 僕と共に新世界の創造主にならないか? 一度は負かされたんだ。君にはその権利を得れる人材だと思うのだが?」
「そんなやっすぽい考えで仲間になるとでも?」
「なるさ。君は確実に僕の元へと来る。そう、今ここで決断しなければ、魔獣は君へと進んでいくんだよ。うれしい回答期待しているよ? そうだな。ここの5体の兵士を僕の気分で一人ずつ殺していく。全員いなくなれば終了というわけだ」
「まて! 兵士は5体以上いるだろ。まさか……」
そう思った瞬間、レヴィアは、ともに来ていた兵士3人を瞬殺した。何も考えずただ殺したのだ。腐った根性に俺は呆れた。だが、悲しいことに今目の前にいる生きている兵士たちは、何も感じず立っていた。おかしい。そう感じたが、レヴィアは躊躇なく1人目を殺す。
「こういうことだ! そして、残り4人だ! もう猶予はないぞ? 判断をしてくれ」
この交渉にははなっから、俺には分がない。手紙に書かれていた文面からそのように読める。すでに戦いは始まっていた。仲間に入れたいことくらいは、想像がついた。だが、どのような手段でかはまったくといっていいほどわからなかった。しかし、現実は斜め上のものだ。
そうこうしているうちに、残り三人目になる。
「どうした!? これではすぐさま全員いなくなるぞ? 可哀そうに、お前の決断が遅いからだぞ?」
「く……」
レヴィアの隣にいるフローラは、無表情のまま俺を見つめる。今現状は非常にピンチだ。だが、俺が仲間になるという以外の方法が思いつかない。考えても意味がない。もはや時間の猶予がない。ここでNOと話せば、どうなるかくらいは想像がつく。だが、簡単にNOと言ってしまえば終わり。
冷や汗がじりじりと出てき始める。目の前では二人目になる瞬間を目の当たりにする。魔女は笑い、こちらを急かすように話してくる。もう猶予がない。手に汗が湧き、上を見ては考える。月のようなものがまんまるとこちらを照らしていた。綺麗と言葉をつぶやき、目の前に向く、すでに最後の一人目に取り掛かっていた。
バタン
俺は、全員を見過ごした。この世界での人の命の重さは軽い。とても軽い。俺も麻痺をし始めたのかもしれない。なぜか冷静になっていた。レヴィアは最後を殺し、俺に向かって発する。
「終わりだ。この場も終わりだ。お前は選択を見誤った。どうなろうが、知ったことではない。束縛の魔術をすべて解く、あとはお前さんたちの自由にしろ。さて、僕はその様を見物するとしよう」
パリン
何かが割れる音、それと同時にあたり一帯にいた魔獣たちはうめき声をあげながら走り、俺めがけて突っ込んできた。数は数十、非常に多い、ルークでもいけるのかと思うくらいの数が押し寄せて来た。だが、魔獣たちは、寸前のところで立ち止まる。数十メートルといったところ。俺は深く呼吸をする。レヴィアはそれを見るなり、驚いたのち、鬼の形相へと変貌する。
「どうしてだ……? お前ら早くやれ! そんなやつ刈り取ってしまえ!!」
「無駄だ。俺にはこの首飾りがある! これを付けていれば、魔獣は寄ってこない。実践済みだよ! レヴィア!!」
「キサマ!! どうして!! 僕の思い通りに事が運ばない!! お前が来てから、すべてにおいて進まない!! なら、僕の手で力づくでも、殺しやるよ!!」
ブオオオオン!!
嫉妬の魔女は魔法陣を展開し、目の前にいる俺めがけて、魔獣もろとも焼き払おうとする。炎は大きくなり、大人二人分までの高さほどになり、飲み込もうと迫ってくる。魔女レヴィアの勝ったといわんばかりの笑いの笑顔が聞こえてくる。
俺はそのまま炎に飲み込まれ、悲鳴をあげる。魔獣たちの悲鳴も踏まえて、レヴィアは一つではなく、目の前のものめがけて、何発も何発も間髪いれずに燃やし尽くした。
「ああああああああ゛ーーーー!!!」
「聞こえる! 聞こえるぞ!! これが僕の求めていた声だ! 勝った! 勝ったぞ!! 僕はあい……ぶほぁ!!」
ズザアアアア
レヴィアは突然殴られ、そのまま地面に引きずられる。
「ハァハァ、ハァハァ、お前にはまだまだ足りねーよ!!」
ドスッ!ドゴッ!ボゴッ!
「カハァ! クハァ! なんで、どうじで……!」
「うっるせー!!」
俺は怒りのまま地面に横たわっているレヴィアにまたがり、顔面をつぶれるまで殴り続けた。次第に顔面はぼこぼこに晴れ上がり、片目は真っ赤に染まり、鼻血や歯ぐきからの血が流れてきていた。それでも、俺は殴り続けた。その表情はもう、さっきまでの俺とは違うと自分自身でも考えれるほどに豹変していた。
魔法やら特殊能力が使えなければ、使うのは頭脳のみ。
俺は何かあると思い、前もって自分の悲鳴を携帯に録音していた。魔女レヴィアは人の悲鳴が大好きだ。それだけで、時間を無駄に使う。そして何より遊びやらで人をもの扱いする。そのすべての遊びは、下手くそすぎた想像力だった。それを逆手に取り、魔法陣が展開した瞬間にすでに、携帯の再生機能を使い、地面に置き、自分は泉に飛び込んだ。レヴィアが前方に注目している隙に後ろから全速力で走り、勢いのまま殴った。魔獣たちの声や自ら出している魔法の力によって、自分自身に負けたのだ。すぐさま考えたものだが、結果としてはよくできたものだと思った。
魔法陣が展開されるまでにラグがあり、その後またラグが発生する。そうなると、瞬時に来る殴りに対応することは困難だろう。ましてや、嫉妬の魔女レヴィアだ。そこまで頭が回るとは思えない。だからこそ、今ここで殴り続けて、血が出まくっている魔女の姿がある。今は本物か偽物かは、俺にはわからない。
だが、涙流し、鼻水さえも流しているレヴィアの姿を見ると、本物である可能性が非常に高いと考えれた。ただ、今の俺はそんなのお構いなしに殴り続けた。
「お前が!! お前がすべてを壊した!! お前がすべてのものたちを壊したんだよ!!」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
気が付けば、ぴくぴくと痙攣したかのように体が震え、泣きながら、ごめんなさいとしか言わないレヴィアの姿があった。俺は、それを見てもやむ気は起きなかった。今までのものたちの分含めて、殴りまくる。数十分した頃いよいよ狂ったのか首を絞め始め数秒後のこと。
「もういいです!! もう!! 終わりました!!」
「邪魔すんな!!」
何者かによって、俺は抱かれ強制的にその行為をやめさせられた。レヴィアから降り尻餅をついた。なんとも懐かしい匂いがした、気が動転してたのか無理やりにでも離そうとする。
「邪魔だろ!! こいつを! こいつは殺さなくてはいけない!! 絶対にだ!! 邪魔するならお前も殺すぞ!!」
「夢乃あゆむさん!!」
バチン!!
「え……」
俺は強制的に右方向に顔が向いた。ビンタされたのか? 今何が起きているのか全く分からず、叩かれたところに手を当てる。目の前には、フローラがいた。そしてこう話す。
「もう、大丈夫です。これで終わりです。あなたはしっかりとやってくださいました。もういいんです。それ以上やれば、レヴィアと変わりません。あなたは心優しいお方です、それ以上はしなくていいんです!!」
「でも……そいつは……」
「あゆむさん!! しっかりと現実をみてください!! あなたに救われた人は多くいます。私もそのうちの一人です!! それ以上やっても意味なんてありません!! もしするのならば、私を殺してからにしてください!!」
「フローラ……」
月のような明るい天体を背に、目の前にいるフローラは顔を赤くし、泣きそうになりながらも、それを堪えて俺に訴えた。俺は冷静さを取り戻し、今の自分自身の手を見た。そこには真っ赤に染まった両手があり、服も赤く返り血が付着していた。
目の前には、横たわって血を吐きながらも、ぶつぶつと発しているレヴィアの姿があった。体は震え、顔の原型が保たれていない。そんな状態に変貌していた。遠くからでもそう見えるほど歪んでいた。
そして、俺は自暴自棄になり始めようと自らを攻める。
「俺は一体何してんだろうな……これじゃ、あいつと何も変わんねーじゃん」
俺はそういい、悲しさのあまり涙がこぼれてくる。フローラはそれを見て、俺の涙を拭きとるようにして手を使い、その後……
「え……」
「これは私からの感謝です。あなたは救世主様です。間違ったことは何一つしておりません。私が保証します」
フローラから感謝され、キスをしてくれた。前とは違い頬ではなく、唇通しのキス。初めてというものだが、今まで一生のうちでなかった出来事だった、今はうれしいという感情よりも安心の方が上にあった。
俺は最後にフローラに向かってつぶやく。
「ありがとう」