第十五話 霊魂
俺は、城にある本を手あたり次第に読み進めていく。何か発見があるかと思う反面、何もないことも非常に多く、時間だけが刻一刻と過ぎていく。魔法に関すること、この世界に関すること、魔女に関すること様々なものを読み漁っていった。
今までここまで本を読んでいったことがないせいか、非常に目が疲れ、諦めや飽きも少なからず起きていた。心理的にはそれがあったのにもかかわらず、俺は黙々と様々な情報を脳に入れ込んでいく。
魔法が使えないことが、現時点では確定している状況なのだからこそ、このように情報を仕入れていくことしか、魔女に対抗するすべや事象解決の方法がない。何も思い浮かばない。
今この時に、携帯がインターネットに繋がっていたら、どれほどよいことだろうか。そうすれば、俺の世界の知識を流用し、この世界で無双することができたのではないのか?
そもそも日ごろからちゃんと勉学に励めば、それだけで十分だったのではないのだろうか? 過去の偉人たちは、確実に脳で解決している事柄が非常に多いと聞く、発明なんかもそうだし、戦争に関する突破口も人を一人も倒さずして、得た勝利もあると聞く、しかし、学生生活は自堕落な日々を過ごし、挙句には借金作って、親のすねかじって、結果的に親のせいにする。
何とも情けない。俺は情けなさ過ぎる。
だからこそ、今この状況では頼れる人が誰もいない。この状況では、必死になって得れる情報を得ていくことが必要だ。俺は選ばれし者であるにも関わらず、唯一魔法が使えない。それを回りに知られでもしたら、それこそ終了の宣告だ。
自らの命を守るためでもあり、俺は必死になって読み漁っていく。文字がわからなければ、すっ飛ばすこともし、なんとなくで脳内にその情報を入れていく。が、しかし、その大半はラスティの話していたことであったりと、目新しいものはほぼ得ることができずにいた。
気が付けば、夜も更け、携帯では深夜2時を指していた。城を出て、図書館に足を運び、そこから何時間と経ったのだろうか。俺は、重たい腰をあげ、城へと戻ろうとする。今日得られた収穫は非常に多いが、求めているものすべてではない。時間は待ってはくれない。だが、休息は取ることが何より大事であるということ。ゲームで教えてくれたものだ。
俺の世界では、ゲームは1時間ごとに休憩をはさむスタイルが主流とされていた。やはり、万全な状態でなければ、いくらゲームと言えど、疲労困憊になり思い通りに進めることができない。
やり残したことは非常に多くあるのだが、このくらいで今日は閉めとした。
図書館を出ると、外は人一人もいない閑散とした街並みが広がっていた。それもそのはずだろう。深夜もいいところ。城で夕飯を食べ、すぐさま図書館に来ていた。気が付いたらというと、なんだかおかしな話だが、人の集中度に関することに少々驚きを抱いていた俺に、前方から俺めがけて歩いてくるものがいた。
「ようやく、出て来たな。夜も遅い。どこまで熱心なものだ」
「ありがとう。気が付いたらこんな時間になってしまった」
ルークだった。俺に羽織るものを手渡してくる。思えば、少々肌寒い感じがしていた。相当な集中力で、気合の入れようだったのかうかがえる。ルークも半ば呆れた表情をしたあとに、迎えに来たといわんばかりに歓迎する。
そのまま城の俺は客室に連れていかれる。何も言わずして、ルークはその場を去っていった。クールなのか、単純に察しが聞くやつなのか、人見知りなのか、よくわからないやつだ。だが、安心感は非常に高く存在している。なので、別に悪いという気はしない。
テーブルにはココアセットなるものがおいてあり、作り椅子に座り飲み始める。
「なんとも悠雅過ぎること……」
なぜか、俺は外の景色を見ながら、それをたしなんでいた。今のこの状況が信じられないと思う反面、これが普通であるのかもしれないと思う気持ちも少なからずある。
今フローラたちは何をしているのだろうか? アーロン、リアムたちはどのような道に進んでいるのだろうか? 考えれば考えるほど、不安は積もっていくが、今いっても何もできやしない。
魔女条約なるものがある以上、下手にラスティやルークの力を借りることもできやしない。
やるせなさが非常に高く俺の中にはあった。同時にこれからの俺自身に対する不安も少なからず存在している。
「これからどうなるのだろうか……俺は……」
気が付けば、小声でそう話していた。すると、その声を聞いていたのか、ドアの方から返答がしてくる。
「あなたは、これから途方もない旅へと進んでいきます」
その声は、綺麗な透き通った高い声だった。女性ともいえるその声に俺は感化され、声ある方向に体を向ける。そこにいたのは、部屋が暗いせいか、あまりはっきりと見えはしなかったが、俺と何ら年齢が変わりないような見た目の少女が立っていた。
ラスティとはまた違った少女。別の魔女なのかもしれない。そもそも、この城に入ってこれるものはそうそういない。俺は目の前の少女らしき人物に話しかける。
「あなたはどちら様で?」
「私は、色欲の魔女です。あなたに折り入ってお話があり、ここに来ました」
驚いた。まさか、こちらが求めていた魔女が向こうからやってくることに。驚きすぎて、質問があまり浮かんでこなく、そのまま凝視する。
「そんな怖い顔で見るのは、NGです。行方不明になったのになぜいるのか? そのようにお考えでしょう?」
俺はただ頷くだけしかできなかった。相手を捉えることだけに集中する。一体なぜ俺の目の前に、突然現れたのか? それが聞きたいことでもあった。
色欲の魔女は、俺の考えを読んでいたのかと思わんばかりに、返答をする。
「行方不明にというのは、私をたぶらかした者たちに対する報いです。今はこのままでいなければ、いけません。不思議に思うかもしれませんが、先ほどの事象なんかも、私の魔法によるものです。お腹平気でした?」
「まさか……一体どうやって俺を見つけ、てか、あれは随分と手荒い歓迎だな。この世界の住人はみながそのような手荒い対応が好きなのか?」
「ふふふ、それは申し訳ございません。あなたが本当に選ばれし者なのかを単純に知りたかっただけです」
「それで、あの手荒い歓迎か……ひでー話だ」
「大変それは申し訳ございません。ただ、あの時あなたに魔法による幻覚を使った際、私も意図しないようなことが起こりました」
「意図しないようなこととは?」
「私にもその正体はわかりません。ただ、あなたともう一人がそのうちに眠っている。それがわかったことです」
眠っている。まさか、たびたび夢の中で出会う少女のことか?
俺はうちに眠っている誰かというのが非常に違和感を覚えた。そもそも目の前の色欲の魔女の話していること自体、あまりにも不可思議すぎる要素があるため、信じられずにいた。
ただ、この世界にやってきて、相当月日は経っている。だからこそ、言える。これは嘘ではない。真実を俺に話している。そうに違いない。そう思った俺は、目の前の少女の話す言葉に耳を傾け始める。
「もう一人は、一体なんだ?」
俺は恐る恐るその正体を知るために、色欲の魔女に問いかける。
「それがなんであるのかは、わかりません。ただ、あなたを守っているというような位置として見ることができました」
「守っている?」
「そうです。私の幻覚魔法には、ナイフに刺された後続きがありました。しかし、その瞬間力を一気に失いました。私の使う魔法を超える力によって、かき消されたのです。今は凍結中のルシファーでさえも、あんなに簡単にほどくことは不可能だと思います。なので、私はあなたに興味が湧き、ここに来ました」
「ちょっと待ってくれ、その話だと俺が二人いたことに対しては、そちらの魔法の力ではないってことか?」
「何のことだかわかりませんが、私がしてきたのはそこまでです」
あの幽体離脱のような現象は一体なんだったのだろうか? 俺のうちに眠る何かによって、そのようなシーンを見せられたのかもしれない。そう俺は勝手に考える。だが、何より不思議なのは、この世界の魔女の力を軽くあしらうようなニュアンスで消し去ったということ。それが何より、俺は信じがたいものだと理解する。
俺の力ではない何か、なのかもしれないし、俺の力そのものなのかもしれない。漫画やアニメ、ゲームでよくいう、魔法を無効化する力、破壊する力が俺に眠っていたのならば、この世界に事象解決の中心人物として、やってきた理由の説明がつく。結果として、魔法が使えない説明もつく。
少しの期待と希望が、なぜか俺の中で湧いて出てきた。ただ、情報はそこまでだった。
そうこう考えているうちに、俺は何やら目の前にいる存在に対して違和感を抱き始める。
「下半身部分が薄いんだよな……なんでだ?」
「よくご存じで。私は実体なきものです」
「実体ないって、幽霊じゃん!」
「ふふふ、私はこの城に魂として存在しているものです。魔女そのものではありますが、この城からでていくことができません。それは、強固な魔法によってです。ラスティもこのことに関してはご存知ですよ」
「だから、俺と同じような光景を見れたのか……」
「そうですね。あの子、ものすごくかわいらしい反応するので、毎回するのが趣味になっていまして」
「色欲の魔女さんって、趣味がきわどいな……」
「そうですか~? あんな小さい子が怯えて泣きわめくのは、かわいらしいかと?」
「そうですか……」
色欲の魔女の変な趣味を垣間見た感じがする。非常にどうでもよいことだが、色欲の魔女曰く、実体がなく、体の行方はわからない。単純に消え去ったと話していた。魂だけがここに点在し、どうにもこうにもというのが、今の状態だという。
助けようにも、どのようにすればいいのか全くと言っていいほど想像が付かない。相手は幽霊だろ? 霊媒師や陰陽師じゃあるまいし、そんな魂くっつけるだなんて……くっつける?
「俺の世界で、幽霊は何かに憑依することができるんだが、もしかして可能だったりする?」
「憑依とは?」
「何かに自分の魂をくっつけるといった感じだ。俺には詳しいことは何一つわからないが、試しにそこにある熊のぬいぐるみがあるからやってみてよ」
「できました!」
まあ、そんな簡単に憑依なんてできないよな~ 知ってたし。俺も簡単にいいすぎた。なんか、悪いことしたな~……え?
「でき……?」
トコトコトコトコ
「b」
「えええええええええ!!!」
憑依した熊のぬいぐるみは、自ら歩き始め俺の目の前にやってきて、グッジョブのポーズを取った。まさか、そんな簡単なことだとはつゆ知らず。
「さすがに、難易度低すぎやしませんか? なぜそれ今までわからなかったんだよ……」
「思ったことすらなかったです。そもそもこのお城にほぼ誰も来ませんし?」
「そっか……てか、熊のままで話せるんだな。しかも、さっきよりも声に魂宿っているような感じだし」
「魂ですよ? 私?」
「知ってます」
何気なく話したことで、できた熊の憑依何とかなったが、これからが問題でもある。その後に城から外にでて、国からでていくことが可能なのか? どうなのか? といったところだ。
そこができなければ、何にも解決はしてないのだから。
ただ、あまりにも今日は色々とやりすぎたせいもあってか、急激な突如眠気がやってきた。
「さすがに、あとは明日でいいか? 初対面で申し訳ないが、今日は忙しくてかなり眠いんだわ」
「色欲の魔女相手に眠いだなんて、あゆむさんは結構なやんちゃボーイですね」
「誰がやんちゃボーイだ」
俺はそのまま吸い込まれるようにして睡眠に進んだ。思っている以上に疲れていたらしく、色欲の魔女が近くにいるにも関わらず、すぐさま夢の中に入ることができた。
本当に色々とあったからなのだろう、相当体が疲れていたに違いない。今までしてこなかった勉強と言うものを今回初めてしたのだから。
なんだここは……
気が付けば、俺は銭湯らしき場所にいた。本当になぜだかわからない。夢の中というのがかすかに脳裏にある。なので、現実ではないのはすぐに理解する。だが、一般的な日本にある銭湯に突然いるのもおかしなお話だ。何かよからぬことが起こるのかもしれない。といった具合に怪しいと考えながらも突き進む。
目の前には湯舟がある。懐かしいとさえ思える環境ではあるが、あまり銭湯自体いったことがない。
だが、妙におかしい。なんだ……?
そう思うと、後ろから扉を開ける音がしてくる。
ガラガラガラ
「わあ~お~! ひっろ~い!」
俺は異変を感じすぐさま湯舟のようにつかりに行く、身を隠すようにして。
よりにもよって、女湯かよ!! おかしいだろ!! なんで俺いるんだ!?
視界が白い煙に覆われて、あまり見えないが、影や声を考えるとどう考えても、女性というのが浮かんでくるくらいにははっきりとしていた。まさかすぎる展開に俺は、色々なものが際立ってしまう。
興奮するな! 落ち着け! 俺! さすがに、これはまずい。今ここででれば、倫理観やなんかその他色々な面で、やばい状態になってしまう。
だが、そう思ったつかの間、女性たちがこちらに流れて来た。その数は数十人。俺は必死に身を隠すようにして、端に行こうとする。あまりにも奇想天外の状態が起こり、終始焦る。
難なく端の方にいったが、気が付けば俺は女性たちの間に囲まれる状態になってしまっていた。右見ても左見ても、胸が強調されており、水の中にいたが、それが苦しくなり、ついには呼吸をするためにでてしまう。
ざっぱーーん!!
「これはやばい! 呼吸が続かん!」
「「!?」」
「あ……」
女性たちは俺がいたことに、驚くまずいと思い謝りながらその場から去ろうとしたが、出口がどこにもなかった。四面楚歌の状態になっていたのだ。
もはやどうすることもできない状況に置かれていたが、周りの反応が俺の想像とは全く違った行動をとり始めた。
「夢乃あゆむくんですね?」
「キャー! あゆむさまよー!」
周りは俺を見るなり、歓声が沸き上がってきた。ここは風呂場だぞ? 見られているんだぞ? そういったことが一切彼女たちには通用せず。どんどんと押し寄せてくる。
色々とまずいが、下から抜けようにももう、無理であった。
だんだんと押し寄せていき、やがては0距離ともいえるようなところに迫っていた。俺は色々なところを触り触られ、最終的には顔だけで四方が胸に囲まれて身動きが取れない状態になっていた。
もう、これある意味幸せだ~
俺はだんだんと毒されていく。この環境で屈しない男はいない。そう思える瞬間だった。この世界に来てから、何から何までよからぬことが舞い降りてくる。
さすがの神様も俺に幸運をもたらしてくれるようになったのか……こりゃ~素晴らしい~
もはや何をされているのかもわからず、知る気もなかった。ただ快楽だけが彼を飲み込んでいた。