第十一話 救助
とりあえず、言われたように道を進んでいく俺。あたり一帯が基本的に木々に覆われている場所ばかりであるため、比較的舗装されているようなところを歩いており、道なりに進んでいるのが、今の状況である。
嫉妬の魔女との戦いを思い返しても、いまだに残る殺した。という生々しい記憶、これは手にまでもその感触が実際にあった、その時が今にあるように思えるような、そんな状態にいまなっている。ただ、これを忘れたくないと不思議と考えていた。
なぜならば、この生々しい感触がなくなれば、あの時の戦いの記憶も煙のように消えてしまうのかもしれない。記憶が消えることは何より怖いことだ。
いくら有名な人であっても、みなから忘れられればもうそれは有名人ではなくなる。それと似たような感じ。あの戦いもいつかは消えてなくなる。それが、苦しくもありうれしくもある。嫉妬の魔女との戦いがあったからこそ、今の俺がいるのも事実だ。なければ、今までのような自堕落な生活をこの世界でもしていたに違いない。そして共に歩んできた。戦ってきたものたちにも顔向けができなくなる。
俺は、一生この生々しさを忘れないと、拳を握りしめながら道なりに進んでいく。
ある程度の距離を進んだ途端何かの声が聞こえた。
「助けて!!」
助けを呼ぶ声? まさか!?
俺は、一目散に声のする方向へと進んでいく、それは森の中に入る。日差しが出ているのにも関わらず、森の中は暗闇だ。一寸先が闇に覆われている。そんな感じが非常に強くある。しかし、助けを呼ぶ声があるのにも関わらず、見逃すわけにはいかない。
嫉妬の魔女との戦いのときにも思ったことだ。見逃すことはできない。どんなことでも必ず助けだすと。
森をかき分けて見えてきたが、そこにいたのは衝撃的すぎるものであった。
「うそだろ……」
「グアアアアア!!」
目の前には、倒れて手をついては必死に後ろに下がっている少女と目の前には、熊型の猛獣がそこにはいた。じりじりと歩み寄ってくる熊型の猛獣、それに怖がってあとずさりをしている少女。
一刻の猶予もないとし、俺は少女の目の前に割って入っていった。
「ここは通さん!!」
「!?」
突然入ってきた俺に、戸惑う熊型の猛獣、しかし、雄たけびを上げ始めると同時に俺に襲い掛かってくる。獲物を取られるのだと察したのだろうか、非常に獰猛とも言えるような見た目で襲い掛かってきた。
「え、まじかよ……」
「グアアアア!!」
「キャー!!」
少女は悲鳴を上げながら、顔を覆い隠す。俺は、襲い掛かってきた熊型の猛獣に驚き、ひたすら打開策を考えた。どうするか、考えた結果、一つの解決法にたどり着く。
「とりあえず、これでもくらっとけ!!」
ピカー!!
「グアアア!!」
突然目を隠す熊型の猛獣、その後に俺行動に怯えたのか去っていった。まさかの間一髪といったところだろうか? ただ、俺がしたのは、携帯のカメラ側にあるライトモードをし、相手の目に直接当てただけのこと。もしかしたらと思いやみくもにやっただけのお話。
運が良いと今回は思ったほうがいいのかもしれないとし、内心ほっとする。体長3メートルほどあると推測される熊型の猛獣だったが、まさかのライトだけで逃げてくれるとは思いもよらなかった。
まあ、機械に関しては俺の世界と同じみたいだな。いくら別世界の動物と言えど。怖いものは怖い。
そんな様子を後ろから見ている少女は、俺を見るなりぽかーんと見つめていた。俺はすかさず、彼女を労わる。
「平気か? どこか怪我はない?」
「あ……ありがとうございます!」
美しい!! まぶしい!! そう思えるような笑顔がこちらに向けられる。これはまるで、初めて会った時のフローラ見たいだ。心を落ち着かせなくては。
この世界の女性の性格の素晴らしさに俺は、一瞬天に滅す勢いで心が躍ってしまう。まさか、この世界に来てから、何度もこういった笑顔が見れるとは思いもしなかった。
ただ、単純に俺はもしかしたら、こういった笑顔を見るために人助けをし始めたのかもしれないと考え始めた。アーロンとリアム、フローラの魔女討伐時の笑顔は素晴らしいの一言しか言えないレベルで本当に喜んでいた。それと今の少女もそうだ。ただ無邪気に笑い、助かり笑顔になる。
俺はそんな笑顔を見るためにこの世界に来たのも一つの理由であってもよいと変に神に向かって思いを話す。いないけど。
すると少女がこちらに向かって何かを話してきた。
「助けていただきありがとうございました。私はミュールと申します」
「おう! 俺は夢乃あゆむだ。本当に怪我はないか? あんな魔獣だぞ? 怪我の一つくらいあってもいい気がするけど」
「あなたのおかげで、軽傷レベルです。助かりました。あの魔獣相手にまさかこのくらいだとは……」
「やっぱ、強い魔獣なんだな。運がよかったというかなんというか」
「強いってレベルではございません! あえばあの世逝きです」
「こわ……」
「夢乃さんは、どのようにしてあの魔獣を退散に追いやったのです?」
不思議そうに、俺の対策案を聞いた来た。それもそのはずだろう。俺から見ても非常に獰猛そうな見た目をしていたし、何せ熊型ですし。
俺は、今の対策を少女に教えた。すると、途中までは納得していたが、携帯の話になると途端に鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になっていた。この世界では携帯というもの自体が、未知の領域なのだろう。知らなくても仕方ない。嫉妬の魔女の国でも、日常茶飯事だったわけだし。俺からも不思議がることはないかな。
そして、少女は俺に助けてくれたお礼をしたいと話し始めて来た。
「お礼か~サイスラスティと言う場所に行きたいんだわ。わかるかな?」
「それでよろしいのですか?」
「よろしいも何も、俺が目指すところがそこだしな」
「では、私のお家もありますし、一緒に帰りましょう!」
「まじか……」
これまたご都合主義的な感じだ。ただただ運が良いだけである。そもそも、このような森に少女一人というのがおかしなお話で、単純な迷子だとも思えない。
誰かと一緒に来て迷子になった。そう考えるのが妥当だろう。だとするのならば、迷子にした輩には一言申さなければ俺も気が済まないな!
少女が俺を連れて、近くの湖のところへと案内していく。
「こんなところあったんだな」
「ルーク!」
「ミュール!」
お! いたのか! いたのか! まじで一言言わなければすま……
俺はミュールの声がする方向に目を向ける。一言言おうとしたが、すぐさまそれが吹っ飛ぶほどの美形の男性がそこには立っていた。何ということだろうか、この世界は不細工はいないのだろうか? 少し俺は嫉妬の渦に飲み込まれそうになる。
「助けていただきありがとうございます。まことに申し訳ございません。まさか魔獣のいるところにほっぽってしまうとは、俺としたことが……」
「ルークは悪くないの! 私が悪いの! ただわがままで行動してたから……」
「別にそこまで大きなことでもないですし、平気です平気です」
なんかこの二人を見ると単純に許したくなってくる。そんなくらいに頭を下げられた。ルークはその見た目からして、どこかの貴族のようにも見えた。そもそもこの少女の側近なのだろうか? もしかしたら違うのかもしれない。
モデルのような体系、長身と共に黒い長い髪をポニーテイルのように結んでいる。顔立ちも整っており、美形でありつつもたくましさやかっこよさが兼ね備えている。
スーツにロングサイズのジャケットを着ている。といった感じ。俺はそこら辺の大学生以下のファッションセンスなんだが……そうですか! ええ! 理不尽だわ!
自分自身の中で何かにいらだった瞬間である。特に意味はないけど。
ミュールがルークに向かって何かを話していた。俺はただぼけーっと立っているだけ。するとこちらに話し始める。
「サイスラスティに向かわれると?」
「そうですね。気になることがありまして」
「気になることですか? お聞きしてよろしいですか?」
「俺、実は星になっておちてきたんっすよ! あはは」
「「ほし!?」」
俺の適当な発言に対して、ルークとミュールの二人は神妙な面持ちで考え始め、二人でまたよからぬことではないのかもしれないが話し始める。なんか、独りぼっち状態であるが、まあいいや。
そしてすぐに、ルークが考えていたであろうことを俺に話す。
「つかぬところを申しますが、まさかあなたが選ばれしものだったり?」
「またそれか……俺も事実よくわからないけど、嫉妬の魔女にはそう呼ばれていたが、何かあるん?」
「隠す気はないので、お話しますが、今あなたは非常に狙われています」
は? 突然何言いだすんだ? こいつ!?
俺は何を言っているのかわからない、すっとんきょんな目の前のイケメンに対して哀れんだ目で見始めようとする、がそれを察したのか真顔で向かってくる。
「この世界のことに関して、少しは聞いたかもしれないのでしょうが、非常にあなたという存在が大きいのです。まあ、実際は本人に会えばわかるはずです。サイス・ラスティ、このお方は、あなたを探し求めている憤怒の魔女です」
まさかの魔女かよ……突然の魔女登場といった感じだな。さすがに俺どうなるん?
心の中で嫉妬の魔女を超えるものを押し付けないでーと思うのだが、この世界のことだし半ば諦めムードにはなる。ただ、非常に俺の存在が大きいのと、探している? というのが引っ掛かるのもある。第一に夢の話ではあるが、サイス・ラスティに行けばわかるといったことを言われたから、あちらも探している可能性は比較的高いのも頷けることかもしれない。
ただ、俺は俺自身がよくわからないというのが本音である。いわれるがままに、ルークたちが乗ってきたであろう馬車に乗り、サイス・ラスティのいるであろう国へと進んでいった。
「すげ……」
「嫉妬の魔女からスタートということでしたので、この国を見ると驚くことでしょうね」
ルークが俺にそう話す。ただそれも事実なものであり、嫉妬の魔女とは違い、単純にテレビとかでよくみる海外のレンガ造りの家や建造物が所狭しと色鮮やかに組み込まれていた。街や国と表現するのが、これほどまでに分かりやすい場所も、そうそうないレベルであった。
ただ、今までがひどかっただけであり、これが普通なのだと内心納得する。そもそも街行く人々は何ら変わりなく生活しているようであり、服装や露出している肌なんかを見ていると、嫉妬の魔女のところに住んでいたものたちとは、天と地との差もあるくらいにまで、綺麗であった。
まあ、嫉妬の魔女の国と比べること自体が間違いなのかもしれない。素晴らしいと思う反面、悲しさというのも一つあった。
もし次あったら、こういった国にしておいてほしいな。アーロンとリアムには期待だな。
「ミュールお母さんにそろそろ怒られるから帰る! ありがとうルーク! そしてありがとうございます!夢乃あゆむ!」
「気を付けるんだよ」
「おう!」
ミュールはそのまま自分の家のあるだろう方向に走り去っていった。なんともかわいらしい子だった。ミュールとルークは、ただ単純にわがままに付き添っていたと馬車の中で話していた。外の風景を見てみたい、そして絵を描きたいというのが願いだった。
結果として描いた絵は大人顔負けのレベルのデッサンであった。絵の描けない俺からしたら、傑作この上ないといったレベルの出来上がり具合だ。ルークもそれを見るなり、褒めていく。
ただ不思議に思うことはいくつもあった。魔獣が住まうところに平気で二人がいたこと。話そうにもミュールのせいもあってか、話すことはできなかった。おしゃべり過ぎる幼女も考え物だ。
俺はルークに連れられ、そのままシンデレラ城のようなところへと進んでいく門番もまた恰好が非常に高貴といった感じでおり、俺もまじまじと見られる。
ルークの顔パスといった感じで隅々までは見られなかった。何やつだ? といった感じだが、辺りを見渡すだけでも、相当な情報量なため、下手に話すことはできなかった。
後ろ姿だけでも美形と思えるような見た目をしているルーク、髪にはつやがあり、凛々しいというのは間違いなのかもしれないが、背筋もちゃんと伸びており、猫背の俺とは全く違うタイプであり、あまり好きに慣れそうにないと俺も心の中で囁いていた。
城内には庭があり、噴水もある。色鮮やかな花が敷き詰められており、高貴すぎるような罰当たりな感じが非常に強くまとわりついている。
ある程度の距離を進み、門が目の前に登場する。ルークは後ろを見てはにこやかになる。
何が起こるのかわからない俺だったが、そんな考えする暇もほぼないまま扉は開かれる。
「やば……」
思わず声が漏れる。そこにいたのは、女王の椅子に座る魔女と両側には兵士の列、レッドカーペット、すげーとしか声がでない環境だった。嫉妬の魔女とは大きく異なるその風景。
そもそも魔女自体の品格がまるで別物であった。魔女はこちらを見るなり一言話す。
「お主が、選ばれしもの夢乃あゆむか……」