114:2
目の前には大型の敵。とても理性があるとは思えない。顔もいびつであり、基本パーツなるものが、あるようにはとても思えない形状をしていた。
俺は先の作戦をフローラに告げ、スタート宣言をする。すぐさま、行動は開始される。
「煙幕!」
フローラは残された力を使い、辺り一帯に煙幕を投下する。視界はたちまち暗く、相手からすればこちらの居場所をつかむことは、そう簡単にはいかないだろう。
俺たち三人は、急いで扉を開け、来た道の別の方向に向かうようにした。
ドンドン……ドンドン……
何者かが、こちらめがけて進んでいるようにも聞こえる音がする。
バンバン!! ドガーン!!
反対側では爆発音やらが聞こえる。アウラウネとの戦争はまだ終わってない。それは俺の中で一つの焦りを浮上させる。しかし、手をつなぎ先行している俺は、そんなことを少し思っていても、行動に徹してはいけない。それをすることにより、周りへの不安感を募らせる。決してしてはいけない。
移動が速いのか、ベルルが遅れを取る。
「はぁ……はぁ……」
いくら従者ロートの死を体験し、次に進もうとしても内側ではそれを飲み込めないのだろう。大切な人を失う悲しみは、俺にもわかる。ただ、何もしてやれそうにない。こればかりは、時間が解決する以外の方法がないのだ。
一旦止まり、俺はベルルの方にしゃがむ。
「あゆむん?」
「いいから、このままだと追い付かれる」
「うん……」
おんぶ。いつぶりくらいだろうか。少女の体は俺の背中にもたれる。体重がかかり、体勢を崩しそうになるも、今までの活動の成果を気合に変えて、足腰に力を入れる。
少女でも重いものは重いと感じながらも、逃げることに専念する。
ドガアアアンン!!
「っく!!」
目の前に木が壁を壊し現れる。あの化け物は、自由自在に木を操れるのだと知る。触手のように操りはするが、俺の想像しているものとは硬さが全くと言っていいほど違う。こんなのに貫かれたら一撃であの世だ。
城の内部構造は、複雑に作られており、一つの通路が封鎖されようとも別の通路に進むことが出来る。アウラウネと戦っているであろう魔女たちの戦闘音は一切聞こえなくなった。今は化け物が忍び寄る音のみ。
逃げては、目の前を封鎖され、回避しては封鎖され、これが何回も繰り返される。下には降りているはずだ。だからこそ、どこかでゴールが見える。次第に俺は焦りを抱き始める。攻略はどこにでも存在するとは言うが、これでは何も変化しない。
そして、何より、化け物は煙なんかでは騙されないっという致命的なミスを犯した。あいつらは、俺の位置を把握している。であるのならば……
「……フローラ……」
俺は意を決し、先ほどの作戦を再度確認する。答えは、悲しくも頷くフローラ。ベルルを下ろし、二人に言う。
「平気だ。二人は魔女だ。そして、俺は戦士だ」
「はい。戦士夢乃あゆむさん。私たちは必ず助けに行きます!!」
「あゆむん。絶対死なないでね」
「ああ……じゃ……!?」
俺自身が何かを言おうとした矢先。フローラに唇を奪われる。こんな時だからこそなのだろう。
「うわ~おー」
ベルルはそれを見るなり赤面する。子どもには早かったかもしれない。ただ、それに好奇心を抱いたのか服を思いっきり引っ張られる。
「っちゅ!」
「……!?」
フローラは後ろでその光景を目にし、何が起きたのかわかっていなさそうだった。
「ふん!!」
満足げにベルルはフローラを見る。不貞腐れたようにフローラは無言で腕を組んだ。俺はそんな二人を見るなり、別の修羅場を体験してしまった。
ドガアアン!!
そんなある意味幸せな時間は、この戦場には意味をなさない。むしろ危険だ。音がし、三人は現実に戻される。俺は、フローラとベルルに告げる。
「この戦いが終わったら、続きをしよう」
「終わるまでに、どちらかを選んでおいてくださいね?」
「そうじゃ!」
「わかったよ。いけ!!」
究極の選択をこの場で強いられてしまった。終わったら答えなければいけない。ただ、俺にはそれが来る保証がもうない。二人の後ろ姿を右手に拳を作り、強く握って見送る。そして、おもむろにポケットからルミナスの光を手に取る。
「あいつが、俺の居場所を知っている。なら、俺がお取りになるしかない」
一言つぶやき、自分から化け物めがけて進んでいった。