112:5
「何をした……?」
驚く大男。俺はそれを知りつつ答える。
「何もしていない」
「何もしていない? そんなはずあるわけがない。断じてない!! こっちは邪念の力だ。この世界に住まうものの力で完全に無力化できるほど弱くはない!!」
「なら、もう一度やってみろ! 俺はこの世界で得た。だからこそ言える。お前の力は俺には通用しない!!」
俺は精一杯煽った。今までは力の差によって、膝を付かされることが何度もあった。しかし、今は違う。絶対的な信頼が俺にはある。膝を付かされようと、何度転ばされようと、生きて来た道に間違いはない。だからこそ言える。俺は今この瞬間、誰よりも力を無効化することが可能だと……!!
想像をするに、後ろでは驚いている魔女たちの姿があるのだろう。だが、振り向くことはしなかった。振り向けば、今の威勢を崩しかねない。調子に乗れるときに乗っておくのが人生というものだと、俺はこの世界に来てから知った。なので、とことん今は調子に乗る。
「何がお前を守る……何がお前を強くする……アイズ!!」
悔しそうだ。何も力ないものに、天と地ほどの差があったにもかかわらず、逆転したからだろう。相手は本気でつぶしに来るだろう。俺はそう考えた。
「何が無効だ。何が守るだ!! 俺には防御貫通の魔法もある。そううまくはいかないことを教えてやろう」
バチバチバチ!!
大男の右手は稲妻が走る。その力はルミナスの光を包みこむほど大きな球体となった。
「これが防御貫通魔法だ。覚えとけ……」
ズドドドド!!
大きな音と共に稲妻と風がほとばしる。フローラであろうつかむ力はより強くなったのを感じた。それを組み俺は対象に向かって右手をゆっくりと目の前に出した。
すると……
パリン!!
ガラスの割れる音が一帯に鳴り響く。そこから見える。大男の表情は驚き以外の何物でもなかった。
「ああああ!!」
グシャッ……
どこからともなく声が聞こえる。
「何……!?」
「あなただけは、ここで葬り去る!!」
「ロート!!」
大男の後ろからロートは魔法の力を使いつつ腹を貫通させる。ドバドバと流れ落ちる血。それを見るなり、してやったりの表情をするロート。
「生きていたのか……」
大男は言う。ルミナスの光が命そのものだと思った俺も、これには安心しほっとした矢先。笑顔でロートは告げる。
「ベルル様……今まで楽しかったです……」
「何を言っている……!?」
ベルルはその言葉を察したかのようにして反応する。だが、ロートは続ける。
「無茶苦茶な指示ばかりをしてきましたが、私はそれに生きがいを感じていたかもしれません」
「ロート……だめだ!!」
俺もそれを聞き確信する。彼は身を投げるつもりだ。大男と共にここから落ちるつもりだ。俺はロートの方へと進もうとした途端、後ろから手を引かれる。
「何だ……?」
「……」
フローラだった。首を横に振る。ただ、振るだけでしかないその動作がすべてを物語っていた。力はすさまじく、びくともしなかった。
「待つんじゃ!! それ以上は!!」
ベルルがロートを助けようとした途端。
ドドドドドンン!!
目の前に檻の壁のようなものが形成され、行く手を阻まれる。どう考えてもフローラだった。地面に手を置き、魔法の力を使っていると感じた。ベルルは、そんな行動を見ては同じように理解する。檻をつかみロートを見入る。
笑顔で彼はいった。
「私はよくできた従者でしたか?」
「ああ……誰も真似ができない。最高の従者じゃった!!」
「ありがとうございます」
「先ほどから何をふざけたことを!!」
大男は力を振り絞り、彼から離れようとする。
しかし、ロートの右手は光となり砕け、黒いロープのように巻き付き始めた。
そして、そこに白い文字で「GAMEOVER」と書かれていた。
「最後にその力を夢乃あゆむに託します!! 守ってくれ!! ベルル様を!!」
「ふざけるな!!」
ドガアアアアアン!!!
左手を使い、自身の魔法を使ったのか大爆発を起こす。地面は崩れ落ちていく二人。その数秒後……
ドガアアアアアン!!
今度はさらに大きな爆発音とともに爆風が辺り一帯を包み込む。持てるすべての魔法を使ったのかもしれない。俺はそう考えざる負えなかった。
檻はなくなり、ベルルは崩れかけている崖から下を見入る。
「……」
その場で座り、言葉なく下を向いていた。フローラは立ち上がり、後ろから包み込むようにして抱く。
ベルルは感情のまま泣き始めた。
一瞬の出来事で俺も整理がつかなかった。力なくその場に座る。三人は俺の持つ力により、その攻撃は無傷で済んだ。ロートは俺のこの力を逆手に取り、即座に判断したのだろう。
自らを犠牲にしなければ、勝つ見込みは、ほぼなかったのは否定ができない。
俺ができることは、守りだけであり、攻撃は今まで通りなのだから。同時に、物理戦に持ち込まれたら確実にこの力は発動しなかっただろう。
強欲の魔女戦において、騎士より受けた力《神の加護》
俺が今の今まで忘れていた力だ。力を無効化する防御系のスキルとでもいうのだろうか。
右手には《ルミナスの光》なるものがある。これが何のものかはわからない。しかし、これが大きな力であることは容易に想像がついた。
尊い犠牲のもと、勝負に勝った。今までとは違った。また新しい展開に俺は胸が締め付けられそうになった。ある意味平和ボケしていたのかもしれない。力を持たぬもの、小さきものが殺されていた世界だと考えていたのが、力あるものも失う。本当の争いを目の当たりにした。
七魔邪念神と呼ばれる存在は、俺の今後に大きく影響するのだろう。アイズという名も含めて。
だが、戦いは終わりではない。アウラウネ。こやつとの戦いが別で起きている。
重たい腰を上げる。二人に言う。
「まだ安心はできない。アウラウネがいる」
「うん……」
ベルルも決心したのか、泣き止み、俺めがけて言う。
「ロートはあゆむんに託したのだ。下手に死んだら許さぬぞ!!」
「ああ……」
あゆむんは初めて聞いたが、ベルルの表情はこの戦いに終止符を打つ。そう感じ取れるものだった。