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「素晴らしい。だが、今の貴様に何ができる? アイズ」
大男は問う。俺に。今この状況の中できることがあるのかを。事実何もない。俺の出来うることは何一つありはしない。フローラの必死の守りを、逃げを捨ててまで、目の前の敵に一矢報いる方法や力は俺には何もない。だが、一つ俺は先ほどの攻撃によりヒントを得た。
ヒントよりかは、答えに直結するものかもしれない。ベルルとフローラは俺とロートを守ってくれた。力を使った対象者二人は、ボロボロになった。それはまだ理解できる範疇だ。
しかし、守られていた俺とロートには違いがはっきりとあった。俺よりも動き戦いを投じていたから違いがあるのかもしれない。ただ、それだけではないと感じたことがある。
俺は何を隠そう、無傷だった。フローラの魔法の力とベルルの魔法の力の差が大きいのかもしれない。だが、それだけで無傷になるとは、とてもじゃないが思えなかったのだ。それは、俺と共に守った地面は妙にえぐれていた。最初から俺がその場にいなかったかのようにして、えぐり取られていた形跡があった。しかし、俺の座る場所はそのままの状態だった。
そして、今この状況下の中一つの賭けにでることにした。
「あゆむさん……何を……」
膝を付き、両手を付いているフローラの前に俺は出る。限りなく弱っているその声を裏に聞く。何も持たないと思っていた自分自身に終止符を付ける。それは、ある種の強気でもあった。
俺は大男に向かって言い放つ。
「俺は強くない。だが、お前の攻撃を食らうほど弱くもない!! かかってこい!!」
大男はそれを聞くなり、顔に手を当て笑みをこぼす。
「ふふふ……ははは……何を言うのかと思えば、それか? 先ほどの攻撃を見ただろう? それにアイズ。貴様は何もわかってはいない。覚えていないものに何ができる?」
「ああ、俺は自分がわからない。わからなさ過ぎて反吐が出る。だが、一つだけわかる」
「何がわかる? 言ってみろ」
「お前の攻撃は一切効かないということは絶対に言える!!」
俺の言葉に大男は先ほどとは違い、表情がガラリと変わる。それは、苛立ちなのか? はたまた、制裁なのか? 俺自身にはわかり得ないことだ。
「アイズを連れていくことを考えていたが、まあ手足一つくらいなら問題ないだろう。ならば、望み通りにしてやろう。お前がいかに馬鹿なことを言い放っているのかを……!!」
「来い!!」
俺の言葉に大男は乗った。後ろを見ていなかったが、足の服を引っ張っているものがいるのがわかった。たぶんフローラだろう。共にベルルも守ると誓う。
同様にこれは、今までのはったりとは違う。嘘偽りなんかで固めた言葉ではない。俺は持っていたのだ。先ほどの戦いで、忘れていた記憶が呼び覚ましたのだ。
大男は両手に力を込める。バチバチと目に見えるほど太い稲妻が走っている。そして、言う。
「残念だが、これが真実だ」
ドガアアアアアア!!
守ったときとは違った攻撃が辺り一帯を襲う。これは攻撃だ。先ほど放った準備運動のようなものとは全く違った攻撃だ。
俺はそれを凝視する。何にも屈せず、後退せず、ただ立つだけで迫ってくる攻撃を受け止めた。
バチン!!
大きな音共にそれは完全に機能を停止した。
「何が起こった……」
大男は今の現状を理解することができず、混乱しているように見えた。
「残念だが、これが現実だ」
俺はそっくりそのまま言い返す。