第十話 決死
「そろそろ作戦の時だ……」
アーロンが言う。みなはそろって頷き荷物をそれぞれ持ち始める。
ここからが本番であり、今までの数多くの人々を苦しめた魔女レヴィア討伐作戦の開始が今始まる。
今いるアジトから魔女の寝床まで行くのには、結構な周り道をしなければいけなく、そこにはやはり兵士も数多く存在する。警備としてなのだが、あまりにも今回のパレードが大きなものであるために、手薄状態であるということを四人は読んでいた。実際のところもそのようになっており、警備兵なのに関わらず、酒に飲まれているようなものが何もいた。
そんな人たちとは相手をせず、魔女の城へと突き進む。薄暗くRPGのボス戦の城内のような雰囲気が醸し出されていた。あまり長時間居たいとは、とてもではないが言えそうにない作りや雰囲気だ。
足音を最小限にまで抑えての行動、忍びや暗殺というものは、実際こういった緊張感の中行われるものなのだと俺自身も感じるようになる。呼吸一つが死へと直結する行動を今している。兵士がいくらお酒に飲まれていようと、彼らは兵士だ。問題があれば即刻剣を片手に俺らを倒しに来ることだろいう。
アーロンとリアムの作ったとされる裏口から進み、結構な距離を歩いた。そして同時に気が付いたことが何点かあった。それは単純な兵士の数だ。あまりにも少ないと感じる警備兵たち。
アーロン曰く、パレードの際やスーとの遠征ではこういったことが日常茶飯事で起きていると話す。そもそもこの城には攻め入ってくる者がおらず、単純に怠けている状態でもあるとリアム含めていってくる。
だからこその今日という日だ。俺も質問した側ではあるが少し恥ずかしいような質問をしたと自らを恥じた。城内の兵士は千鳥足であったり、壁にもたれて寝ているものもいた。
起きるかどうかを怪しむ確認は一切せず、ただ目的地に向かうということだけをしていく俺たち四人。
「さすがは魔女の城といったところだね。僕もここまで何回もシミュレーションしたけど、いつ来ても思うことがある。ただただ長く険しい、それでいて禍々しさも感じられる。できれば一生来たくないところだね」
「俺的にもここをこのように歩いたのは初めてだが、一生来たくないな」
「同じだね。僕も君もそして二人も」
無言で頷くフローラとリアム、先頭をアーロンが行きその後ろを俺たちが付いていく感じに進んでいる。ただ今のところ目立ったことが何もなく、歩くだけといったことが続いていた。
しかし、それもつかの間……
「ったく今日のパレードも後味悪いものだな、何がいいのかわからんって」
「あ……」
突き当りを曲がろうとした矢先、一人の兵士と遭遇してしまう。兵士はこちらを見るなりすぐさま外部の人間だと察知し、剣を引き抜こうとするが……
「眠っててもらいます」
「何!?ウソ……ダロ……」ばたん
急に兵士はアーロンに向かって力なく倒れるように迫ってきた。アーロンはそれを抱え壁際に寝転がせる。兵士後ろにはリアムが存在し、片手には液体の付いた小型ナイフのようなものが握られていた。
「間一髪ありがとうリアム」
「もう少し緊張感ないと危ないよ? アーロン」
その後二人は静かにハイタッチをする。後ろでフローラと俺はボケーっと見つめる。それを見るなりリアムは説明し始める。
「このナイフには、毒薬が仕込まれていてね。触れれば一瞬のうちに睡眠状態にすることができるのよ」
「なんつーアイテムだよそれ……」
「魔獣の血だ! 少量で睡眠できる万能薬です!」
胸を張ってどや顔で俺に言うリアム、なぜかそれがかわいく見えてきた。
「魔女の城にはいくつもの薬があってね。それを調達しているって感じ」
「アーロンがすべてか?」
「リアムも一緒だよ」
この二人はもしかすれば、二人だけで攻略できたのではないのか? っと薄々と感じるが、それでもできない理由が他にあった可能性が高いと考え始めるが、思い浮かばない。
すると、服を後ろに引っ張られる感覚が襲う。後ろを振り向けば、フローラが何かに注意するようにと小声でつぶやく、静かにしていると足音と共に兵士二人ほどの会話が、こちらに迫ってくるのがわかった。
俺ら四人は、その場でしゃがみ息をひそめる。フローラだけが角の向こう側を直視できる状態だ。兵士は俺とアーロン、リアムの目の前で倒れている。隠れる場所がないのも当然なのだが、この兵士を見られると、結構危ないのかもしれない。
そこら辺に寝ている兵士がいたから、まだいいのかもしれないのだが、何より四人が隠れる場所がないのが一番危ないのかもしれない。
リアムがフローラに毒薬ナイフを渡そうとした瞬間。
「「うわぁ!!」」
フローラはそれをもらわずに、自分ひとりだけ兵士二人の前にでていく、兵士は驚いたような声を出した。それもそのはず、いきなり少女が飛び出せば驚くのも無理ない。
俺とアーロンとリアムはその場で待機をしていたが、俺だけ恐る恐るみようとする。
「何やつ!」
「少女がこんなところに脱走か!? 捕まるぞ!」
一瞬の出来事だった。俺はある意味度肝抜かれた。剣を引き抜こうとした兵士二人の目の前に手を出した途端、兵士は力なく倒れ伏せる。魔法なのか? それでも結構な力ではないのか? 不思議な感覚になるのだが、後ろからアーロンとリアムがフローラを見るなり、やったといわんばかりに兵士たちを壁際に運び始める。あまり違和感ないように置いておくが、傍から見れば違和感しかない。
だが、それでよいと話すアーロン。
俺はフローラに対して一つ疑問が浮かんだ。前もそうなのだが、彼女の魔法の力は普通ではないのかもしれない? そもそもこの世界の魔法のレベルは、魔女が世界を支配できるレベルで、従者が自分の身を守れるレベル、最後に普通の人は家事レベルならできる程度と教わっている。アジト内ではリアムが、外ではアーロンが時々魔法を使っていた。それが俺の現実世界に例えるのならば、火ならばロウソクレベルなもので、あとはものを空中に浮かすのも持って数十センチくらい、遠くの対象に攻撃を与えるなんて言うのはできないとされている。
それができるのは魔女か従者くらいなもの。フローラに対する疑問がいくつもあり、すかさず聞いてみることにした。
「フローラ、君の魔法は家事レベル超えてないか?」
「はい?」
どがああああん!!
「なんだ!?」
突然大きな音がし始める。アーロンが驚き声をあげる。他のメンバーも音の方、俺たちがやってきた方に目を向けた。何かが迫ってくるといった様子はまったく見られず。ただ言えることとしたら、この場所に長いしたらまずいということだけだった。
すかさずリアムが俺らを急かすし、魔女の部屋にまで誘導が再開する。
結局フローラの秘密について触れることができずにいた。俺の考えだと、この少女はもしかしたら……いやそんなことがあるのか? あったとしても、なぜここにいて俺らと共に攻略していっているんだ? 疑問が疑惑へと変わり、フローラに対する怪しさが少しずつ俺の中で、膨らんできていた。
あまり疑いたくはないし、俺自身の命の恩人でもある人にこういったことを考えるのは無粋だ。さすがに考えすぎだろうと思い、先を急ぐ。
今の時点で計3人の兵士を気絶という形で倒した。倒さず生かす。結果としてよかったのかもしれない。結局は彼らも罪を背負わされた人たちであり、根本的な原因ではない。だからこそ、気絶程度でよい。無差別に人を倒しては、魔女レヴィアとやっていることは同じだ。
でも正直俺自身の中でレヴィアという少女について考え始めているところもあった。どうしてあのような性格になってしまったのだろうか? どうして残虐非道な限りを尽くすようになってしまったのか? そもそも魔女というの自体誕生したのが怪しさ満点のお話ばかりだ。
突然光が降ってきては自分にかかり、そこから魔法が使えるようになった。UMAや超常現象ではあるわけではないしっといっても、俺自身が光に乗ってこの世界にやってきたから、なんとも言えないところでもある。大体魔法がある世界なので、俺の元々いた世界とは全くと言っていいほど違う。似ているようだけど違う。俺の世界にも、こういったことがあったらまた違う道進んでいたのかもしれない。
攻略中にもかかわらず、いらないことをつらつらと考え始めていた。単純に魔女レヴィアについてが大半を占めていた。
いよいよ魔女の部屋付近に到達する。正面から割って入っていくのはさすがに危ないと感じアーロンたちが言う排気口から魔女の部屋へと進入する。目の前には棚がおいてあり、その先には梯子がおいてあった。
アーロンが先手で梯子をかけ部屋内部を見渡し、完全に寝ていると思われる魔女を見て降りていく。
その後に続いていく3人。
魔女の部屋は城内とは違って、温かくゆったりとした空間だった。暖炉がありそちら側に向けるように椅子が置いてある。魔女はそこで眠っている。隣に机が置いてあり、排気口から見える魔女の顔だけでも爆睡といった感じが見て取れるほどであった。四人が魔女の近くに立つ。
光景としては非常に愉快なものなのかもしれないが、俺たちは起きれば死の状態であったために、そんなことを微塵も考えることができなかった。
魔女は着替えることもせず、片手にワイングラスを持ち、そこから紫色の水が流れ落ちていた。机には、散らばった酒類が、それは床にも広がっていた。お酒の水たまりのようなものもできており、どんな飲み方すれば、こうなるのか? っとおのずと考えたくなるほど荒い飲み方をしているのが見て取れた。
アーロンが一つのナイフを片手に持ち両手で魔女の胸元めがけようと手を前に出す。しかし、そこから微動だにしなかった。しなかったというよりかは、何もできず、ただ手が震え続けていたのがわかった。
額には汗を流し、両手がただ小刻みに震えている。そんな状態だった。
俺が考える答えとしては、きっとどうしても殺せないのがアーロンの体から見える答えだったのだろう。恐怖が増しすぎてしまえば、人を殺めることは、それすら遮ってしまうのかもしれない。
「く……ぐ……くっそ……」
アーロンから小声でそれが聞こえた気がした。俺はそれを見るなりやるせなくなり、肩を叩く。
「よくやった。お前はよくやったよ。だから、もう恐怖するな。後片付けは俺がする。穢れは他の世界から来た俺がやる。救世主の俺がやった方が恰好が付くだろ? いいところ俺にくれよアーロン」
「ごめん……ごめん……あゆむ……」
アーロンが持っていたナイフを預かる。上を見上げ涙をこぼさないようにしていた。
いよいよ魔女の討伐本命が開始する。アーロンは恐怖をしていた。非常に怖いという思いが強かったのだろう。だが、俺は思っている以上に何も感じなかった。ただ目の前のこいつを倒せるという喜びだけが込み上げていた。
両手でナイフを持ち天高く上げ、そのまま憎しみのままに彼女、嫉妬の魔女レヴィアの心臓めがけて突き刺した。ナイフは思った以上にすーっと軽い感じで入っていった。
心臓の鼓動が直接ナイフから伝わってくるのが感じとれるほどだった。こうやって生物は生きており、こうやって動いているのだろうと感じることができた。
魔女レヴィアは、口から血を吹き出す。それが俺の胸元に吹きかかる。魔女は俺を見るなり血眼状態になりながらこう発する。
「やられた……クッソが……なぜおまえらがここにいる!! どうして……!!」
魔女レヴィアは、俺の両腕を両手でつかみ爪を俺の皮膚に無理やり食い込ませるほど目一杯の力を入れた。俺からも血が流れてきたが、俺はそれを見るなり怒りが込み上げてくる。
「お前は罪のない人々を殺した。地獄で償え化け物……」
「夢乃あゆむ……お前は絶対に許さん……キサマナンカニ……」
俺は魔女レヴィアの発する言葉をすべて聞かずして、思いっきり怒り任せに心臓を貫くために力を入れる。ナイフの持ち手の部分まで思いっきり入れた後、なぜか後ろから来る何かによって俺は支配され、ナイフを引き抜いては突き刺しを繰返し始めた。次第に魔女の手からは力が抜け、だらりと力なく落ちていく。
それでも俺は怒り任せにナイフで刺していった。
フローラに制止されたころには、俺の体にはびっしりと返り血などが付着しており、服が赤に染まっていた。ナイフが自然と落ち、自分の手を見るとそこには、自分の血と魔女の血が付着しており、どっちがどっちの血なのかわからないでいた。
俺も相当深く爪でえぐられているみたいだったが、自然と痛みはなかった。それよりか、先ほど以上に喜びが込み上げていった。後ろを振り向きアーロン達を見る。
彼らは自然と笑顔になっていた。どこか史上最高の幸福が訪れているのだろうか? と思えるような表情が見て取れた。フローラは俺の右腕に手を添えて話す。
「もう大丈夫です。魔女は絶命しています。さすがです。救世主様」
これで終わった。すべてが終わりを告げたのだと安堵する。自然と力が抜けていくのが自分自身でも笑ってしまうくらいにわかった。
「これですべてが終わったのか……やっぱりこいつも人なんだな。終わり方が呆気ないものだった」
「そういうものです。そういうものなのです。終わりはいつも呆気ないものです。しかし、これが新しい未来へとつなげてくれました」
どたん!!
俺ら四人が少しの喜びをしているさなか突然ものすごい大きな扉の音が聞こえる。
「ウソダロ……」
「スーなのか……?」
そこにいたのは、ぼろぼろの状態でかろうじてスー本人とわかる姿の少年が血相を変えて立っていた。何かに落胆している顔をし、今にも泣きそうで絶望しきっている表情。
足取りおぼつかない状態であったが、魔女の方へと一歩一歩近づいて俺ら四人がいると知っているはずなのだが、魔女の顔を見た瞬間膝を付き、心ここにあらずと言う状態になっていた。
「お前がやったのか……夢乃あゆむ」
「ああ……俺がやった」
「そ……そうか……俺をどうする気だ……?」
「殺してやりたいという気はあるが、今のお前を殺す気にはとてもじゃないが……ないな」
「生かして殺すか……お前は俺やレヴィア様よりも残忍な野郎だな……」
「お前らほど残忍でもなければ、独裁でもねーよ。はっきりといってやるよ。今のお前なんて……殺す価値もねーよ」
「同情……された……俺はこいつに……あははは……ははは……俺は!俺はかわいそうな子!あははは!!レヴィア様に拾われるまで―――」
俺はフローラ、アーロン、リアムを無理やり連れていく、狂ったやつの近くにいれば俺らさえも狂い始めると思ったからだ。それに、もうスーには魔法は愚かただの兵士よりも力がないことが見てわかるくらいにまでぼろぼろだったために、時間の無駄としてその場を後にした。
次は解放の方へと突き進もうとした途端にアーロンとリアムが立ち止まる。俺らに何か話したそうにしていた。
「待ってくれ。あゆむくん、いや救世主。ここから先は僕たち自身で突破したい。君が僕たちにくれた希望の光は凄まじいものだ。ここでありがとうと言いたい」
「そうね。あゆむっちには数多くの希望の光をもらえた。明日が見えるなんて、夢みたいだと思ったよ。いつも地獄の日々を過ごしていたんだから、この解放くらい私たちがちゃちゃっとやらなければいけないよね」
「「本当にありがとうございます」」
二人して深々と俺とフローラに向かって礼をする。それを見るなり、今の俺の恰好が非常に申し訳ないと思ってしまうくらい恥ずかしいと感じる。血に染まった俺の見た目。今なら警察がここにいたら、即逮捕レベルだなと思えるほど。
時代は大事だなと言えると思った時だった。
「また会えるよね? あゆむっち今度はうちらの仲間も入れて、英雄感謝祭したいかな。感謝祭自体トラウマだけど、いつまでも昔のままを考えていては意味ないしね」
「この国が発展した暁には、君の名前を刻みたいかな。ここの英雄として解放軍の救世主として、国を変えてくれたものとして」
「まったく、フローラといいみな大袈裟なんだよ。悪い気分ではないけど、俺はできることをしたまでよ。まあ次あったらパーティー開くのはいいかもしれないな。楽しみにしている」
こうして、アーロンとリアムとの長い攻略作戦は終わりを迎えた。城から出れば、太陽が昇り始めており、非常にまぶしくそれでいて綺麗な光景が見て取れた。まさかの日の出を拝めたのだ。環境も俺らの味方をしていたのかもしれないと思うと、本当に変えてしまったのだなと考えた。
こちらに来る前の世界では、自堕落な生活をしており、ダメ人間とされていた俺が今となっては国を変え、人々を救う物語を作るとは思いもよらない。
そもそもそんなこと誰もが思えることではないはずだ。先のことがわかれば、みな揃いも揃ってよい結果に向かうべきだし、先がわからないからこそ抗うのかもしれない。
今回の戦いで俺には大切な経験をしたと我ながら思い始める。今までにない体験に、今まで味わったことのない攻略。人を殺めることをした。これと嘘をつき続けているという状態が何か悪い感じが強くするのだが、今はこうして周りが笑顔に包まれている。そんな状況であるために、俺は素直に喜ぶことに決めた。
俺とフローラはそのまま行く当てもないので、結果報告として一番最初にいった村へ進むことになった。
城門前では、兵士はおらず普通に外に出ることができた。いないというのは語弊があるかもしれない。ただ門付近でお酒片手に寝ていたといった方がいいのかもしれない。
独裁的な国家だからこそなのか、兵士が変なところで自由にしている様子が垣間見れることに、良いのか悪いのか判断のつけようがなかった。
俺の知っている独裁国家とはかなり違った光景かな。
城門出れば、霧が凄まじく手探り状態で歩き続ける。ただフローラがいたために村へとすぐさまつくことができた。村につけば、地上に村長や他の村人が俺らの帰りを待っていたといわんばかりに、立っていた。
「まじかよ……」
「あゆむとフローラじゃ。彼らはやったぞ」
「「おおー!! すっげー!!」」
まさかの歓声や人に俺は驚く、フローラは難いのいいお兄さんと会話し始める。村長が俺に寄ってきては話す。
「素晴らしい。やはり救世主様だ」
「小僧さすがだな。思っている以上にやるな。ミラの目に狂いはなかったんだな!」
「いて! 痛いって!」
なぜか背中を叩かれまくる俺。
その後村長は俺を見るなり、怪我などの治療をするとして救護班を呼び寄せる。懐かしいベッドに横になった途端疲れがたまっていたのか、突然睡魔に襲われる。
あんないろんなことが起こったのだからと少し休憩として寝てもいいよな。
――――――動きましたね。モノガタリ。
またお前か…… 一番謎めいており、今回で二回目のご登場、謎の声。俺もよくわからない。どう相手すればいいのかなんて言うのは。
ただ、前に横文字つらつら何か言ってたのは覚えている。サイ……サイ……
――――――サイスラスティです。
そうそう。サイスラスティ……ん? やっぱり気持ちの方読まれてる?
―――――――読んでおりますけど、何か?
なら聞きたい。お前は一体何者だ? 俺はなぜ選ばれた?
―――――――次なる運命の場所へと行きなさい。おのずと答えがわかることでしょう。
アニメや漫画ではねーんだぞ? 下手に隠されても俺はわからないし、問題が起きてからでは遅いだろ?
―――――――知るときはおのずとやってきます。ふふふ……
「はぁ~……また変な夢見たな。でも夢っていう夢でもないしな。サイスラスティ、わからんがそこに行けば何かわかるのだろうか……」
「サイスラスティですね。ここから遠くに点在する女王の名前です」
「ん? いつの間にいたのか……」
「はい! 救世主様の寝顔見ていました。かわいいですね」
「君って二人でいる時だけテンション高いよな」
「人見知りですし私」
「そうですか……ところで、サイスラスティとはどんなところなん?」
「発展している場所ということくらいしか記憶にございません。私も行ったことはないので」
「そっか、てかさフローラのことについて聞きたいんだが、なぜそんなに知識や魔法が優れているんだ?」
「突然の質問ですか……そうですね。はっきり言って私にもわかりません。気が付いたら嫉妬の魔女の城内のメイドしていました。それくらいです」
「今村にいる理由は?」
「問題やらかしてしまいまして、レヴィア様のところから追放になりまして……はい」
「何の問題よ」
「私もよく覚えてないのです。ただレヴィア様から見た問題としか……」
「なんかフローラは引っ掛かることが多いんだよな~」
そのまま沈黙が続く、怪しいというよりかは単純に探究心といった方がいいのだろうか? 単純にフローラが何者なのか? ただそれだけが知りたかった。もしかすれば、俺と同じように異世界から来たものかもしれないし、何より魔法の威力が他とはけた違いだという点。ただ記憶がないということなので、それ以上は深く掘ることはできなかった。
外を出れば、昼頃になっていた。地下にあった村は地上に建設が始められ家も建ち並んでいた。中途半端ではあるができているという光景が美しくも見て取れた。
村長が俺のところにやってきてはこう話す。
「あゆむくんよ。次はどうするかの? 君の性格上このままこの村や国にいるとは、とても思えないのだが……」
「村長さんの言う通りですな。俺ちょっと旅に出ようかと、この国しか見たことないし、他はどうなっているのか想像もつかないし、第一に俺はなぜこの世界にいるのかも含め知りたいことを知っていく旅にでようかと思います」
「そっか~ やっぱ勇者は暇が嫌いなんだな~ そうだ。祝いとして銀貨十枚渡すとしよう」
「この村の底が俺は知りたい」
「ははは、いつも底にしかいないよ」
変な力の入れように俺はなんか申し訳なさを感じた。今となってはそれでもいい気はする。
こうして、俺は薬草10枚、銀貨20枚、背負える袋1枚といった感じで旅がスタートする。
フローラも誘おうと探していく。
「フローラ、俺はこれからサイスラスティと言う場所にいこうと思うのだが、どうだ?」
「私はこのまま村のために残ることにします。そもそも国の方もこれからが大変ですし、私は元城内のメイド務めていましたし、もしかすれば城内の人での足りなさや知識のなさで、私が行かなければいけないのかもしれません」
「そっか、ならここで一旦お別れだな」
「はい……ここでお別れと言うのは悲しいものです。ただ、あなたという希望の光を見つけることができたこと、救世主という勇者に出会えたこと、私は心から感謝の意を捧げます。ありがとうございます」
チュ!
一瞬ドラマか、アニメかわからないけど、そんなシーンを受けた気がした。頬にはキスされたぬくもり的なものを感じることができた。あ~俺はこのために、ここまで苦労したのかもしれない。そう感じる俺に欲はすさまじいものだなと納得し始める。
ほんと俺って単純な生き物だな。
ただ、本当にこういったことが何よりの褒美だと思うことが、今を見て感じることができた。城がいまどうなったのかは、まったくと言っていいほどわからない。だが、わかることとすれば、今はある意味で大忙しなのかもしれない。アーロンとリアムが率先して、人質を解放し、民衆やあの時の司会者たちは、どのような対応を彼らに取るのだろう? 魔女感謝祭をあまり好ましく思っていなかった兵士は、きっと彼らの助けになるに違いない。
様々なことが頭に浮かぶが、そのほとんどが良いことずくしであることに、自然と俺も笑みを浮かべるほどだった。何気ない生活に満足を、ただ普通の生活が贅沢なのだと、この世界に来て理解することができた。前ところに今の俺自身が戻ったら、大きく変われそうな気がする。
本気でそう思えるようなことをこの世界ではしてきた。借金もすぐさま返済できるのではないのだろうか? 大学もスムーズにいくことができるのではなかろうか? 嫉妬の魔女レヴィアが支配していた国よりも、より楽な世界が俺の生きる世界だっただろう。
考えれば考えるほど、浮かんでくる。向こうも同じような時間が進んでいたら、いない俺を捜索しているのかもしれない。そういった怖いことも踏まえて、ただ俺は前に進んでいく。
サイスラスティという国なのか人名なのか、はたまたまた違った何かなのかわからないが、次行くところは決まっている。不安は付きまとうし、嫉妬の魔女の国以上に悲惨なものだったらどうしようか? といったところもあり、そもそもフローラがこれからいないしで、結局のところ不安でしかないのは変わらない。ただ、もう俺には逃げるという選択はできないと確信していた。
さすがに嫉妬の魔女を討伐した、これが噂として歩いていけば、おのずと俺の名前もでてくることだろう。そうなれば、今ついている誰にも言っていない。魔法が使える嘘も終わってしまうことなのだろう。
「あ~どうしよう~これから~」
そう言いつつも、俺はすでに村から相当遠いところまで歩き続けていた。
これから来る物語は、俺も想像が付かないものばかりだ。こうして今歩けるのも、もしかしたら最後なのかもしれない。