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目の前の壊れた瓦礫の上に立ち、男は言った。アウラウネと同じように俺を知っているかのように、アイズと言葉を発する。ベルルはその光景を見るなり驚きの顔で言う。
「ばかな! なぜ……なぜ? ここがわかる……」
その言葉を聞き従者ロートも同じように驚いていた。確実に見つかるはずでないであろう場所をすぐさま突き止め、こうして目の前に現れたのだから無理もないのだろう。
そもそもこの城は大きく人一人を探すのは、ほぼ不可能に近い。それでも彼らは俺の居場所を見つけ、追いかけて来た。一日二日で到底攻略できるはずではない城の内側の把握。前もって準備してきたのか? はたまた、内通者がいるのか……?
俺の疑問は目の前の大男によって明るみになる。
「ははは。そんなに驚かれては困る。何せここまで到達するには、一苦労だが、そこにいるアイズが目印になっていただけのことさ」
「目印……?」
ベルルはオウム返しをする。そして、相手の指さした方向には俺がいる。その場にいたものたちすべてが俺を向く。何が起きているのかがさっぱりであり、なおかつ目印とされていることに対して疑問でしかなかった。大男は続けて言い放つ。
「アイズ。君は何かを間違えている。元々の任務は魔女側へ付くものではないだろう。討伐する側だ。どうして、そちら側についている?」
「俺が……フローラたちを討伐する側?」
何をいっているのかわからない。しかし、大男は当たり前のように俺にそれを告げた。この世界に来てから何一つ自身のことがわからないでいた俺には、ようやく目標や価値について理解することができた。
それが、今回の一件。たった目の前の一人の男によって覆った。
大男ははっきりと、魔女を討伐する側だと発する。その言葉は嘘ではない。このような状況で見ず知らずのものが、嘘をつくことが良いことでは到底思えない。その言葉を聞くなり、俺は下を向き、必死になって過去の記憶を思い起こそうとするも、何も思い浮かんでこなかった。
それを見るなり、大男は言う。
「まさか、アウラウネの言っていたことは事実だというのか……」
「アウラウネ……」
「無理もないだろう。記憶がないみたいだからな。代わりに教えてやろう。アイズ、お前は……」
ドガアアアン!!!
大男が口を開いた瞬間に魔法が飛んでいく。土煙が巻き上がりはしたものの、大男は平常心を保ちつつも、振り払った。
「話させません……それ以上……」
「フローラ……」
それを放ったのは紛れもなく隣にいたフローラ自身だった。相手には確実に発することはさせないといわんばかりに割り込んでくる。
大男はそれを見るなり薄ら笑いをする。
「なるほど……それは素晴らしい! 貴様は知っているのだな? アイズに関すること……」
「言わせません……何も……」
「言わせなかろうが、こちらが口を開けばよいものだ。どうしてもと言うのならば、かかってくるがいい」
大男の発言により、その場いたベルル、ロート、フローラは戦闘態勢に入る。3体1の状況、人数的にこちらは有利ではあるが、大男の表情は何一つ変わらず、むしろ、余裕そうに構えていた。
「では、こい! まだ才をなしたばかりの者たちよ」