8.ドミサイルズの街
既に第8話ですが、まだまだ導入が続きます。orz
簡単な朝食を済ませてくつろいでいると、
教会からネテリアの荷物が届いた。
まぁ、荷物と言っても、大して多い訳も無い。
精々みかん箱に換算にして数箱分程、装飾品の類は殆んど無い様だ。
うら若き乙女の荷物としてはどうなのだろうか、
と思わなくもないが、清貧を旨とする下級聖職者の荷物だ、
きっとそう言うものなんだろう。
とは言え、ベッドや鏡台の様な家具なども荷物の中には無い様だ。
昨日ざっと見た限りでは、家の中にはベッドは1台しかなかった。
だからこそ、昨夜はソファで布団をかぶって寝たの訳だ。
客間も現状では空の状態だ。
まぁ、当面一人暮らしの予定だったので、当然と言えば当然なのだが、
ネテリア用のベッドも無い。
ダーレスあたりなら、同じベッドで一緒に寝れば良いじゃないですか、
とかぬかすかもしれないが…、
彼女にしてみれば、さすがに昨日の今日で俺と同衾する勇気なんて
湧かないだろうしな…
からと言って、今夜はソファーでどっちが寝るか、
なんてくだらない言い合いを延々したい訳も無く
そう言う事であれば、その辺も手配して、もめ事のネタを無くすに限る。
そんな事を考えているうちに、彼女の準備も整った様だ。
食事の後片付けを終えて、こちらに近づいてくる彼女に向けて、
「それでは今日一日、街の案内をお願いしますね。」
と告げて、これから暮らす事になる街に二人で繰り出すのだった。
ドミサイルズの街は、領主の館(領主の本館は別の街にあるので、事実上は代官が住まう行政府兼社交場)を中心に、同心円状に発展した平地型の城塞都市で、街の発展に合わせて、過去に2回大きな拡張を行なているのだという。
ただし、通常、城塞都市と言うと、中心にある領主の城(館)が周囲を睥睨するように聳えているものだが、この街の領主は、歴代、文治に重きを置き、外に領地の拡大を求めるのでは無く、内に文化の興隆や技術の発達を厚く保護することで街を発展させてきた。
大きな城を建てて周囲を威嚇することよりも、街のインフラの整備に余分なお金は回し、街を発展させよ、と言う様な人物が多かったおかげで、このクラスの街の領主の館としては、みすぼらしく見える位に小さいのだと言う。
その領主館を中心にして、水堀/環状路、行政街(各種行政機関の建物と一部の上級貴族の館)、第一街壁、富貴街(貴族の館や上級市民の家)、第二街壁/水濠(此処までが初期市街)、内市街(古参庶民向けの比較的古い市街)、内環道/水濠(ここまでが旧市街)、外市街(新参庶民向けの比較的新しい市街)、外街壁(新第三街壁)/水濠と広がって行く。
内市街と外市街の間に街壁が無く、内環道/水濠が敷かれているのは、街を拡張して外市街を作る際、資材の節約と流通の利便性を考慮して、当時の外街壁(旧第三街壁)を壊して主流通路として整備し直し、余った壁材を新しい外街壁(新第三街壁)の材料の一部として転用した為だという。
また、領主館を中心にして、行政街から6方向に放射線状に大幹道が伸びており、そのまま街壁を抜けると、各方面に向けて伸びる街道を成している。
これは、当時(数代前)の領主が3つの街道の交差点を上手く誘導して、物資の集積場・交易拠点として機能する様に街を作ったのが、この街の始まりな為だとか。
街は、堀(豪)や街壁、内環道の環状の仕切りと6方向に伸びる大幹道によって、中心の領主館を加えて25のブロックに区分けされており、それぞれのブロック毎に特色を持って運営されている。
例えば、鳳(南)方の大道は、街を抜けるとそのまま南方の諸外国へと抜ける街道となっており、国外からの穀物類を買い付けに来る商人は概ね、鳳門(鳳は霊獣の名前で南方位を守護する存在の為、南方位自体や南に関連する表現に良く使われる。鳳門と言う場合は、まんま南門と言う意味になる。)を抜けて街に入ってくる。
その為、鳳街道沿いの西側のエリアは、諸外国からの特産品を買い上げる交易拠点としての機能を、逆に東側のエリアは、諸外国向けの穀物類の輸出拠点としての機能を分担して果たしている、と言った具合だ。
因みに、道は、左側通行(Keep Left)が基本だ。
また、大幹道と内環道の交差点には大広場が整備されており、固定店舗を持たない行商人や周囲の農家がバザールを開いたり、大道芸人や吟遊詩人が芸を披露したりと、賑わいを見せている。
今、俺たちは、こちらでの生活に必要な細々な品々(昨日彼女が実際に家事をしてみて不足していると気が付いた品々)や彼女の部屋に入れる家具類などを買いがてら、麟鸞(東)エリアの内市街から外市街にかけてに広がる職工通りを見て歩いている。
このエリアには、職工組合連合が居を構えており、加盟する職工も、その多くが近くに店を構えている様で、なかなか見応えがあって面白い。
因みに、この世界には、規格品を大量生産して大量消費する様なパターンの文化は殆ど定着していない。
特に、庶民レベルでは、衣類・家具類は元より、壊れて修理の効かない鍋釜(溶かして作りかえる)、薪が燃え尽きた灰や糞尿(肥料として使う)に至るまで、徹底したリサイクル文化が根付いている。
壊れて修理の効かない家具などにしたところで、ばらして再生できる部分は回収して再生し、どうやっても再生出来ない様な部分は薪にして使う程の徹底ぶりだ。
その為、衣類にしろ、家具にしろ、基本的には新品の作り置きだけを扱う店は貴族専門の高級店などに限られる。
新品を購入する場合、ショールなどの体型に影響しない様なものを除けば、店にある見本を基準にオーダーメイドするか、パターンメイドになるのが殆どだそうだ。