砂漠の惑星と水の惑星の物語
そこは 砂漠の惑星ヴァンダルとは違う星だった
水の豊かなる惑星・・フォルトーナ
ゆるやかに 都市の中に張り巡らされた水路を小船がゆく
更には 淡いオレンジ色のレンガで組まれた橋の中にも 水が引かれていた
大きな水道 その中にも小船がゆき それぞれ白い大きな建物と繋がっていた
沢山の白い建物群
建物の下には 熱帯のやしの木などが 風にそよぎ揺れる
鮮やかな花 ブーゲンビリアに 赤いハイビスカス
花のように華やかな色合いの赤や黄色の鳥たちの鳴き声
船に乗り合わせる 数人の客
小さな子供は笑いはしゃぎ
そのすぐ横で鷹のように鋭い瞳をした少年が
まわりを見てる・・・
赤い瞳に黒い髪・・浅黒い肌・・
そして ここは 人工の大陸・・
人工の大陸は 円形で 水だけで構成された
この星に浮かんでいる
都市の風景は こんな風に水を使った乗り物が多数あって
白い建物と 緑と色鮮やかな花々で彩られていた・・。
そして・・ため息
「もうすぐ到着よ ファリ」
隣に座っている少女が笑いかける
「疲れたのかい?ファリ」
少女の父親が心配そうに声をかけた
「いえ 大丈夫です」俺は軽く笑みを作って 彼らに答える
ここは まるで 夢の御伽噺の話ような桃源郷の場所
俺がいた場所とは ずいぶんと違う・・
そうだ・・俺がいたのは荒涼した砂漠
赤や金色の砂に ゴツゴツとした岩 そして岩の間には水晶の岩も見受けられる・・
赤き砂漠の惑星
ほんの数年前まで 僅かばかりの技術力を頼りに
部族間での抗争を繰り返しながら 砂の海の中を暮らしていたのだ
大昔にはあったと言われる 小さな湖は消滅して
東にある 古代の地下都市 水の塔の恵みで 生き延びていた。
水の塔から 漏れ出る水が 地下を通り 離れた場所にいる者たちの
命をつなぐ
古代の地下の都市の跡には 水が溢れていたが
そこには 巨大な生き物がいて 人を食らうので
大量の水を求め その水を汲みに行く者達は いつも命がけだ・・・。
古代の人々の魔法・・いや・・科学技術とかやらで
空気から水を造りだす装置が 地下都市の中心部分にあり
都市の中央に設置された 巨大な高台
塔から水が溢れ 滝のように流れてゆく
他にも水を得る方法は幾つかあったが
やはり そこが一番多くの水を得られたのだ
その水の塔から流れ出た 漏れでた地下からのわずかばかりの支流に
砂漠にはえるゴツゴツとした植物
サツバールや岩にはりつく苔のようなトフブル・・
それら植物の実が 水分を含み
その実の果汁で水分を補う事もあった
畑や家畜を営むものには
水は重要で 家畜には サツバールやトフブルを食べさせる
事も可能だったが やはり水はかかせない
地下都市遺跡の中の塔の水
その場所に近ければ近いほど 支流からの水量も多く
当然地下都市遺跡とそれらの周辺の場所の取り合いで
部族の間の戦いは長く続き
血みどろの争いや厳しい砂漠の生活の中でも
人々は たくましく暮らしていたのだが・・
砂漠の砂の海の中に潜ってくらす 小さな砂魚サマク
砂の海の中に 時折混じっている 砂金で出来た砂場
アウルムの中に住みつき
その中を泳ぎ 時折 地上に顔を出したり 飛び跳ねる。
俺は ゴーグルとヘルメットを被り 小さな空気のタンクを背中に背負う
片方の手には槍
そしてもう片方の手には 開きかけた半開きにした傘の形に似た機械フングス
横型で 先がとがり 後ろは傘の形のように広がっている。
前部分に薄くした水晶を埋め込み あたりが見えるようになっている
下部分には 砂漠によく湧いている黒いコールタールを燃料にした
ジェットエンジンがついて
頭から被り 上身はそれから中心の柄の部分を握り スイッチを押して
砂の海の中を潜り 砂魚サマクを追いかける
槍で突き 砂魚を採る
そうやって砂の海に潜っては サマクを採っていた
砂金も 金にはなるが・・俺達の住む砂漠の星では
あまり価値は低めで 味の上手い砂魚サマクの方が金になったのだ・・
・・・
そうあの頃までは・・
それは大きな変化 激変だった
1隻の宇宙船が この砂の惑星に不時着したのだった
それも俺達の村の近くに・・・
彼らとの交流が始まり 異星人の彼らを襲う他の部族から
彼らを守った・・・
そして・・・彼らが言うには あの地下都市の遺跡
水の塔は 彼らの先祖(正確には連邦という惑星間の組織)が作ったものだと言う・・
大昔にも 実は 資源や他の星との交流を求めて
星域を探索中の宇宙船 連邦という組織に属する宇宙人の船が
彼らの船がこの星に不時着して 俺達の先祖と交流をして
砂金や水晶に 岩に含まれる貴重なレアメタルなどと交換に
この星に技術 惑星改造つまり水の塔の建造に着手したのだという
「ファリお兄ちゃん」
「リーシュ? どうした あのね私・・」
「あの異星人の子レーヴ・クリオス・ベネデクト・アレクサンダルと
友達になったの・・」頬を赤らめて言う
「長い名前だよな・・父親は ピエタ・リブラ・ベテルギウス・アレクサンドル
こっちも長い・・・」
妹は 幼い時分に足に深い怪我をして以来
その傷は治ることはなかったのだが
彼らの一人 医師が 妹の足を完全に治癒したのだ
他にも 戦いやモンスターに襲われて
怪我をしたもの達の治療をしてくれた・・
それらの出来事が彼ら(宇宙人)との深い交流に繋がったのだ・・。
「ふ~ん 好きになったんだ あのレーヴ
あいつは 色は白いし 耳はとがってるけど
ハンサムだよなあ・・優しいし・・特にリーシュには」とにやりと笑う俺
「もし誘われたら あの子の星へ一緒について行きたいの
レーヴの故郷の惑星は水の豊かな星でフォルトーナって言うだって・・」
「本気か?」 うなずく妹の
「そうか・・」この過酷な砂漠の地ヴァンダルよりも
彼らの星の方が妹にとってが幸せになるかも・・
「ファリ!」と異星人こと妹のボーイフレンド
レーヴは明るく 俺に呼びかけた。
「やあ」俺はレーヴに声をかける。
「西の方にある地下都市の遺跡に行きたいんだが 案内をたのめるかい?」
「僕の父さんと君の父さん達のグループは 東の水の塔か
南の水の塔に向かうらしいけど?」
「東の水の塔は生きてるけど・・怪物や敵方の部族が大勢いる
南の水の塔は あそこが一番巨大な施設が建造されていて
父さん達はそこを調査したいと考えている」とレーヴ
「ああ あそこにも地下都市の遺跡があったけ?
もっとも 東にある水が湧く 東の水の塔の遺跡と違って
西も南も完全に朽ちて 水が一滴もないから 誰もいないし
巨大で人食いの怪物のゴウフルやゴルダル達もいないから 西なら 簡単に行ける
南はここからは遠いし 砂の渦もあるから 砂船か君らの宇宙船じゃないと無理かな
ま・・心配するな 西なら俺 一人でも守ってやる
妹の足の怪我を治してくれた恩もある」
「ファリ 有難う!」レーヴは嬉そうに言った
俺は大きな歯をみせて笑って 彼レーヴを案内することにした
赤の砂漠に 金色の砂がマーブル状に交じり合う
照り返す日差しに 頭から布をかぶり
目の保護用のゴーグルをつける
レーヴは何やら重たい荷物をリュック詰め込んでいた
乗り物は 身体に水分を大量に含む 生き物デアンカ
彼らから言わせるとラクダという生物に似てるらしい
毛深く足は6本 前足は指先が長く その手で
コケに似たトフブルを岩から削り食べる
デアンカに乗り 夜も明けぬうちから出かけた
「じゃあ 父さん 俺達は西へ向かうよ 父さん達は砂船で 南だったね」
「ああ!お互いに気をつけてな」
それから 砂漠を3時間半 デイアンカで渡った頃
「あ!砂魚だね!」レーヴは言う
金色の砂の中に 砂魚サマクが泳ぐのを見ていた
「砂魚が多そうだな この地点は他の攻撃的な部族が来る
可能性も高いから また後日にするか」と俺はそう答えた・・。
「ファリ・・もし 遺跡が蘇り 本来の機能を取り戻したらここは 激変するかもね」
彼レーヴは ぽっんとつぶやいた
「? 水が?蘇る?」俺は不思議に思い レーヴに訊ねた。
「行ってみないとわからないけど 今 現在残っている一基 東の水の塔も
そう 君達が奪い合いをしている(東の水の塔)も本来の機能から言えば
50パーセントから60パーセント前後の機能しかない
この惑星はテラ・ホーミング中 惑星改造中だった
まず第一弾として
過ごしやすい地下に まず都市を作り
それから 地上に水をくみ出し いくつもの水路や 海の代わりになる
巨大な湖を建造する予定だっただけどね」
「計画の途中で 私達の星で 惑星間での宇宙規模の戦争の影響と
それから
この星は 磁気嵐と近くを通りすぎたミニサイズのブラックワームの影響で
地軸や大陸のバランスが崩れ そして磁気嵐の影響を逃れるために
計画に参加していた 多くの連邦の船が
一旦 計画を放棄して 彼らの惑星に帰還した
心配だったのは 地軸の変動のおかげで この星のわずかな水源自体も
君らの進化 生命の誕生を助けた 幾つかの小さな湖も消えた
失われた事・・水の塔から作り出される水のみが頼りだった
だから 彼ら(連邦)は すぐに戻るつもりだったんだ・・。」
「だが 思った以上に 惑星間の戦争も 磁気嵐もひどく
戦争が終結したのは30年後 そして この惑星を覆っていた磁気嵐は
200年近く
そう最近まで とまらなかったんだ
しかも突発的に 小さな規模で発生している 僕らの船が不時着したのも そのせい」
「しっ!静かに」 俺は レーヴに手で合図した
砂の海から 地響きが響き 砂の中から 一つ目のサイプロスが現れる
大きさは大体 固体にもよるが 人間の2倍から3倍
瞳部分は甲羅のような形状で
手は左右に3つ 合わせて6本 指先の間には薄い膜があり 砂の中を潜り
泳ぐのだ
御尻には長いヒレのような尻尾
「あの怪物の尻の尾ひれは
オタマジャクシからカエルに脱皮中のものに似ている」
レーヴは なにやら そんな事をつぶやいた。
「武器か何かあるか? レーヴも戦えるか?」
「銃なら ファリ」
「前面には俺が出る」
背中に抱えてた弓を 左手に小型の弓を持ちかえ
右腕には 宝石がついた腕輪 それは俺の剣と盾
宝石部分を回して押すと
金属状の平たい帯が現れ 宝石を中心にしてグルグルと回り
一つになり それは腕につけた小さな盾となる
シュンと音が軽く響き 盾の中から 前には剣先も現れる
俺は左手の弓を構え 矢を勢いよく襲ってきたモンスターに打ち込んだ
矢を数本 連続で打ち込む
モンスターは声をあげつつ まだひるみもせずに
砂を蹴散らしながら こちらに駆け寄って来る
俺は勢いよくジャンプして モンスターの身体に掴みかかり
盾でモンスターに殴り
すぐそばの喉元の急所を剣で刺した
声をあげて絶叫して 緑色の血が噴出して モンスターは砂の中に倒れる
安心してレーヴの元に戻ろうとした矢先
「危ない!」そう言ってレーヴは銃を構え
「避けて!ファリ!」の声の合図に 俺は反射的に身を伏せる
彼は 銃を構えて 立ち上がったモンスターに打ち込む
銃は 弾を使わない超音波を使うもので
モンスターの上半身は その形を失い 下半身のみ残して
砂の海へと倒れこむ
「ふう こっちが助けられたな」
「ふふふ お互い様だねファリ こちらこそ有難う」レーヴは笑う
「あ!腕 怪我したの!ファリ!」レーヴは顔色を変えて 慌てて言う
「ああ かすり傷だよ」俺は肩をすくめる
「手当てするから・・え・・血と水・・これ体液なのかい?」
レーヴは手当てなどの簡易の医療キットでテキパキと傷口を消毒して包帯を巻く
「・・・俺達の種族は腕の部分に小さいけど
ラクダみたいな水分をためる袋がついてる 砂漠に適応したんだろう・・」
手当てをうけながら 俺は答えた
「有難うな レーヴ」と俺
「ファリ 休憩した方がいいんじゃないかい?」と心配そうなレーヴ
「いや日暮れ前には目的地に到着しないと・・ レーヴは大丈夫かい?」
「僕は大丈夫」 「そうか・・じゃあ行こうか!」俺は笑った。
幸い その他のモンスターやら 敵方の部族に出会うことなく
洞窟から潜り 奥にある地下遺跡の都市に向かう
「ここは水があまりないから 東の地下都市遺跡と違って
ドラゴみたいな他の巨大なモンスターがいない分 来る分は楽な方だ」
俺は肩をすくめる
レーヴは 二人で 歩きながら俺の話をじっと聞いている
遺跡には無数の地上と地下を結ぶ小さな穴が開いていた・・。
それは通気の為の換気と光を招きいれる為のものであり
遺跡の中を 所々照らしていた
「あ・・ここかい?水の塔だね
確かに水は枯れてるけど・・ん?あれ!
ここのラインの動力が生きてる?」レーヴは驚き叫んだ
「それに 地軸の変動で 崩れたと記録にあったけど
他の連動している装置も無事だ!」
水の塔近くの大きな金属状の紐が淡く光ってる処を指差し
その紐を手の平ほどの小型の機械でモニターする
「ひょっとした まだ ほぼ生きてるかも!」
レーヴは水の塔の扉を開けて 階段を駆け上がる
「ここが動力室」彼は扉を開く
部屋の中は 荒れて塵がつもり 装置の幾つかは壊れていたが
「ここは今の僕でも応急処置で修理可能みたいだ 問題はメインの動力装置・・」
レーヴは中央の祭壇のような箇所に足を踏み入れる
「やっぱり 1個以外の 装置の核のジュエルが外れてるあと5個必要なんだ・・」
レーヴはブツブツ言いながら
自分のリュックから 装置に組み込まれた青い縦長の宝石と同じものを取り出した
「これをセットして・・それから」彼は手馴れた仕草で 装置に青い宝石を組み込む
それから・・
レーヴは 縦長の黒い箱 通信装置を取り出した
「父さん そっちは?そっちの状況は?」
途切れがちの雑音ノイズの入った声が響く
「砂の渦がひどくて 移動が難しい 一旦引き上げる
南の水の塔の機械が生きているなら 南半球はテラ・ホーミング計画
惑星改造計画が進むがね」ため息まじりの声がする
「父さん 記録から判断して 望み薄だと思っていたけど こっちは生きてたよ!
西の塔の規模は 南や東の塔に比べて小規模だけど こちらは進めるよ!」
「なんだと!これは先を越されたか・・しかし何たる幸運!よし!頑張ってくれ!」
「了解!父さん」
「ふふ・・見てて こちらの水の塔から始めるね 惑星改造の第二段階・・」
「それから・・それから」わくわくとはしゃぐレーヴを きょっとんとして俺は見ていた
「何をはしゃいでるんだ?レーヴ」
「先人達 つまり君と僕らの先祖達の夢の続きさ」彼レーヴは笑う
「一度は この惑星改造計画は 第二段階まで進んだんだ!」レーヴは興奮して叫んだ
「ナツメヤシを食べたことある? ファリ?
それからイチジクに葡萄 オレンジに苺もいい・・
ああ・・僕らの船に保存しているけど
これから君達の惑星でも飽きるほど食べれるから それらの種が入ってる」
「これさ・・」
レーヴの手の平に乗る 小さな半透明の楕円のゼリー状のボール
その中には 幾つかの黒い種が入っていた。
「それだけじゃないぞ 本来 君たちの惑星にあった植物の種も含まれてる
絶滅したはずの木々の種やら食用の果実の種もね ファリ」
「これらを こちらの装置にセットする」
レーヴは 近くの装置の蓋を開けて
その中に 種が入ったゼリー状のボールを数十個投げ入れた
「水と一緒に地上に流れでて やがて芽をだす
本来なら水路や小型の人口の湖が完成してからセットするのだけど
今回はテスターだね」
塔の機械は蘇り 青い宝石は光輝き煌く 塔の中の機械が動きだしたのだ・・・
「水が生成されてる ほら上までメーターが達している」レーヴが機械を指指す
「ファリ・・歴史に名前を刻んでみないか? さあ この砂漠に湖を造る」
「湖?」俺はレーヴに聞いた
「ふふ・・大量の水が このすぐ上の地上に出来上がる」とレーヴ
「俺が?」
「このスイッチ・・青い宝石ジュエルの上にある 突起を押す」
「?」きょとんとしながら 俺はレーヴに言われるまま 突起を押す
すると・・地響きがした
「何!」 塔の最上階から水が溢れ出した
そして
地下都市の水路にまず水が供給され・・・
塔のすぐ横の寄り添うように立っていた建物が大きな音を立てて上へと伸び上がってゆく
それに呼応して天井が丸い円を開き 砂が零れ それから地上の眩しい光が地下都市を照らす
その丸い穴が開いた天井に向かい 動きだした建物が上へと登りつめて
それから地上に建物は顔を出す
俺達のいる建物の一番上の階からも 先ほどから 水が溢れていた
滝のように大きな水しぶきの音を立てて
それらの水は水路に流れて 更に地下の深くへと流れてゆく
「どこに流れてゆくのかな?」俺はぽつんとつぶやいた
「ファリ あのね地下水路の水は 離れた場所に送られて 上から汲み上げて
使うのが 当初の目的 おもに畑やオアシスを造る為だけど・・」
彼は笑みを浮かべて 笑いながら答える「見て 地上を映すモニターだよ」
地上部分に顔を出した建物は その上の階から同じく勢いよく水を噴出し
地上に水をもたらす
水は砂の中に埋もれていた
八方に広がった形のそれぞれの隠されていた水路に運ばれてゆく
砂の中に埋もれていた もう一つの小さな人口の湖
水の受け皿
それらは 長い年月を経て ついには本来の目的を果たす・・。
「すげえ・・こんなに大量の水 見たことがな・・い」
俺はあっけに取られて やっとその言葉だけ絞り出した。
嬉しそうにレーヴは俺に笑いかけて 話出す
「大昔の記録と現在の状況
この西の塔は 小型のモデルタイプだから すぐに完成までこぎつけたらしい
実際 しばらく数年ほど稼動して 動いていた340キロ前後の地区までは
カバー出来る」
「問題は 記録とずいぶん違うだけど
別の地区のデータと入れ替わっていたのかな?下手をすると入れ替わったデータの記録が
南の水の塔だと あちらは全壊している
そうなると南半球 しばらくは開発は難しくなる」レーヴはふうーと大きく息を吐いた
後でわかったことだが やはり 全壊していたのは 南の水の塔
西の水の塔は 装置の故障のみで済んだものの 水を湧くことが出来ず
東の水の塔の恵みで 北半球のみに人々は生き延びてたのだった。
そして 半月もたたないうちに
西の地区 俺達の領域だが その環境は激変した
オアシス・・湖が幾つも形成され その回りを囲むように
木々が育ち 見たこともなかった果実の木や果実の花が育ち始め
早いものでは もう実をつけ始めていた
他の部族たちも やがて 彼ら異星人と俺達の部族に対して
豊かになりはじめた土地を欲しがり 戦いを仕掛けてくる者たちもいたが
態度を軟化しはじめる者達が現れ
やがて 人々は 次第に争いをやめて 連立を組み始めた
「木々が育てば これから水蒸気から本当の雨も期待出来る」
「甘露の雨だね・・」とレーヴ 「甘露の雨? 雨?って?」
「地球という星の仏陀の話でね ファリ
仏教の言葉の一節だけど甘露の甘い雨
普通の水でなく 甘い味のする雨が降ったという
地球という星の伝説の一つかな?
雨は 空から水の雫が沢山降ってくる事を言うんだよ
そうだね 他にも沢山あって
聖書の中に 雨のくだりは沢山あるよ
主は貴方達を救う為に 秋の雨を与えて降らせて豊かにしてくださる」
「まあ・・東の塔の完全修理が済んだら 南の塔を再建しなおすか
先に新たに この北半球で 小規模クラスの水の塔を作るか 今は計画中だけど・・・」
レーヴはこちらの顔を覗き込み こう言う
「なあ・・・僕の惑星に行ってみないか?ファリ」
「沢山の技術者がいる それから指導者も・・ 僕の惑星に留学してみない?」
レーヴは言う
「え?」
「昔に存在した星間の連邦は崩壊して
僕らの大きな団体が その事業の一部を引き継いだ 本当にまだ小規模で
一応 それぞれの星の政府とかの許可をもらって
活動してるけど 実態は 寄付やら交易の収益でどうにか活動している
活動状況によっては 一旦 引き上げる事もありうる」
「10年後には また巨大な磁気嵐が この惑星付近に発生する可能性が高い
大きな磁気嵐中には この惑星に新しい宇宙船は来ることが出来ないし
宇宙船は飛び立つ事も出来ない
稼動をはじめた 地下都市に 避難用の設備を追加したり やる事も沢山だけど・・」
「この惑星の次の進化の為にも次世代を育てないとね・・」
「はあ・・」なかば 壮大すぎる彼レーヴの考えやら話に ため息をつく
「俺は ちょっと前までは ただの砂魚を採ったり 獣を狩る狩人だっただけど?」
しかも そのレーヴの演説 説明は長い・・・もう一度 改めて 俺はため息をついた
まあ 父親も彼に良く似てるし 親子だよな
で・・親子で 連邦とかの事業? ああ事業だったけ?大昔の惑星間に存在した連邦とかの事業を引き継ぐ?
「しかし 次世代ってレーヴ 俺とそう変わらない年のくせにレーヴは偉そうだな」
「へへへ・・そう?ファリ」彼レーヴはいたずらっ子のように笑う
「そ・れ・に 見てみない? これ僕の妹」
彼は服のポッケから 円形の機械を取り出し
スイッチを押すと
「わっ!」 出現した半透明の姿に驚く
「へへへ立体3Dだよん! 超のつくウルトラ可愛い妹だろ?」
世にも可愛らしい金色の髪の少女の姿が映し出された
「お兄ちゃん 待ってるね お仕事頑張って」にこやかに その美少女は微笑む
「・・・・」
「ひひひ 頬が赤い!」
「なんだよ! いいよ 俺の妹から預かった手製の菓子 いらないようだな」
「なんだと! くれ! お願い!可愛い彼女の作る絶品のお菓子 ~!」
うるうるとした瞳でレーヴに哀願されて 俺は半ば あきれ顔でポイと投げ渡す
「サンキュ~ へへへ」よだれをたらさんばかりのレーヴ
そのにやけてた その顔に
俺はふと・・こいつ・・いや 彼リーヴは菓子がそんなに嬉しいのか
それとも やはり妹のリーシュに気があるのか・・と少々考えこんでしまった。
赤い砂が風に舞う
だが 今は 砂漠の中に 人工のオアシスから供給されて
育ったやしの木などの森が 瞳に映る
最近到着した 他の宇宙船 彼らの仲間達も連絡を受けて来た者達も
テラ・ホーミング 惑星改造計画に加わる
人々の喜びに満ちた顔
水遊びなど 夢にも見たことがなかった
まあ・・蒸し風呂とか 植物から集めた水分
たまに東の水の塔から持ってこれた貴重な水とかで
今まで 身体や髪を清めて
水遊び自体・・泳ぐ(砂魚サマク狩りは砂の中に潜るので別として)など
当然したことがなかったから
一年後
俺の村の近くに出来上がった 簡易の小さなエアポート
そこに降り立ったシャトルに 俺とレーヴの父親が乗り込む
妹の
俺は 彼の薦めと・・好奇心も手伝ってレーヴ故郷の惑星フォルーナへ向かう事となった
レーヴの父親と供という名目で小型シャトルで 惑星の衛星ステーションから
惑星フォルーナへ
そこは 水だけで構成された星
核となる衛星に引力やらで 水が布のように巻きつき
星を形成されているのだった
人々が住まうのは 円形の船のような場所
もっとも その円形の船というものは とてつもなく巨大だったが・・・
それから 水中にも人々が住んでいた・・
惑星の本来の住人の多くは 半魚人で こちらは 水中の中にある都市に住んでいた
彼の父親達は 後からこの惑星フォルーナに移住してきた子孫だと・・言う話だった・・。
「我々の住んでいた星は 超新星で すでにないんだが
緑が多い綺麗な場所だったんだよ」
彼は笑う
大きな噴水や 階段脇にも水が流れ 小鳥達が綺麗な声で
さえずる 沢山の緑に花の香り
エアポートを降り 衛星エアポートに続いて
身体検査やら 何やらで 長い時間を過ごしてから
それから
あの3Dの映像の少女が 俺達に向かって手を振ってやってきた
「父さま!」 「おお!元気だったか! エル」
「はじめまして! 兄さんからのメールで知ってます!ファリさんですね
私はエル・パイシス・ヴォワラクテ・アレクサンドルです。
これから しばらく私達の家に滞在して 学校に通ってくださいね
あ・・それから 沢山 遊びましょうね!」嬉しそうに声をかけた
それからは 目まぐるしい日々だった
基礎過程を 彼の家のコンピューターが家庭教師となり
教え込まれる
なにやらコンピューターが出した複数のテストに合格すると
基礎過程合格の認定書をもらった
「ファリ・ナジュム 合格か・・」
認定書をぼんやりと・・俺はしばらく見ていた・・。
基礎過程が済むなり 幾つかの予備校に通い
本試験に合格して 学校に通い そこは俺みたいな異星人ばかりの集まりで
ドラゴン型の人間やら 蝶みたいな羽のついた人間とか
そんな連中と気がつくと友達になっていた。
彼の妹エルは綺麗なだけでなく 少々世話好きで
多忙な彼の父親の代わりだと言ってはよくよく俺を遊びに連れ出した。
水中都市は 長いエレベーターのようなものか水中船で渡る
俺達は 水中エレベーターで一番近くの水中都市へ向かった
水中エレベーターは 一度に20人は乗れる代物で人数分の座り席も用意されていた
座席も エレベーター自体も エレベーターの管も 透明
水の中で泳ぐ 鮮やかな色合いの魚達が エレベーターの廻りを
泳ぎ去る。
赤や紫 黄色と青のグラデーションのコントラストの鮮やかな魚たち
中には 小型船ほどの大きな魚までいた
水圧とかの問題で 身体をゆっくり慣らしながら時間をかけて進む・・。
エレベーターの中で 俺達は一式の特殊な服や道具をそれぞれに手渡される
それから その手渡された宇宙服ならぬ 空気のボンベつきの水中用の服をまとい
ヘルメットをかぶり 三重の扉のエレベーターがゆっくりと開く
上の都市のそのままに 都市は白亜で美しい
レンガは使われてないが 違う素材の綺麗な石が使われていた・・。
そして 大きな違いは水中の中にあり ここは水中の中
浅い位置にあるので太陽の光で煌き
木々に 花や小鳥の代わりに 海草やサンゴがあり 色鮮やかな魚達が泳いでいる事
上の住人達の為に用意されている建物が幾つかある
その中には ホテルやレストランなどの設備も・・・
「今日は食事をして帰りましょうね!」彼女エルは笑う
建物に下から潜りこむように入る
階段を上がると そこは 水のない空間 ワインレッドのような深い色合いで
統一された内装
「上の都市でも 見たことない内装だけど?」俺は水中服を脱ぎながら
問いかける
「ふふふ ここはね 連邦が始まった惑星の一つ 地球の欧州の
19世紀ごろのアール・ヌーボー?だったけ?
地球の大昔の風俗をテーマにしたレストランなの!」
「そうなのか・・よくわかないけど 綺麗だとは思うよ エル」
「ふふふ・・ファリ
あと 地球の東洋風の日本とか 他のアジアをテーマにした
レストランもあるのよ
日本のレストランは 畳とか障子とかあって
円筒形の竹という植物の中で ご飯を食べるの・・・」とエル。
「へえ~」
「ここは 娯楽都市でもあるから 他にも沢山楽しい施設はあるわ!
今度 また来ましょうね ファリ」エルは ほがらかに笑う
俺は笑ってうなずいた。
彼女エルは ダイエットにいいの!といいながら
ステーキ風のコンニャクと
ほうれん草とジャガイモのポタージュスープを頼み
(スープはダイエットには 少々不向きだが・・)
ステーキ風のコンニャクは
ナイフとフォークで上手に切り分け小さくして その愛らしい口元に運ぶ
「ん!美味しいわ!」エルは嬉しそうだった
それから 俺は地球の日本風という
米と呼ばれる穀物の上に 鮭という魚が乗ったものを頼んだ
鮭の身は ピンク色で
その魚と米という穀物が茶碗に盛られて
ワサビという緑色の練ったムースを少しばかりをのせて
更に その上に鮮やかな緑色の熱い液体が注がれる
緑色の液体は 緑茶と呼ばれるものらしい
料理の名前は お茶づけ・・と言った
本来は箸という二本の棒を使い食べるらしいが
とりあえず 今回はスプーンで食べる事にした。
楽しい時間 俺達は 夜遅くに家に戻る
「じゃ お休み」エルは 俺の唇に軽くキスをした
「えええ!」
彼女は笑い 自室に戻った
夢のような場所で 数年が過ぎて俺は 卒業を迎えて
レーヴとエルの父親の団体(連邦?)の仕事を手伝うことになった
「半年後には 戻るよ」
途切れがちな宇宙回線を使ったネット電話で 画面に向かい
レーヴと妹のリーシュに笑いかけた
「待ってるね! あ!お兄ちゃんが送ってくれた
冷凍茶づけセットと梅オニギリセット すごく美味しかった!
私達の星でも お米とかいう穀物育てられるかしら?」
「さあ・・大量の水が必要な植物らしいが
まあ 改良種もあるらしいから 今度詳しく調べて 可能なら種を送るよ」
「こっちも 砂魚サマクの干した分が大量に届いた
久しぶりに焼いて食べたが上手かった・・・有難うな」
俺は昨日食べた あのサマクの味を思い出して笑みが浮かぶ。
「砂魚サマクは 今度 他の星にも養殖が始まって
岩だらけの星の住人がとっても喜んでいたよ 泥の中で養殖してるらしい」
「ああ そうだ!・・リーシュ お腹の赤ちゃんは 大丈夫か?」
「うん お兄ちゃん! 赤ちゃんが大きくなったら
そっちの惑星にも 旅行に行くから」
「 レーヴ・・・」とチラんと画面ごしに軽く睨みながら レーヴの方を見る
「あ・一応 こっちでも結構式あげたけど
新婚旅行をかねて そっちに戻って それから
もう一度 式をあげる予定だけど・・」赤くなり照れながら そして
少々 バツが悪そうに レーヴは ひきつりながら笑って答えた
「・・・まったく」
「しかし・・ファリが あの難しい学校を 僅かな時間で卒業出来るなんて
びっくりだよ! もう小型宇宙船なら簡単な修理と操縦も出来るだって!」
「まあね・・操縦とか 射撃に体術の方が面白かったけどね・・」と俺
画面がまた 途切れがちになる
「回線の状態が悪いな・・」
「ああ・・予想されてる10年後の大規模な磁気嵐ではないが
小規模な磁気嵐が起こりつつある
二ヶ月前の磁気嵐と同じクラスらしいが
あの時は 一週間 地下都市に逃げ込んだよ」
「被害も出た 地上にまで影響があって
大嵐だ・・・
建設中の水の塔が1基 破損 多くのけが人も出た
やっと着手しつつある 南半球の水の塔の計画も遅れる」
真顔で 彼は重く言う
「磁気嵐が発生しても 惑星の地上に影響があるなんて
大昔に一度 確かにあったし 今度の予想される10年後の磁気嵐でも
地上に影響があることは予想しているが
2ヶ月前の規模の磁気嵐で ここまで被害が出たとなると
10年後の磁気嵐の時には 一体何があるやら・・・」
「大昔の記録やら照らし合わせて
備えだけは しないとな・・」レーヴは言う ため息まじりの声
不安・・不安感が頭をよぎる
そして・・・
発生した磁気嵐により その日から10日過ぎても
回りの宇宙空間に近づく事も出来ず
惑星は嵐の中に包まれた
そして 惑星に近い宇宙ステーションで
不眠不休の状態で 事態にあたる・・。
磁気嵐の規模は多くなり 10年後に起こるはずだった
嵐をも併発したのだった
二年の歳月が過ぎても 収まる気配もなく・・
レーヴや妹達 家族 惑星の民を助ける為に動く
磁気嵐を中和する方法
あるいは 磁気嵐から惑星の住民を救助する方法
そして・・・
磁気嵐の核に 中和装置を打ち込む事となり
効果はゆっくりと現れる
二週間後 磁気嵐は消え
俺は再び 数年ぶりに 生まれ故郷の惑星に降り立った
懐かしい赤と金の入り混じる砂の海
乾いた風が 吹きすさぶ
足元には あの砂魚サマクが サワサワと音をたてながら
群れて 砂の海から顔を出している
どれだけの生き物が生き延びれたのか・・
俺は不思議な面持ちで 名前を呼ばれるまで
砂魚サマクをしばらく見ていた・・。
数年前までの俺ファリと・・今の俺ファリ・・・
ファリ・ナジュム
保護用に建造中だったドームに覆われた
西地域のオアシスの一部は ほぼ無事だった
中には 幾つか ドームの一部が崩れかけた物もあったが 逆にそれらは
自然界で生きる この惑星の生き物たちの避難所となっていた。
地下都市・・東の水の塔 西の水の塔・・・建造中の幾つかの地下都市
どれも入り口が崩れて入ることは出来なかったが
宇宙からのモニターで 内部の無事だけは ある程度確認出来た
もっとも 完全にモニタリングは不可能だったので
実際状況は不明・・・。
オアシスの地下水路を使って 俺と彼の父親
それに 婚約したばかりの彼の妹エルとともに
水中と陸が走行可能な 水陸両用小型のジープに 乗り込み
オアシスの地下水路に潜る。
エル・・彼女は 自分の身体をすり寄せて そっと俺の肩に手を乗せた
尖った彼女の耳元の葡萄の実を思わせる耳飾りが
彼女の動きにあわせて 揺らめきチャラリ・・と小さな音を響かせる。
あの水中都市にある
あのレストランのすぐ横の店で贈り物として購入したものだった。
金の細工にアメジストとアクアマリン それからサファイアの宝石が寄り合わせたもの
耳飾は他にも オレンジがかった真珠のものも・・
初めての給料で 購入して 贈り物にした
それから レストランで食事と・・・深いくちずけを交わした
エルは ため息をつく 「遠いわ・・・近くに来たのに まだ遠く感じる・・。」
「そうだね・・」彼と彼女の父親 いや俺の義理の父親でもある彼もそう言う
朗らかで 明朗・・明るかった彼。
レーヴと同じく明るかった 義理の父親は
この事件で 沈みがちな表情を見せるようになった・・。
未だ通信装置はダウンしたまま 安否は不明
設備は無事でも 惑星の住人達の無事は不明なまま・・
目的地 西の水の塔の地下都市に辿り着く
水路の水の中からゆっくりと浮上する・・・。
地上の夕暮れの明かりが 光ファイバーのラインを伝って 地下都市を照らしていた
「空気は幸いにもある・・・。」俺はヘルメットを外した
「大丈夫です 二人とも・・」声をかける
一部 崩れた建物などが見受けられる
それから・・・
建物の影から 音が響いた
タライと洗濯物を抱えた 妹リーシュの姿
タライを落として こちらを驚き見つめている「お・・お兄ちゃん!」
そして 背中には赤ん坊の姿があった
「お兄ちゃん!」妹リーシュは駆け寄り それから俺達は
涙を流して 互いに抱きしめあった
「会いたかった!会いたかったよおお!!ファリ兄さん」妹は泣きながら
俺に言う
「俺もだ! 俺も・・・リーシュ」
「皆 無事か!」
「父さん達や村の人達は皆 無事だよ・・レーヴのおかげ・・」
「西の塔の地下都市に避難した人たちは ほとんど無事だったけど
他の塔に避難した人達の行方は消息は不明なの
ここからは どの地下都市からも離れて孤立してるから・・
他の塔は建造中もあって不明だけど 多分 東の塔の地下都市は無事だと思うわ。」
「 今 レーヴは?」
「・・・」妹リーシュは口ごもる
2日前に 安全なドームに水路を使って 潜水服を身につけて出かけたまま
まだ 戻らないそうだった
村の者達と相談して 誰かが捜しに行くと相談中だったとの事
俺は 急ぎ そのドームへ向かうことにした・・。
潜水服をまとい 水中に潜る 長い地下水路
そして・・薄暗い地下水路から上がり
その目に見たものは・・・ ドームの透明なガラスファイバーの天井から降り注ぐ
黄昏の光と・・・
ドームの中の 穀物の畑の金色の海だった
そして奥の方では 実をつける木々が植えられて 花を咲かせていた
「これは・・」
「・・・・見事だろう・・ファリ久しぶりだ 元気だったか?」
畑の中に横たわっていたのは レーヴだった
手持ちの服を布団代わりにして その身を横たえ
それから 脚には服が包帯のように巻かれている
赤い血がところどころに染まっていた。
俺は何も言えず ただ立ちすくんでいた
すると日によく焼けた顔で 昔と変わらない笑顔で彼レーヴは笑う
「迎えに来てくれたんだ・・」レーヴは笑う
「ああ・・・その脚?脚の怪我 獣にやられたのか?」
レーヴは脚を手持ちの服を包帯代わりにして巻いていたのだが
包帯代わりのその服は血が滲んでいる
「そうだよ・・完全に覆われたドームだから
獣は紛れ込んでくるはずもないとタカをくくってたら この有様さ
まあ 偶然たまたまだろうけどね・・・。
どうやって潜り込んだかは
今度調べるけど 穴でも掘ったか 地下水路のどちらかだろうね」
「すごいだろう・・この畑・・麦に
水田を必要としない品種改良した米だよ・・・」
「塔の入り口は壊れてしまったけれど 地下水路は無事だったから
こうして無事なドームで畑やら木々から食物を収穫していたんだ
奥にはオレンジとか柑橘類にナツメヤシ 品種改良タイプのプラム(梅)もある
プラム(梅)は 甘くしたり 地球の日本風に酸っぱく漬け込む
米に合うんだ・・酸っぱくしたものは 日本風に発音するとウメボシとか言うらしい」
「で・・・話が戻るけどね
獣は倒して 獣の屍骸は 僕のお腹に納まったけど
この怪我ともなると 長い地下水路を渡るほどの体力に自信がなくてね
止血はしたけど 当然傷口が開くだろうし・・」
「とりあえず ここで休んでいた・・
行きと違って 帰りはゆるやかとはいえ 逆流を泳ぐことになるから・・。」
レーヴはため息をついた
「・・体内に毒を持ってる獣でなくて良かったな」
「え!いるの!ファリ!」とレーヴ
「いるの・・・まったく のん気な奴だ・・」と今度は俺がため息をつく
「誰かが迎えにきてくれると思ってたから 水路の近くで過ごしていたのさ
水陸両用の乗り物は 今は故障中だから・・・
いざとなったら 傷が癒えるまで 荷物を運んでもらって
キャンプしながら ここで過ごす事になるかな・・なんて考えていたけど・・」
「まさか君が・・ ファリが来てくれるとはね・・」彼は涙ぐみ 両手を広げた
そして 俺は 彼を抱きしめた
「ああ 迎えにきたレーヴ 話したいことも山程ある」
「こっちもだよ・・ファリ」
透明なドームの天井から黄金色の光が注ぎ 奥の木々やこちらを
照らして その黄金色に染め上げる
豊かな実りの麦や米の穀物達の金色の穂がゆらぐ・・。
FIN