哀しき犯罪者たち
初めて投稿させていただきます!
普段はYouTube上でショートストーリーを投稿しているのですが、小説は初挑戦です。書き方のルールなど、まだまだ勉強中なので、もしよろしければアドバイスなど頂けると嬉しいです。
今後も定期的に投稿していきますので、よろしくお願い致します。
パーティーはその日一番の盛り上がりを迎えていた。外の鈴虫たちの鳴き声が風情を添える。個性のないアラフォーの男たち。誕生日の主役がかぶるような帽子を全員被っているが、誰も誕生日ではない。
ちゃっかり帽子を被っている鈴木真一もそのパーティー参加者の一員。呑んでは喰い、呑んでは喋りを繰り返しているが、何のパーティーか彼自身は知らない。でも、ただならぬこの楽しさに満足ではある。
「なんて愉快な日なんだ、今日は」
日頃、鈴木が会社で抱え込んだストレスは、男たちが放つクラッカー音と共に和やかな雰囲気の中へ中和されていった。この時間が永遠に続くと思っていた。鈴木があんなことを言うまでは。
主催者の男が「宴もたけなわですが」と定型文的締め言葉をつらつらと述べ始めたとき、鈴木が「そーいえばさ」と言葉を被せた。注目が一点に集まり、鈴木は続けた。
言い終わった途端、楽しげな空気に蓋を被せたように男たちは静まりかえっていた。
「あれ? そんなおかしなこと言った……かな?」
鈴木は得も言われぬ空気を察し、引きつった笑顔を見せた。
男の一人が立ち上がり、
「じゃあ……行こっか。みんなで秘密基地に」と提案した。
秘密基地。三十年ぶりだろうか。そう言えば、彼らと出会ったのも三十年くらい前だっけ。
三十年前。小学五年生だった僕は、まだ夏の暑さが残る九月に母の生まれ故郷の片田舎に引っ越して来た。都会の学校でいじめにあっていたことは誰も知らない。ここが僕の人生の再出発地。
「明日からよろしくね。鈴木くん」
と、転校前の面談を終え、担任の先生に見送られて帰路に着く道中、これから三十年来の友となる男、天野七瀬に出会うこととなる。
コンビニすらない田舎道をひたすら歩く。スピーカーから漏れる流行歌手の雑音に囲まれて生活していた都会の暮らしに比べ、ここでは鳥の鳴き声や川のせせらぎがこの町のBGMだった。都会では見たこともない景色に気を取られ、自分が道に迷ってしまったと確信したのは、誤った道を選択して、しばらく経ったあとだった。
途方に暮れながら、辿り着けるかわからない道を歩いていると、自分と同じくらいの少年と出会った。彼が、天野七瀬である。
「こんなトコで何してんの。ってか、ここら辺じゃ見かけない顔だね。もしかして、噂の転校生? 何で黙ってんの。なんか言えよ。ハハ」
女の子みたいな名前の少年は初対面の僕に対してマシンガントークで質問を次から次へぶっ放す。
こんなガサツな奴が同じ学校でありませんようにと願うが。
「こんなド田舎に小学校いくつもあるわけねぇよ」
こんなガサツな奴と同じ学年じゃありませんようにと願うが。
「え、マジで。俺と同い年じゃん」
こんなガサツな奴と同じクラスではありませんようにと願うが。
「小五のクラス、一クラスしかねえよ。しかも、七人クラス。お前が八人目」
ホントに最悪だ。僕の人生の再出発地。そこは地獄の一丁目なのか。
「名乗れよ」
心の整理がまだできぬ僕に、なおも七瀬は質問の手を休めない。
「万引きしに行かない?」
どこに。ってか、なんで。こいつはバカなのか。万引きしないかと誘われて「YES」って言うわけがない。
「いや、行かないでしょ」
「なんで、行かないの」
なんで、こいつはのうのうと不思議そうな顔ができるんだ。その表情はこっちの顔だ。
僕にとって天野七瀬の第一印象は最悪だった。自分の自己を貫くゆえ、個性的ではあるがクラスで浮いてしまうタイプ。それが、天野七瀬だ。
彼は、自分は計算高い人間だと言っていたが、もしそうだとしたら彼の電卓はすでに壊れている。
七瀬と別れた後、僕は明日からの学校生活に不安な思いしかなかった。初日から登校拒否しようかと思った。明日にならなければいいのにと思っていたが、迷いに迷って家に着いた頃には疲労がピークに達しており、帰るや否や、バタンとベッドに突っ伏した。
気づけば朝。
登校拒否せず外に出られたのは、
「クラスメイトは別に七瀬ひとりじゃない。少ない人数って言ったって他の七瀬じゃない六人と友達になればいいんだ」と自分自身に言い聞かせたから。
前の学校での失敗は、逃げ続けてしまったこと。ここで僕は変わるんだ。ここで再出発するんだ。そう思うといくらか楽になった。少しずつ新しいクラスへの期待も増してきた。ひょっとしたら変われたのかもしれない。
教室の前。「ふぅ」と、一呼吸をおいて扉を開けた。
「はじめまして。今日からヨロシ……ク」
僕はその時、愕然としたことを今でも覚えている。
クラスメイト全員が天野七瀬だったのである。比喩的な表現ではなく、みんな揃いも揃って天野七瀬なのだ。
「じゃあ次の問いの答えを一郎くん」
「いえ、僕は三郎です」
「次は二郎くん」
「いえ、僕は五郎です」
「次は……四郎くん?」
「いえ、僕は一郎です」
「君は……何郎くん?」
「いえ、僕は七瀬です」
四十五分の授業の間、担任の先生と生徒のこのやり取りが三十分は続いた。
「この問題わかる人?」
「はーい!」
自分以外、全員の手が上がる。手を上げるタイミングも、喋り方も、髪型、顔まで彼らは全く同じだった。それもそのはず、彼らは七つ子だったのだ。
天野七瀬とは、天野家の七男坊で、上から、一郎、二郎、三郎、四郎、五郎、六郎、七瀬。なぜ七郎ではなく七瀬なのか。初めはそんな疑問もあったが、彼らの言動を見ているとそんな疑問なんて埋もれてしまうくらい、次々と疑問が生まれてくる。
そもそも、瓜二つならぬ、瓜七つの顔を持つ彼らはどうしてこうも同じなのだろう。顔は一緒でも見分けるポイントとかヒントがあるのが普通だ。
でも、彼らにそんな常識は当てはまらない。髪型(ぴっちり横分けの分け目も含む)も、服(色も含む)も何から何まで全く同じ。先生ですら、未だに見分けられていない様子だった。
また、彼らは遅刻をよくした。それが特定の一人で、見分けるポイントになればまだいいものを、一郎も二郎も三郎も四郎も五郎も六郎も七瀬も順繰りに遅刻する。そこに規則性もクソもない。二郎が二回続けて、遅刻したかと思えば、六郎が一回遅刻。五郎がトイレに行ったかと思えば、三郎が遅刻して教室に入ってくる。
もう先生は何郎がいま教室にいて、何郎がいないのか把握出来ていない。席順は決まっているが、いかんせん天野兄弟は揃いも揃ってやんちゃ坊主でガサツ。そんな席順、ハナから守る気はない。
ガキ大将なんて、学年に一人いれば十分で、それがそいつの個性だけど、兄弟揃って全員がガキ大将気質なものだから、それは言ってしまえば、このクラスでは普通なこととなり、個性は一気に無個性へと陥落する。
そんな訳で、普通に育ってきた僕は今まで無個性で目立たぬ存在だったけど、このクラスでは唯一の別ジャンルの人間で、何郎に言われたかは定かじゃないけど(もしかすると、あれは七瀬だったのかも)、
「お前ってさ、真面目で、すげぇ個性的だよな」と言われ、目立つ存在に成り上がってしまった。
最初は、七瀬みたいな奴が七人もいるクラスが嫌でたまらなかったけど、ガキ大将っていうのは昔から弱い奴の味方になるのがこの世の常だ。このクラスで唯一弱い奴の僕は七人から均等に可愛がられた。そこにも個性差は出なかった。
テストの点数が悪くて落ち込んでいる時も、それぞれの天野に同じ慰めの言葉を均等にもらった。さすがに、三人目の天野で元気を取り戻した僕は、残りの天野の言葉は受け流していたが。
同じ性格同士だからなのか、天野と僕が遊ぶときは常にその場の天野濃度が66%を越えることがなかった。常に2:1の比率(もちろん天野兄弟が2だ)。基本的に天野兄弟は一人で過ごすのが好きなようだった。
「元々、七瀬くんだけだったのよ。やんちゃ坊主は」
ある日、担任の先生に言われたことがある。先生がいうには、小四の頃から、急にみんな七瀬のような性格になったのだという。
天野家は、母親が女手一つで育てており、元々は厳格な父親がいたようだが、七瀬は末っ子ということもあって、母親には特に甘やかされていた。そのため、七瀬の性格だけがやんちゃとなったのだ。でも、それに父親はひどい怒りを覚えていたらしい。
「お父さんが厳しい人でね、言うことを聞かない七瀬くんはいつも痣をつくって学校に来ていたわ。きっと虐待されていたのね」と先生は振り返った。
上の六人は父親の鉄拳制裁が怖く、すごく大人しい性格だったらしいが、彼らが小四の頃、父親は他界した。そこから、ぷつんと緊張の糸が切れたように七瀬以外の六人も、やんちゃになったと先生は僕に語ってくれた。もちろん、七瀬に新しい痣ができることは、それ以来なかったという。
「あそこの家、お母さん一人で七人も見ないといけないでしょ。ひどく貧乏で、亡くなったお父さんのお墓もろくに立てられなかったって……」
そんな赤の他人の家庭事情を先生は、小五の僕にのうのうと垂れ流していった。話の後半は、覚えていない。先生に対する猜疑心によって僕の心は完全に閉ざされていたのだ。
ただ、兄弟の中では「七瀬」という、ちょっとした特別な名前が与えられているあたりを見れば、そんな話を聞かなかったとしても、確かに七瀬が兄弟の中でも特別扱いを受けていたのではないかと、推測はできた。
そんな事情もあり、七瀬と二人で遊んでいるとき、僕はふとこんなことを聞いてみた。
「七瀬はさ、お兄ちゃんたちからイジメられたりしたことないの」
「なんで、そう思うんだよ」
「いや、みんな何々郎なのに、一人だけ『七瀬』っていうからさ。なんであいつだけって、嫉妬されてもおかしくないんじゃないかなって思って」
七瀬はただ笑うだけだった。
きょとんとしている僕を見て、七瀬は、
「じゃあ行こっか。秘密基地に」
とだけ言い残し、すたすたと歩いていった。
秘密基地。そんな場所があるんだ。その時の僕は、『秘密基地』という男子にとってのキラーワードにただただ惹かれるばかりで、彼の「じゃあ」という言葉の意味を深くは考えず、ワクワクしながらついて行った。
そこは、『秘密基地』というよりも、ただの小高い丘だった。人が出入りしている気配はなく、雑草が生い茂っていた。
七瀬は無言で穴を掘り出し、
「ほら、見てみろよ」と僕に顎で合図した。
穴の底には白い木の棒のようなものが何本か置かれていた。僕はそれが何かを確かめようと、そこから一本取り出した。
骨だ!
「それ、俺の大切な人の骨なんだ」
七瀬は僕が手に持つ骨をじっと見つめて言った。
ふと、先生が語った言葉を思い出す。
「あそこの家、お母さん一人で七人も見ないといけないでしょ。ひどく貧乏で、亡くなったお父さんのお墓もろくに立てられなかったって……」
僕が持っているこれは父親の物だと直感的に思った。
あれから、もう三十年。酔いが完全に回り、ふらつく僕はあの時と同じようにそこで、掘り出された骨を持っていた。
不意に、違和感がよぎる。こんなに小さかったっけ。あの感覚と同じだ。学校を卒業して久しぶりに教室に入ると、「あれ、机ってこんなに小さかったっけ」というあの感覚。
あの時は大人の骨だと思っていたけど、いま思えばこれは完全に子供の骨だった。そう思った瞬間、あの時の七瀬の言葉の違和感に三十年の時を経てようやく気づいた。
僕が「お兄ちゃんたちからイジメられたりしないの」と聞いた後のあの言葉。
「じゃあ行こっか。秘密基地に」
なんで「じゃあ」なんだ。なんで、イジメられたりしないかの後の答えが「じゃあ」秘密基地に行って骨を見せることだったのか。そもそも、なんで僕はいまここにいるんだっけ。
振り返ると、天野たちがこっちを見ている。相変わらず、同じ顔で同じ髪型。同じ長袖シャツを着ている。いつ会う時も同じ格好。どんだけ、個性がないんだ、この兄弟たちは。挙げ句の果てに、同じ帽子。あっ、同じ帽子は僕も被ってたっけ?
いやいや、そんなことはどうでもいい。なんで、ここに僕はいるんだ。アルコールのせいで、記憶が曖昧だ。思い出せ、思い出せ。
パーティーはその日一番の盛り上がりを迎えていた。
一郎が「宴もたけなわですが」と定型文的締め言葉をつらつらと述べ始めた時、僕はたまらずこう聞いた。
「そーいえばさ。欠席してるの、誰だっけ?」
天野兄弟は全員で七人。しかし、この場にいるのは六人だ。一人足りない。
僕は担任の先生気取りで点呼を取り出した。
「天野一郎!」
「ほーい」
一郎が子供っぽく返事する。
会場は笑いに包まれる。
「二郎!」
「ほーい」
「三郎!」
「ほーい」
クスクスと笑い声。
「四郎!・・・四郎?」
「先生ー、四郎くんはもうおネムのようです」
四郎はいびきをかいてソファで寝ている。
僕は咳払いをし、もう一度、
「四郎!!」
「え? はい」と眠気まなこで答える。
再び会場は笑いに包まれる。
「五郎!」
「ほーい」
「六郎!」
「ほーい」
「七瀬!」
「ほーい」
いや、おかしい。どう見ても、この場には僕を含め、七人しかいない。それなのに、点呼は七人分取れてしまった。
「誰だよ? 二回返事した奴は」
僕の元に六人の注目が一点に集まる。
「いや、誰か今日来てないんだろ? 別に仕方ないじゃん? パーティーに欠席者がいても」
僕の投げかけ虚しく、六人は黙り込んだままだった。
「誰だよ? 誰が来てないんだよ!」
言い終わった途端、楽しげな空気に蓋を被せたように男たちが静まりかえっていたことに、僕は気づいた。
「あれ? そんなおかしなこと言った……かな」
得も言われぬ空気を察し、引きつった笑顔を見せた。
一郎が立ち上がり、
「じゃあ……行こっか。みんなで秘密基地に」
と提案した。
「そうか。僕は会いに来たんだ。でも、一体誰に?」
ここに来た経緯を思い出し、僕は独り言のようにつぶやく。
「元からそいつと真一は出会ってないんだ」
誰かが言った。
「そう。三十年前からそいつはそこにずっといたんだ」
他の誰かが言う。
「いや、おかしいじゃん。小学生の頃、七人全員で過ごしたじゃん。一緒に遊んだじゃん」
「いや、鈴木が転校して来てから、七人全員揃ったことないよ」
確かにそうだ。いつも、誰かが遅刻か欠席していたし、遊ぶ時はだいたい三人。
「いや、でも」
「俺らは順繰りに『そいつ』が生きているかのように振舞っていたんだよ。だから、俺らっていつも同じ髪型に、いつも同じ服。入れ替わったことがバレないように」
「なんで、そんなことすんだよ」
「『そいつ』を俺らが殺したから」
「は? 殺した? 嘘だろ? なんで」
「みんな『そいつ』に嫉妬してたんだよ」
「『そいつ』って誰だよ?」
僕はそう言い終わらないうちに、ふとある仮説が浮かんだ。
「七瀬?」
あの時、「お兄ちゃんたちからイジメられたりしないの?」と七瀬に聞いた後のあの言葉。僕が七瀬だと思っていたけど、実際は別の誰かが七瀬のふりをしていたのだと考えると、その後の「じゃあ行こっか。秘密基地に」の「じゃあ」ってのは、イジメて殺したっていう答えだったのか?
「そう。七瀬だよ」
天野兄弟の一人が言った。
「愛されていたのはいつも七瀬だけ。七瀬はいつも特別扱いだった」
「そんなことないだろ?」
僕はたまらず反論した。
「テメェになんでわかんだよ! だってそうだろ。俺らだけ『何々郎』でそいつは七瀬だ。生まれた瞬間から俺らとそいつには格差があったんだよ」
「俺たちも母親の愛情が欲しかったんだ。みんな『七瀬』になりたかったんだ。だから、『そいつ』が邪魔だったんだ」
あんなに楽しかったのに。なんでこんなことになったんだろ。僕はあんなことを言うんじゃなかったとひどく後悔していた。走馬灯のように、今日最後の和やかだったあの瞬間を思い出していた。
「ほーい」
「ほーい」
「ほーい」
「え? はい」
あの時が最後の笑いだったっけ?
「……あっ」
僕はあることに気がつき、声が出る。
「なんだよ? 今更、俺らを警察送りにするってか?」
「……でも、七瀬は生きてるよ」
「は? 何言ってんだよ」
天野兄弟たちは驚いているようだったが、僕は続けた。
「なんで、七瀬が居なくなっても七瀬のふりを続けられたの?」
「は? 何が言いたいんだよ」
「天野くんたちは小四までの七瀬しか知らない。なんで、大人になった七瀬のふりも、続けられたの? 当時の七瀬を演じられても、そこからの七瀬は誰がモデルになるの?」
「誰って……それは」
「いくら七つ子って言っても元は違った性格だったんでしょ? 成長するにつれて七瀬がいないと個性の整合性が取れなくなって矛盾が生じる。今まで七瀬がいないってバレずに来れたのは、本物の七瀬をモデルにみんながその言動を模倣したからでしょ? ってことはつまり、この中に……」
「う、嘘だろ? この中に七瀬がいるのかよ」
「じゃあ、俺らが殺した『そいつ』は誰だよ?」
「いつの間にか七瀬と『そいつ』が入れ替わっていたって言うこと? なんで?」
天野兄弟たちはわかりやすく困惑しているようだった。
「七瀬」っぽくないその素振りに僕は笑いがこみ上げる。
「たぶん、『そいつ』は七瀬の口車に乗せられたんだよ。で? いつも誰をモデルに七瀬のふりをしてたの? きっとそいつが七瀬だ」
僕は探偵気取りだった。
天野兄弟の一人が口火を切る。
「お前だろ、七瀬は? 俺はいつもお前の言動を模倣してたんだ!」
「違うよ! だって僕はいつも三郎兄ちゃんのマネを。もしかして、三郎兄ちゃんが?」
「ちげぇよ! ワイはいつも二郎のマネを」
「はぁ? 小生は一郎兄ちゃんの言う通りに」
「こいつらは無個性の集団だと思っていたけど、一人称から個性的かよ」と僕は思った。
ラチがあかなそうなので、僕はある提案をした。
「天野くんたち! 『七瀬』が一発でわかる方法教えてあげようか?」
僕は完全に酔いが醒めていた。
「なんだよ、それ?」
「みんなで腕まくりするんだ」
「は?」
「早く、早く」
天野兄弟達はしぶしぶ腕をまくる。
「いつも、不思議だったんだ。なんで、いつ会う時も長袖シャツなのかなって。でも、アレを隠すためだったんだね?」
「アレってなんだよ?」
「お父さんにつけられた痣、だよ。そうだよね、七瀬!」
唯一、痣のある腕を見せた男に向かって僕は言った。
「大切な人の骨っていうのは、自分の身代わりになってくれた兄弟を指していたんだよね?」
痣を持つ男は不敵に笑っていた。
本当のパーティーはこれからが一番の盛り上がりかもしれない。
殺人事件を子供ながらに犯した背景。その殺害方法。どう言いくるめて入れ替わりに成功したのか。そもそも、父親は自然死だったのか。このパーティーは一体何のための催しだったのか。夜が明ける前までには、真相を明かしてもらいたい。本物の七瀬に。