お転婆姫が実は最強のお嫁さんだったら?
「勇者、タカツ マコトに魔王討伐の報酬として我が娘であるティーナ・オルレアンとの婚約を認める。」
「…え?」
高津 誠は異世界で勇者をしていた。
この世界の名はラドバル。
この世界の創造主に誘われ、この世界に平和をもたらす事を目的に勇者として活動した。
異世界転移してきた22歳の時。
そして、5年の歳月を経て、魔王を退ける事に成功し、ラドバルでの活動拠点であるオルレアン王国にて魔王を討伐した表彰とその報酬を戴くために、こうして王城へと足を踏み入れていた。
しかし、ここ数年目まぐるしい活躍をしていたマコトが別に王国へ足を踏み入れる事に今更緊張はしなかった。
なので、まさかこの表彰で度肝を抜かされるとは思わなかったのだ。
褒美が娘との婚約などという物が出てくるとはと…
「どうした…勇者マコトよ?」
「えーと…」
「ティーナは父である私が言うのもなんだが、民衆に慕われている良き姫だ。その夫となれるのは男としても誉れ高き者になるぞ」
「あー…」
「婚約してくれるな?」
「え~っと…」
「して」
「…………はい…」
そして、そのままなし崩しでお嫁さんを戴いてしまったマコトだった。
マコトは内心で先の心配をする。
婚約を受け入れた事で周りが大喜びしている。
そんな楽しい空気と裏腹にリョウマの心の中は汗でいっぱいだ。
(まずいな…)
なぜこれがまずいのかと言うと、その姫様というのがなんともクセが強い人なんだ。
これはお城に住む者しか知らないあだ名。
「お転婆姫」ことティーナ・オルレアン
最初の1年半程を王城で過ごした。
この世界では当たり前とされる魔法や常識を学ぶためにマコトは住んでいたのだが、その時に体験したティーナとのハチャメチャな日々はそれはもうひどいものだった。
順に説明するためにまずは世間が彼女をどう見ているか説明しよう。
ティーナ・オルレアン
歳はは27歳になる西洋風の顔立ち。
オルレアン王国第二王女で、その容姿はまるで天女の如く美しく、その声で多くの男は骨抜きにされるという程の美声の持ち主だ。
髪は金色に輝く金髪で、その肌には一切の汚れがなく透き通った白い肌をしている。
また非常に人格者として民衆に知られている。
彼女は奉仕活動を率先して行う、良き王族なのだ。恵まれない子供たちを保護、そして教育をするために健全とした孤児院の設立や民の生活環境の改善を多くしてきた。
意見をマコトによく聞いてきたりもし、マコトの持っている先進的な知識にも興味を示していた。
人々は皆、彼女を天使の使いだと表現し、平和の象徴として尊敬を抱いている。
…これまで述べた事からだけなら「お転婆姫」の名称は着かないし、想像もしないだろう。
ただそれは城の物が…特に上層部がうまく…そして日々たゆまない努力で隠しているのだ。
彼女は天性のトラブルメーカーで、多くの災難を呼び込んできたのだ。
まずはそのあまりの美貌に、他国の王子達から誘拐された。
初めて誘拐されたのはまだ彼女が小さい時…そしてあらゆる防犯をしてもなぜか度重なって誘拐されるのだ。
過去18回、様々の国の王子の計画の元に誘拐されているのだ。
(どこの桃姫だよ!てか多すぎだし、警戒心もってよティーナ様!)
俺が王国に来てからも4回程警備に加わるようになったが(いずれも主な護衛位置に入れなかったが…)、それでもなぜか誘拐される。
最初はそれらしい処罰が下されていたみたいだが、後半になるにつれ、目立った被害がない限りは不問とすらなっていた。
それも犯人の王子や犯人が錯乱状態と医師に診断され、同時に過去の国際問題の真相の関係者で証拠が表沙汰になって各国の上層部を退くというのに陥っていった。
なので、結果的に各国を救う形になっているというのも不問とされる理由のひとつかもしれない。
他にもある…
先程述べたように、孤児院の設立をするぐらいに彼女は奉仕活動を率先して行っている。
それは彼女自身の奉仕精神から出た行動であり、それは大変立派だ。
そして、それは日常的にも表れ、よく手料理を城の者、特に武官の身分にある者によくしている。
この手料理が不味いのだ…
いや、まだ「不味い」だけなら食べられる。塩と砂糖を間違えても、それで完成される料理は頑張れば食えない事はないのだ。
しかし彼女の料理には常人には考えられないものが入っている。
「栄養がありますから!」
天女のような彼女は言う。
そして知らない人はすんなりと口にしてしまう。
そして多くの物は言葉を発さずに…
「ぐわっ!」
「うっ」
「おぉ…」
といった声にならない悲鳴をあげて倒れる。
彼女は決まって魔物の肉や魔薬草といった劇物が料理に混ぜているのだ。
この世界において魔物の肉や魔薬草は魔力を帯びているために人ぞれぞれで反応が変わる。
また倒れるだけならいいが、二次災害もある。
ある時はとある兵士が彼女にマンドラゴラのスープを飲まされたそうだ。
すると、活力剤の効果が出たそうで、その晩に彼の妻と長い夜を3日と過ごし、来年には新しい命を授かるそうだ。
またある時はオルレアン王国の宰相が日々の栄養が足りていないとティーナ様に言われ、ドラゴンのステーキを食わされたようだ。
遠回しに断ろうとしたが、無理やり食べさせられたみたいで、食べた日の夜は、腹を下し、3日程トイレから出れなかったそうだ。
王国の経済の重要人が外に出られずにいたせいで、オルレアン王国の経済が破綻しかけたそうだ。
そして彼女の父である王様も被害にあっている。
王様はある時、彼女の料理を口にしたら美味しかったそうで何の料理家を聞いた。すると、その料理は人魚の肉で作られたハンバーグで、王様は知らずに不死身の肉体をなりかけていた。
マコトが無理やり外科手術をして、食べた肉を消化前に取り出す事で不死身を免れたが、後数分遅れていたら不死身の王が完成していた。
そもそも人魚は絵本と違くとても危険な伝説の魔物だ。一体どうやって探したのか…
そして、無理にでもやめさせればいいじゃんと言ったそこの君…
そもそもどうして一人の姫様が魔物の肉や魔薬草を加えた調理ができているのか?
それは彼女にはユニークスキルである「守護騎士」というのが存在しているからだ。
どういうスキルかというと、騎士の守護霊を発現させるスキルで、そいつはティーナのためならなんでもする。
言わば、魔法のランプの精
そしてこの守護霊は絶対に彼女の意見を遂行させる。
この守護霊が大変厄介だ。
この守護霊は敵と認識するものは直接触れない上、魔法も効かないし、見えなくなる。
そんな存在がティーナ様がお願いを言う時に後ろにそびえたつのだ。
(ティーナ様の言う事を聞かなければどうなるか分かるな?)と言っているようだ。
尚、これに本当に歯向かった者は、後日に俺が赴いた討伐クエストでゾンビになって再会した。何があったの?!
まだあるぞ。
彼女は俗にいうドジっ子属性だ。
ある晴れた日に転んだ結果、ドミノの様に王城の土台に一つ大きな傷をつける程まで発展した。
ある時は水魔法でお庭を片付ける手伝いをしたら、なんと濁流を起こしてしまい、花壇の土が道に流れ一面を茶色にした事
もはやドジっ子属性というか、クラッシャー属性と言えるぐらいにあらゆるものを壊しているのだ。
27歳なのに、まだ嫁いでいないそういう理由があるからだ。
表彰式が終わり、自室で頭を悩ませるマコト。
「うーん」
(このままではお嫁に出せないと思い、まさか自分に嫁として出すとは…)
(そんな問題ありありの王女様と婚約なんて…それに今の俺には違う問題があるけど…)
ある不安を抱えるマコト。
そして、まだ王のいる間はティーナとマコトとの婚約で騒いでいたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はー」
その後他の報酬も戴いた俺は今、王城にある自室でティーナ様との結婚に対して考えこんでいた。
いや、実をいうと彼女の事は悪くない思っているし、性格もとてもいいので、本当は喜びたいのだけど…あのトラブルメーカーを抑えられるのかともう(・・)ひとつ(・・・)の(・)事情から悩んでいた。
トントン
誰かが部屋の扉を叩く音がする。
「マコトさんいらっしゃいますか?」
すると、ティーナ様の声が聞こえてきた
どうやら部屋にやってきたみたいだ。
「あ!どうぞ!」
「失礼します」
ティーナは部屋に入ってきてあたりを見渡す。
「ははは、散らかっててごめん」
「いえ、あまり殿方の部屋に入った事がないので…すみません」
そしてティーナ様が入ってきて、俺の前にあるソファへと座る。
目の前に座られると、その美貌に見慣れた俺ですらたじたじしてしまう程に綺麗だ。
どこか言いずらそうにしていたのでこちらから聞いてみる
「あの何か聞きたい事があってきたのですか?」
すると、ティーナ様が申し訳なさそうにいう
「あの…結婚の件、実は迷惑ではありませんでしたか?」
どう答えればいいかマコトは少し悩んだ。
そして答える。
「まぁ…驚きはしましたね」
素直に思った事を言おう。
「でも、嬉しいです。だってティーナ様…いえ夫になるからティーナでいいか?とにかくティーナみたいな美人で立派な…少し問題のあるけどいいお嫁さんに貰えるなんて嬉しいです」
本当は少しクールな女性が好みではあるマコトだ。ティーナはとても美人だが、どこか神々しすぎるところもあり、マコトは自分と釣り合っていないのではと思ってしまう。
(まぁ、結婚する相手は最高のマッチングよりも、ある程度マッチしている方が長い目で見ればうまくいくというし…)
「実はある事を伝えたくてここに来たのです。」
「え?」
俺は少し驚いた顔をする。
「その前に…「守護騎士」!出てきて」
彼女の一言で霧状の霊が空中で目の前に出てきた。
甲冑騎士の恰好をしたこの霊こそ、件の「守護騎士」みたいだ。
「え?どうして守護騎士?」
マコトを無視してティーナは守護騎士に話す。
「はっ、姫よ、以下がされましたか?」
「この周りに聞き耳を立てるものがいないか、いれば遠くへやってしまって」
「御意」
そうして、どこか消えてった。
「少し待ってて、聞かれるとまずい話だから」
しばらくすると守護騎士が帰ってきた。
「姫様、この周りには誰もいません、後音がもれないように結界も張りました。」
「ありがと守護騎士」
「はっ、では」
そういい、守護騎士は消えた。
「…守護騎士に命令ができるのですね」
「見せた事なかったですね。元々このスキルは私の命令がないと発動しないのです、お庭で濁流を作ったりとか…」
「え?」
それはおかしい、彼女は5歳からこのスキルを使っている。しかも、内容は命令というよりもお願いに近く、強制力がないものばかりだった。俺も皆も守護騎士の気分で聞いてる所があると思ったのだが…
「まずマコトさんがいっていた私の問題の部分…あれは今までのは全て私が守護騎士に命令した事なのよ。私のお願いを聞く命令を5歳の頃からね」
「えっ」
さらに驚愕する俺
「そもそもスキル「守護騎士」は私の命令を聞く守護霊を出すスキルではないのよ」
そしてティーナは続けた。
「このスキルは最初に言った願いを叶えるためのスキルなの」
にやっと彼女は小悪魔のように言う。
「私は5歳の頃に言ったの、マコトと結婚するために協力をしてほしいって」
今の彼女はどこか持て囃される天女のティーナではなく、いつもとは違う雰囲気を出していた。
「えっ!」
さっきから「えっ」しか言ってないな俺…
「まず私は5歳の頃に、遠見の水晶で異世界の勇者候補であるマコトをみたの」
遠見の水晶は水晶を通し、どこでも見れるという便利アイテムだ。
「未来に呼ぶとされる勇者候補を下見する目的だったそうよ…そしてそこに写るあなたを見て私は一目ぼれをしたわ」
ぽっとした表情で照れながら話すティーナ。
「私はあなたと結婚したいと思った。でも父は私を将来的には異国の王子と結婚する事で地盤を固めようとしていたわ。」
「でも、私はなんとしてもあなたと結ばれたかった。だから、私はまず奉仕活動に勤しんだわ。民の心を得る事で王城に残りやすくしたの。」
聞けば、有能な部下を見つけて、その人らを孤児院の院長なり経営をさせていたらしい。
「次に私は自分がお転婆姫と言われるために料理をふるまったわ…子ら…げって顔しない。」
「いや、でもティーナの口から料理という単語を聞いただけで寒気がするよ」
「あなた私をさっきまで様付けしていたよね?…まぁいいわ、私はあえて不味い料理を皆に出したわ、ただ不味いのもあれだから食べたらある程度の副作用があるけど元気になる料理にしたのよ」
(そういえば、料理を食べて下痢になった宰相は腸の調子が良くなったとか言っていたような…)
「ドジな演技も日常的にする事で父にこの子を嫁に送らすのはよそうって考えを抱かせたの」
ふふふとティーナは笑みをごぼした。
「そしてあなたが旅立った直後の2年半前に両親に言ったの、マコトを結婚したいって」
「なっ!」
この婚約はそんな時から元々はティーナが望んでいたのか。
「なって…まぁいいわ…勿論利点も言ってね。まず対外的な事を気にしなくてもいいし、勇者と姫様の結婚は世間的にも悪くない。他国との関係も勇者と血縁関係を設けた事をアピールする事である程度良くする事ができる…とかね」
すらすらとティーナは話す。
「それから私を魔王討伐の報酬とする事が決まったわ。」
「その前は勇者の報酬も婚約ではなく領主になる権限と土地だったのよ。現にあなたも貰ったでしょ?」
確かに婚約のついでといってはなんだったが、ある土地の領主となる権限も褒美として戴いた。
「ちょっと待て」
ここでマコトは話を止める。
「どうしました?」
「じゃあ誘拐はなんなんだよ?」
誘拐の言葉を聞いてワクワクした感じでティーナは楽しそうに話した。
「誘拐ね。あれはしつこい王子をあらかじめ脅迫をして、私に誘拐をさせていたのよ。守護騎士を使って証拠もばっちり。本来は遠くに行けない守護騎士も一つ目の願いの延長で遠くにいけるようにしたの。さらに誘拐される事で曰く付きを疑われるからね、ちなみに大丈夫よ、私はまだ純潔を保っているわ」
あなた以外に体は許さないよとティーナはニヤリという。
なんか目の前にいる知り合いはこれまで見ていたのとは違うように見える。
あの天女のように優しい雰囲気だったティーナ。お転婆姫と言われ、どこか純粋な雰囲気今まで出していた彼女はまるで傾国の姫のような妖艶な雰囲気を今は醸し出している。
「じゃあ…つまり料理とか家事も普通にできるということ?」
「当たり前よ。試しに食べてみる私の料理?」
そういい、部屋と料理の支度をするティーナ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
小一時間後…
「わぁ…なんだよこれ」
俺の部屋はまるで新品同然に綺麗になっていた。
ベッドは綺麗に整えられ、皺が一つもない。
棚周りも埃一つなく、反射して見えるぐらいだ。
そして、机の上にはなんとお米とそれに合いそうな焼き魚の料理があった。
「料理はマコトの故郷の料理を再現したわ…食べてくれるよね?」
照れながらティーナはいう。
お互い席に座る。しかし、先ほどと違うのはティーナが横に座っているのだ。
「気にしないで食べて」
いや、流石にそれは…まぁもう色々驚きすぎて緊張がマヒしてきた。
「では、いただきます」
そして目の前のお米と魚を一口ずつ食べる。
「うわっなんだこれは?!日本で食べていた米よりもぷるぷるでうまい。魚もしっかり焼きながら、塩味が効いていて美味しい。」
「よかった!」
そのまま箸が進む俺。
「これで私が言いたい事は全てよ。これでもまだ問題かしら?」
もはや、最初のどこか純粋な感じではなくどこかクールな感じで聞いてきたティーナ。
俺は気になっていた事を聞く。
「…そっちが素か?」
「そうね、あなたの好きなタイプっていえばいいかな?」
(こいつ…知っている…)
どうやら、ティーナはお転婆姫ではなく、用意周到な策略姫のようだ。
「あぁ、すごい俺好みですよ。さっきも言いましたけど、ティーナは本当に俺には勿体ないお嫁さんだよ」
素直に言おう
「俺も正直にいうと君の事が好きだ」
「え?」
ぼっと顔を赤くするティーナ
「これから先に色んな困難があると思うけど、ティーナの事幸せにする。」
「それにティーナはこの告白で俺に対してだましてすみませんって事を謝りたいんだろ?」
そして照れくさそうにいうティーナ
「…ええ、そうよ、結婚するためとはいえ、今まであなたをだましていた事に変わりないのだから」
初めて彼女に悲しみの表情を顔に出した。
「俺はそうは思わないよ、今のティーナも魅力的だし、前のティーナも俺はティーナだと思う。それで民を笑顔にしていたし、何より皆を楽しませていた。だからだましていたなんて思わないよ」
ティーナは「お転婆姫」と言われていたが、かならずしも悪い意味だけではなかった。
魔王の侵略がある中、王城の姫様のニュースはお茶の間を賑わせていた。暗いニュースがある中でも、それを笑顔に変えていたのは彼女の功績と言えるだろう。
「改めて僕の方から言わせてほしい。ティーナ、俺と結婚してください。」
俺は笑顔で言った。
ティーナは顔を真っ赤にさせていた。頭には湯気が見える。
「えぇ…えぇ…不束者ですがよろしくお願い致します。」
ティーナは満面の笑みで嬉しそうに言う。
やっと長年の想いが通じたのだ。
「で…さっそくで悪いが、僕もティーナを騙していたんだ」
「え?どういう事ですか?」
ティーナは頭に?を出している顔で俺に聞いてくる。
今度はティーナを驚かせる番かな。
「実は…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ティーナの事を知ってから一年が経った。
あれから城下町のはずれにある教会で結婚式をした俺ら。
城の人たちや城下町の人々に心から祝福され、幸せな時間を過ごせた。
王様が大号泣していたのは印象的だった。嫁ぎ先が狭まった中でようやく良い相手を見つける事が出来て嬉しい反面、娘が旅立つのを残念がっていたのであろう。
そして、俺らは王城ではなく、俺が領主となる領地で暮らす事になった。
ティーナを頂戴した時のもうひとつの報酬が領地の持つ事だった。
これからこの領地で人間と魔族の共存と日本の文化や技術を利用して発展していこうと思うのだが…
その領地というは
「私の元領地だな。マコト」
元魔王 エルリーナ事リーナがいう。
今は元魔王城を改装して、彼女も一緒に住んでいる。
長い黒髪を後ろでまとめた髪型にぱっちりとした目。日焼けした色の肌だが、活発というよりかはどこか軍服が似合いそうな凛々しい雰囲気を出している。頭には小さめの角も2本ある。魔族の特徴だ。
そう、魔王は死んでなどいなかった。
「“本当は決闘で死ぬつもりだったが、あなたと生涯一緒にいたくなった”は流石の俺も面を喰らったよ」
「しょうがないだろ…魔王という立場上、夫など誰もなろうとしなかっただから」
リーナは恥ずかしそうに顔を赤らめていう。
実は彼女は人間との交流をしたかったのだが、彼女の部下たちが勝手に人間の国を攻めてできなくなっていた。そのまま討伐に来る勇者に殺されようとしたのだが、俺と出会って文字通り、心変わりしたそうだ。
魔王は俺に一目ぼれした。
ティーナもそうだが…俺ってそんな容姿良くないけどなんでそんなに一目ぼれされるかな?
まぁ、そんなわけで元魔王であるリーナとある密約をかわしていた。リーナを世間的に殺すのと力を半分勇者に与える事で代わりにお嫁にしてくれと本人に言われたのだ。その時はこのリーナの領地で新しく領主になってくださいと言われたのだ。
ちなみに、討伐した土地で領主になるとか本来なら新しい争いごとの火種になるが、そのリーナの部下が陰で悪政を行っていたみたいで、むしろそれを討伐した俺はこの領地の魔族にも好印象で迎えられた
そんなこんなで、色々話していく内にリーナを好ましく思った俺はこの密約を受け、王城に帰った。
そして、結婚しますという前になんと例の報酬が言ってきた。
「なるほど、マコトさん…これが例の問題なんですね?」
左にいるリーナの反対側の右にいるティーナが言ってくる。
状況を説明するとソファで板挟みされている状況だ。
二人に腕を抓られながらも、がっしりとそれぞれの胸に引き込まれ、身動きができない状態だ。
「あら?どなたなのマコトさん?このガリガリの女は?」
「あら?私はマコトさんの妻のティーナ タカツですわよ、このデブ」
「はぁ?」
「あぁ?」
「守護騎士!」
「ディアブロ!」
ふんぬ!!
Gyoooooo!
チリチリとにらみ合う二人。
そしてそれぞれが出した相棒達。
ディアブロはリーナの相棒の黒龍で魔王軍にいた龍族の中でも最も強い存在だ。
そして、例のスキルである守護騎士はなぜか願いを叶えたにもかかわらずティーナの側にいる。
「ちょっとやめて…二人とも」
「「マコトさんは黙ってて!!!」」
「はぃ…」
人間と魔族の共存の前に嫁たちが喧嘩している始末。
やばい…むしろ領主としての立場から察するに、わざわざ一人を妻にする事はなく、複数いても問題がないが…
「私はガリガリではなく、スタイルがいいのよ。おデブさん?」
「私もデブではなく、あなたよりも胸が大きいだけよ?貧乳さん?」
お互いがお互いににらみを利かせて火花をちらつかせている。
二人はどちらが第一夫人かを争っているようで、胃がチクチクする生活だ。
二人とも力が途轍もなく強いので手綱を握れるか心配だ。
(ホントどうしよ)
この策略姫ことティーナは何をするかわからない。
リーナもティーナも賢いが、犬猿の仲のこの二人が仲良く穏便に過ごしてくれるのか心配だ。
結婚は人生の墓場ともいうが、本当にそうかも…
勇者ことタカツ マコトはラドバルに平和をもたらした。
しかし、彼の災難はまだまだ続くのであった…
彼に平和な家庭を築けるかは彼自身とその妻達に委ねられたのであった。
ここまで読んで戴き、有難うございます。
以上で短編「お転婆姫が実はの最強のお嫁さんだったら?」は一先ず終わりです。
続編の構想もありますが、読者様の反応を見て書くか書かないか決めたいと思います。
気に入って戴ければ、評価の方宜しくお願い致します。