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貴方のお風呂にお邪魔しますっ

あれからどれくらい経ったのか?

森田 右京 初陣 !

頭の中で声が響いた。

「すまんの、左目と左手は間に合わなかったわい。」


「…」

意識が朦朧としている。


「なーに、心配するな。代わりはある、とびきりのがな。これならこの世界でも劣ることはなかろう。」


「‥」

(なんのことだ。)

頭の中に白い靄のようなものが広がっていたが次第にはっきりと意識を取り戻した。



目を開くとそこは何処ぞのスーパー銭湯も、アッと驚くようなただただ広い浴場。 所々、人の手が加えられてはいるのが分かるが、天井には剥き出しの岩、そして岩と岩との隙間から湯気が消えていくのがわかる。

中央には美術を齧っていない俺でも価値がわかる美しい女神の彫刻が設けられていた。


縦横100メートルはあるだろうか。

壁には2つ出入り口が設置されていたが、人の気配はしない。

周りに人がいないことを軽く確認し俺は糞臭付きのパンツと制服のズボンを脱ぎ棄て、浴槽に飛び込んだ。



ここは天国だろうか?そう思わせるには十分過ぎるほど心地よかった。10メートル程移動して背凭れに程よい石を見つけ腰掛けた。

視界を薄っすらとぼやけさせる湯気も相まって、いつのまにか俺は物思いにふけっていた。



〜〜〜〜

やはりあんなことで自殺するべきではなかった。

よく考えたら、クラスのみんなだってうんこくらいする。

そう、下痢だって。誰もが一度は経験する生理現象だ。

それに俺より顔が悪いやつ、勉強ができないやつ、運動音痴なやつ山ほどいた。

俺がやったことはそいつらに対して失礼だった。


それに、自殺する瞬間を見せてしまった。

クラスの数人は暫く学校に通えないかもしれない。眠ることさえ満足に出来ないかもしれない。

数人には一生忘れることのできない【トラウマ】になったのではなかろうか。

今更になってクラスメイトへの申し訳なさが強く込み上げてきた。

「もしもう一度戻れるなら…」

自然と口にしてその先を喉の奥に飲み込み、湯船の中に顔を突っ込んだ。

(ばかだな俺、もう一度はない)



〜そんなこんなを考えて20分程たつ。

ふと水面に映る自分の顔を見てギョッとした。

声にならない声とはまさにこのことだ。

左目の瞳の色が橙色、いや琥珀色に変色していて、瞳の中心は小さなガラスの集合体が蠢いているようだ。

左目には違和感は全くない。いやないと言えば嘘になる。

視力1.0程しか無かったはずの俺の左目はお湯の湯気が立ち上る中、はるか40メートルは離れている女神の彫刻の細部まで観察することが出来た。

「天国にきてから超能力手に入れてもなぁ、、、、どうせなら生きてる間に欲しかったぜ。しかも右目との誤差がありすぎて気持ち悪りぃし。」


「はっはっ、文句ばかりうるさいやつじゃのぉ。」


「だ、誰だ⁈」

咄嗟に周りを見回したが、気配は感じ取れない。


「そう息巻くのでない。まぁ解説役のジジイとでも思っておくれ。」


「やっぱりここは天国なのか?それか天国に行く前に汚物は落としとけってことなのか?」

と投げ遣りに質問する。


「誰がいつ天国じゃと言ったんじゃ。」


「ま、まさか‥」

確かに自殺して天国に行く話なんて聞いたことがない。

「そのまさかじゃよ。ここは‥」

「ここはじご‥「異世界じゃよ」」


……

数泊の沈黙の後、

「え、なんて?もう一度言ってくれ。」

頭の中から聞こえてくる声に聞き間違えようは無いのだが…

念のためね、、、


「だから、異世界じゃよ。わしは右京、お前さんを自分の後釜に指名したのじゃ。必要最低限は教えてやる義理があるんじゃ!」


「はぁ」

気の抜けた返事を返す。

実感が湧いてこない。

「左目のことはもう気付いておるな?左手を出して見ろ。」

それを察したようにそう語りかけてきた。

言われた通りお湯から左手を出した。

「うむ、それは生前のわしの左腕なんじゃが扱いがちと難しすぎてのぉ。」


自分の左手をまじまじと見つめるが別段変わりはないように思える。


……


「いや中古の上に不良品て最悪じゃない?」

あほじゃねぇのかこのジジイ。

思わず突っ込んでしまう。


「はぁあ、最後まで聞け!!その左手は魔を拒絶する力を有しておる。」


「??んん??」


「つまりはアンチマジックってやつじゃな。この世界は上級者になるほど魔に頼る傾向があるからの!例外もあるんじゃが…」


「だったら初めからそう言ってくれ!!」

と言いつつ、健全な男なら誰もが一度は憧れる展開に、声は上擦っている。

「あ、言うの忘れとった。ここをはやく出るのじゃ!」


「⁈」

人だ。入り組んだ岩と温泉の湯気の向こう100mほどから誰かが近付いてくる。


「遅かったか…。今、気配を感じたじゃろ?ここはわしが生前使っていた風呂なんじゃが…今は別のやつが使ってるはずじゃ。」


「だったら見つかったらやばいんじゃないのか?」

おいおい、初っ端から不法侵入で捕まったりしないよね?

「まぁ、なるようになるじゃろ!わしには時間がないんでな。あとは任せたぞ!」


「え、おいそれは困る。こっちは何も知らないんだ!頼む待ってくれ。」


「最後にわしの名は先代魔王の一人、ノアリス・ユウ。わしの後を継ぐ者よ、お主のセンスは保証する。あとは実践あるのみじゃわい!」


「う、嘘だろ。丸投げもいいとこだな。まずここを切り抜けないと…」



そうしてる間に湯気が無ければお互いが視認し合える距離まで近づいて来ていた。その距離30mほどか。

「しゃーない、取り敢えず新しい服を貰わないと。」

俺は覚悟を決めた。

まだ向こうは気づいていないだろう。

水深1mほどのお湯の中を地面ギリギリにひっそりと泳ぎ近付く。


そして一気に距離を詰めた俺は水中から勢いよく食出し、右手で口を、左手で相手の両手を捕まえ石像の台座に押さえつけた。呼吸が落ち着くのを待たずに、

「あ、怪しい者じゃない。迷ってしまったんだ。はぁはぁ、許してくれるならすぐに解放する。」

そう言うつもりだった。いや言ったのかも知れないがそれどころではない。


目の前に壁に押し付けられ、口と両手を塞がれているのは、薄い黄金色の髪、白く透き通った肌、背後にある女神の彫刻が霞むような美しい女性だった。歳は15に満たない程度であろうか?

そんなこと分析している場合ではない。彼女が身につけていたタオルがサラッと落ちる。


この瞬間つまり、カッターシャツ一枚のみで下半身丸出しの男が若干15歳程度と思われる全裸の美少女を押さえつけている場面が完成してしまったのだ。


目に見えない魔法の力とでも言おうか?体が動かない。視線も既に固まって彼女の目から逸らすことはできない。


彼女は顔色一つ変えない。

と次の瞬間、左目の端で何かを捉えたと同時に体が物凄い衝撃で宙に投げ出された。

「あぅがぁぁ」

痛さで声が漏れる。

身体が俺の制御を離れ、数m先まで飛ばされた。


そこが水中でなければ即死だったかもしれない。

何とか水中から顔を出し、左目で見たのは美しい裸体を隠す動作さえ見せない彼女と彼女の斜め後方に浮遊している全長3mはあるだろう光る巨体、、。右目では姿を捉えることはできない。

「これこそ魔法の力だな、はは、全く笑えない。」

自分で突っ込みを入れたが、その声に活力は感じられない。


そして彼女はこう言った。

「私を襲うなんていい度胸だと褒めてあげたいところだけれどもごめんなさい。殺してからでもいいかしら?」

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