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異世界空中活劇!  作者: 八針来夏
第一章『地上編』
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第四話『エスコート(上)』

 さて。

 そろそろ僕は、乗機である『ザスモー』に関して説明しておく必要があるだろう。

 まず、先に言おう。僕は戦闘のプロではない。恐らく地上の魔女(ヘクセ)の中には僕を技量で上回る奴が大勢いるに違いない。

 モモに散々に鍛えられはしたものの、だからといって僕に撃墜王の力が備わったとは思わなかった。

 だから、僕は『ザスモー』の製作に全知全能を注いだ。その技量差をも呑み込む隔絶した性能差が欲しかったのだ。


 硬い、速い、強い。


 相手の猛攻を受けようとも、機能不全に陥らず、確実に動作する堅牢な機体構造。

 相手の死角へと移動し続ける機動能力。

 相手を一撃で戦闘不能にする攻撃能力。


 これだけ詰め込めば、まず負けまい。僕自信満々に見せた設計図をモモはその高度な理解力で『ザスモー』の真価を知ると『正気ではありません』と言ったがそこまで酷評されるほど悪い性能ではないと思うのだ。うん




 渓谷の上に、冬の衣(ウィンターコート)が雲の如く広がっていく。

 あらゆる魔術的な力を消滅させる、かつて王国を滅亡に導いた恐るべき自然現象。


「上昇し過ぎればアレに飲まれるか」


 モモが言うには、僕は生まれた時から天蓋領域の超高密度のマナに浸され続けて生まれ、先天的に膨大な魔力を持つ天上人(ハイランダー)という人種らしいが、それでも……冬の衣(ウィンターコート)に飲み込まれればしばらくはあらゆる魔術を使えなくなるらしい。

 そして魔力で稼働する飛翔甲冑(メイル)が魔力を失えば、あとに残るのは……墜落死。

 

 僕の放った爆炎の蛇(エクスバイパー)を避けた敵がこちらを敵視しているのが分かる。

 相手から殺意を浴びせられているせいか。風が粘性を帯びたように纏わりつき、空がより一層狭くなったかのような錯覚を覚える。

 風が硬い。空が狭い。奴らのせいだ。


『今、所属不明機を遠望視覚(イーグルセンス)で確認し……銀色? ……いえ、失礼しました。装甲の厚みから判断して重量級に区分される飛翔甲冑(メイル)のようです。装甲と火力に注意してください』

『……新手? 新手だとぉ? こんな辺境を飛ぶ魔女(ヘクセ)とは、酔狂な奴がいやがるなぁ、ザーナ隊長』

『ミラーザ、油断はするなよ。数的不利は明白なのに単独で仕掛けてくる相手だ。自信があるのか、凄い馬鹿なのか……前者であると判断して動くぞ。

 ミラーザ(ブロー3)、ラメル(ブロー2)、背中に回りこめ。モニカ(ブロー4)は……今回が初陣だったな。わたしの後ろに付け、守ってやる。

 ……渓谷にぶつかって死ぬなどという無様は晒すなよ。包囲に誘い込むぞ、よし、散会!!』


 敵の念話(テレパシー)が混線している?

 次いで、隊長機らしき敵の刺すような敵意に満ちた視線が僕の脳内を貫いた。プレッシャーか、これは。 


『何者だ、貴様。『帝国』でも『連合』でも群島諸国でもそんな機体は見たことがない……何よりも機体色が帝王銀(カイザーシルバー)だと? 皇帝専用機を騙るとは、痴れ犬めが』

「……なんか塗っちゃまずい色だった? 悪いね、知らなかったんだ、後で塗りなおすよ」

『ほざけ……!!』


 前方から二機、隊長機と思しきブロー1とブロー4が対進状態(ヘッドオン)。正面からすれ違う軌道を描く。


『ご照覧あれ、神君デュナンナータ公! 貴方の臣下の子、ザーナ=ルクシエルが御身の威光を穢すものに相応しい罰を与えてみせます!!』


 あれ、なんか聞いたことある名前のような?

 両機が腕に構える銃らしきもの――練り上げた硬質のマナを弾丸として打ち出す魔術銃(マージライフル)だろう――から弾丸を吐き出す。音速を飛び越えているであろう、鋭い風切り音。

 怖い。背筋を撫でる怖気が、こちらを殺すために発射されたものへの恐怖である事を実感する。

 僕はすぐさまザスモーに回避軌道を取らせたい気持ちを捻り伏せ、円盤盾(ラウンドシールド)を構え、そのまま突進する。

 こんなすれ違うような角度で、銃撃が当たるわけが無い。脅しめいた相手の乱射を無視し、そのまますれ違い……僕のザスモーは、腰に装備した推進器(スラスター)から推進炎を吹き、その場で強引に180度回転した。


『なにぃ?!』


 驚愕に満ちた敵の思念が脳内に響く。



 この時僕は――のちに『帝国』の非合法作戦部隊(ウェットワークス)、通称『髑髏を取り扱うもの(スカルブローカーズ)』と知る彼女達の驚愕の意味が良く分からなかった。

 理解するのは、後に飛翔甲冑(メイル)の基本構造、常識を理解してからだ。

 この地上では飛翔甲冑(メイル)を飛行させる魔術機関は、背中に一つ、そして翼に二つの、前方へ進むための推進機関。

 そして両足に内臓されたスラスターだ。

 この世界で『魔女(ヘクセ)は足で飛ぶ』と称されるぐらいに両足に内臓された推進装置は重要で、これを動かす事で高度な戦闘機動(マニューバ)を行う。足の運用錬度こそ、その人の実力を示すのだ。

 だから基本的には前方にしか飛ぶ事はない。少なくともその場で一回転するような動きはまずありえない。言うならば、高速道路でまっすぐに走っていた車が突然慣性を無視して真横にスライド移動したようなもの。相手の驚愕は常識、セオリーを無視した僕に対するものだ。


『なん……だ?! あの異様な機動は?! あんな動きで……なんで首がへし折れない!!』

『ほとんど直角に曲がっている……? 推進炎を小刻みに噴射しながら動いています……早すぎる! 補足できない……!』


 僕は……自分の実力を過大には評価しなかった。

 モモから飛翔甲冑(メイル)の手ほどきを受けて技量は水準以上に持っているつもりだったけど、僕よりも才能に溢れた奴など大勢いるに違いない。

 だから僕が設計に当たって重視したもの。

 推進装置の数とパワー。そして、僕の意思を正確に汲み取り、機体制御に正確に反映させる操縦インターフェイスだ。

 



 敵を追う。



 ザスモーは、僕の意志を念話(テレパシー)によって正確に理解し、最適な機体制御を行う。

 両肩に装備された計二つに加え腰に装備された計四つの姿勢制御用推進器(スラスター)。

 腰にある右側前方と、左側後方。それらが一斉に推進炎を吹けばどうなるか? そう、まるで独楽のように機体を回転させることができる。

 正面に敵を捉えると同時に、背中の主推進機関が爆発的な光を発し、敵を追う。追いつける。


『皇女殿下より下賜された高機動型のジルマークの速度にこうも容易く追いついてくる……? いけない、モニカ(ブロー4)! 狙われています、回避を!!』

『えっ? ラメル先輩(ブロー2)、敵機の位置は……きゃあぁ?!』

 

 僚機の警告を受けて反応しようとした奴……隊長機の後ろを飛んでいた、一番飛び方が拙い奴へと接近し、その両腕でもって相手を掴んだ。僕のザスモーは大きい。パワーで振りほどかれることはないはず。

 見れば、目の前の魔女(ヘクセ)……そういえば、生まれ変わってから初めて会うモモ以外の人間の彼女は、あんな非道を働いたとは思えないあどけない目と綺麗な栗色の髪をしていた。

 尋ねる。これだけは確認しなければならない。


「答えろ。……なぜ撃った?」

「えっ……そ、それは……」


 僕の質問が何を指しているのか、理解したのだろう。彼女の声と顔には、いたたまれないような罪悪感がはっきりと浮かんでいた。


「確認をさせろ。あの船の中には生物災害(パンデミック)を引き起こす病原菌が充満していて、もう炎で全部燃やすしか手段がなかったとか、そういうやむを得ぬ事情があったのか?」

『まともな事を言ってるんじゃねぇ、謎のぉ!!』


 一機が突撃してくる。仲間を助けるつもりなのか、魔術銃(マージライフル)から弾丸を放ちながら接近してくる。


『そういう風にまともな事を言われたら……思い出すだろうがぁ!

 あたしらが白旗揚げた奴も殺すクズ野郎だって事を、思い出しちまうだろうがよぉおぉぉぉぉぉ!!』

【後書き】

機体名『ザスモー』



 シオン=クーカイの知識と異世界の知識が合わさってできた飛翔甲冑。

 本来交わる事の無かった二つの知識の合作、技術的キメラというべき代物。


 平均的な飛翔甲冑(メイル)と比べると重量(ヘビー)級に類する大型。

 極めて強固な魔術障壁(シールド)による堅牢さを誇る。その上、機体の構造素材の大半を無重力合金に置き換えたため、サイズと比すると比較的軽量に仕上がっている。

 背中と翼にある三つの主推力機関に加え、両肩に二つ、腰の前に二つ、腰の後ろに二つ、両足に二つと、計八つの副推進機関を備えている。普通の飛翔甲冑(メイル)が副推進機関を両足に二つしか持たないことを考えると異常とも言える数である。

 副推進機関一つでも平均的な飛翔甲冑(メイル)の主推力機関並みのパワーがあり、それら全てを連動させる事で、360度あらゆる角度に優れた機動性能を発揮する事が可能。

 結果として非常識なまでの防御力と機動性能を両立させた。

 シオンはその気になれば水準レベルの防御力に、超火力と超高機動力を両立させたタイプも作れたはずだが『ガチの超高速機を作ったら自分程度の力量では扱いきれない』と判断している。彼は自分の力量を過信しなかった。

 アー○ー○○アではいつも重量級ばかり使っていたせいだ。



 のちに『飛行要塞』『外見詐欺』『高機動鉄塊』などと称される事となる。

 武装はそれほど過剰な威力を追及しておらず、基本的な魔力弾を発射する魔術銃(マージライフル)、ミサイルに相当する爆炎の蛇(エクスバイパー)を用いる。

 魔術銃(マージライフル)は平均的な威力、連射速度の全体的な性能を底上げしたモノであり、連射、精密射撃、大出力照射が可能で汎用性に富む。

 また操縦にはテレパシー魔術を利用し、手動操縦と並行して思念で機体を制御するサイコ・スレイブ式を選択。敵の攻撃に対して危機感を抱いた瞬間、オートで回避行動を行う。

 武装の切り替えを行う為、腰部の装甲スカートには隠し腕(サブアーム)が設置されており、これを用いた射撃、格闘も可能。


 どれだけ被弾しようとも最後の瞬間まで確実に動作し続ける堅牢な機体構造、使用者の意志を正確にくみ取り反映する操縦システム、過剰な火力よりも信頼性のある武装など、兵器としての堅実性、追従性を重視した設計思想。

 

 反面『重装甲機体に大推力で強引に高機動力を与える』という欲張り過ぎたコンセプトで設計されているためか、使用魔力はけた違いに膨大なモノとなり、人間離れした魔力量を誇るシオンでなければマトモに動かすことさえ不可能な悪い意味での『専用機』となってしまった。



EX=超スゴイ。A=かなりスゴイ。B=優秀なレベル。C=平均的。D=悪い。E=最悪。



攻撃能力=A+

機動性能=A+

防御性能=A+

操縦性=EX

魔力効率=E-

拡張性=D+

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