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契約悪魔と魔法使い  作者: 高橋響
第一章「魔法使い編」
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第5話 「新たな魔法使い」

キャラクタープロフィール4


ヴァニラ・エルビア

・誕生日:6月18日

・好きなもの:苺、携帯、ゴシップ

・嫌いなもの:唐辛子、退屈

・趣味:散歩

・特級魔法:硬化魔法(自身の体の硬度を変える。全体を変えることも一部だけ変えることも可能。硬くなった部位は肌の色が変色する)

・藤導家に長年仕えるエルビア家の娘。白銀のショートカットと「~ッス」口調が特徴。国籍はアメリカだが家族全員日本に住んでいる。

 幼いころから切歌と姉妹同然に育ってきたため2人の連携は抜群である。

 表情は大きく変化することはあまりなく感情が伝わりづらい時がある。

 一方で気遣いはできるタイプであり、明日夢に対して何度もフォローしたりしている。その性格は気難しく人付き合いの苦手な切歌と一緒にいることで培われたもの。

 時計の針の音がハッキリと聞こえるほどの静けさだった。

 ここは俺の家、面子はいつもの4人。

 ルシファーもすっかり回復している。


 俺達は今例の銀行襲撃犯を捕まえるために、日本全国に藤導が飛ばした使い魔であるフェアリーからの連絡を待っている。

 全国どこに現れるかも分からない以上は犯人が犯行を行ってから現場へ向かうことになるが、転送魔法を使えば後からでも追いつけるだろう。


 ちなみに藤導の使い魔であるフェアリーは自らを分裂させることができるらしい。その小ささと分裂を活かし主に偵察を担当しているとのことだ。


 もう何分経っただろうか、誰も言葉を発することなく着々と時間が流れていく。

 俺はどうにも落ち着いていられず、何度も体勢を変えたり水を飲みに行ったりトイレに行ったりしていた。



 そんなことを繰り返しもう1時間が経とうとしていた、その時だった。

 俺の部屋に赤く光る小さい光が入ってきた。そう、藤導の使い魔のフェアリーである。

 その瞬間、4人一斉に立ち上がり藤導の周りに固まった。


「そう……分かったわ!」

「現れたのか!?」

「ええ。行くわよみんな」


 全員が頷き藤導が転送魔法を唱える。いよいよ犯人との直接対決ってわけだ。


「レ・テン・テレイル!」


 その瞬間、俺達4人は現場の銀行へ転送された。

 既に内部は荒らされており周囲は崩壊した天井や壁、紙が散乱している。


「こっちよ!」


 藤導が使い魔を頼りに俺達を導き、その後を追い俺達は犯人がいると思われる金庫へ向かう。


「明日夢、私は武器にならせてもらうぞ」

「おう!」


 今回の作戦は最初はルシファーは武器になり相手の契約悪魔がルシファーの言う“知っている悪魔”だと確認できたら元に戻り相手と交渉する、というものだ。

 さすがにいきなり話を聞いてくれるわけはないだろうし俺の身を守るため、また万が一の場合に相手を拘束するためにこういった作戦を採用した。


「いくぞ明日夢!」


 走りながら差し出してきた手を俺は強く握る。

 光に包まれた次の瞬間、俺の手に剣が握られていた。



「そこまでよ!」


 ついに俺達は金庫に到着した。金庫も既に荒らされており紙幣がそこらに散乱していて、ちょっとした金持ち気分を味わえそうだ。

 だが俺の目はそんな大量の紙幣より目の前の相手に向いていた。

 手には弓、深くかぶった帽子、金髪の長い髪は後ろで結んでいる。そう、恐らくこいつが犯人だ。


「魔法省よ。あなたには逮捕状が出ています。大人しく降伏しなさい」


 張りつめた空気のなか犯人がこっちを向いた。

「フィ・ケイ・カーズ!」


 犯人は呪文を唱えると弓矢を引く。




「櫻津君!」


 次の瞬間、藤導が俺に飛びついてきた。


「藤導!?」


 い、いきなり何を!? いや、嬉しくないわけじゃないが……。


<バカ! 照れとる場合か!>


 べ、別に照れてなんて……ん?


「お……櫻津君……怪我はない……?」

「と、藤導!!」

「切歌様!」


 俺の上に乗っかっている藤導の腕をよく見ると血が出ている。しかも刃物で切られたような傷が付いた状態で。


「なんだ!? 一体何が……?」

「櫻津さん、切歌様を頼むッス!」


 ヴァニラは一人で犯人を確保へ向かった。

 藤導が心配でならない俺は動くことができずにいる。


「大丈夫か藤導!?」

「ええ……」

「一体何が……?」

「恐らくあの矢を何らかの特級魔法で加速させたのよ……」


 そうか、あの時唱えていた呪文。あれが奴の特級魔法か。だが一体どんな魔法なんだ……?


<明日夢、あれは多分風魔法じゃ>

「風魔法? まさか風力で矢を加速させたってのか!?」


 ルシファーが言うならまず間違いないだろう。けど矢をあれだけの速度まで加速させるって、どれだけの風力なんだ?


「マ・テイル・タリカ!」


 ふと振り向くとヴァニラが自らの特級魔法を唱えていた。確かにこれなら防御力は格段にアップし、矢のダメージは減少できる。

 しかしその反面重量は増しスピードが落ちる。体の一部だけを硬くすることも可能らしいが、その場合はあの矢の餌食だろう。

 事実攻撃は防げているもののヴァニラも動けずにいる。



「クソ! どうすりゃいいんだ!」


 俺は何もできない無力さから床を思いっきり殴った。痛みも感じないほどの悔しさだ。


「櫻津君、私のことは気にせずヴァニラの援護を!」

「そ、そんな! 藤導を1人にするなんて俺には……」

「私はいいの! 早く!」


 藤導の気迫に押されてしまった。ここまで感情をむき出しにしたのは初めてじゃないか?


「……分かった!」


 俺は渋々ではあったが了承しヴァニラの援護へ向かう。



<明日夢、奴の動きを止めるぞ!>

「おう! チー・クリサ・チェイス!」


 今のは鎖魔法。一昨日ようやく覚えた、今の俺が唯一使える中級魔法だ。

 すぐに地面から鎖が出てきて犯人の体に巻き付く。


「くっ……!」

「ナイスッス櫻津さん!」


 ヴァニラは犯人めがけてそのまま走り出す。徒手空拳で戦うヴァニラにとって、身動きとれない相手を倒すのに武器はいらないのだ。


「フィ・ケイ・カーズ!」

「何!?」


 予想外だった。犯人は特級魔法で上空に浮かび上がったのだ。鎖をも簡単に引きちぎるほどの勢いで浮かび着地する。天井が空いていたのを上手く利用しやがった。

 

「そうだ! ルシファー! あいつの契約悪魔、お前の知り合いなのか!?」

<ああ、間違いないじゃろう>


 なら犯人の契約悪魔と交渉を……とはいっても聞く耳を持っていない以上、話を聞いてくれるかどうか……。


「おい、話を聞いてくれ! 俺のってうわ!」


 あの野郎、いきなり攻撃してきやがった。話し合いの余地なしってのか。


「どうすりゃ……」


 打つ手なしの俺にルシファーが語りかけた。


<明日夢、一か八かの賭けに出るか?>

「賭け……?」


 一か八かって、そんなリスクの高いものなのか? 

 でもこの状況を打破できるなら……。


「おもしれえ、やってやろうじゃねえかよ!」

<まあお前ほどの魔力の持ち主なら、やってみる価値はありそうじゃな>


 ヴァニラもそろそろ限界、藤導の治療もしなければならない。

 もう博打を打つしか道はない。



「で、一体何をするんだ?」

<特級魔法を使う!>

「特級魔法!?」


 特級魔法は使いこなすのに数年は必要って聞いたが……。

 う~ん、でももう考える暇もない。

 やるっきゃない!


「よし、やるぞ!」

<私が呪文を教えるからそのまま唱えるんじゃ!>


 俺は息を大きく吸い、犯人へ向かい走り出した。


「櫻津さん!?」

「……櫻津君!!」

「うおお!」


「フィ・ケイ・カーズ!」


 矢が俺に向け放たれる。

 その一瞬をルシファーは見逃さなかった。


<今じゃ!!>




「トー・クロウ・ルシフ!!」



 次の瞬間、周囲は俺以外がすべてスローになっていた。


「これは……!」

<これが私の特級魔法、少しだけ時間の流れを遅くする魔法じゃ>

「す、スゲエ……」


 自分以外がゆっくりになるこの景色になんだか見とれてしまいそうだ。


<急げ明日夢! 今のお前では何秒持つか分からん! 奴の弓を奪うのじゃ!>


 そうだ、のんびりしてる暇はない。今は戦闘中なんだ!


「喰らえ!!」


 俺は(ルシファー)を振りかざし再び走り出す。

 まだ周囲は魔法が効いており、ゆっくりと動いている。


「おらあ!」


 俺は(ルシファー)で弓を薙ぎ払った。





「え?」


 あれ? 魔法が切れたぞ。しかも俺の前には犯人その人。

 やべ、バランス崩して――――。



「うわあ!」

「櫻津さん!」


 ()って~……、バランスを崩して思わず転んでしまった.....。ん? こんなとこにクッションがあるぞ? しかも結構柔らかい。


「え……」


 その場の空気が完全に凍った。

 俺の下には帽子のとれた犯人がいた。正体はなんと金髪碧眼の女の子、しかも胸には俺の手が乗っかっている。


「きゃ……きゃああああああああああ!!!」

「ち、違う! これは事故だ!」


 必死に誤解を解こうとしたが、俺の声は届かなかったようだ。顔面に放たれたパンチを止めることはできなかった。そのまま数メートルは吹き飛んだ気がする。


「櫻津君…………」

「さすがにドン引きッス……」

<あんなの今時の漫画でも中々見んぞ……>

「だから誤解だって!」

 

 3人、特に藤導のドン引きの視線が痛い。痛すぎる。痛みで泣き出しそうだ。ルシファーは剣の状態でもその視線が伝わってきた。


<まあ、おかげでチャンスは作れたがの>


 そう言ってルシファーは元に戻る。


「おい、娘!」


 顔を真っ赤にした犯人は声に反応し、顔を上げる。


「私の契約者がセクハラしたのは謝る! だからお主の契約悪魔と話しがしたい!」


 いや、セクハラじゃねえけどな。


「どうじゃ? 話しだけでもさせてくれんか?」


 少女は弓を拾い何やら相談し始めた。やはり契約悪魔がいたのか。



「……分かりました……」



 少女が許可すると、弓が光に包まれ姿を変える。

 弓が元の姿に戻るとそこにいたのは青い髪で長身のチュニックを着た女性悪魔だった。


「やはりお前じゃったか、ヴィネ」

「お久しぶりです、ルシファー様」


 ヴィネという悪魔はルシファーに一礼した。


「久しぶりじゃのう、72柱の連中は元気か?」

「ええ、オリアスは最近契約者がよく当たる占い師としてアフリカで有名になっていますし、フォラスは契約者がボクシングの世界チャンピオンになったそうですよ」

「そうかそうか、みんな元気そうじゃのう」


 昔話を懐かしむかのような2人を見ていると、なんだか戦う気力もなくなってきた。まあ、話し合いで解決できればそれが良いんだけど。


 とはいえいつまでもそんな話をしている暇はない。外からパトカーのサイレン音がする、そろそろ警察が来るぞ。


「みんな転送しましょう。私が転送魔法を使うッス」


 藤導を後ろに抱えたヴァニラの一言で全員が一か所に固まる。


「レ・テン・テレイル!」



 転送された場所、そこは俺達の学校の屋上だった。

 ヴァニラは藤導を横にし腕に布を巻いた。血はもう止まっており藤導自身もある程度回復しているようだ。 


「なあ、藤導の特級魔法って自分には使えないのか?」

「ええ、これが使えるのは私以外だけみたい」

「そうか……」


 藤導は特に問題なさそうだったので、俺達は少女とヴィネへ話を戻す。


「ルシファー様、何故私が絡んでいると?」

「昨日お前達が襲撃した銀行へ潜入しての。金庫や壁にあいた穴の側面がドリルであけられたような状態じゃった。お前の特級魔法ならあの空け方が可能じゃと思ったんじゃ」

「さすがですね」


「えーっと……君?」


 少女の名前が分からなかったのでこう言うと、少女は口を開いた。


「ち……茅ヶ崎シャーロット愛梨(あいり)……です……」

「茅ヶ崎さんッスか。なんで銀行を襲撃なんてしたんスか? しかもお金も盗まず」


 この少女――改め茅ヶ崎シャーロット愛梨は、今にも泣きだしそうなほどのか細い声で犯行動機を語り始めた。


「そ、その......私の両親は2人共3年前に重い病気になって……今でも入院中で……その………入院費も最初は貯金で支払えたんですけど……それも尽きて……」


 目からはもう涙がこぼれ落ちていた。大した根拠はないけどこの涙は多分嘘じゃない。

 だって俺も似たような涙を知ってるから。


「そうして2年前に私が彼女を見つけてサバトを行いました。この子もそれなりの魔力を秘めていましたから」

「じゃが何故特級魔法を習得するまで行動しなかったんじゃ? 銀行の警備なぞ中級魔法で十分突破できるじゃろう?」


 言われてみれば。もっと早くから動いた方がよかったはずだ。


「私も提案したのですがこの子はそれを拒否しました。『悪事で手に入れたお金を使いたくない』と。ですがもうここまでしないと入院費も払えなくなったので私が説得し銀行を襲撃していたのですが……」

「そ、そうだ。そこまで追い詰められてなんで金を盗まなかったんだ?」


 覚悟を決めて犯罪行為までしたのに1円も盗まなかった。これは何故なのか。

 茅ヶ崎は答えた。



「その……決心したつもりだったんですけど……お父さんとお母さんのことを思うとどうしてもできなくて…… 」



 本当は両親思いの良い奴なんだろう、俺が同じ立場だったらと思うと……。


「でも私……怪我までさせて……勇気もないくせに......」

「シャーロット……」

「ど、どんな罰でも受けます! だから……私を逮捕してください……」


 茅ヶ崎は俯いたまま両手を差し出す。


「心苦しいけど......確保させてもら――」

「待て切歌。こいつの能力は結構使えるかもしれん」


 逮捕しようとした藤導にルシファーは言った。

 だがルシファーの言うことも一理あるかもな。実際戦ってみたから分かる。


「どうじゃ、こいつを私達のチームに入れてみては?」

「そ、そんな……! 私なんかみなさんに入れてもらう資格は……」

「私は賛成ッス。弓術も中々の腕前でしたし戦力には十分ッスよ」

「まあ、魔法省のエージェントになれば報酬金も貰えるしご両親の件も解決できるかもしれないわね」


 藤導もヴァニラもルシファーの意見に賛成のようだ。


「俺も良いぜ。両親を救いたいって気持ち、俺も分かるからさ」

「櫻津さん、さっきみたいなセクハラは禁止ッスよ」

「だから事故! アクシデントだって!」


 こりゃしばらくイジられそうだ。


「でもよ、魔法省は許可すんのかな?」

「安心して。私達にはコネがあるから」


 まあ名門藤導家の娘ともなればそういうコネの1つ2つ持っててもおかしくはないか。


「みなさん……ありがとうございます……!」


 茅ヶ崎は涙ながらに深々と頭を下げ感謝の意を示す。

 その横ではヴィネも一礼している。


「では魔法省に行きましょう」

「魔法省に!?」


 俺はまだ魔法省へは行ったことがない。未知の世界に一気に胸が躍る。


「明日夢は初めてじゃったの」

「ああ」




「行くわよ。レ・テン・テレイル!」

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