第40話 「漆黒の翼」
悪魔紹介12
【インキュバス・サキュバス】
夢の中に現れ性行を行い子供を孕ませる夢魔。
男性がインキュバス、女性がサキュバス。
・かなりけしからん悪魔の2人。
本作では思い切ってカップルにしてみました。
携帯ショップに向かう道中は互いに静かだった。
何とか話題を作らないと……。
「そ、そういや、教えといたもの持ってきた?」
「ええ。一通り」
藤導はピンクのショルダーバッグからクリアファイルを取り出す。
中に入っているのは俺が説明しておいた携帯の契約に必要なもの一式だ。
「ごめんなさい、何から何まで頼んでしまって」
「いや、このくらい」
彼女は知らないことが多い。だからこそしっかりサポートしなくちゃな。
それに力になれるのは素直に嬉しい。
「あ、ここだ」
5分ほどで目当ての携帯ショップへと辿り着いた。
ふと隣に目をやると緊張気味な様子だ。
「とりあえず機種から選ぼう。大体の手続きは俺がするから」
「お、お願いします……」
◇
「こ、これが携帯電話……」
白のスマホを輝かしい瞳で見つめる。
初めて自分専用の携帯を持てたのが嬉しいようだ。
いきなりスマホは大丈夫か心配ではあるけど、まあそこは俺らでサポートすれば良い。
「やり方とかで分からないことあったら何でも言ってくれ。俺じゃなくてヴァニラかシャーロットにでも良いけど」
本音を言えば俺を頼ってくれるならありがたいんだがな。
「本当にありがとう……」
「よせよ」
戦いじゃ見せない、こういう姿もまた可愛い。
「さて、昼時だけどどうする?」
いつの間にか時刻は昼前になっていた。
このまま帰るのは寂しい。
「あの……、私一度行ってみたいところがあるんだけれど……」
そう言うと藤導は急にモジモジとし始めた。
行ってみたいところとは一体何だろう?
「行ってみたいところって?」
「…………」
無言のまま指を指す。
その先にはファストフード店があった。
「ファストフード店?」
「たまに同じくらいの子達が放課後に入って行くのを見てくうちに行きたくなって……」
話を聞いて納得がいった。お嬢様育ちだからな、ああいう店には行ったことがないんだろう。
「じゃあ、行ってみる?」
俺の提案に黙って頷く。
普段はあんなだけど、ちゃんと年頃の面も持ってるんだな。
店の外にあるメニュー表を見て各々何を頼むか決める。
かなり迷っていたようだが初めてということでハンバーガーセットにした。
常連の俺はテリヤキバーガー。常連もクソもないか。
「食い方分かるか?」
「知ってるけど……」
手掴みで食うのに抵抗があるようだ。
紙がある分まだマシではあるが。
意を決したのか、口に入れる。
「ん…………」
「おお、いったなあ」
「……美味しい……」
衝撃を受けたような表情がたまらなく面白い。
「気に入った?」
「ええ……」
そう言って小さく笑った。
こうして見ると初めて会った頃から大分変わったなって思う。
いつだったかヴァニラに似たようなことを言われたことがあったのを思い出した。
もう一つ思ったことがある。
俺は今の方が好きだ。
◇
「今日はありがとう」
「いいって、このくらい」
時刻は夕方5時。
昼飯を済ませた後は近くの商業施設で時間を潰していた。
数時間なんて一瞬で過ぎ去ってしまうくらい楽しい時間だった。
帰り道はここで分かれる。
楽しかった時間とおさらばだ。
「俺の方こそありがとな。楽しかったぜ」
今日俺を誘ってくれたのは本当にありがたいし嬉しかった。
「あの……櫻津君」
「何だ?」
「良かったら……アドレスを教えてくれないかしら?」
この瞬間、頭の中がお祭り騒ぎだ。
新品の彼女の携帯に一番早く登録されるのが俺のアドレスなんて……!
今夜も寝れそうにないな。
「お、おう! 勿論良いぜ!」
互いにアドレスを交換し俺達はその場で分かれた。
父さん、母さん、俺スッゲー幸せです。
◇
「この気配……いやな予感がする……」
◇
浮かれ気分のまま帰路に着く。
この時期だと今の時間、辺りは暗くなってくる。
ここ最近の休養期間中は実に充実した生活を過ごせているな。
まあ相変わらず勉強はダルいけど。
「この時間じゃあルシファーが腹減らしてんな」
急いで帰ろう、ルシファーが騒ぎ出す前に。
「ミ・スイー・ウォン!」
何だ今のは?呪文か?
「うわ!」
突如大きな音を立て俺の目の前のアスファルトに穴が開いた。
深さと広さはそこまでではないものの、まるでクレーターのようだ。
「な、何だこれ……」
気づくと周囲が濡れている。当然俺もだ。
まさか、水で穴を開けたのか!?
「ごめんごめん、ちょっと驚かそうと思ってね!」
謎の人影が2つ、俺の前方に現れる。
この声は呪文を唱えた時の声と同じだ。
「だ……誰だ!?」
街灯に照らされ人影がハッキリ見えた。
1人は俺と変わらないくらいの背丈に後ろ髪を結んだ茶髪の少年。手にはトライデントが握られている。
もう1人は長身で口元が隠れるような造りの白のローブを着た、黒髪オールバックの男性だった。手にはハンマーを持っている。
「な、何だお前ら!?」
「君に挨拶しに来たんだ」
挨拶だと?
「一体何を言ってんだ?」
「お前の戦いは知っている。戦極を倒すとは見事なものだ」
戦極との戦いを知っているのか?
「お前ら……戦極の仲間か……!」
「一応はそういうことになるのかな?」
飄々としたところは戦極に似てるな。
段々腹が立ってきたぞ。
「ルシファーはいないみたいだね?」
「お生憎様でな」
「じゃあ今君を守れる者は誰もいないってわけだ」
茶髪の男がニヤリと笑う。
「良いのか?」
「これを耐えきれないなら所詮その程度ってことでしょ!」
男はトライデントを俺に向ける。
この野郎、まさか!
「お、お前!!」
「威力は弱めるから安心してよ!」
安心できるかバカ野郎!!
けど対抗できる手段がない!!
「ミ・スイー・ウ――」
呪文が唱えられる寸前、俺と奴らの間に突如何かが上空から飛来した。それも物凄い速さで。
「何だ!?」
「ルシファー……?」
それは大きな黒い翼を広げたルシファーだった。
俺は初めて見る姿だ。
漆黒の翼を広げる姿は正直カッコいいって思った。
これが堕天使の翼か。
「ルシファー……その翼……」
ルシファーは俺の方を振り返らず答える。
「人間社会に適応するうちに使わなくなっていっての。だがまだまだ錆びついてはおらんようじゃ」
翼を収めいつもの姿に変わる。
「嫌な気配がしてな。様子を見に来て正解じゃった」
「あなたが噂に名高いルシファーか」
ルシファーと2人が睨み合う。
「私の契約者に手出しはさせんぞ」
「いや〜、ついつい」
ヘラヘラとした態度が俺とルシファーをイラつかせる。戦極を感じるぜ。
「まあいいや、今日は引き上げよう」
「いずれまた会うことになるだろう。その時を楽しみにしている」
そう言い残すと2人共転送魔法で去っていった。
「何だったんだあいつら……」
戦極と同じ組織の連中ってことは分かったけど……。
「明日夢、帰って準備をするぞ。もう一刻の猶予もない」
「準備って?」
「この前言ったじゃろう。アイルランドの悪魔に会いに行くと」
先日の悪魔会談が終わってから聞いた話だ。
アイルランドにいる悪魔に俺達だけで会いに行くと。
「数時間後に日本を発つぞ」
「数時間!?」
いくらなんでも急過ぎないか?
「言ったじゃろ、もう一刻の猶予もないと。奴らが動き出す前に我々で保護する」
一体何者なんだ? その悪魔は。
「なあ、その悪魔って何者なんだ?」
俺の問いにルシファーは数秒の沈黙を置いて答える。
「詳しい話はアイルランドに着いてから教える。だがこれだけは覚えておけ」
振り返ったルシファーの顔は険しかった。
「奴はいとも簡単に人間の命を奪うことができる」
何だって!?
俺は自分の耳を疑った。
「そいつの名は……?」
「奴の名は、魔神バロール」
閲覧ありがとうございます。
とうとう本作も40話(プロローグを含めると41話)に到達です。
ルシファーに翼があるということをようやく描けた…。
次回、ケルトの魔神バロール登場です。
感想、評価、レビュー、ブクマ、大歓迎です。
次回もよろしくお願いしますm(__)m




