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契約悪魔と魔法使い  作者: 高橋響
第一章「魔法使い編」
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第3話 「初任務」

キャラクタープロフィール2


ルシファー

 ・誕生日:不明

 ・好きなもの:菓子全般、スイーツ、テレビ

 ・嫌いなもの:野菜、面倒なこと

 ・趣味:睡眠、テレビ鑑賞

 ・特級魔法:???

 ・契約者:櫻津明日夢

 ・元は熾天使だったが神の怒りを買ったことで天界を追放された堕天使。幼い少女のような見た目と言動だが、悪魔界では名の知れた存在であり実際はかなりの実力者。

 基本的にはワガママ放題だが魔法省の任務にはある程度真面目に取り組んでいる。もっともその目的は報酬でスイーツが食べられるからである。

 藤導家とは古くから縁があるようで切歌とヴァニラのことは生まれた時から知っている。

 かつて天界を追放されたことで神を憎んでいるため初詣等の行事には一切参加しない。ただしクリスマスだけはケーキが食べられるため積極的に参加する。

 夕日が沈みかけ辺りは段々と暗くなってきている。

 人の姿も少なくなり街灯には既に明かりが点っていた。俺の家の周辺は完全に静寂に包まれている。


 その俺の家に俺達は集まっていた。ルシファー以外は学校から直行したためみんな制服である。


「ではこれより、任務を開始します!」


 藤導の一声で一瞬でその場に緊張感に包まれたのを肌で感じた。

 普段はあんな状態のルシファーとヴァニラですらキリっとしている。それが尚更緊張感を引き立たせていた。


「ところで、その犯人をどうやって探すんだ? 歩いてだと見つけても逃げられるんじゃないか?」

「安心せい。そんな時のために助っ人がおるのじゃ」

「助っ人?」


 誰か他の魔法使いだろうか?


 答えを聞く前に俺達は近所の少年野球場に移動した。当然人っ子一人おらず中にいるのは俺達4人のみだ。


「さて、久しぶりじゃのう」

「櫻津さん、離れた方が良いッスよ」

「へ?」


 一体何が始まるんだ?


「さあて、始めるぞ」


 笑いながらルシファーは服の中から小さいクリスタルを取り出した。


「なんだそれ?」

「まあ見ておれ」


 自信ありげな表情で笑うルシファーはクリスタルを地面に置き距離を取った。

 何をするのか分からない俺はただただ茫然と見ている。



「サー・ショーヌ・サモン!」


 ルシファーが呪文を唱える。

 その瞬間、クリスタルが目を開けているのが困難なほどの青い光を放つ。

 俺は思わず目を腕で覆った。


「何なんだこの光……!?」


 数秒後、光は収まったようでもう眩しさは感じられない。


「櫻津君、もう目を開けて大丈夫よ」


 藤導の言葉を信じ俺は恐る恐る目を開いた。




「……はい?」


 そこにいたのは俺よりもデカい巨大な鳥だった。鋭いくちばし、荒い息。

 そのくちばしが俺に向かってきているように見えるのは気のせいか?

 あ、これ気のせいじゃない。



「うわあああああああああああ!!」


 俺は喰われて死ぬのを悟った。

 さようなら、みんな。



「あれ……?」


 ところがいつまで経っても俺は喰われていない。それどころかさっきから生温かいものを感じるのだがこれはなんだろう。



「きゃははははは! 随分懐かれとるのう明日夢!」

「うわ、おい! やめろって!」


 俺はこの鳥にベロベロ舐められていた。あの感触は鳥の舌だったのか。

 しかもこの鳥にえらく懐かれたようでなんだか笑っているようにも見える。


「紹介するぞ。私の使い魔、ガルーダのサリーじゃ!」

「ガルーダ? ゲームとかに出てくるあれか?」

「うむ。同時に今日からお前の使い魔でもあるからの。よろしく頼むぞ」


 魔法使いには使い魔がいるというのはよく聞く話だがまさか俺の使い魔がガルーダとはな。

 だが犯人を捜すのには確かに便利そうだ。


「よし、さっさと乗るがよい。そろそろ夜になるぞ」

「ええ、行きましょう」


 俺達を乗せサリーは空高く飛び上がった。落ちたらと思うと怖いけどそれ以上に飛行機でも味わえないこの感覚がどことなく楽しい。

 上空から見渡す街の様子は新鮮で任務のことも忘れてしまいそうだ。心地よい夜風も味方してなんだかロマンティックな気分になってしまう。

 その上サリーの毛に掴まっていれば振り落とされる心配はまずないので安心である。

 まあ例え落ちても魔法で何とかなるのだが。


「おい切歌、あそこを見ろ!」


 突如声を荒げるルシファー。下を見ると小さいが光を放っている場所がある。その光の原因は俺にも一瞬で分かった、誰かが魔法を使っているのだ。

 場所は上から見た感じだと路地裏だろうか。そこはある程度のスペースがあり魔法を使うにも十分なくらいの広さだ。


「みんなしっかり掴まって!」


 藤導が声を大きくして言う。俺はすかさずサリーの毛を強く握りしめた。



「行くぞサリー!」


 ルシファーの一声でサリーは急降下を始める。

 ジェットコースターに乗っているかのような衝撃が一気に襲いかかってきた。声を出すこともできないようなレベルで男の大事な部分にいやな寒気がする。

 なんてことを思っていたら現場付近に着いた。

 すぐにサリーから降りた俺達は現場の様子を見ることにし、サリーをクリスタルに戻し4人で物陰に隠れる。


「なんですぐに行かないんだ?」

「本当に事件かどうか調べるためよ。もしかしたら私達の追ってる犯人とは別人かもしれないし犯罪者ではない人を誤認逮捕なんて許されないもの」


 なるほど、納得だ。

 聞き耳を立てるとすぐに声が聞こえてきた。




「イ・リーブ・エリッド!」


 男性と思しき声が呪文を唱えている。この呪文は下級魔法の液状化魔法だ。その名通り物体を液状にする魔法である。


「うわあっ!」


 今度は別な男性の声が悲鳴を上げていた。


「な、なんだ……これっ……! 地面が......!」

「大人しく渡せばこんな目に遭わずに済んだのになぁ。さあ、これ以上痛い目見たくなけりゃ財布だしな」


 なんとも古臭い、そしてダサいセリフだろう。

 だがこれで奴が犯人だと断定できた。魔法を何の能力もない人間に使うとは許しがたい。


「準備はよいか、明日夢?」

「ああ、いつでも行けるぜ」

「忘れないで、今回櫻津君は私とヴァニラのバックアップに専念して」

「分かってる」


 念を押され、頷く。


「よし、行くかの」


 ルシファーが光に包まれその姿を剣へと変えた。

 俺は軽く深呼吸をし、気合を入れる。


「行くわよ、ヴァニラ」

「了解ッス、切歌様」

「櫻津君、戦闘中はルシファーが指示をくれるから彼女に従ってちょうだい」

「分かった。気を付けてな」


 見ていることしかできないのが悔しいが、仕方ない。

 自分に言い聞かせた。


「たった3000円かよ。ま、こんなもんか。ほらよ、財布だけは返してやるよ」

「そこまでよ」


 金を奪った犯人の前に藤導が姿を現す。

 その手には俺を切りつけたあの刀があった。

 被害者の男はヴァニラが眠り薬で眠らせたために今はぐっすりと眠っている。なんでも守秘義務だそうだ。



「誰だテメエは?」

「魔法省からあなたに逮捕命令が出ているッス。大人しく投降してもらえないッスか?」

「魔法省?」


 後方から見ていただけでも俺は緊張しガチガチになっている。やはり今回はあの2人に任せて正解だったのかもしれない。


「素直に自首すれば罪は軽くなるわ」

「正義の味方気取りか? 俺をナメるなよこのアマ!」


 男は手に大きめのナイフを持って2人に襲い掛かる。

 大柄な体格な分迫力もあったが、2人は全く動じていない。


「私が行くッス」

「おねがい」


 そう言うとヴァニラは素手で突っ込んでいった。


「おい、丸腰で大丈夫なのか!?」

<ヴァニラなら問題ない。安心してみておれ>


 俺の心にルシファーが語りかける。

 とはいえやはり男相手に体格の小さいヴァニラが何の武器もなしに挑むのは心配だ。


「マ・テイル・タリカ!」


 ヴァニラが呪文を唱える。

 その次の瞬間には男がナイフでヴァニラを切りつける。


「ヴァニラ!!」

「……ん? な、なんだこれは!?」


 驚きの声を上げたのはナイフで切りつけたはずの男の方だった。

 俺は男の声につられヴァニラの方を見る。



「なんだありゃ……!」


 そこにいたのは全身の色が変わっていたヴァニラの姿であった。

 そのままヴァニラは男にボディブローを見舞う。

 あの見るからに硬そうな拳で殴られたらいくら体格が大きくても一たまりもない。男はそのまま後ろへ吹っ飛んだ。


「ぐわあああああ!」

「す、凄い……」

<あれがヴァニラの特級魔法じゃ。あいつは自身の体の硬度を変えることができる。ま、反面重量が重くなりスピードが落ちるがの>


「クソがぁぁ!! これならどうだ!」


 男は立ち上がり呪文を唱えた。


「キ・テラー・シヌス!」


 今のは下級魔法の念力魔法。男の後ろに落ちていた鉄パイプが勢いよく飛んできた。しかも狙いはヴァニラではなく藤導だ。


「危ない藤――」


 俺が言い終えるまでもなく藤導は2個の鉄パイプを刀で切り落としていた。目にも留まらない早さで。


「マジかよ……」

<気をつけろ明日夢!>

「え?」


 藤導の刀技があまりにも凄く完全に見とれていた俺は飛んできていたもう1個の鉄パイプに気が付かず顔面にクリーンヒットしてしまった。


「櫻津君!!」

「ごふぅっ!!」


 鼻血を出しながらぶっ倒れる俺は藤導の声が聞こえてから記憶がない。

 

 


 俺が目を覚ましたのはそれから数分後、すべて片付いた後だった。


「よかった、起きたのね」

「藤導……俺は……?」

「鼻が折れてたっぽいッスから切歌様が特級魔法で治したんスよ。治ってよかったッスね櫻津さん」

「そうか……」


 鼻を触るが、無傷だった。 

 

「犯人も契約悪魔もお前が目覚める前に切歌が魔法省へ連行した。本当に切歌がいてよかったのう」

「藤導……、また世話になっちまったな……」



 藤導の特級魔法、それはどんな怪我、病気も治せるという最強の回復魔法だ。

 俺がサバトを行ったあの日、刀で切られた傷が部屋で目覚めた時に治っていたのは藤導の特級魔法のおかげだそうだ。

 まあ俺は気を失ってたから覚えてないが。

 だがこの魔法は万能ではない。使えるのは1日1回、それも対象は1人だけだ。

 だからこそ戦闘では油断してはならない。ならないんだが……。


 

 藤導の前でまたみっともない姿を見せてしまった。情けなくて仕方ない。こんなんじゃ藤導を振り向かせることは一生できない。いや、そのために魔法使いになったわけじゃないが……。


「櫻津君、あなたは初めての実戦だったんだから失敗したってしょうがないわ。それよりこの反省を次に活かす方が大事よ」

「でもよ……毎度お前に世話になってるし……」

「私には気を遣わないでいいの」


 藤導が今まで見せたことのない優しい目をしている。顔はいつものように笑顔ではない、けれど暖かさすら感じさせる目だ。


「私はあなたを守るためにいるのだから」


 そう言った藤導の顔が少し柔らかく見えたのは俺だけだろうか。

 俺の知らない藤導がそこにいた。



「さて、明日も学校があるし今日はもう帰りましょう」

「櫻津さん、立てるッスか?」

「あ、ああ……」


 もうこんなみっともない様は見せられない。そう心に誓い拳を強く握った。


 俺の初任務は苦い結果に終わった。けど何も得なかったわけじゃない。きっとこの次は俺が2人を守れるくらいになってやる。


 ◇


 とある銀行の屋上に1つの人影があった。帽子を深くかぶり手には弓矢を持っている。

 呼吸を深く吸い深く吐く。

 そして口を開きこう唱えた。


「フィ・ケイ・カーズ!」

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