第30話 「接触2」
悪魔紹介8
【ベリアル】
72柱の王。名はヘブライ語で「無価値」「無益」の意味。
火車に乗った美青年の姿をしている。
悪事を美徳と考え正しいことに臆病。
・ベリアルは設定からみても分かるように悪の存在です。それゆえ本作でも敵の、しかも戦極の契約悪魔としています。
キャラとしては戦極同様とにかく悪いキャラです。戦極とのキャラ被りを防ぐためサタン相手には弱さを見せています。
「ほら、俺の奢りだ」
魔法省の医務室棟にあるベンチに腰掛けるヴァニラと車椅子のシャーロット、それを押すヴィネに飲み物を渡す。
ここの自販機は世界のあらゆる金が使えるらしく、当然日本円も使用可能だ。
因みにヴァニラはいちごミルク、シャーロットはミルクティー、ヴィネはコーヒー。
「良いんですか?」
「ああ、お前らには色々世話になったしな」
俺もヴァニラの隣に座りコーラの缶の蓋を開ける。
俺は既に体力は元に戻っている。
1日経って藤導が特級魔法を使えるようになったため今朝俺の体を治してもらったというわけだ。
で、肝心の藤導本人は今学校に行っている。
怪我をしているヴァニラ達はしばらく休んでいるが特に大きな怪我もなかった藤導は普段通りの生活を送るよう指示が出ていた。
一応ルシファーも護衛として同伴している。
「で櫻津さん、昨日のことですけど」
昨日のこととは『俺が戦極を倒したら藤導に聞いて欲しいことがある』という約束をしたことだ。
「まあ、俺が今一番考えなくちゃいけないのは戦極とベリアルのことだからな。あいつらを倒して、決着を付けたら俺の想いを伝えるよ」
そうだ、今の俺にはやるべきことがある。
それを終えてからだ。
「じゃあ、絶対勝たなきゃいけませんね!」
「おう!」
奴が次にいつ現れるか分からんが、俺は準備はできてる。
奴らを倒したら……、俺はこの気持ちをあいつに伝えよう。
「私達もサポートしますよ」
ヴィネの言葉に2人も頷く。
こいつらがいなかったら俺はここまでできないな。
「ありがとよ、3人とも」
「失礼、あなたが櫻津明日夢君?」
「はい?」
俺を呼ぶ声に反応し振り返る。
そこには赤いウェーブがかかったロングヘアーで、紺色のスーツ姿の女性がいた。
パッと見た感じだと年齢は40代前半くらいだろうか。それでも結構若い見た目だが。
「ええ、そうですけど。あの、あなたは?」
質問されているのは俺だが初めて見る人だったからか、つい質問し返してしまった。
「あら、自己紹介してなかったわね。私は――」
「副長官!」
女性の言葉を遮ったのはこちらへ走ってくるアイラさんだった。
「こちらにいらしたのですか」
「ごめんなさいアイラ」
アイラさんの口調は完全に目上の人に対するそれだ。てかさっき副長官って言ってたぞ?
「あらみんな」
アイラさんも俺達に気づく。
「アイラさん、こちらの方は……」
「櫻津君とシャーロットちゃんは会うのは初めてよね。この方は魔法省副長官である――」
「モリガン・ル・フェイよ。あなたの話は聞いているわ」
何だか物腰柔らかく優しそうな人だな。
「ど、どうも……」
って、 副長官って大物じゃねえか!
「副長官は伝説の魔女、モーガン・ル・フェイの末裔でもあるッスよ」
「伝説の魔女!?」
モーガン・ル・フェイという魔女は俺は聞いたことがない。しかし伝説と呼ばれるほどの人の末裔ならこの人も相当な実力者なのだろう。
「伝説の魔女って、そんなに凄い人なんですか?」
「アーサー王物語って聞いたことないかしら?」
アーサー王物語、俺は詳しく知らないが中世のファンタジー小説だったはずだ。
「そのアーサー王の姉が私の先祖モーガンというわけよ。私の名前も先祖からもらったものなの」
なんと、現代まで語り継がれるほどの魔女の末裔だとは。
今度アーサー王物語読んでみようかな。
「ま、私自身は家系を鼻にかけるのは嫌いだけどね」
「副長官、それにみんなも。会議室に来てくれるかしら?」
会議室? 一体何だろう?
◇
会議室には長方形のテーブルがあった。
そこに今回の関係者一同が揃う。
メンバーは俺、ヴァニラ、シャーロット、ヴィネ、レオンさん、アルプ、アイラさん、イフリート、長官、メフィスト、副長官。
そして遅れて来たのは学校から帰ってきた藤導とルシファー。
全員が揃ったところで長官が話を始める。
「さて、今回みんなに集まってもらったのは今後の対策と情報を集めるためだ」
「今回の件の最重要人物は戦極雅人、ベリアルの2人 です」
アイラさんがパソコンを操作するとスクリーンに資料が映し出される。とはいえ顔写真はない、文字だけだが。
「で、この戦極って奴の特級魔法は加速魔法か……」
レオンさんが険しい顔で言う。
何かあるのだろうか?
「レオンさん、何か知ってるんですか?」
「いや、初めてこいつに会った時のことを思い出したんだ」
何だって?
「会ったことあるんですか!?」
「言ってなかったか?」
そういや俺が奴と初めて会った時、アイラさんが言っていたような……。
「俺が奴と会ったのはベルリンの連邦首相府に侵入しようとした奴を捕まえた時だ。奴はいきなり現れ、俺が捕まえた犯人とその契約悪魔を殺した、気配もなくな。けどその謎が今分かった、加速魔法を使ったんだ」
あの野郎、一体何人を……!
「で、今は消息不明か……」
手がかりもない以上はこっちとしてもどうしようもない。
なら――――。
「あの……」
俺は手を挙げる。
「どうした?」
「こっちから接触するってのはどうでしょう?」
俺の発言にみんなが驚愕している。
そりゃそうだ、自分から危険に突っ込むようなもんだからな。
「けど、他に良い方法はないでしょう? それに危険な戦いになるなんて初めから分かってたはずです!」
「うむ……」
会議室が沈黙に包まれる。
俺も何を言えば良いのか全く分からなくなっていた。
「櫻津君、奴と接触する手段はあるのか?」
長官が俺の目を見て問う。
「それは……」
そうだ、そもそもこっちから接触する手段がない。
「で、でもあいつだけは!」
「君を危険に晒すような作戦はできない。例え戦極が君の因縁の相手でもな」
長官の表情は冗談抜きな顔だ。
「我々は大人として、君を守るという役目もあるからな。気持ちは分かるが温情だけで決めることはできん」
全くその通りだ。
俺は少し自分中心に考えすぎてたのかもしれない。
「そうです……よね……」
その時、俺の携帯に電話がかかってきた。
「まさか……!」
携帯の画面を見る。
画面に出ていた文字、それは“非通知” だった。
「奴だ!! 」
全員が驚きの表情になる。
「……電話に出るんだ」
長官の言う通りに画面をタッチし、続けてスマホのスピーカーボタンをタッチする。
これでみんなにも聞こえるはずだ。
「もしもし……?」
『お、元に戻ったみたいだね!』
あいも変わらずクソ腹立つ話し方だ。
「戦極……!」
奴の名を出した瞬間一気に室内が張り詰めた空気になったのが分かった。
「何の用だ?」
『いや〜、せっかく元に戻ったんならこの前の続きをしようと思ってね!』
やはりそうか、戦極ならそう言うと思ったぜ。
『それで、サタンはもう大丈夫なのかな?』
「ああ、サタンとは話をつけた」
黙っていてもどうせバレる。なら今のうちに明かしておいても変わらないだろう。
『そうかそうか! そりゃ楽しみだ! じゃあ場所と日時はどうしようか?』
ここで長官がメモを渡す。
そこには場所と日時が指定してあった。
「3日後、イースター島で夜19時にどうだ?」
『OK!それで良いよ!』
ついに決まった、俺の運命の日が。
「戦極、俺は必ずお前を倒す!」
あいつとの約束もあるしな。
『じゃあ、楽しみにしてるよ!』
そう言い残すと奴は通話を切った。
知らないうちに俺は冷や汗まみれだ。
「決まったか……」
「ああ」
3日後、因縁に決着を付けよう。
11年前からの因縁に。
「私達は今回は同行できないんですか……」
「怪我してるんだ、連れていけるわけないだろ」
本当はみんながいた方が心強いけど、今回ばかりはそうも言ってられない。
「嬢ちゃんもだ」
「私もですか?」
本音を言うとこいつには一番一緒にいて欲しいんだがな……。
「あいつらはお前の力を狙ってる可能性がある。だからここにいてくれ」
「分かりました……」
諭すように頼むと渋々ながら藤導は頷いた。
「安心しろ、代わりに俺とアイラが行くからよ」
「あなた達の分も彼を助けるから」
レオンさんとアイラさんが来てくれるのか。それは頼もしいな。
「みんなのその想いだけで俺は十分だ。必ず帰ってくるからよ、安心して待っててくれ!」
そうだ、俺にはみんながいる。
だから今度は負けねえ!
みんなのために、そして――――――――――――
約束を果たすために!
閲覧ありがとうございますm(__)m
春休みなのでしばらく週二回投稿してみます。
新たな魔法使い、モリガンが登場です。名前は劇中の通りモーガン・ル・フェイの別名から取りました。
次回からいよいよ戦極とのバトルに入ります。
感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です。
よろしくお願いしますm(__)m




