第19話 「覚醒」
キャラクタープロフィール18
べリアル
・誕生日:不明
・好きなもの:カキフライ、黒いもの
・嫌いなもの:アルコール、正義感
・趣味:ナンパ
・特級魔法:加速魔法
・契約者:戦極雅人
・謎のテロ組織所属の悪魔にして72柱の王。
戦極同様に悪しき心の持ち主。
かつて人間との平和共存を巡りルシファーと袂を分かった。
見た目は10代の若さを持っている。
消滅していくパイモンをただ見ていることしかできなかった。
俺には死者を生き返らせる力なんてない、だから見ていることしかできない。
まただ。俺はまた何もできなかった。
<パイモン! パイモン!>
ルシファーの悲痛な叫びが俺の中でこだましている。
俺自身は倒れこんだままだ。
「戦極コラぁ!!」
もう完全にキレたぞ。
誰に何と言われようと構わねえ。
「テメェはブチ殺す!!」
もうたくさんだ、こいつに俺の身内が命を奪われるのは。
「そんな状態で何ができるってんだい?」
不敵な笑みでこっちを見る。
今そこでパイモンを殺したことなんてもう忘れているかのような素振りだ。
確かにこんな状態じゃ戦えないな。
だがな戦極、俺の大切な仲間を忘れてもらっちゃ困るぜ!
「リ・ヒール・タイン!」
みるみるうちに俺の怪我が治っていく。
そう、これは藤導の特級魔法である。
「サンキュ!」
これでまた戦える。
腕と足の出血は見事に止まっていた。毎度ながら助かるぜ。
「櫻津君、大丈夫?」
「ああ、お前のおかげだ」
当初の予定とは狂ったけど、まあしゃあない。
悔しいけどこいつは2人で戦った方が太刀打ちできるかもしれん。
「あ~らら、お嬢ちゃんまで来ちゃったのか」
「勝手に来てごめんなさいね」
あちらさんにとって藤導は重要な人材らしいからな。
リスクはあるけど、この場面では面に出てくるのも一つの手だろう。
「いくぞルシファー」
気合を入れ直し剣を強く握りしめる。
だがルシファーからの返事がない。
「ルシファー? おい、どうしたんだよ!」
様子がおかしい。返事すらないなんてのはどう考えても変だ。
「櫻津君?」
異変に気付いた藤導が俺に語りかける。
「おかしい、ルシファーが返事しねえんだ!」
「え?」
何を言ってるのか分からないというような顔だ。
そりゃそうだ、俺も分からないからな。
「ありゃ、せっかく怪我も治ったってのに戦えないのかい?」
クッ……! 戦極が調子に乗るのが腹立つ!
「櫻津君、あなたはここにいて!」
「あっ、おい!」
いつもの刀を手に藤導は戦極へ向かっていく。
幾らなんでも単身突っ込んでいくのはマズくないか?
「おいおい、俺はお嬢ちゃんとは戦うつもりないぜ?」
そんな軽口を叩きながら刀での攻撃を防いでいく。
やはり処刑鎌の使い方が巧いのは認めざるおえないか。
っと、今はそんなこと考えてる暇はない。
「おいルシファー! どうしちまったんだよ!?」
<明日……夢……>
「ルシファー!!」
良かった、意識はあるようだ。
だが何だか苦しそうな様子だな。一体何が起きてるんだ?
「クソ! これじゃ加勢できねえじゃねえか!」
どうすりゃいい? 何とか藤導は助けに行きたい。けど肝心のルシファーがこれじゃ……。
「フィ・ケイ・カーズ!」
その呪文が発せられた直後、戦極に向かって凄まじい速度で矢が飛んでいく。
「チィッ!」
苛立つような表情で戦極は矢を避ける。
これはシャーロットの特級魔法だ。
「櫻津さん!」
シャーロットが弓を手に走ってくる。
「シャーロット! 他の奴らは――」
「見てください!」
シャーロットの指さす方を見ると、魔法省のエージェント達が建物内の一般人の避難と敵の確保を行っていた。
助けが来てくれたのか。
良かった、一般人の避難もほぼ済んだようだ。
あとはルシファーだが……。
「おいルシファー! どうしたんだよ!」
<ぐ……あ……>
何がどうなってんだ? 何故こんなに苦しんでいるんだ?
助けに行きたくても行けない焦りがさらに俺の冷静さを奪っていく。
「マ・テイル・タリカ!」
戦極の方から聞こえたのはヴァニラの特級魔法、硬化魔法の呪文だ。
拳を硬化したヴァニラが戦極に強烈なパンチを繰り出していた。もっともパンチは処刑鎌で防がれてしまったが。
「しばらくはあの2人に任せるか……」
仕方ない、2人が堪えている間にルシファーを何とかしなければ。
その時だった。
「あーもう、面倒だな!」
「ぐっ……!」
奴の処刑鎌の攻撃が藤導の右腕を切りつけた。
「切歌様……ぐはっ!」
ヴァニラが気を取られたその一瞬を逃さず、処刑鎌の柄の部分でヴァニラを突き飛ばす。
「な……!」
「このくらいなら大した怪我じゃねえだろ」
テメェ……! よくも……!
「戦極!! テメェ――」
ドクン!
何だ今のは?
何とも言い難い変な感じがしたが。
<あ……む……げ……ろ>
「おい、ルシファー!?」
何て言ってるんだ? よく聞き取れないぞ!?
「櫻津さん?」
シャーロットが心配そうな顔をしている。
そりゃそうだ、こんな状態じゃあ。
「シャーロット! こっちは大丈夫だからあいつを頼む!」
傷つきながらも戦極と戦い続けている藤導とヴァニラの援護をしたいが、今の俺には出来そうもない。だからこそシャーロットには2人を助けて欲しいんだ。
「は、はい!」
ドクン!
まただ。この感覚は何なんだ?
「ルシファー! ルシファー!」
<明日……夢……! 逃……げろ……!>
逃げろ? 何からだ?
そんなことを思っていた時だった。
<うああああ!>
「な、何だこれ!?」
剣からドス黒いオーラが出ている。
一体何が起こってんだ!?
「櫻津君!?」
「何ですかあれ!?」
みんな思わず戦闘の手を止めていた。
あの戦極すらもだ。
「ルシファー!!」
俺は力一杯ルシファーに呼びかけ続ける。
<オマエ……ノカラダ……ハ……オレガモラウ……>
何だ今のは? 誰の声だ? 明らかにルシファーの声じゃなかったが。
その時だった。
「う……うわああああ!!」
いきなり剣の黒いオーラが俺を包み始めた。
だんだん奪われていくのが分かるほど、体に力が入らない。
「みん……な!」
ダメだ、もう意識が……。
◇
「あれ?」
いつの間にか俺は別な場所にいた。
見渡す限り真っ白で、何もない空間。
俺以外には誰もいない。
「どこだここ?」
おかしい。俺はさっきまで横浜で戦っていたはずだ。
転送魔法を使った覚えもないし、使ったとしてもちゃんと知ってる場所に行くはずだ。それ以前に使いこなすこともできないけどな。
「ここはお前の精神だ」
いきなり聞き覚えのない声が話しかけてきた。
だが振り返っても誰もいない。
いや、それよりもここが俺の精神だと?
「俺の精神って何なんだ!? っていうか、お前は誰なんだ!?」
どこにいるのかも分からない声の主に大声で語りかける。
「お前の体は俺がもらう」
俺の真後ろから声がした。
それにこのセリフ、あの時ルシファーから聞こえたものだ。
「お、お前、ルシファーなのか!?」
そう問いかけながら後ろへ振り返る。
そこにいたのは見たこともない男性だった。
全身黒装束、頭には2本の角。髪は灰色で短め。間違いない、こいつは悪魔だ!
「違うな。俺はルシファーであってルシファーではない」
そう言うと、謎の悪魔は俺の体に手を伸ばす。
「な、何を――」
何でこんなことが。
俺は自分の目を疑った。
この謎の悪魔は伸ばした手を俺の体と融合させている。
俺は体の中に何かが入ってくるような妙な感覚を覚えた。
「う……うわああああ!!」
「言ったろ? お前の体をもらうってな!」
「や、やめろおお!!」
◇
静寂に包まれた横浜の街。
膝立ちのまま俯き動かない明日夢へ声をかける。
「櫻津君……?」
もう黒いオーラは消えている。何もないはずだ。
明日夢が口を開く。
「ふぅ……いつ以来かね、俺が外に出るなんてのは」
その一言で全員が異変に気付く。
見た目も声も間違いなく明日夢自身だ。だが何かが違う。
「な、何スかあれは……?」
「違う、櫻津さんじゃない……!」
戦極が身構えた状態で問いかける。
「て……テメェ何者だ!」
「俺か? おっと、自己紹介してなかったな、人間ども」
“人間ども”など明日夢が言うはずがない。
「人間ども……?」
「や、やっぱり何かおかしいッスよ!」
恐怖心から震えた声で切歌が話しかける。
「あなたは……あなたは誰なの!?」
スッと立ち上がり、明日夢の体は答える。冷徹な笑みを浮かべながら。
「俺は悪魔王サタン。神をも超える存在」
閲覧ありがとうございます。
今回、第二章のサブタイトルである“覚醒”の意味が明らかになりました。
神話に詳しい方ならお気づきになられたかもしれませんがこの展開はルシファー・サタン同一説が基になっています。
なぜルシファーがサタンになってしまったのか、サタンに乗っ取られた明日夢はどうなるのか、それは今後の話で明らかになっていきますので今後もよろしくお願いいたします。
あ、それと地味に今回切歌の特級魔法の呪文が明かされましたね。これは単に書くチャンスがなかっただけです(笑)
ちょっとネタバレするとあと2回ほどで新しい悪魔を登場させる予定です。私はキャラ造りは苦手なのですが少しでも皆さんに好きになっていただけたら幸いです。
それでは次回もよろしくお願いします。




