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契約悪魔と魔法使い  作者: 高橋響
第二章「覚醒編」
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第17話 「人生最悪の日」

キャラクタープロフィール16


イフリート

 ・好きなもの:ミネストローネ、瞑想

 ・嫌いなもの:ポテトチップス、いいかげんな奴

 ・趣味:筋トレ

 ・特級魔法:火炎魔法

 ・契約者:アイラ・スペンサー

 ・魔法省所属の悪魔。筋肉質で褐色の肌が特徴。

  童話に登場するランプの魔人のモデルである。

  かなり堅い性格であり自由奔放なルシファーとはよく反発している(本心から嫌っているわけではないが)。

  一方で契約者であるアイラにはもう少し丸くなってほしいと思っている。

 間違いない、ここは俺の両親が死んだ交通事故の現場だ。

 直接事故の瞬間に居合わせたわけではないが、警察から場所は聞いていたし叔母さんと花を添えに来たこともある。

 俺にとってはもう二度と来たくない場所だ。


「ここに連れてきた理由はなんだ!?」


 過去のことを思い出したせいか、自然と声を大きくしてしまう。

 もしかしてこいつ、俺の両親のことを何か知っているのか? それともわざわざ調べ上げたのか?


「実はね、ここは俺達にとって思い出の場所なわけよ。是非とも案内したくってね」


 俺の様子には全く触れず、いつものペースで戦極は話し続ける。


「思い出の場所だと?」


 握った拳の中は汗だくになっていた。

 今にも吐きそうなくらい、俺の頭の中を色んな感情が駆け巡っている。



「もう11年前になるな。俺はべリアルとサバトをして魔法使いになった。まだ中級魔法も使えなかったころだ」


 戦極の話し方には何かに飲み込まれそうになるような違和感があった。こいつの話はムカつくだけでなく妙なものを感じる。




「俺が初めて魔法で人を殺した場所なんだよ、ここは」


 この場所で人を殺しただと?


「今でも昨日のことのように覚えてる。液状化魔法で道路の一部を液状化させたんだ。そしたらトラックと追突事故を起こしてね。ま、俺はちょっと離れたとこにいたけど」



 トラックとの追突事故……? この場所で……?

 そんな馬鹿な……!


「お前……その日ってまさか……!!」

「おい、どうしたんじゃ明日夢!?」


 ルシファーが俺に話しかけているが答えられる余裕はない。




 頼む、違ってくれ!!







「11年前の今日だよ」




 この瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。





 今日は俺の誕生日、つまり父さんと母さんの命日だ。

 そして11年前の今日、2人共交通事故でこの世を去った。





「そうか……お前が……」


 すべて繋がった。

 こいつだったんだな、父さんと母さんを奪ったのは。




「戦極っていったか?」

「何だい?」

「……よく俺の前に現れてくれた」


 目から次々と涙が溢れてくる。

 下を向いているから見えないけど、あの野郎は今どんな顔をしているのだろうか。

 いや、どんな顔だろうと関係ない。





「…………テメエは俺が潰す!!」




 溢れる涙を拭きもせず歯を食いしばる。

 俺の頭の中は怒りと憎しみのみになっていた。


「俺の……父さんと母さんを……!!」


 気づくとルシファーが怯えているような目で俺を見ていた。

 今の俺はそんな顔をしているのか。


「そうか、君あの夫婦の息子なのか」


 戦極はまるで動じていない。良くも悪くもさすがというとこか。



「今日はただお話したかっただけなんだけどねぇ。どうするべリアル?」

「構わねえよ。“あの”ルシファーを倒せばさらに名を揚げれるしな」


 2人共にやる気のようだな。

 上等だぜ。


「ルシファー、いくぞ」

「馬鹿者! ここで戦う気か!」


 言われてハッとした。

 こんな市街地で戦ったら、確実に無関係な人が巻き添えになる。

 ここは感情を抑えなければ。


 涙を腕で拭い一呼吸入れる。


「……ここは人が多い。場所を変えよう」


 だが奴は何故か笑い出した。


「ハハハハ!」

「何がおかしい!!」


 戦極に対する憎しみはもうピークに達している。

 今すぐにでもこいつをブッ潰してやりたい。



「心配しなくても大丈夫だよ」

「何?」


 一体どういうことだ。



「この辺にいる奴らのほとんど、俺の手下だから♪」


 その言葉を言い終えた瞬間に、周囲の人間の多くが武器を出しこちらを見た。

 携帯で通話していた若者も、買い物袋を持っていた女性も、缶コーヒーを飲んでいたおじいさんも。

 俺の目の届く範囲にいる半分くらいはこいつの仲間か。


「どう? これなら心置きなく戦えるっしょ?」


 こいつ、ここまで仕組んでいたのか。

 パッと見だが魔法省が来ても戦えるくらいの頭数は揃っている。あの時仲間に伝えていいと言ったのはこういうことだったんだな。


「ハメられたか……!」

「おっと、誤解しないでよ、こいつらには手出しはさせない。君にはね」 


 どうすればいいか分からない、もう完全に混乱状態だ。







 その時――。


「うわ!」

「何だ!?」


 後ろから聞こえたその声の方を向くと、俺の前に顔を腫らした戦極の仲間が倒れていた。


「何者だ?」


 これまでと違い戦極の声が重いトーンになる。


「まさかべリアル、君と会えるなんて思わなかったよ」


 声の主はパイモンだった。

 ということは、これはパイモンがやったのか?


「なんだテメェ!」


 後ろにいた一味の1人がパイモンに襲い掛かる。しかも手には鎌というオマケ付きだ。


「危ねぇ!」


 だがパイモンは振り返りもせずその場にしゃがみ鎌を回避すると、地面に付いた手をバネのようにし敵にとび蹴りを喰らわした。思い切り勢いのある蹴りを顔面に喰らった相手は、鼻血を出しながら後方へ倒れこむ。


「結構強いんだな、あいつ……」

「あんなんでも魔王じゃからな」


 そりゃそうかもしれんけど、あの小さな容姿からは到底想像できない強さだ。


「パイモンじゃねえか、久々だねぇ」


 べリアルは特に変わらない様子で再会を楽しんでいるようだ。

 いや、それより様子がおかしいのはこっちだ。


「ベリアル、君はこの組織の一員なんだね?」

「パイモン?」


 なんだ、どうしたんだ。隣にいるだけでいつもと様子が違うのが分かる。


「だったらどうすんだい? 魔王様よぉ」


 嫌味たっぷりな言い方でべリアルは答える。


「先日フランスで起きた大量虐殺事件の時、僕の契約者が事件に巻き込まれてね」


 その事件ってのは、俺と戦極が初めて会ったあの時のことだろう。

 あの事件は世界各国で起きていたし。


「……僕の契約者は命を落とした」


 そうだったのか。パイモンが俺の家に来たあの日、日本にいる理由を聞いた時のパイモンは契約者の話に悲しそうな顔をしていた。理由は聞かないでおいたが今分かった、こいつらに殺されたんだ。


「だから僕は君達を許さない……!」


 それは、俺が初めて見たパイモンの怒りだった。

 静かで、冷たい怒り。


「ルシファー様、櫻津さん。周りの連中と非難誘導は僕が引き受けます。もうすぐ魔法省からも援軍が来るでしょう」


 後ろを向いたパイモンの背中からは様々な感情が現れていた。悲しみ、怒り、悔しさ、憎しみ。

 気持ちは分かるぜ。俺も両親を殺されてるからな。


「どうか……どうかあいつらを倒してください!」

「任せとけ!!」


 それだけを言い残し、パイモンは敵の方へ向かっていった。

 ありがとよ、パイモン!



 ルシファーは剣へと姿を変えた。

 同時にべリアルも処刑鎌デスサイズへと変形する。


「いこうぜ、ルシファー」

 

 俺の人生最悪の誕生日を人生最高の誕生日にするために。


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