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契約悪魔と魔法使い  作者: 高橋響
第二章「覚醒編」
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第16話 「対峙」

キャラクタープロフィール15


アイラ・スペンサー

 ・誕生日:10月4日

 ・好きなもの:タマゴサンド、仕事

 ・嫌いなもの:セロリ、長官のサボり、たばこ

 ・趣味:料理

 ・特級魔法:火炎魔法

 ・契約悪魔:イフリート

 ・長官の秘書官。イギリス人である。

  長身でスリムな体型、白髪ショートの美人。

  器量は良いが生真面目で仕事には厳しく長官のサボりに頭を悩ませている。

  私生活では料理好きであったりと女性らしい一面も持つ。

 潮風が心地よく吹いているベンチに、俺とルシファーは座っている。

 昨日新たに送られてきたメールに書かれていた指定時間まではまだまだ時間があるが、俺はもう既に緊張度が最高潮だ。

 だが隣のルシファーは呑気にクレープを食べている。もちろん俺の金で買ったものだ。


「ん? どうしたそんな顔して? もしかして一口食べたいのか?」

「んなわけねえだろ……」


 いつもと変わらない調子のルシファーを見てなんだか気が楽になった。

 

「時間まではたっぷり余裕がある。お前もリラックスして待つとよい」


 まあ、それも大事かもな。

 さすがにこういう場面じゃ、こいつの方が一枚上手だ。


「今から神経を張りつめてちゃ肝心な時にフル稼働できんぞ」

「ああ、ありがとよ」


 俺は深呼吸しペットボトルの水を飲む。


 今日、ついにあの野郎と対峙するというわけだ。

 名前も知らないがいずれ戦うことになる、そんな奇妙な運命を奴には感じる。


 時間が近づくにつれ、俺達はここに来る前の作戦会議を思い出していた。



「よし、もう一度確認するぞ」


 ルシファーの立てた作戦はこうだ。


 俺とルシファーが奴と接触している間ヴァニラとシャーロット・ヴィネ組は転送魔法で近くのビルの屋上から尾行しつつ監視、顔の割れていないパイモンは徒歩で最低70mの距離を保ち尾行、藤導は監視魔法で監視し待機。


「ヴァニラ、シャーロット。お前達は行動が先読みされている可能性があることも頭に入れておけ」

「了解ッス」

「はい」


 各々が引き締まった顔になっていたころ、唯一不安そうな顔でいたのが俺だった。

 今までの相手とは一味も二味も違う。そう考えるとブルーな気持ちになってしまう。

 認めよう、俺はあいつにビビってるんだと。


「櫻津君、大丈夫?」


 俺の顔色が悪いのを心配してくれたのか、藤導が声をかけてきた。


「ああ、なんとかな」


 なんて言ったが本当は内心穏やかじゃなかった。

 意中の人に心配されるなんて平常時なら大喜びなんだがな。


「もしもの時は魔法省も動くわ。それに危ないと思ったらすぐに逃げて」

「ああ。悪いな」


 今回の件を決めたのは俺だ。なのにみんな力を貸してくれる。



 そうして俺達は刻一刻と迫る作戦決行時間を待っている。

 落ち着かないまま時間は流れ、チラッと時計を見ると指定時刻10分前になろうとしていた。


「そろそろか……」


 ヤバい、胸がドキドキしてきた。正直こんなドキドキは嫌だけど。


 周囲は暗くなってきているが人はそれなりに多い。

 みんなはもう指定された位置に転送したはずだ。

 パイモンはもう俺達に見えるか見えないかギリギリの場所にいるのだろう。



「来たぞ」


 小声でルシファーが言う。

 気が付くと向こうから黒のレザージャケットを着た、20代後半らしき男性がこちらに歩いて来ていた。

 男はベンチの後ろ、俺達に背を向けて立つ。


「お待たせ、来てくれるとは嬉しいねぇ」

「そりゃどうも」


 相も変わらず腹立つ話し方だぜ。

 さっきまでの緊張が一瞬で吹き飛んだぞ。


「場所も伝わったみたいで何よりだよ」

「昔、この辺に住んでたんでな」


 父さんと母さんが生きていたころ、俺は横浜に住んでいた。施設に引き取られこの街を離れたが俺にとっては故郷だ。あまり思い出したくない故郷だけどな......。


「待て、お前が処刑鎌デスサイズの魔法使いだという証拠はあるのか?」


 張りつめた空気の中でルシファーが口を開いた。

 言われてみれば影武者という可能性も0%ではない。


「う~ん、今は契約悪魔もいないから立証は難しいなぁ」


 今初めて知ったことだが、こいつサバトをして魔法使いになったのか。


「今は信じてくれとしか言えないな」

「お前のことを信じろじゃと? そんな――」

「ルシファー」


 すべて言い終わる前に俺はルシファーを止めた。


「こいつは多分本物だよ。この感情を逆なでされるような話し方はこいつしか出せない」


 根拠としては正直不十分だと思うが、そんなことはどうでもよかった。

 俺の中ではもう確定だ。あのムカつく話し方はいっぺん聞いたら離れない。


「お、信じてくれるなんて親切だねえ! えっと……“さくらつ君”だっけ?」

櫻津おうづだ……!!」


 クソ、こいつはどこまで俺をイラつかせるんだ……!


「あ、そうかそうか! ごめんね~間違えちゃって!」


 この……わざとらしい演技しやがって!

 本心を言えば、今すぐにでもこいつをブン殴りたい。



「明日夢、こいつのペースに飲まれるなよ」


 俺の様子を見てルシファーが言う。俺が乗せられてたことを見抜いての台詞か。


「ああ、悪いな」


 さっきと同じように大きく深呼吸し切り替える。


「じゃあ、そこのカフェで一緒にお茶しよう。俺が奢るよ!」


 頭の中で色んな感情がゴチャ混ぜになりながら俺達は席に着く。

 俺はアイスコーヒー、ルシファーはオレンジジュース、処刑鎌の魔法使いはカプチーノを注文し来るのを待つ。


「そうだ、自己紹介してなかったね。俺は戦極雅人ってんだ」


 俺達の前で堂々と名乗るってことは、名前が知られたところで痛くも痒くもないってことか。

 ということは名前から洗い出すは難しいだろう。


「で、私達を呼び出した目的はなんじゃ?」

「いや~、“あの”ルシファーとサバトをした魔法使いがいるって聞いてね。俺、強い奴が好きだから会ってみたくてさ」


 躊躇なく人を殺せるクソ野郎の正体はただの戦闘狂か、やっぱロクでもねぇな。


「それと俺の契約悪魔がぜひ挨拶したいらしくてね」

「何?」


 一瞬でルシファーの顔が変わった。やはり同じ悪魔として気になるのだろう。


「だ~れだ?」


 いきなり謎の男が後ろから手でルシファーの目を覆い隠す。

 こいつが戦極の契約悪魔か。


「ふざけたマネはやめろ、べリアル!」

「冗談だよルシファー様ァ!」


 ルシファーは姿を見てもいないのに答えた。ひょっとして知り合いか?


「初めまして少年、俺はべリアル。こいつの契約悪魔だ」


 このべリアルという悪魔、見た目はほぼ俺と変わらないくらいの年齢か。髪は黒に金のメッシュ、服装は青の革ジャンに黒のデニム。いたって普通の格好だ。

 当たり前だが角は魔法で隠しているしな。


「こんな形でお前と再会するとは思わなんだ」

「俺もビックリだぜ」


 何とも言えないこの空気に、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


「2人は知り合いなのか?」

「うむ、もう何千年も前に袂を分かったがの」


 袂を分かった、てのは今のこの状況がよく表している。

 魔法省に付いたルシファーと反旗を翻したべリアル、という状況が。


「お前の仲間達、アスタロトやアスモデウスは元気か? サブノックとアイムとアンドラスは10年近く前に私の仲間が逮捕したがな」

「まあ各々元気でやってるぜ。全員は把握してないけど」



「さて、ちょっと散歩しないか?」


 戦極の提案で4人で店を出る。

 今のところこいつらから戦う意思は見られない。本当に戦うつもりはないのか?



「おい、どこへ向かってるんだ?」

「いずれ分かるよ」


 今俺達が進んでいる道、その先にはあの道路があるはずだ。



 嫌な予感がする。



 ◇


 カフェ近くのビルの屋上、シャーロットとヴィネは双眼鏡で監視していた。双眼鏡を使っている理由はシャーロットが監視魔法を覚えていないためだ。


「ヴィネ、あの人誰か分かる?」

「あれは……ベリアル‼︎」


 悪魔の姿に戻っているヴィネはベリアルを見て驚愕している。同じ72柱である2人は面識があるからだ。


「まさか彼が……」




 その時、後方で転送魔法の光が輝いた。

 その光に反応し2人が振り返った時、そこには口元を覆い隠すような造りの白いローブを来た長身の男性がいた。髪は黒のオールバック、手にはハンマーを所持している。


「やはり魔法省の者が来ていたか」

(読まれてた……!)


 シャーロットはヴィネを弓に変え臨戦体勢を取る。

 だが男は一切動じることはない。


「安心しろ、私は手出しするつもりはない、ただ警告しに来ただけだ」

「警告?」

「そうだ。これ以上我々を追うのはよせ。私も無駄な殺生は好まないからな」


 シャーロットは淡々と話を続ける男から、今までの敵とは全く違うものを感じている。悪というよりむしろ正義こちら側に近いものを。


「おっと、どうやら下が動きだしたようだ。私は失礼する」


 そう言うと男は転送魔法で去って行った。


 何も言うことができなかったのは決して怯えていたからではない、何かが引っかかっていたからだ

 シャーロットの心はモヤモヤとしたままであった。


<シャーロット?>

「あ、ごめん!」


 ヴィネの呼びかけでようやく我に帰ったが、心が晴れることはなかった。あの男に感じたこの気持ちは何なのか、それが分からないからだ。


(なんだろう、この感じ……)


 ◇


「着いたよ、ここだ」


 戦極に連れてこられた場所、人も多く車も行き来している。街灯が夜景を一段と色鮮やかに染めている。

 

 だが俺にはここに最悪の思い出しかない。


「どうした明日夢?」


 ルシファーが心配そうに声をかけるが、返事をすることができない。

 俺の胸が押し潰されそうだからだ。




 間違いない。この道路、ここは俺の両親が死んだ場所だ。

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