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契約悪魔と魔法使い  作者: 高橋響
第二章「覚醒編」
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第14話 「魔王の来訪」

キャラクタープロフィール13


松木

 ・誕生日:11月8日

 ・好きなもの:カツ丼、アニメ、ゲーム

 ・嫌いなもの:レタス、勉強、リア充

 ・趣味:ゲーセン巡り

 ・明日夢の友人。

  思春期らしくモテたい願望が高いが全くモテない。

  明日夢が魔法使いだということには気づいていない。

 あれから数週間が経った。関東は甚大な被害を受け経済的損失も多く、さらに夜間に電気が付かないことで犯罪率も増えた。

 世間ではオカルトマニア達がやれ“ラグナロク”だの“ハルマゲドン”だのと騒いでいたが、何ともバカバカしい話だろう。もっともこんな事態だけに、それを真に受ける奴も少なからずいたみたいだけど。


 とはいえ警察の夜間パトロール実施や電力会社の努力のおかげでここ数日、東京のいくつかの地域は復旧し残る地区と神奈川、埼玉、千葉もどうやらそう遠くないうちに今より改善されそうだ。


「人間もまだまだ捨てたもんじゃないの」


 ルシファーはそんなことを言って感心していたが、今回ばかりは俺も同意見だ。

 なんせ平然と人を殺めるような奴と出会ってしまったんだからな。


 あの巨大な処刑鎌デスサイズの魔法使いはあれ以来姿を見せていない。あれだけのことをやらかしておいてその姿を消してしまうなんて、増々奴らの考えが読めないぜ。


「やっぱ電気のある生活っていいな……」


俺の地域は既に復旧しておりかなり改善されてた。学校も来週から再開するらしい。




「なあルシファー、あいつの処刑鎌デスサイズがどの悪魔なのか分からないのか?」


 もしあいつに契約悪魔がいたら何かしらの参考になるはずだ。相手の情報が少しでも分かれば足がつくかもしれないし、対策も得られるだろう。敵を知ることは大事なことだしな。


「無理じゃ。悪魔が変形する武器ってのは契約者によって変わるからの」

「そうなのか?」


 これは初耳だ。


「ちなみに切乃と契約していた時はメスだった」

「メス? あの手術に使われるやつか?」


 メスってあまり武器としては使えない気もするんだが。


「切乃は医者だったからの。それに私の体が答えたんじゃろう」


 そうだったのか。医者の娘の特級魔法がああいう魔法なのは納得だ。


「まあここ最近は奴らも大人しくしているようだし、しばらくは体を休めるといい。エージェントは休養も仕事じゃぞ」

「ああ」


 ◇


「ん……」


 日曜日、目を覚まし時計を見ると針は7時45分を指している。

 本当ならもっと寝ていたいのだがテレビから流れる音が俺の眠りを妨げた。


「なんだ……」


 ぼんやりとした目でテレビをみると朝のヒーロー番組がやっていた。さてはルシファーだな。


『行くぞ! フォーミュラバズーカ!』

『ぐおぉぉ!』


 今のレンジャーは車がモチーフなのか。


「ん? なんじゃ、浮かない顔して。明日夢はレンジャー嫌いなのか?」


 俺に気付いたルシファーが声をかける。浮かない顔か、確かにしてたかもな。


「いや、ただ懐かしくてさ……」


 俺は確かにレンジャーが嫌いなわけじゃない。子供のころは大好きだった。

 あの日までは。



 

 もう何年前のことだろう。

 当時の俺はまだ子供で、誕生日にレンジャーのロボットのおもちゃを欲しがっていた。


 父さんと母さんは仕事で遅くなることも多かったし、忙しい毎日を過ごしていたのだろう。家も決して裕福でもない。

 それでも2人共俺の願いを聞いてくれた。

 誕生日にロボットのおもちゃを買ってきてくれたのだ。




 だがその日、おもちゃを買うためにいつもと違うルートで帰宅していた2人は事故にあった。原因は未だに分かっていないが、トラックとの追突事故。



 そうして俺の誕生日に2人共この世を去った。



 それからだ、俺が朝のレンジャーものを避けるようになったのは。俺が車を嫌うようになったのは。

 本当は分かってる、ただの言いがかりに近い感情だってことを。車の事故なんて世界中色んな場所で起きてる、俺の父さんと母さんだけじゃないってことを。 


 それでも俺は憎かった、父さんと母さんを奪った車が。

 朝のレンジャーものも見るのが辛くなった。どうしても思い出してしまうから。



 そして今、車をモチーフのレンジャーが俺のテレビに映っている。俺にとっては最悪の組み合わせだ。

 けど楽しく見ているルシファーの邪魔はしたくない。


「明日夢……?」

「あ、悪い! 今朝飯作るから!」


 心配そうな顔で俺を見るルシファーに空元気で答える。

 余計な心配はさせたくないからな。


 心に穴が開いたような感じの気持ちのまま俺はキッチンへ向かった。

 その理由は分かっている。

 今月が俺の誕生日だからだ。



 施設から叔母さんに引き取られて以降、俺は自分の誕生日を祝うことはしていない。叔母さんもその辺は理解してくれていたので助かっていた。


「ふう……」





 ピンポーン!


「誰だ? こんな時間に」


 日曜の朝早くだぞ、もう少し時間ってものをだな。


「はい?」

「あ、あの! 朝早くすいません! ぼ、僕は……その……」


 ドアを開けた俺の目に入ってきた人物、それは女の子のような声、黒髪ロングを後ろで結んだ髪型、背の低い見るからに少女の如き少年だった。

 いや、本当に男か? 一人称は確かに“僕”だがいわゆる僕っ子ってのかもしれん。

 で、そんな“男の娘”が俺に何の用なのか。


「僕の名前は……あ……ルシファー様?」


 奥のルシファーに気付いたらしい。ってことはこいつも悪魔なのか?


「君、ルシファーを知ってるの?」

「ん? ってお前、パイモンか!?」


 パイモン? 聞いたことがない悪魔だな。

 奥にいたルシファーもこちらに気付いたようだが、こっちには来ようとしない。


「おいルシファー、お前知り合い――」



「ルシファー様ぁぁぁぁ!!」


 なんだ? ルシファーを見ると同時に駆け寄っていったぞ?

 しかも大粒の涙を流している。


「あーもう! 抱き着くな馬鹿者!」

「会いたかったですルシファー様!」


 何だこの絵は。幼女にショタが抱き着いている。実にカオスだ。


 既に俺には入り込む余地がなかった。


「いい加減にしろ! しつこいやつにはこうじゃ!」


 そう言うとルシファーはパイモンの尻を叩き始めた。

 まさに“おしりペンペン”である。

 なんか姉弟にしか見えないな。この光景がちょっと微笑ましい。


 だがやられている当のパイモンはというと――。


「ああ! ありがとうございますルシファー様!」


 こ、こいつドMなのか……!?


「お、おい。もうその辺にしてやれよ。それと君も靴を脱いでくれないか?」


 すっかり忘れていたがパイモンは土足であった。



 ひとまずパイモンを座らせ話を聞くことにした。


「挨拶が遅れましてすいません。僕は72柱の王にして偉大なルシファー様の忠実なる側近、パイモンです!」


 72柱ってことはヴィネと同じってことか?

 しかも王だと?


「王って結構凄いんじゃ……」

「まあこいつは西の魔王じゃった奴じゃからな」


 こいつ魔王なのかよ、全くそんな風に見えないが。って最高位の悪魔に見えないような奴と契約してる俺が言えることじゃないか。



「で、お前何故日本にいる? ヨーロッパにいたと聞いておったが?」

「その……僕の契約者は……」


 口ごもるパイモンの様子から何かを察したのか、ルシファーの顔が険しくなる。

 察するに契約者が不幸な目にあったのだろう。

 俺もそこには触れないでおくとしよう。


「まあそれはいいよ。日本に来たのはいいけど今日の寝床はあるの?」

「そ、それは……」


 この様子はないんだな。


「しょうがねえな、じゃあしばらく俺の家にいていいよ」

「ほ、本当ですか!?」


 曇り空が晴れ渡るという比喩がピッタリなほど、パイモンの顔が明るくなった。ルシファーと一緒にいられるのが嬉しいんだろうな。


「あんまりしつこいと私が鉄拳制裁を喰らわすぞ」

「ぜ、是非お願いします!」


 やっぱドMなんじゃないか……。


 こうして我が家に新たな居候が加わった。

 堕天使と魔王、良くも悪くも賑やかな組み合わせだな。


 ◇


 ヴァニラ、シャーロット、ヴィネの3人は買い物から帰宅していた。


「夜出歩けるようになったのは嬉しいッスね」

「人間もやる時はやりますね」


 そんな何の変哲もない会話をしていた時だった。



「あー君達、ちょっといい?」


 目の前に立ちすさむ1人の男性、その声を全員が聞いたことがあった。


「あなた、まさか……」

処刑鎌デスサイズの魔法使い!」


 先日の鉄塔での事件の際に聞いた声だ。

 忘れられるはずもない。


 全員が身構える。

 だが処刑鎌デスサイズの魔法使いは一切動じない。


「おっと、落ち着きなって。今日は挨拶しに来ただけだよ」

「挨拶?」


 誰に何を挨拶するというのか。考えの読めぬまま話を聞き続ける。


「君達の仲間にルシファーの契約者いるっしょ? 俺、彼と戦いたいんだよねー」


 飄々とした口調に怒りを覚えながらも、その言葉に3人共耳を疑っていた。


「櫻津さんと……?」

「おう! じゃあ、近いうちにまた会おうぜ!」


 去っていく姿を追うことはできなかった。皆感じていたからだ。

 飄々とした態度の中に潜む、その圧倒的な殺意を。


「あの男、何者なのでしょうか?」

「とりあえず櫻津さんに報告しましょう」


 気が付くと、シャーロットの手の中は汗だくになっていた。


「あんな目……見たことない……」

「あれは人を平気で殺せる奴の目ッスよ。でも今までの誰よりも残酷なものを感じたッス……」




 自らに近づいている運命を明日夢はまだ知らない。 

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