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契約悪魔と魔法使い  作者: 高橋響
第二章「覚醒編」
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第12話 「暗躍する魔法使い」

キャラクタープロフィール11


ベイン・エルビア

 ・誕生日:3月19日

 ・好きなもの:コンソメスープ、新聞

 ・嫌いなもの:揚げ物、雨

 ・趣味:釣り

 ・特級魔法:なし

 ・契約悪魔:なし

 ・ヴァニラの父で藤導家の執事主任。

  子供達と違い特級魔法はないがその分銃火器の扱いに長けている。

  年齢は49歳。

 大きく投げ飛ばされた俺の体が畳に勢いよく叩きつけられた。

 それに合わせ大きな音が室内に響く。


いてえ!」


 受け身も満足にできない俺はプロのように痛みを減らすこともできず頭をぶつけてしまった。



 ここは藤導邸の中にある道場だ。その辺の道場と遜色ないレベルの造りになっていて、今日はここを借り体術強化に励むこととなった。

 もちろんその対象は俺とシャーロット。

 俺にはヴァニラがお兄さんと一緒に指導してくれている。話に聞くとヴァニラが格闘を教わった相手はお兄さんのジェイさんらしい。


「くっそ~……!」


 俺がヴァニラと格闘訓練をするようになってからもう2ヶ月は経ったが未だにヴァニラに勝てたことはない。確かに最初に比べたら筋力も付き段々技も覚えてきたがやはり経験の差はたかが2ヶ月で埋められるものではないようだ。


「一旦休憩にしましょう」


 ジェイさんはそう言ったが俺は早くリベンジしたかった。勝てる確率がほとんど無かったとしても負けたままなのは嫌だからだ。

 

「いや、まだやれますよ!」


 借りた道着で汗を拭い立ち上がる。

 まあ実際はただの強がりなのだが。


「まあまあ櫻津様、ダメージがまだ抜けていないでしょう。ちょうどシャーロット様も同じような状態のようですし」


 反対側で藤導と組手していたシャーロットを見ると完全にノックアウト状態になっている。しばらくは続行不可能だろう。

 

 渋々言われた通りにしシャーロットと道場の壁に寄り掛かるように座り休まず稽古を続ける藤導とヴァニラを見ていた。


「やっぱ凄いなあいつら」

「ですね……」


 素人の俺にはよく分からなかったが様々な格闘技の技が次々と飛び出してくる。しかも2人共さっきまで俺達とも組手していたのだ。

 いや、一方的な内容だったけれども。


「シャーロットはどうだ? 大分シゴかれてたみたいだけど」

「いや……私も全然です……」


 相手が藤導やヴァニラじゃ可哀想だがシャーロットも体術には少々難ありで、実戦で苦戦することがないように俺と一緒に特訓している。

 もっともシャーロットの場合特級魔法が遠距離戦闘に長けているので肉弾戦になることはほぼないのだが、備えあればというやつだ。


「でもお前の特級魔法なら簡単には懐に潜り込ませないだろ?」

「逆を言えば突破されたらそこからの手がないですから。特級魔法に頼り切った戦闘が私の欠点だと切歌さんにも言われましたし」


 手厳しい意見だが実際そうだとシャーロット自身も自覚しているようだ。

 

 未だ魔法省の監視下にあるシャーロットだが、本人の真っ直ぐな性格と優しさが評価されもうすぐ監視処分が解かれ正式にエージェントになるらしい。

 そうなると今以上の現場に行かされることもあるだろう。だからなのか、今まで以上にシャーロットに向上心が見られる。俺も負けられないな。


 とはいえ目の前の2人を見ると一気に自信喪失してしまうが。


「俺達強くなってんのかな……」

「だといいですね……」


 2人揃ってため息をつき肩を落とす。

 本当に強くなってるのかな……?


 ◇


 ドイツ、ベルリンに位置する連邦首相府。時刻は深夜2時。

 入口のSPは既に死亡しており全員その場に倒れているがその中に唯一、立っている人影があった。


「よし、いっちょ上がり!」


 男の名はヨーラン・ハーリフ、ロシア人である。


「とっとと済まして帰るか」

<ああ、行こう>


 契約悪魔の名はアンラ・マンユ。



「しっかしあの爺さんも面倒な仕事押し付けてくれたもんだぜ。ここ最近、魔法省の目も厳しくなってるってのによ」

「お、よく分かってんじゃねえか!」


 突如として発せられた声に2人は一瞬で表情が厳しくなった。

 周囲には死亡したSPしかいないはずだ。


「誰だ!?」

「レ・テン・テレイル!」


 ハーリフの足元を転送魔法の魔法陣が包み次の瞬間、全く別の場所に飛ばされた。

 周囲は人気のない荒野である。


「テメエ、何者だ……!?」


 転送前には見えなかったもう1人の男が目の前にいた。大柄な金髪男性で、手にガントレットを装着している。


「俺はレオン、魔法省のエージェントだ。大人しく捕まってくんねえか?」

「魔法省か……! 何故俺達のことが分かった!」


 明らかに動揺しているその顔を見て、レオンは楽しむように答える。


「ま、魔法省(おれたち)を甘く見てたってことだ。ジイさんはお前らの存在にもう気づいてるぜ」


 ハーリフの歯ぎしりがその怒りを表していた。

 

「クソがぁぁ! 行くぞアンラ!」

<承知!>


 手にはアンラが変形したヌンチャクが握られている。


「いつでもいいぜ。来いよ!!」



 ヌンチャクを構えたままハーリフは動かない。

 同時にレオンもファイティングポーズのまま距離を測る。

 両者共に動かぬまま、瞬く間に数分が経過した。


(闇雲に突っ込んで来ないとは賢いじゃねえか。その上攻撃と防御、どちらにも即対応できるようなバランスの良い構えだ)

<どうやら中々のやり手のようですね>


 長い間組んで戦ってきただけあり、レオンとアルプはこの数分で相手の力量を確信した。


「来ねえならこっちからいくぜ。チー・クリサ・チェイス!」


 鎖魔法を発動させたことにより、ハーリフの体に地面の魔法陣から伸びた鎖が巻き付く。

 中級魔法とはいえ並みの魔法使いなら身動きもとれなくなるレベルの魔法である。


「鎖魔法か……! それなら……」

(来るぞ……!)


 レオン、アルプ共に敵の攻撃が来るのを感じ取り身構える。


「ジュー・ヘイン・ビアス!」


 呪文が唱えられた直後、ハーリフの体が急速に大きくなり全身から毛が生えてきた。歯は牙へと変化し、爪も鋭く変化している。

 数秒後、ハーリフの姿はまさにグリズリーと化していた。


「何だこいつは!?」

<獣化魔法か。やはりアンラ・マンユが契約悪魔ですね>


 悪魔の中でもそれなりに有名な存在のアンラを当然アルプも知っていた。


 ハーリフは力ずくで鎖を引きちぎり突進してくる。

 その巨体に似合わずかなりのスピードだ。



「仕方ねえ、トウ・クー・インヴィイ!」


 その呪文はレオンの特級魔法だった。

 普段ならなるべく手の内を明かさず戦うが、相手が相手だけに今回は特例である。


「何だ!?」


 刹那、レオンの姿が消えた。

 レオンの特級魔法、それは透明化魔法である。


<透明化魔法を使うとはな……>

(いきなり転送されたのはこういうことか……!)



 全てを理解した時、ハーリフの眉間に強力なストレートが飛んできた。


「ぐあああ!」

「おい若僧、熊は眉間が弱点って知らないか?」


 もだえ苦しむハーリフには最早その声は届いていない。


「それじゃあフィニッシュといくか!」


 レオンはアルプが変形したガントレットの人差し指と中指を立て目に突き刺した。


「ぐあああ!! 目があああ!!」


 ダメージからか、特級魔法が解け人間の姿へと戻るハーリフ。右目は見えていない。


「クソがあああ!」

「クソはテメエだろうが」


 ハーリフの手に魔法を封じる特殊な手錠をかけ、身動きが取れないようにする。


「おのれ……!」


 武器から悪魔へ戻ったアンラも、レオンにより同じ手錠をかけられ御用となった。

 ハーリフ、アンラ共に魔法も使えず打つ手はない、完全な敗北である。


「よし、お前らには聞きたいことが山ほどあるからな。大人しく魔法省に――」

「悪いね、それはできない」




 聞き覚えのない声がした次の瞬間、ハーリフの体に処刑鎌デスサイズの刃が突き刺さった。


「がはっ……!」

「な……」


 処刑鎌デスサイズの刃はハーリフの体から抜かれると、そのままアンラの首を切り落とした。

 死亡したことによりアンラの体が消滅していく。


「じゃ、さよなら」

「待てテメエ!」


 咄嗟のことでレオンですら全く反応できなかった。

 謎の魔法使いは転送魔法で消え、息のないハーリフのみが残っている。

 戦闘を終えたアルプは悪魔の姿に戻ると、ハーリフの頸動脈を測り死亡を確認する。


「クソッ! 何者だあの野郎!!」

「あれほどの手際の良さ……、この男以上の強敵かもしれませんね」


 犯人をみすみす逃した上に情報源となる人物を殺されてしまった、その悔しさだけをレオンとアルプは感じていた。


「俺達が追ってる連中ってのは思ってる以上に厄介なのかもしれねえな」


 ◇


 夏休み最後の日、藤導家の門の前に全員で見送りに来てくれていた。


「3日間もお世話になりました」

「いいや、また来てくれたまえ。歓迎するぞ」


 総一郎さんの優しい言葉にちょっと嬉しくなる。

 なんだか居心地の良い場所だったな、この家は。


「じゃあ行ってきます」

「頑張ってな、ヴァニラ」


 ジェイさんにも大分世話になったな。結局1回も勝てなかったけど。


「何だか良いですね。こういうの」


 シャーロットが少し寂しそうに話す。

 家族は未だに入院中で目を覚まさないらしい。何度か藤導の特級魔法で治すと提案されたそうだが、本人が全て断っていた。


 とはいえこの光景を見て家族が恋しくなるのも無理ない。きっと寂しそうなのはそれが原因だろう。


「あなたにもきっとこういう時が来ますよ」

「ありがとうヴィネ……」


 ヴィネは優しくシャーロットの肩に手を置いた。


「じゃあお爺様、行ってきます」

「うむ、しっかりやってこい!」


 最後に一礼し藤導家のみんなに別れを告げる。

 ほんの数日だったが非常に濃厚な時間を過ごせたと思う。



 転送された先は俺の家の近所にある公園だった。

 疲れもあり今日はこの場で解散ということにし、帰路に就く。


「はあ~疲れた……」

「全く、情けないのう」


 しょうがないだろう、今日も朝から体術特訓だったのだから。

 これで明日から学校だなんて気が滅入るぜ。


「夕飯食ったらさっさと寝よっと……」


 時計を見たらもう18時過ぎだった。少し早いが腹が減っていたので夕飯にしよう。



 が、ここであることに気が付いた。


「あ……」

「どうしたのじゃ?」

「課題……終わってない……」


 結局この日は11時過ぎまで課題に追われてしまい、俺は体の疲れを取ることもできずに夏休み最後の日を終えた。


 魔法使いの夏休みはいつもと大差ない終わりだった。

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