第123話 「戦い終わって」
『世界情勢の立て直しには数年規模の――』
『アメリカ大統領コービン氏の死因は拳銃自殺とみられ――』
『魔法というものの解明は――』
『魔法省長官とされるアイラ・スペンサーにより――』
テレビやラジオは延々とニュースを報じている。世界をひっくり返す出来事の後では無理もないのだが。
世界の行く末はいかに。
◇
「しばらくは安静だな」
「はい」
とある病室、ベッドに横たわるジェイを診察しているのはウエイドだった。足を怪我してはいるものの、軽傷で済んだためか、歩くことはできる。
そしてその隣にはアスタロトがいた。
「やっぱり医者としてやり直すんですか?」
「ああ、監視付きではあるがな。家も牢獄暮らしだ。だが償いとして受け入れるさ」
カルテを確認しながら自身の処遇を語る。
「君はどうする?」
「僕は……考えている最中です。償うためにはどうすればいいのか。そのために、まずは妹に会いに行きます」
「そうか。明日、また来る」
二人は病室を後にする。
「アスタロト、お前は良いのか?」
「……何が?」
「無理に私に付いてくる必要はないんだぞ。お前なら逃げ出すことも容易だろう?」
ウエイドは問いかける。だがアスタロトは迷う素振りもなく即答した。
「……いいの。ウエイドは私の契約者だから」
そこに今まで見せたことのない笑みがあった。
ウエイドも同様に微笑む。
「ありがとう」
◇
「本当にいいの?」
「はい」
魔法省の第一級牢獄の入り口に切歌、アイラ、イフリートの三人はいた。
この中に総一郎が投獄されているのだ。
「……今の総一郎氏の状態を見るのはあなたには辛すぎる。今のあなたでは耐えられるかどうか……」
「もう決めたことです。それに……身内の私には見届ける義務があります」
アイラは難色を示しているが、それを跳ねのける。
その言葉には確固たる意志がしっかりとあった。
「でも――」
「アイラ。入れてやろう」
イフリートが口を挟む。
「生半可な覚悟ではないことは見ていれば分かる」
その言葉を受け渋々了承する。
暗唱番号を打ち込むと大きな音を立て重い扉が開く。
重厚な扉の奥にはガラス張りの牢獄があった。室内はそれほど広くはない。
「ここよ」
「……!!」
覚悟をしていてもその姿に涙が止まらなくなる。
痩せこけた頬、生気のない目、ボサボサの髪。数日前までは考えられなかったほど悲惨な姿であった。
「……ここ数日は食事も口にしていないみたい。医師が言うにはそう長くは……」
「……そう……ですか」
必死で抑えていた涙が次々に溢れてくる。膝から崩れ落ちていた。
たった一人の家族が弱り切った姿を見るのは辛く苦しいものだったからだ。
だが切歌は後悔はしていない。
これは逃れることの許されないものだから。
涙の止まらぬ切歌の背中をアイラはそっとさするのだった。
◇
「綺麗な夕日ですね」
「うむ。自然はいつだって人間の事情に流されないからいい」
同時刻、どこかのビルの屋上。
ルシファーとヴィネ、メフィストは夕日を眺めていた。
「一時的には何とかなったけど、ここから先人間界はどうなるのかね」
「さあの。私達が予想できることではない。しかしジジイは魔法の存在を全世界に明かしおったからな」
「人間達は魔法を利用しようとするでしょうか?」
「うむ。私達もグレゴリーやレオン、アルプ達を失った。これから先、確実に人間達の欲望渦巻く時代が始まるじゃろう」
それをヴィネもメフィストも予測していた。
もちろんそんなことは望んではいなかったが、避けられぬことは分かっていた。
そんな重い空気を破るようにルシファーが口を開く。
「しかしな、そんな時代もあいつらなら終わらせてくれる。そうも思っている」
その言葉を聞きヴィネとメフィストは笑顔を浮かべる。
そう、自分達悪魔は知った。絶望だらけの世界を終わらせるのもまた人間なのだと。
「あら、随分懐かしい面々ね。何を話してたの?」
「ベルフェゴール」
魔法陣からベルフェゴールとルキフゲが姿を現す。
先ほどまでの話を二人に伝える。
「……この世界はどうなってくのか、か」
「私には想像もできませんね」
「ええ。けど、どうなろうと私はそれを漫画にするわ。この世界の行く末を」
「お前らしいの」
久しぶりに顔を合わせたからか、悪魔達の談義は盛り上がった。
誰もがこの状況の中で希望を感じていたのだ。
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さあ、完結まであと2回。どうか最後までお付き合いください。
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