第11話 「明かす過去」
キャラクタープロフィール10
ジェイ・エルビア
・誕生日:2月18日
・好きなもの:スクランブルエッグ、妹
・嫌いなもの:わさび、DQN
・趣味:ヴァイオリン演奏
・特級魔法:霧化魔法
・契約悪魔:なし
・エルビア家の長男でヴァニラの兄。21歳。
大学生だが休み中は執事として働いている。
高身長のイケメンで妹思いの優しい性格。そのためヴァニラには懐かれており仲が良い。
「凄え……」
目の前に広がっているのは山の中に聳える大豪邸。
俺とシャーロットは魔法省に行った時と同じような感じの衝撃を受けていた。
「3人共こんな豪邸に住んでたのかよ……」
ここは魔法界指折りの名家である藤導家の館である。
何故俺達がここにいるのか、話は4日前に遡ることになる。
あの日、俺は残りの課題に追われ朝から昼までほぼ休みなしで取り組んでいた。
ちょうど昼時になりルシファーが空腹を訴えだした頃に電話がかかってきたのだが、その内容は一度家に来ないかというものだ。
「い、家に!?」
『ええ、迷惑かしら……?』
もちろん迷惑なんて思うわけない。ただ気になることが1つ。
「いや、俺は大丈夫だけど。でもなんで?」
『実は家の者があなたに会いたがってるのよ』
「俺に?」
まさか向こうからお呼びがかかってたとは。家の者って名家の主人ってことだよな……?
確か魔法省ともコネがあったはずだ。
『ええ。ルシファーの契約者であるあなたに興味があるみたい』
「そういうことか……」
まあそうだよな。自分自身が把握してないとこで俺は“ルシファーの契約者”として有名になってるみたいだし。
「俺は良いぞ。どうせ暇だし」
『そう……ありがとう』
暇だしとは言ったが実際は課題が残っていたのだがそれももうどうでもよくなった。
それから4日が経ち今日、俺達6人はこうして藤導家の門の前に立っているというわけだ。
初めて見る人は誰しも今の俺と同じようなリアクションになるだろう。なんせ同級生の実家がこんな巨大な館だったなんて驚きを隠せるはずがない。
藤導家が名家であることは知っていたがそれでもこんなに広大な敷地の家に住んでいたなんて。予想を余裕で超えている。
「ヴィネは来たことあるのか?」
1人まったく動じていないヴィネが気になり聞いてみた。
「いいえ、来たのは今日が初めてですが存在自体は存じておりましたので。藤導邸は悪魔界でも有名ですから」
悪魔達の間でも有名なのか。いや人間以上に自由の利く悪魔ならここを知っててもおかしくはないが。
「悪魔に知られててよく無事だな……」
「ここに手出ししようなんて悪魔はまずいませんよ」
「じゃあ中に入りましょう」
門から中を見た感じでは人っ子1人いない。みんな家の中にいるようだ。
「おう、行こうぜ」
さっさと中に行こうと歩き出し門に手を触れる。
門が閉まっているのだからそうするしかないだろう。
「あ、櫻津く――」
「動くな!!」
ん? 何だ? 何故俺の両隣に刀を構えた男性2人がいる?
刀が俺の首と心臓部分に少し触れてるんですが!?
「お前達何者だ?」
「ここに来たもくて――あれ……お嬢様!?」
おっと、どうやら藤導に気づいたようだ。
「2人共、彼は私の客よ。離れなさい」
はあっとため息をつき2人に説明してくれた。晴れて無罪放免である。
「し、失礼いたしました!」
2人揃って頭を下げ謝罪してきた。
別に勘違いだし疑いが晴れたから俺は気にしてないのだが。
「いや、別に良いですよ。間違いだって分かってもらえたし」
「あ、ありがとうございます!」
まあ無用意に門に触れた俺も悪いしな。
「ごめんなさい櫻津君、この2人は私の家の守衛なのよ」
「いや、俺はいいよ」
守衛がいることにはもう何の驚きもなかった。ここまで来ると最早何でもアリだ。
これまた立派な造りの扉を開けるとそこには十数人のメイドと執事が2列に広がりピタッと並んでいた。さすがはプロといったところか。
「ただいま」
「お帰りなさいませお嬢様!」
「お元気そうで何よりです!」
メイドと執事が一斉に藤導の周囲に群がってくる。
慕われてんだなあ。
「なあルシファー、この人達ってみんな……」
「ああ、魔法使いじゃ。個々の魔力はお前ほどではないが多分今のお前では勝てんような連中ばかりじゃぞ」
そんな凄い実力者達なのか。何だか藤導とヴァニラが強い理由が分かった気がするよ。
「ヴァニラ!」
「お兄ちゃん!」
背の高い銀髪のイケメン執事がヴァニラへ駆け寄ってきた。お兄ちゃん? ってことはヴァニラの兄か?
「お帰りヴァニラ」
「お帰りなさい」
「ただいまお父さん、お母さん」
今度は夫婦らしき2人。予想は付く、ヴァニラの両親だろう。
娘と違い表情はかなり変わり喜怒哀楽がよく分かる。
「みなさん、私の家族を紹介するッス」
俺とシャーロットとヴィネに紹介してくれた。
父、ベイン
母、デイナ
兄、ジェイ
そしてヴァニラ。以上がエルビア家の家族構成である。
みんな気の良さそうな人だ。
一通り挨拶を済ませた時、階段を下りてくる足音がした。その音がする方を向くと俺よりもデカい、立派な髭を蓄えた老人がいた。
「切歌……!」
「お爺様!!」
目が合った瞬間に藤導はその老人の方へ駆け寄っていき、胸に抱きついた。
その顔は満面の笑みだ。夏祭りの時以上の。
「ただいま……!」
「もっと帰って来んかい」
口ではそんなことを言いながらもその顔は再会を喜んでいる顔だ。
そうか、この人が長官の知り合いっていう……。
「久しぶりだな、ルシファー、ヴァニラ」
「元気そうじゃな、クソジジイ」
「お久しぶりッス」
気が付くとメイドも執事もさっきまでの状態に戻っていた。
この人はこの家の主人だし当然なんだろうけど、とにかく1つ1つの行動に驚かされる。
「ん? 君達は……」
俺達に気づいたようで視線をこっちに向ける。
「そう、こいつが私の契約者じゃ」
ルシファーが俺を指さしてきたので俺も自己紹介しなければなるまい。
レオンさん達と会った時に比べたら動揺することはなくなったからちょっとは成長してんのかな? なんてな。
「初めまして、櫻津明日夢です」
「シャーロットです」
「ヴィネと申します」
3人で頭を下げる。
「そう堅くなることはない。私は藤導総一郎、この家の主だ。せっかく来たのだからゆっくりしていきたまえ」
なんとも優しそうな雰囲気の人だろう。
長官にも似たようなものは感じたけど、こっちは優しさが全面に出されているようなイメージだ。
「あ、あの……、前に私お世話になって……ありがとうございます!」
シャーロットが観察処分に留まったのは藤導家の力添えのおかげだ。そのことをシャーロットは恩義に感じている。
「あの……いつかこの恩は必ず――」
「なあに、ただのおせっかいだ。同じ魔法使い同士、気にする必要なんてない。それよりも君達は客人だからな。彼らを自由に使ってくれ」
なんと器の大きい方だろうか。
「みんなを部屋へ案内しなさい」
各々部屋へ通された俺達は小一時間休憩した後、藤導の呼びかけでリビングに集まった。
ちなみに俺はかつてルシファーが使っていた部屋をルシファーと2人で使うこととなった。
まあ、いつもと同じだ。とはいえ俺の部屋より格段に広いが……。
「じゃあ、みんな私に付いてきてくれる?」
ヴァニラは何やら花束をいくつも持っている。一体どこに向かうのだろうか?
山の中を20分くらい歩くともう頂上だった。日が傾き始め夕焼けが眩しい。
魔法使いになったことで体力が強化されたようでこのくらいでは疲れなかった。
この程度なら転送魔法を使うまでもない。
「ここよ」
どうやら目的地に着いたようだ。
「……!」
俺達の目に入ってきたのは2つの墓石。
そこに刻まれた名はそれぞれ
hiromu.t
kirino.t
「なあ、この墓って……」
「ええ、私の両親」
そうか……藤導も……。
「黙っててごめんなさい。今日は私の両親の命日なの」
藤導以外誰も口を開かなかった。いや開けなかったという方が正しいか。
ルシファーとヴァニラは知っていただろうけどそれでも俯いて何も言葉を発しない。
「櫻津君、私の母はルシファーの契約者だったの」
「そうなのか!?」
藤導家とルシファーの関わりはそういうことだったのか。
ルシファーは過去についてあまり話さないからそんなこと知る由もなかった。
「ああ。こいつの母である切乃は私の契約者じゃった。10年ほど前に亡くなったがな」
「病気か何かか……?」
本当はこんなこと聞くのは良くないんだろうけど思わず口にしてしまった。
「いえ……」
藤導はかなり悲しそうにしている。俺があんなこと聞いたからだ。
「ごめん……、余計なこと聞いて……」
「いいの。櫻津君のせいじゃない」
こんなに辛そうな姿を見てると俺も辛くなってくる。
きっとヴァニラ達も同じ気持ちだろう。
「あなた達を連れてきたのはお父様とお母様に見てもらいたかったからなのかもしれない。私の仲間を」
「切歌様……」
決して涙は見せなかったけれど、今まで見てきた中で藤導が一番悲しそうに見えたことが俺は辛かった。
あらかじめヴァニラが持ってきていた花を添えみんなで手を合わせる。ルシファーも合掌していた。
やはり契約悪魔としてこいつも辛い思いをしたんだろうな。きっと俺には想像もつかないくらいの。
墓を後にする時、心に誓った。
俺ももっと頑張ろう。藤導のお母さんにルシファーの新しい契約者として胸張れるように。
◇
「長官、ご報告です」
魔法省の長官室に入ってきたのは長官秘書である魔法使い、アイラ・スペンサー。
「うむ」
長官は椅子に座りながら話を聞く。
「例の事件はやはり魔法使いの仕業と見て間違いないそうです」
長官はじっと黙ったままだったが立ち上がり水槽を見つめながら口を開いた。
「あいつが動き出したか……いや、気のせいだと信じたいが……」




