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契約悪魔と魔法使い  作者: 高橋響
番外編
11/126

第10話 「最高の思い出」

キャラクタープロフィール9


サリー

 ・誕生日:不明

 ・好きなもの:野菜、明日夢

 ・嫌いなもの:熱い料理、高層ビル

 ・趣味:飛行、寝ること

 ・主人:櫻津明日夢、ルシファー

 ・明日夢とルシファーの使い魔のガルーダ。

  サイズは大きく大人5人程度なら背中に乗せられる。

  明日夢のことを気に入っておりすぐに懐いた。

  普段はクリスタルに封印されておりルシファーが所持している。

 夏休みももう中盤、暑さがピークに差し掛かる頃である。

 時刻は夕方の5時。俺は今自宅にルシファーと一緒にいる。


「う~む、あいつらはまだ来ないのか~……」

 待たされているせいか、じれったい様子でいた。早く出かけたいらしくいつも以上に落ち着きがない。

「落ち着けよ、もうすぐ来るだろうし」

「しかしなあ……」

 俺の言うことに納得しつつも待ちきれないらしい。

 そんなに楽しみなのか。


 今日俺達は前から企画していた通り近所の祭りに行く予定だ。

 ルシファーは恐らく出店の食い物が食べたいのだろう。もう小一時間こんな感じだ。

「そんなに腹減ってんのか?」

 ちょっとからかってみた。

 いや、実際この可能性は高いのだが。

「そういうわけではない! ただな……、早く出店というものに行ってみたいのじゃ……」

 案の定だ。やっぱり腹減ってんだな。


 とはいえ気持ちは分かる。祭りなんて俺ももう何年行ってないしな。

 その気になれば行くことはできたが特に一緒に行く相手もいなかったしああいう場所に1人ぼっちは寂しいもんだ。


 そんなやりとりをしていた時、インターホンが鳴った。お待ちかね、藤導達の到着である。

「やっと来たか! 早く出るのじゃ明日夢!」

「はいよ~」

 俺はルシファーに急かされ玄関へ向かいドアを開ける。

 そこには各々が色鮮やかな浴衣を着た藤導、ヴァニラ、シャーロット、ヴィネの4人がいた。


「お待たせしましたッス」

「遅いぞお前達!」

 待ちくたびれたルシファーが怒りを含めた声で叱責する。

 だが4人は特に気にする様子はなかった。多分慣れっこなんだろう。


「よく浴衣の着付けできたな。誰がやったんだ?」

「私です」

 返事をしたのは意外にもヴィネだった。

「お前悪魔なのによく知ってるな」

「一通りのことは勉強しましたから」 

 さすがだ。うちのわがまま堕天使にもちょっとは見習わしたいぜ。


 藤導は慣れない格好に戸惑いながらもちょっと嬉しそうに見えた。初めて着る浴衣が気に入ったのだろうか。

 ナイスだヴィネ。


「よし、じゃあ全員揃ったしさっそく――」

「あ、ちょっと待ってください」

 出発しようとする俺をヴィネが引き止める。

 これ以上引き延ばすとルシファーが我慢の限界なんじゃないか?

「ルシファー様、これを」

 そう言って取り出したのは袋に入った浴衣である。

 見た感じサイズは子供用。


「どうしたんだこれ?」

「近所でレンタルしていたので借りてきたんですよ。せっかくなので着てみたいと仰っていましたから」

 ああ、なんという心遣い。圧倒的感謝。

 こんなに気遣いのできる悪魔がパートナーなんてシャーロットが羨ましいぜ。

 うちのわがまま堕天使以下略。


 当の本人は子供のように目を輝かせている。

 そんなに浴衣に興味があったのか。

「ちゃんと礼言っとけよ」

「おお! 感謝するぞヴィネ!」

 お、めずらしく素直だな。まあこういう時は“ありがとう”だと思うが……。

「悪いなヴィネ。わざわざ」

「いいえ、ルシファー様のためですから」

 そう言ってヴィネはルシファーの浴衣を着付け始めた。

 見事な手際でつい見入ってしまうほどだ。


「よし、じゃあ行くぞ!」

 すっかり機嫌を取り戻したルシファーの合図で俺達は会場へ向かう。

 転送魔法を使えば一瞬なのだがこういうのは目的地へ向かうのも醍醐味ってもんだろう。今回はあえて使わず徒歩で向かうことにした。

 祭りならルシファーとヴィネの角もただの飾りでごまかせるし今日は周囲の目を気にせずたっぷり遊べそうだ。

 だからルシファーはあんなにはしゃいでいたのかもしれないな。



 会場は俺の家から電車で2駅程度の場所にある。既に多くの人が来ておりあちらこちらから笑い声が聞こえてくる。なんだか懐かしい感覚だ。

「明日夢! あれ食べたいぞ!」

「お代は俺持ちなの?」

 初耳だぞ。まあ余裕ができるくらいの金額は持ってきたから別にいいけど。

「ったく、しょうがねえな……」


 焼きそば 500円

 たこ焼き 400円

 わたあめ 500円

 チョコバナナ 200円

 アメリカンドッグ 300円

 いか焼き 400円

 お好み焼き 600円

 りんご飴 300円


 合計 3200円


 俺の金の半分近くが一瞬にして吹き飛んだ。小さい体のくせに食欲が尋常じゃないことを忘れていたぜ。しかも焼きそばの野菜は案の定ヴィネに食わせてやがった。

 さすがというかなんというか。


「俺の金が……」

「櫻津さん、よかったら少し貸しますよ……?」

 シャーロットが俺に気を遣ってくれた。だが年下に、しかも女の子に金を借りるなんて俺のプライドが許さない。

「いや、大丈夫だ。ありがとよ」

 

 その後もルシファーはかき氷、じゃがバター、フランクフルトと次々と完食していった。無論、俺の金で。


「ふ~、ようやく満腹になったかのう」

 満足げな顔で腹を撫で回す。

 いや食いすぎだバカ。


「よし、今度は遊びまくるぞ!」

「元気ッスねルシファーさん」

 元気すぎるくらいだけどな。

 ちなみに俺は今のとこ何も買っていないし食ってもいない。

 この調子じゃ今日は何もできなさそうだ。


っ……!」

「どうした?」

 急に足を抑えて座り込む藤導。

 何かあったのだろうか。

「大丈夫ッスか?」

「ええ、なんともないわ……」


 よく見ると右足の親指と人差し指の間から血が出ている。

 なるほどな。初めて履く人にはよくある、いわゆる鼻緒ずれってやつか。


「ちょっと待ってろ、向こうにコンビニがあったから消毒液と絆創膏ばんそうこう買ってきてやる」

 こういう時に男をアピール……なんて目論見はなくただ心配な気持ちから出た言葉だ。

「このくらい平気よ。そこで休んでるからみんなは回ってきていいわ」

「いや、1人にするのもな……」

 さて、どうしたことやら。

 藤導は弱みを見せたがらない。だから平気だなんて言ってるけど歩くのも厳しそうだし1人になんてできるわけない。


 瞬間、俺はあるアイデアを思い付いた。

「ヴァニラ、俺の金渡すからお前ら適当に遊んでていいぞ。その代り後で消毒液と絆創膏買ってきてくれ」

 ポケットから財布を取出しヴァニラに差し出す。

「櫻津さんはどうするッスか?」

「俺は藤導と一緒にいるよ。怪我人を放置なんてできないしな。」

 予想していた通り藤導は大丈夫と言ったが俺達の説得に渋々納得したようで最後は俺の言うことを呑んでくれた。


 みんなを見送り2人でベンチに腰掛ける。

 なんか海の時を思い出すな。違いは周りに人がいるってことくらいか。


「ごめんなさい、あなたまで巻き込んで」

「気にすんな、どうせ俺の金なんてルシファーに使われるんだし」

 申し訳なさそうな藤導の謝罪を冗談交じりで笑いながら返す。


「足大丈夫か?」

「ええ、今は楽になったわ」

 そりゃ良かった。心配ご無用みたいだ。


「笑えるわよね……」

 俯いて話す藤導の声がなんだか暗く元気がない。

「なんだよ急に?」

「私の魔法はこの程度の傷も治せないの。他人の怪我に対しても1日1回しか使えないし」

 確かにそうだ。今まで何度も助けられたからあまり考えたことはなかったが藤導の特級魔法は制約が多い。

 事実シャーロットとの一件でも俺を庇って怪我をしたが治すことはできなかった。まああの時は大した怪我じゃなかったからよかったが。


「だから私はより多くの人を救うためにエージェントになったの。私の特級魔法だけじゃ沢山の人は救えないから……」


 きっと本人は自分の特級魔法の不便さをもっと感じているんだろう。口に出す以上に。


 でも俺は何度も助けられた。そもそも藤導の特級魔法がなければ俺は今頃死んでいる。

 きっと俺以外の人も救われたはずだ。


「いや、でもさ! 俺は回復魔法に何回も世話になってるし、きっと俺以外にもそう思ってる奴いると思うぞ!」

 考えもまとまっていないのに話し出した。

 いや、もう考えるのは後回しだ。


「ってかさ、俺がサバトをした時もお前の特級魔法がなければ俺今頃死んでるだろうし! あ、別に切られてもいいってわけじゃないけど……、べ、別にあの時のことはもう気にして、ってそれは今関係ないか……」

 あーもう、一体何を言ってるんだ俺は。話が逸れまくってるじゃないか。


「えっと、だからその……俺が言いたいのは……藤導の特級魔法にはすげえ助けられてんだよ! だからさ、あれだよ。もっと自分の魔法に自信を持っていいと思うんだ! 命まで救われた俺が言うんだから、間違いないって!」

 言えた、俺の伝えたいこと。

 声に出すのは恥ずかしいけど。

 当の本人はキョトンとした顔で俺を見ている。

「あ、わ、悪い! 何か偉そうなこと言って……」


 俺は謝り頭を下げる。


 次の瞬間、俺の耳に聞こえてきたのはクスッという笑いだった。

 すぐさま顔を上げる。


「ごめんなさい、つい……」

 俺は自分の目を疑った。そこに映っている光景が信じられなかった。



「でも……ありがと……櫻津君」



 笑った、藤導が、初めて。

 出会ってから数か月間、1回も見せたことのない笑顔を見せた。

 しかもこの笑顔は俺にだけ見せた笑顔だ。


「なんだ……笑えるんじゃん、藤導」

 こっちも笑って答える。

「私だって笑うわよ」


 いつかヴァニラが言っていたことがある。

『櫻津さんと出会ってからの切歌様、なんだか楽しそうに見えるッス』

 今になってこの言葉を信じてみたくなった。

 俺のおかげだなんてこれっぽっちも思ってないけど、もし藤導が笑った力になれたのならこんなに嬉しいことはない。


「切歌様~」

 遠くから聞こえたのはヴァニラの声だ。

 声のする方を向くとみんなが戻ってきていた。


「はい、買ってきましたよ」

「おう、サンキュ」

 シャーロットから消毒液と絆創膏を受け取る。

「ほら、貼ってやるよ」

「でもそこまでさせるわけには……」

 まあ藤導の性格からしてそう言うだろうとは予測してたがな。

「遠慮すんなって」 

「じゃ……じゃあ、お願いします……」


 珍しく藤導が俺に甘えることになった。たまにはこんなのもいいかもな。

「ちょっとみるぞ」

 消毒液を傷口に垂らしティッシュで軽く拭いた後、絆創膏を貼った。

「よし、これで大丈夫だ」

「ありがとう、櫻津君」


「櫻津さん、何か良いことでもあったんスか?」

 唐突にヴァニラが俺に尋ねる。

「どうした急に?」

 ま、あったんだがな。

「いや、顔が楽しそうだなって」

「まあ、正解だ」



 帰宅した俺とルシファーは疲れからか、すぐに寝る準備をし始めた。

「あ」

 ここであることに気付く。

「どうしたのじゃ」

「俺、祭りなんもやってねえ……」

 結局何も食べてないし遊んでもいない。

「それは残念じゃったのう。祭りの思い出が“何もしなかった”とは」

「いや、お前なあ……」

 知らんぷりするルシファーには毎度呆れるぜ。


 でも別に良いんだ。

 俺には最高の思い出ができたから。

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