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契約悪魔と魔法使い  作者: 高橋響
番外編
10/126

第9話 「魔法と水着のない海」

キャラクタープロフィール8


アルプ

 ・誕生日:不明

 ・好きなもの:オムレツ、クラシック音楽

 ・嫌いなもの:甘いもの、汚い部屋

 ・趣味:掃除、オペラ鑑賞

 ・特級魔法:透明化魔法

 ・契約者:レオン・ローベルト

 ・ドイツ生まれの悪魔。

  タキシードを着用し常に礼儀正しい、執事のような存在。

  レオンが20歳の時にサバトを行った。ルシファーと出会ったのはそれ以降。

  温厚だが怒らせると痛い目を見るらしい。

  戦闘の際にはガントレットへと変形する。

 みなさんこんにちは! 私櫻津明日夢は今、海に来ております! 

 ここは海外にある藤導家所有の島だそうで現在浜辺には私しかおりません。目の前には見渡す限り広がるきれいな海、見事なオーシャンブルーですよ!


 しかし、今日のビッグイベントはこれからですぜお兄さん! そう、健全な男子高校生なら誰しも一度は見てみたい“好きな女子の水着姿”、それを私はこれからこの目で目撃するわけです!

 想像するだけでもうドキドキです! はい!


「何を妄想しとるんじゃ?」

「うわあ!」

 

 いきなり後ろからルシファーに声をかけられつい大声で驚いてしまった。しかも俺がニヤついてたのを見られてしまったようだ。


「い、いや別に……」


 ルシファーはため息をつくとあきれ顔で言う。


「どうせまた切歌の水着を妄想しておったのじゃろ? お前の考えなどお見通しじゃ」


 バレてるんじゃ隠してもしょうがないな。まあ俺が藤導を好きなことみんなにバレてるらしいし隠しようもないが。



「藤導には内緒な……」

「はて? どうするかの~?」


 楽しそうにな言い方をしやがる。もし藤導に知られたら俺はもう生きていけないぞ。


「なんてな。私はそこまで野暮なことはせん」

「ならいいけどよ……」


 何か信用ならないんだよな。契約者としては信じてやるべきだろうけど。

 けどまあこれもこいつらしいっちゃらしいか。


「ところでお前、その水着は……」


 ルシファーの着ている水着、それはどう見てもスクール水着だった。

 胸に名札がないだけで小学校時代よく見たそれである。


「ヴァニラに頼んだらこんなもん買ってきおっての」

「ま、まあでも似合うと思うぞ!」


 実際ルシファーの子供並の体格じゃあスクール水着がお似合いだろう。中身は数千年生きてる悪魔だけどね。


「バカにされとる気がするのは気のせいか?」

「気のせいだ!」



「遅れてすいません!」


 シャーロットの声がしたので声の方を向くとフリフリの付いたいかにも若者らしい黄色の水着を着たシャーロットと黒いビキニのヴィネがいた。

 俺の推測によるとシャーロットはCカップ、ヴィネはDカップだと思われる。

 今まで気付かなかったけどシャーロットも結構あるんだな……。


「櫻津様、どこを見ていらっしゃるのですか?」


 なぜだろう、ヴィネが尋常じゃない威圧感を出しながら俺に迫ってくる。

 ただちょっとシャーロットを見ていただけなのに……ってそれが原因か。


「……なんて、軽いジョークです。櫻津様が藤導様に好意を持っておられることは知っていますから」


 ニッコリと笑うヴィネが逆に怖い。


「ただ櫻津様には前科がございますから」

「あれは事故だって!」



「そういや藤導とヴァニラは?」


 いつまで経っても2人は来ない。着替えに時間がかかっているとしても遅すぎやしないか?

 誤解のないように言っておくが別に早く藤導の水着が見たいとかそういうわけではない。


「いや、それがですね――」


 シャーロットが説明してくれそうだったちょうどその時。



「みなさんお待たせッス」


 ついに来たかこの時が。海に行くって決まった日から待ち焦がれた藤導の水着すが――


「あれ……?」


 目を2回ほど擦ったがどうやらこれは見間違いじゃないようだ。

 藤導の上半身には真っ白なパーカー。胸元までしっかりと閉まっており水着など見えるはずもなかった。


「むふふ、残念じゃったのう明日夢」


 ルシファーが意地悪い顔でからかってくる。まさに“悪魔の笑み”だ。

 俺は魂が口から抜け出しそう、というよりもう抜け出していて最早放心状態なんてもんじゃなかった。


「いや~、私も言ったんスけどね……」


 顔を真っ赤にした藤導は何も言わずパーカーをしっかりと握りながら斜め下を向く。

 多分恥ずかしがりなんだろう、今まで見たことないような表情をしている。


「明日夢! しっかりしろ明日夢!」

「お、おう! なんだ!」


 ルシファーのおかげで俺は現世に戻れた。

 その分藤導のパーカー姿のショックも戻ってきたが。



 ヴァニラはスポーツタイプの紺の水着だった。

 うむ、まあ言ってしまえば胸が寂しい彼女にはあれが良いのかもしれないな。


「櫻津さん」


 なんだ、なぜこいつはこんな怖い顔してる? まさか心の声を聴く魔法でも使ったか? いやそんなのあるのか知らんが。


「な、なんでしょう……」

「貧乳でも需要はあるッスよ……」

「は、はい……」


 案外こいつも気にしてるのか。今後この話題はタブーだな、例え心の中でも。


「切歌様、暑いんでスからパーカーくらい脱ぎましょうよ」


 ヴァニラが説得するものの藤導はただ首をブンブンと横に振るだけだった。

 ショックなのは変わらないけどそんなに嫌なら無理にとは言えないな。


「ヴァニラ、藤導が言ってんだしそのままでいいんじゃないか」


 水着が見れなくても脚フェチな俺はこの美脚だけで――っておっといかんいかん。理性を失ってしまうとこだったぜ。

 ……なんか今日の俺思春期全開だな。


「櫻津君……」


 小さな声で呟く藤導。一体どうしたのだろう。


「どうした?」


 俯きながらもわかるほどの顔の赤さで藤導は言う。


「その……ありが……とう……」



 可愛い。マジで可愛い。控えめに言って可愛い。一瞬で同じくらい俺も赤くなってしまった。


「い、いや、そんな大したことは……」


 今まで見れなかった藤導の新しい一面を知った。いつも冷静だけどこういう時もあるんだな。

 今日ほど生きててよかったと思える日はないぜ。

 周りに誰もいなかったら抱き着いてるとこだと言いたいが無論俺にそんな勇気はない。


「よーし、それじゃあ思いっきり遊ぶぞー!」

「おー」

「おー!」


 高らかと宣言するルシファーに続きヴァニラとシャーロットもそれに続く。


「じゃあ……、これより自由時間……とします……」


 未だに照れている藤導がそう言うと各自自由に行動し始めた。

 ルシファーはヴィネを連れ砂遊び、ヴァニラとシャーロットは海でビーチボール遊び、そして俺と藤導

はというと――




「暑くないか?」

「だ、大丈夫よ……」


 砂浜で2人で座っている。まあこれも一応2人っきりではあるよな。


「でも意外なとこもあるんだな。あんなに顔真っ赤にした藤導初めて見たよ」

「わ、私にもそんな時くらいあるわよ……」


 俺と話していると段々いつもの調子に戻ってきていた。

 さっきまでの藤導も嫌いじゃないけど見ていて落ち着くのは今の方かな。


「たまにはこういう日もいいな。魔法なしで思いっきり羽を伸ばせるような」

「……そうかもね……」


 潮風が心地よくついウトウトしてしまいそうだ。暑さも少し収まってきたしかなり過ごしやすい天気になってきた。

 だがこんな時に寝るわけにはいかない。せっかくのチャンスを棒に振るのは嫌だ。


「藤導は遊んでこないのか?」

「私はいいわ。その……こういうの初めてで何すればいいのかも分からないし……」


 初めて? 海に来るのが?


「海来たことないのか?」


 ちょっとした興味で聞いてみた。冷静に考えればこんな島持ってて来たことないなんてあるはずないのだが。


「もう何年も前にここに来たっきりかしら」


 なんだ、初めてじゃないじゃないか。ならさっきの言葉の意味は一体なんなのだろう。


「じゃあ初めてって?」


 気が付くと質問責めになってたが藤導は嫌な顔一つせずに答えてくれた。

 いや、“嫌な顔”はしてなかったが“真っ赤な顔”はしてたか。


「一緒に来るのが初めてなのよ……。その……ゆ……友人……と……」


 後半よく聞こえなかったが今間違いなく言った。


『友人』と。


 俺、友達だとまでは思われてるんだ。

 それだけでも嬉しく感じる。

 出会ってからもうどのくらい経っただろうか、俺の最終目標にようやく1歩前進した気がする。


 俺の最終目標、それはもちろん“恋人”だ。こんなこと死んでも口には出せないけどな。


「俺も初めてかもな……友達と海なんて……」


 浜辺で2人して顔を赤くしながら隣に座っているなんてなんとも青春している絵だろうか。

 できるならこのロマンチックな時間が続きますように、なんつってな。





「きゃあ!」


 なんだ? 急に藤導の悲鳴が――って冷た!


「水!?」

「はははは! どうじゃ切歌! ずぶ濡れになった気分は!」


 そうか、犯人はルシファーか。

 ルシファーの手にはバケツがある。まあ想像の通りだな。



「ルシファー……!!」


 ヤバい、ずぶ濡れの藤導から怒りのオーラがダダ漏れだ。

 やらかしやがったなこの野郎。


「すみません、お止めしたのですが……」

「いいのよヴィネ。悪いのはこの堕天使だから……」


 おいおい、周りからドス黒いものが目に見えるレベルででてるぞ。

 こんなに怒った藤導見たことない、また新たな一面を知ってしまったな。


「いや~、こいつがお前の水着を見たがってたからの。パーカーを濡らせば水着が見れるかと思ってな」



 おいテメエ、何言ってやがる。


「お前、それは言わないやく――」

「へえ……、ルシファーの言う通りなのね櫻津君……」



 しまった、自爆した。


「いや、違うんだ! 誤解なんだよ!」

「嘘をつくでない、あんなエロ猿のような目線で切歌を見ていたくせに」


 おい、このクソ堕天使。


「バカ野郎! 藤導! こいつの言うことなん――」


 俺は必死に誤解を解こうとした。だがこの世界は非情で努力しても叶わないことの方が多いのだ。

 ボクシング世界チャンピオンも真っ青なレベルの右ストレートを喰らい俺は数メートル後ろに吹き飛んだ。シャーロットのパンチよりも効いたぜ。

 俺は無様にも力尽きた。


 櫻津明日夢、享年16歳。


「櫻津さん……、あなたのことは忘れないッス……」

「櫻津さん……今までありがとうございました……」

「安らかにお眠りください……」

「迷わず成仏するんじゃぞー」






「って殺すなあああああ!!」


 俺たち以外誰もいない海に俺のツッコミが鳴り響いた。


 1歩前進したと思った恋は気づけば1000歩以上は後退したようだ。

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